留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

109 / 167
第37話「その日」その5

―――

――――――

―――――――――

 

 

「愛美さん!!」

 

 私と早馴は、現実世界に戻ってきた。

 目を覚ました早馴の身体を、杏城が力いっぱい抱きしめていた。

 

「愛美さん。全部、思い出しましたの?」

「うん……!」

「メフィラス星人、成功したようだな」

「お力添え感謝しますよ、ゾフィー。しかしゆっくりはしていられません」

 

 私は起き上がって、ゾフィーを促した。

 

「そうだな」

 

 ゾフィーは急ぎ、早馴の額に手を当てる。すると先ほどとは比べ物にならないくらいの、大きな光が発せられていた。

 

「未来のこと、助けられる?」

 

 早馴の問いに、ゾフィーは深く頷いた。

 

「これなら百夜過去を甦らせるほどのエネルギーを生み出せる」

「ゾフィー、百夜過去の蘇生に時間はかかりますか?」

「いいや。すぐに終わる」

 

 ゾフィーは、早馴の額から放たれる光を自分の身体に吸い込んだ。

 そして、誰もいない空間に向かい、金色の光を放つ。その光の中心に、何かが集まってくるような感覚を得た。

 

「戻ってこい……光の戦士ラスよ!」

 

 そして光が一層強くなり、私は思わず目を閉じた。

 目を開いた時には光は小さくなり、何も無かった場所に人影が見えた。

 

「はぁ~。何だか私って、ゴキブリ並みの生命力って感じよね」

 

 気だるげな軽口が聞こえる。

 それはまさしく、百夜過去の声であった。

 

「あら。アンタ、ゾフィーじゃない」

 

 完全に人間態を取り戻した百夜は、意外な出会いに満足そうな笑みを浮かべた。

 

「ずっと戦ってみたいって思ってたのよ?」

「そんなことを言っている場合ではないぞ、百夜過去」

「堅物ね。冗談の一つくらい覚えなさいよ」

 

 百夜は銀色の髪をかき上げ、つかつかと早馴に歩み寄る。

 

「ありがとね、愛美ちゃん♪」

 

 そして早馴の唇にかぶりつくように、濃厚な口づけをした。

 

「うむむむぅぅぅ!!」

「ぷはっ。あー気持ち良かった♪」

「あ、アンタ……私、初めてだったのに!」

「そうなの? でも安心して。女の子同士はノーカンだから。そのうち上書きしてもらいなさいよ」

 

 百夜は悪びれることなく、何故か私の肩を叩いてくすくす笑っていた。

 

「百夜さん。これからソルの身体を取り返します」

「もちろんよ。あんな薄汚い奴に未来ちゃんの身体を使わせられないわ。で、どうするの?」

 

 百夜の問いに、ゾフィーが答える。

 

「君の全力のエネルギーを、ソルのカラータイマーに直撃させるのだ。そうすればソルのエネルギーが増幅され、内側からヤプールを追い出すことができるはず」

「ふーん……でも全力をぶつけるってことは、私ひとりじゃ無理な話よね?」

「もちろん私がサポートする」

「あら、心強いこと。肩書き以上の活躍を期待するわね」

「任せてもらおう」

「お2人とも。今から作戦の説明をします。まず私が“装置”を停止させに行きます。その間にゾフィーがヤプールキングと戦闘、できる限り奴の体力を奪ってください。“装置”が停止すれば、地上のマイナスエネルギーは急速に減少しますから、百夜さんの攻撃が通じやすくなるで――」

「ふはははは!! 聞いたぞメフィラス星人…!」

 

 廊下の先、暗闇の奥から何者かの声が響き渡った。

 

「この感覚……ヤプールだな!」

 

 ゾフィーの言葉通り、暗闇の中から真紅の肉体をした宇宙人が現れた。奴は複数のヤプール人が融合した『巨大ヤプール』だった。

 

「我が王が貴様らを探しているぞ!」

「メフィラス、アンタ何か恨みかったわけ?」

「抹殺宣言が気に障ったみたいですね」

 

 百夜にそう答えると、彼女は面白そうに笑って前に進んだ。

 

「丁度いいわ。準備体操してくる」

 

 百夜は首を回して骨を鳴らすと、巨大ヤプール目がけて一直線に飛んだ。

 そして凄まじい勢いのとび蹴りを仕掛ける。ヤプールは何とか受け止めているものの、その立ち位置はじりじりと後退していた。

 

「ほらほらぁっ!」

 

 百夜は地に足をつけ、回転蹴りを数回繰り返す。ヤプールは防戦一方のまま、とうとう押し負けて後方に吹き飛ばされた。

 

「このっ!!」

 

 ヤプールの光線。百夜は避けず、それを自分の腕で防いだ。

 

「愛美ちゃんに当たったらどうするのよっ!」

 

 百夜は腕をL字に構え、光線を放った。

 

「ぐおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 ヤプールは必死に受け流そうとするが、奴の身体はまばゆい光の中に呑みこまれ、消え去った。

 

「何か私、強くなっちゃった?」

 

 爽快感に満たされた様子で戻ってきた百夜は、傍に置いてあった段ボールに腰掛け、足を組んだ。

 

「じゃ、私はここで待ってるから、よろしくね」

「分かりました。では、行ってきます」

 

 私は近くの窓を開いた。

 

「待って!! そんなぼろぼろのまま、行くつもりなの?」

 

 早馴の呼び声に、私は立ち止まった。

 確かに、私は全身傷だらけだった。マグマ星人の拷問の傷も完全には癒えていないし、何よりとてつもない疲労感に襲われていた。

 

「ご心配、痛み入ります。しかし時間がありませんから」

「だったら、私も行く!」

 

 早馴が駆け寄ってきて、私の前に立ちふさがった。

 

「何を言っているのですか。貴女が来たところで、足手まといにしかなりません」

「けど、少しでも力に――」

 

 ぱちん――という音が響き渡った。

 その音の正体は、百夜が早馴の頬を平手打ちした音だった。

 

「落ち着きなさい、愛美ちゃん。ここからは私たちの仕事よ」

 

 百夜はそう言い放って、早馴の頭に触れた。

 

「アナタの仕事は、あのキザ男の帰りを待ってやることよ。待ち人が居なかったら、アイツきっといじけるわよ?」

 

 早馴はあっけにとられたまま、押し黙った。

 

「メフィラス、早く行きなさい」

「……ええ」

 

 百夜に促され、私は歩き出す。引き留めようと私を呼ぶ草津たちの声を無視し、彼らに一瞥をくれることもなく、私は窓枠に手をかけた。

 

「――待って」

 

 再び早馴が言った。

 しかし、この時ばかりは無視できなかった。

 彼女の一言が、何か重みを持って私に伝わったからだ。

 

「これ」

 

 振り返った私の首に、彼女はペンダントをかけた。それは母親から、ソルの手を介して受け継がれた物。

 そして百夜との戦闘時に暴走した零洸を正気に戻した、不思議な力のあるペンダントだった。

 

「これ、お守り。ちゃんと……返しに来てね」

「……ありがとう、ございます」

「約束して。帰って来るって」

 

 8年前の記憶世界で見た光景が思い出される。

 幼い早馴がソルと約束した時、そして母親と最後の別れとなった時も、同じ眼をしていた。

 

「約束します」

 

 私は窓から飛び降りた。

 

「……ごめんなさい、早馴さん」

 

 私は地面に着地してから小さく呟き、走り出した。

 最後の戦い――私は必ず、勝ってみせる。

 たとえこの命を失おうとも、必ずだ。

 

 

―――第38話に続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。