留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第38話「さらばメフィラス星人」その4

 

「私はみんなの元へ帰る。邪魔は……させない!!!」

 

 未来の叫びと共に、その全身から光が広がっていく。

 まばゆい光はやがて限りなく大きく、強くなり、そして――

 

――――――

――――

 ――

 

 

『やめろぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 自らの勝利を確信していたキングヤプールは、突如としてもがき苦しみ始めた。

 

『もうこの身体は私の物だ……絶対に、渡さん!!』

『私はみんなのもとへ帰る。邪魔は……させない!!!』

 

 どこからか響く美しい声。

 それはキングの身体の中心から、はっきりと、どこまでも遠く響いていた。

 その瞬間、キングの身体から生えていた紅い棘が、次々に灰のようになって崩れ落ちる。

 緑色の濁った眼も、だんだんと澄んだ色彩に戻っていく。

 真紅のマントも、右手の刃もぼろぼろに朽ち、跡形もなく消え去った。

 それらの醜い物たちは、キングの身体――いや光の戦士ソルの身体から広がる光の中に溶け、ついに――

 

『戦士ゾフィー、礼を言います』

 

 ついに、彼女は甦った。

 誰よりも地球を想い、守護する戦士の姿が、地上の者たちの目に映った。

 

『おのれ……後一歩のところを……!』

 

 未来の身体からはじき飛ばされたキングヤプールの魂は、光の中へと掻き消える。

 彼が絶えず放っていたマイナスエネルギーも消え去り、光の戦士から沸く温かな光のエネルギーがこの一帯を包んでいた。

 やがてソルの巨体は光とともに姿を消したが、彼女自身はある場所に降り立っていた。

 

「ただいま、みんな」

 

 静かに人間態に戻った未来は、自分とは違う種族でありながら、最も愛すべき人たちのもとに帰り着いた。

 

「おかえり、未来」

 

 多くの人間たちが絶望する中、最後まで戦士の名を呼び続けた人間たちは、未来の帰りにただ優しい笑みを浮かべていた。

 

「おかえりなさい、未来さん」

「また会えて感激ですよ~未来センパイ!」

 

 愛美に続いて、逢夜乃と唯も、未来の帰還を喜び、未来の名を呼んだ。

 

「ふん。俺は……別に喜んでいないぞ! 当然のことと……思って……うおぉぉぉ!!」

 

 最初は済ました顔をしていた草津は、結局は全身を震わせて号泣していた。

 

「みんな、心配をかけてすま――」

「未来っ!!」

 

 未来の言葉を遮って、愛美は彼女の身体を抱きしめた。

 

「ごめん……未来、ごめん! 私、全部思い出したの。未来がユキナちゃんで、私を最後まで護ってくれて……それなのに私――」

 

 未来が愛美の名を呼び、首を横に振った。

 

「愛美、謝るのは私の方なんだ」

 

 未来は絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「私はずっと、逃げていた。真正面からキミに拒絶されるのが……怖かったんだ。だから正体を明かさなかった。言ってしまえば……キミの前に居られないと、思ったんだ」

 

 未来はそう言い終えて、愛美の身体をそっと離した。

 

「ずっと黙っていて、ごめん。この戦いを終えたら、私は地球を去るよ」

「何言ってんの!?」

 

 愛美は真っ直ぐに彼女を見つめた。

 

「やだよ、絶対に。これからも一緒に居たい。もう、離れたくないよ……」

 

 未来の洋服の裾を掴んで、愛美は子供のように泣いていた。

 それは8年前、未来の前では流せなかった涙でもあった。

 

「わがまま言ってごめん。でも……でも……」

「愛美……」

「未来さん!」

 

 戸惑う未来の両頬を、逢夜乃の細い指がつまんだ。

 

「にゃ、にゃにを……」

「未来さんはお馬鹿さんですわ! もうすぐ……学園だって始まります……わたくし、クラス委員のあなたがサボるなんて……許しませんもの!」

 

 鼻水を垂らしながら、逢夜乃はそう言い切って、未来の背中に顔を埋めた。

 

「もう……愛美センパイも逢夜乃センパイも……泣き虫なんですからっ!」

 

 背伸びをして2人の頭をぽんぽんと叩く唯。

 

「未来センパイが居ないと……2人とも、いつまでも泣き虫です!」

 

 そう言って泣きじゃくる唯も、未来の腕にしがみ付く。

 3人の姿を前に、未来はようやく自分の本当の願いに気づいた。

 愛美と正直に向き合いたい。

 みんなを護りたい。

 地球を護りたい。

 だがそれだけではない。

 本当は――

 

「――私も」

 

 未来は片手で目を覆った。

 

「ここに、居たい……」

 

 家族を失い、

 大切な人を失い、

 自分すら失いかけた彼女は、

 

