留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第37話「その日」その1

 

「キングヤプール。私は、お前を抹殺する」

 

 私には覚悟があった。

 何があろうと、たとえこの命を失ってでも、目の前の敵を滅する覚悟が。

 

「そこまでして、地球を独り占めしたいということか? メフィラスよ」

「いいえ、違います。私はもう、地球などどうでも良い」

「……まさか、人間の味方をするつもりか?」

「ええ」

 

 私はキングの右腕から手を離し、その手で左手首のブレスレットをきつく握りしめた。

 

「つくづく読めん奴よ、メフィラス星人!」

 

 キングはひとしきり笑った後、凄まじい殺気を放った。

 

「しかしメフィラスよ、もう無駄だ! 我々ヤプールは、間もなくテリブルゲートを発動し、この地球と異次元を融合させる。そうなれば、地球はそっくり私たちの物よ」

「そんな真似、させませんよ」

「ならば見せてもらおう! 弱き貴様の最期のあがきを!」

 

 キングが、右腕に力を込めるのが分かった。

 そして私も、切り札を――

 が、その時、どこからか飛んできた光線が、キングの右腕に直撃する。彼は一瞬よろめき、その間に何者かが私の身体を抱えて空高く飛んでいた。

 

「あのキングヤプールに1人立ち向かうとは……君らしくないな」

 

 顔を上げるとそこには、光の戦士の顔があった。

 宇宙の侵略者にとっては、最悪の敵。

 だが今の地球にとっては、最強の救世主。

 

「まさか貴方がここに来るとは……ゾフィー」

 

 宇宙警備隊隊長にして、光の戦士最強の存在――それこそが彼である。

 

「ゾフィー!! 会えて嬉しいぞ!!」

 

 地上のキングヤプールから放たれる光線の嵐を、ゾフィーは私を庇いながら避ける。

 

「まずはこの場を脱する!」

 

 ゾフィーは私を片手で抱えたまま、もう一方の腕から一筋の光線を撃つ。

 それはキングの足元に当たり、彼の姿勢を崩した。その隙を突き、私たちは超速でその場を離れた。

 そして1分ほど飛行しただろうか、私はとあるビルの屋上に着地していた。

 

「ここまでくれば、奴も容易に追ってこれまい」

 

 ゾフィーの全身が淡い光の包まれ、次の瞬間には人間態の姿を現した。屈強な顔つきの、精悍な男性だった。

 

「助かりました。感謝します」

「気にすることはない。それにしても、君は無茶をし過ぎだ。万が一、ババルウ星人が手にしていたのが本物の“鍵”であったら、どうする気だった?」

「その時は別の方法を試すまでです。“鍵”の3大怪獣なんて不確定なものは、最初から当てにしていません」

「ならいい。あの3大怪獣は、まさに地球の意思。何者かが操ることなど不可能なのだから」

 

 その後ゾフィーは「付いて来い」と言って、階下に通じるドアを開けた。

 そして階段を降りて廊下に出ると、そこには草津、杏城、長瀬、リュール、そして早馴の姿があった。

 

「ニルセンパイ!」

 

 長瀬がいきなり、飛びかかるように私の胸に顔を埋めた。

 

「もう会えないかと――うわっ、ごめんなさい」

 

 彼女は顔を真っ赤にして、照れたように私から離れた。

 

「まったく。一人で格好つけて危ない真似を……」

 

 後ろから、草津が声をかけてきた。傷が治ったためか、もう彼は立ち上がることもできるようだ。

 

「レオルトンさん、おかえりなさい」

 

 杏城が穏やかな笑顔を向けて、私の腕に触れる。心地のよい体温が私に伝わってきた。

 

「……何故皆さんはここに?」

 

 たまたま私の視線の先に居た長瀬が、ゾフィーを指差した。

 

「このおじさんが助けてくれたんです!」

「おじーーまぁいい。勇敢な君たちを放っておくわけにはいかなかったからな」

 

