留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第38話「さらばメフィラス星人」その3

 

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 そこは、深い深い静寂に包まれた場所だった。

 光の戦士ソル――零洸未来がそっと意識を取り戻した場所は、闇以外何も見えない空間であった。

 光1つ差し込まない場所だった。しかし未来の全身にまとわりつく生ぬるい液体の感触は、ある意味心地よいとすら彼女に思わせていたのである。

 

 ――ここはどこだ?

 ――なぜこんな所に居るのだ?

 

 微睡むようなような意識の中、ふとそんな問いが頭に浮かんだ。

 私には、やらなければならないことがあったのでは――

 そこまで考えて、未来の思考は突然止まった。

 

 ――まぁ、どうでもいい。

 

 長続きしない思考。考えることすら億劫になってしまうほど、この闇と生ぬるさは未来の意識を支配していた。

 その時、未来は淡い光の気配を感じ取った。

 決して強い光ではない。ともすれば消えてしまいそうではあったが、この漆黒の中では眼が眩むほどだった。

 彼女は眩しさに目を抑えた――しかしそれをきっかけにして、彼女は気づいた。

 ここが暗いのではない。

 

 ――私が眼を閉じていたのだ。

 

 そう気づいた彼女は、ゆっくりと瞼を開く。

 

 ――戦士ゾフィー!

 

 目を細めながらも目にしたのは、何者かに立ち向かい、戦っている光の戦士の姿だった。それは映像のように鮮明に、差し込んだ光の中に映っていた光景だ。

 

 ――そうだ……私はヤプールたちと戦って――

 

 さらに、少し離れた場所にもう一筋の光が差す。

 彼女は必死にもがく。水音1つ起こさない黒い水をかき分け、その光のもとまでたどり着く。

 

 ――リュール、それに樫尾、早坂……!

 

 ようやく目にしたのは、超獣とヤプール人と激闘を繰り広げ、傷つく3人の姿。

 

 ――私は、こんな所で何をやっているんだ!

 

 更に遠い場所に、二筋の光が差す。

 とてつもない疲労感に襲われながら、彼女は死にもの狂いに光を求める。

 

 ――届かない。

 

 そう考えた瞬間、最初に差し込んだ光がか細くなり、消える。

 

 ――そんな……。

 

 次の瞬間には、2番目の光も消えていた。

 

『光など、必要ないだろう?』

 

 はっきりと未来の耳に入った声は、彼女自身のものだった。

 

『何も見なくていいんだよ』

 

 それはとてつもなく、甘い囁き。思わず従ってしまいたくなるような甘美な響きが彼女の心を揺り動かす。

未来は、まぶたが重くなっていくのを感じた。

 最後に差し込んだ光が、徐々に闇に染まっていく。

 

『ただ眠っていればいい』

 

 その言葉とともに、最後の光は完全に消え去った。

 再び、完全なる闇が未来を包んで――

 

「未来さんっ!!」

 

 声。

 

「未来センパイ!!」

 

 声。

 

「未来っ!!」

 

 どの声も、未来がよく知る人たちの声だった。

 3人の声が、目を閉じてしまった未来の名を呼ぶ。

 呼び声に応えるように再び目を開いた未来の頭上から、沢山の光が降りてきて、彼女を囲み、包んでいく。それぞれの光の中に、長瀬唯、杏城逢夜乃、そして早馴愛美の姿が映っていた。

 彼女たちだけではない。次々に現れる光が、沢山の人々の姿を見せていた。

 その中に、ニル=レオルトンの姿もあった。

 そこに映る彼の表情は、今まで未来が目にしたことの無い“感情”に溢れたものだった。

 

「キミは、何故そこまで必死に……」

『知る必要はない。お前はただ、眠っていれば良い。その方がずっと心地が――』

「未来っ!!帰って来て!」

 

 未来の声を遮るように、愛美の言葉が響いた。

 

「話したいこと、いっぱいあるの!」

『その声に耳を傾けるな!』

 

 未来と同じ声が、愛美の声を遮ろうとする。

 

『彼女はお前を憎んでいる。ずっと昔から!』

 

 2つの声が響きあい、未来は激しい頭痛を覚えた。

 未来は思わず両手で耳をふさぐ。

 

「私、もう全部知ってる」

 

 だが塞いだはずの彼女の耳に、その声だけは確かに届いていた。

 

「未来が、私を……ずっと、命がけで護ってくれていたんだよね?」

 

 未来はそっと、手を降ろす。

 8年前のあの日からずっと考えていた。

 自分は、愛美の幸せを護ることができず、奪いすらしてしまった。

 だから必死に護ってきた。それこそが、償いだと思っていた。

 たとえ、愛美に憎まれたままであっても。

 

「未来に……謝りたいことが、あるの」

 

 ――謝りたい。

 

 その一言が、未来の感情を突き動かした。

 

 ――私はあの日以来、愛美と心から向き合おうとしただろうか。

 

 恐ろしい過去から逃げず、全てを知ったうえで、もう一度未来に会いたいと叫ぶ愛美。

 それに対し「憎まれたままでいい」と乾いた言葉で言い訳していた未来。

 

 ――だったら、私が今、しなければいけないことは――

 

「そうだ。私はまた、愛美のもとに戻らなくては……!」

 

 未来の口から、はっきりとその言葉は発せられた。

 

「こんな所に、居る場合じゃ……ない!」

『お前はただ眠っていればいい!何も考えるな!』

 

 先ほどまで未来と同じだった声が、突如醜悪な声に変わった。

 

「ヤプール。私の身体を……返してもらう!」

 

 未来の全身を包んでいた液体が霧散していく。それにつれて未来を囲む光は強さを増していく。

 

『もうこの身体は私の物だ……絶対に渡さん!!』

「私はみんなの元へ帰る。邪魔は……させない!!!」

 

 未来の叫びと共に、その全身から光が広がっていく。

 まばゆい光はやがて限りなく大きく、強くなり、そして――

 

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―――その4に続く


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