「ここに……居たいんだ」

 

 帰るべき場所を、見つけたのだった。

 

「なによ、もう。勝手に感動ムードになっちゃってさぁ」

 

 どこからかやって来た百夜が、壁に寄りかかりながらふてくされた表情でその様子を見ていた。彼女はため息をつきながら銀色の髪をかき上げていた。

 

「いいじゃないか。君もご苦労だったな」

 

 傷だらけのゾフィーも人間態の姿で現れ、百夜の肩を軽く叩いた。

 

「しかし、まだ終わっていない。テリブルゲートを破壊しなければ」

「戦士ゾフィー、先ほどはありがとうございます」

 

 目を拭って、未来が彼に歩み寄る。

 

「ソル、最後の戦いだ。あの異次元空間を破壊する。ゲートはその内部にあるはずだ」

「分かりました」

 

 クリティムアを手に、ビルの窓枠に近づく彼女を、愛美の手が阻んだ。

 

「愛美、ちゃんと私は帰って――」

「分かってる」

 

 愛美は目をこすりながら、無理やり笑って見せた。

 

「この前借りた本、返しに行くから、家で待っててよ」

「……ちゃんと読んだのか?」

「ううん。途中で飽きちゃった」

「ふっ。そうか」

「それと! 後で、バカニルに説教、しようね!」

 

 未来は微笑みながら小さく頷いて、ビルを飛び出した。

 クリティムアが光を放つ。そして彼女は光の戦士ソルとして、異次元に通じる割れ目を見上げた。

 しかしそれを止めようとするかのごとく、上空から巨大な宇宙戦艦が何隻も降下してくる。連合艦隊の一部が侵入してきたのだ。

 

『くっ……ここで無駄なエネルギーを使うわけには――』

『ソル! 聞こえるか!?』

 

 外部スピーカーを通じて、一人の男の声が轟いた。

 

『こちらGUYSスペーシーのハルザキ! ソル、君に……力を!』

 

 最新鋭戦闘機“メシア”を空中で滞空し、その上部に装備されたメテオールパックが起動された。

 

『地球でのあなたたちは活動限界時間がある。それを少しでも軽減できれば!』

 

 光のドームが広範囲を包み込む。その中でソルは、自分のエネルギーが一気に上昇しているのを感じた。

 

『かつて、ファイナルメテオールという形で光線の威力を増幅することはできた。なら、有利なフィールドを作り出すこともできる!』

 

 ソルはハルザキの言葉に頷き、腕をL字に構える。

 その動きを止めようと、巨大戦艦から無数の光線が放たれる。

 

『ソル、君は目の前の敵に集中しろ!』

 

 大気圏上で艦隊を食い止めていたウルトラセブン、そして艦隊を追って宇宙空間から降りてきたウルトラマンが、ソルを狙う光線を引き受けた。

 

『戦士マン! セブン! 感謝します!!』

『その言葉は、彼女たちに取っておくと良い』

 

 ウルトラマンの言葉と共に、星川聖良率いるCREW・GUYS・JAPANメシア隊も援護に現れた。彼らはウルトラマンとセブンに追随する形で大気圏から降下し、ソルを狙わんとする巨大戦艦と戦闘を繰り広げた。

 

『各機、メテオール解禁! ソルを援護!』

『GIG!!』

『全機、インビンシブルフェニックス・パワーマキシマム!』

 

 CREW・GUYS・JAPANのメシア隊は超絶化学メテオールを使用し、巨大戦艦へ機体シルエット状のエネルギー波を放つ。ソルを狙っていた光線は止み、巨大戦艦は黒煙を上げていた。

 

『ありがとう……!』

 

 ソルは、湧き上がるエネルギーを全て腕に込めた。

 それを邪魔できる者は、一人もいなかった。

 

『ラス・オブ・スペシュウム!!!』

 

 金色の光が、異次元に通じる割れ目を突き抜ける。

 そして、巨大神殿を木端微塵に破壊した。神殿の地下に本体が存在するテリブルゲートも、同時に崩壊した。

 巨大な爆発と共に、異次元空間が轟音と共に歪みだす。

 次の瞬間、割れ目が光に吸い込まれるように小さくなり、消えた。

 曇天の空が一気に晴れ渡り、青い大空が広がる。降り注ぐ太陽の光が地上を照らし、大地がきらきらと輝きだした。

 

『さすがだ……ソル』

 

 ウルトラマンがスペシウム光線で巨大戦艦にとどめを刺し、呟く。

 彼の眼は、美しい地球を窮地から救った強き戦士の美しい姿を捉えていたのだった。

 こうして、全ての脅威は消え去った。

 少なくとも、この場に居る者たちはそう考えていたのだった。

 

 

―――その5に続く


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