留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第37話「その日」その2

 

 

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―――

 

「早馴愛美さん! 僕、前からあなたのことが好きでした! 付き合ってください!」

「ごめん。私、今そういうの興味無いの」

 

 ……ん? これはどこかの校舎の屋上だろうか。

 今よりも若干幼い制服姿の早馴が、見知らぬ男子生徒に交際を申し込まれているようだ。どうやら彼女の記憶世界に入ることはできたようだ。

 

「うわっ! ちょっと! 何なのこれ!?」

 

 私の隣には、現在の早馴が立っている。突然目の前に現れた光景に、彼女は面食らっているようだ。

 

「あれは、中学生の早馴さんですか?」

「う、うん……」

「調整に失敗したようです。もっと前の記憶世界に行かなければ」

 

 私は再度“能力”を発揮した。

 一度周りが真っ暗になると、早馴が私に掴みかかる。

 

「ねぇ! 何で中学の頃の場面が見えたわけ?!」

「言ったじゃないですか。調整に失敗したと。ですが大丈夫です。今の感覚を元に、一気に8年前まで行きますから」

「うぅ……恥ずかしいところ見られた」

 

 彼女は頬を赤く染めて、私から目をそむけた。

 

「次こそ、8年前です。心の準備は大丈夫ですか?」

「……うん」

「貴女の失った記憶が目の前に広がります。明らかに覚えていない場面になったら、教えてください」

「分かった」

 

 次の瞬間、周りが明るくなる。

 

「……ここだ」

 

 早馴の言葉に従い、私は注意深く周囲を見渡した。

 ここは公園だろうか。すぐ近くにはバスケットボールのコートが見える。

 

「ここ、多分NYだよ。覚えてるわけじゃないけど……ほらあれ、自由の女神」

 

 彼女の指す先には、この前の修学旅行で目にした巨大な石像が立っていた。

 

「ちょうど8年前に来たみたいですね」

「え、あれ……」

 

 早馴の視線の先に注目すると、幼い女の子と、その父親と思われる男性がバスケットボールで遊んでいる姿が目に入った。

 

「アミ! 行くぞー」

「うん! パパ! パスパス!」

 

 男性が緩やかにボールを投げ、少女がそれをキャッチする。少女はおぼつかない足取りでドリブルし、ゴールネット目がけてボールを投げる。

 

「うわっ! 外れちゃったぁ」

「ドンマイドンマイ」

 

 父親が、少女を抱き上げる。

 

「これからいっぱい練習して、上手になろうな」

「うん!!」

 

 満面の笑みを浮かべる少女。まさに幸せに満たされているという感じだ。

 

「……あれ、私だ」

「やはりそうでしたか。では、あの男性は……」

「……お父さん」

 

 今にも泣きだしそうになる早馴。

 しかし、その温かな雰囲気を打ち砕くように、危機感をたたえた一人の女性が走り寄って来る。

 

「ダイさん! NY本部から緊急連絡です。極東方面から急速で接近する、3体の巨大怪獣です!」

「おいおい……久々の休暇だったのにな」

 

 ダイと呼ばれた男性は、幼い早馴を地面に降ろして、その前に屈んだ。

 

「アミ。パパ、これからお仕事なんだ。バスケは、また今度な」

「……うん、分かった」

 

 幼いながら、聞き分けの良い少女である。

 小さな早馴は、男性の頬に口づけし、手を振った。

 

箭川(ヤガワ)。娘を頼めるか? ミカに来てもらうように連絡しておくから、少しの間だけ」

「分かりました」

「また今度、皆で飯でも行こう。ミカも会いたがっている」

「ええ。楽しみにしています」

「おう。じゃあ行ってくる」

 

 男性は颯爽と、その場から走り去っていった。

 それを見た早馴は、私の隣から突然走り出し、男性の背中を追おうとした。

 

「待ってお父さん!!!」

 

 しかし男性は何も気づかない。

 早馴は途中で立ち止まり、私は彼女に追いついた。

 

「この世界は、あくまで貴女の記憶を再現しているだけです。私たちは認識されませんし、何も介入できません」

「……そっか」

 

 私たちは、箭川(ヤガワ)という女性と幼い早馴のもとに戻った。

 彼女たちは近くの木陰のベンチに並んで座り、何かを話していた。

 

「ユキナちゃん。パパ、帰ってくるよね?」

「大丈夫」

 

 箭川は微かに笑みを浮かべて、少女の髪を優しく撫でた。

 それにしてもあの女性、どこかで見覚えがあるというか、似ている気がする。藍色の長い髪に、つり長の瞳……見たことの無い顔ではあるのだが。

 

「ん? 緊急通信?」

 

 箭川が通信端末を耳に当てた。

 

『ユキ! 先行した部隊がハワイ近海で全滅した! 間もなくアメリカ本土に緊急発令が出るらしい!』

「キクさん、それは確かですか!?」

『もちろんやって! 海上に現れた怪獣……これまでとわけが違う。かなりの大物や』

「分かりました。私もNY本部に連絡して、出撃準備に入ります」

『頼んだ!』

 

 通話の相手は、修学旅行でNY本部を案内してくれたキク=キシンと思われる。独特のイントネーションが記憶に新しい。

 箭川は真剣な面持ちで端末をしまい、懐からペン状のアイテムを取り出した。

 

「アミ。もうすぐママが来ると思う。一人で待っていられるか?」

「ユキナちゃんも、行っちゃうの?」

「うん。でもいつも通り、帰って来るよ」

 

 箭川は立ち上がった。

 しかしその隊員服の端を、幼い早馴が握って離さなかった。

 

「今日は……ダメ」

「アミ……」

「だってユキナちゃん……いつもより、すごく、怖い顔してた」

 

 箭川の言葉に、少女は何度も首を横に振った。

 

「……アミ。私は絶対帰って来る。お父さんと一緒にな」

「じゃあ何で、そんな怖い顔するの?」

「いつもより、強い怪獣と戦かわなければいけないかもしれないんだ」

「……ユキナちゃん、死んじゃわない?」

「私は絶対に死なないよ」

「嘘だよ! パパのお友達、そう言って帰ってこなかったもん!!」

「……じゃあアミ。私の秘密を、教えてあげる」

 

 箭川はペン状のアイテムを強く握り、小さな声で「変身」と呟いた。

 次の瞬間、彼女たちの周りが光に包まれる。

 そして箭川の姿が光の戦士――ソルの姿に変わった。

 

「ユキナちゃんが……ソル?」

「そう。だから、絶対に死なない。皆を護って、皆と一緒に帰ってくる。約束だ」

 

 ソルは瞬間移動で、その場から消えた。

 しかしどういうことだろう? ソルの正体は、この8年後には零洸未来に他ならない。もしかすると人間として名乗る名前、その姿を変えていたのだろうか。

 私が思案している間に、一台の車が近くの道路に停まった。

 

 

―――その3に続く


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