 ゾフィーの説明によると、彼は今回の事件に際して秘密裏に地球に潜入、異次元空間で長瀬たちを見つけ、ここまで連れ出したという。

 

「しかし、どうして敵であるはずの私まで助けたのですか」

「彼女たちの言葉を私は信じたのだ。君は悪しき者ではない。救うべきであると、彼女たちは言った」

 

 長瀬たちはゾフィーの言葉に応え、頷いた。

 ――ただ一人を除いて。

 

「そして、この現状を打破するためには君の力が必要だ」

「ウルトラ戦士である貴方が、私の力を?」

「そうだ。君は先ほどヤプールに、人間の味方をすると言ったな」

「……そうしたいと、考えています」

「ならば、私に考えがある」

「お聞きしましょう」

「百夜過去を甦らせ、ヤプールを倒す」

 

 百夜の名に、全員が一瞬息をのんだ。

 

「百夜嬢は、まだ生きているのか!? ごほっごほっ!」

 

 突然草津が興奮して叫びだす。杏城になだめられながらも、彼はなおもゾフィーを問いつめた。

 

「私が彼女を甦らせる。不可能ではない。しかし彼の“装置”が発動している間は無理だ。これほどマイナスエネルギーが充満している中では、光のエネルギーを十分に操ることができないからだ」

「だったらレオルトン。“装置”とやらを止めることはできないのか?」

「……残念ですが草津、今すぐにはできません。遠隔操作ができるスマートフォンは、先の戦いで壊れてしまいました。後は直接“装置”のもとへ行くしかありません。しかし隠し場所はここからかなり離れていますし、道中ヤプールの軍勢に見つからないとも限りません。それに――」

 

 私はゾフィーに向かって言った。

 

「ヤプールは……間もなくテリブルゲートを発動する、と言っていました」

「何、それはまずいぞ」

「てれぶるげーとって何ですか?」

 

 深刻そうに眉間にしわを寄せるゾフィーと対照的に、長瀬をはじめ他の者たちは困惑顔だった。

 

「異次元融合装置(テリブルゲート)。ヤプールが行おうとしている、地球と異次元の融合です。万が一にもそうなってしまえば、この次元は消滅してしまう。地球も人類も終わりです。私の“装置”をどうこうする意味もありません」 

「仕方があるまい。ならば、この方法でいくまでだ」

 

 ゾフィーはそう言って、草津の額に触れた。その場所から、淡くも温かい光が起こった。

 

「今のは、彼の“想い”のエネルギーだ。百夜過去を助けたい、そしてソルを助けたいという想いの強さがエネルギーとなる。これを利用すれば“装置”の発動下でも十分な光エネルギーを創出できるかもしれない」

「待ってください。百夜を生き返らせたところで、どうするつもりです?」

「光の戦士としての彼女の力は、計り知れないものがある。私と彼女の力があれば、ソルの中のヤプールを追い出すことができる」

「勝算は?」

「ある」

「……わかりました。その方法で行きましょう、ゾフィー」

「うむ。では1人1人のエネルギーを確かめさせてくれ」

 

 彼は草津に続き、杏城、長瀬、リュールの額に触れた。

 

「ゾフィー、どう?」

 

 リュールが不安げに問いかけると、ゾフィーは優しく彼の頭を撫でた。

 

「君たちの“想い”は伝わってきたぞ」

 

 そして彼は最後に、早馴の額に触れた。

 

「むっ……これは……」

「……何よ」

 

 ゾフィーは、訝しげに睨む早馴の額から手を放すと、腕を組んだ。

 

「試してみて分かったが、この方法は難しいかもしれん」

「何故です?」

「エネルギーの量が足りないのだ。彼ら全員のエネルギーの総量は問題ないが、1人1人のエネルギーの性質が異なってしまうと、合わせて使うことが難しい。しかしただ一人、一人分のエネルギーだけで十分な量になる者がいる」

 

 ゾフィーはゆっくりと腕を上げ、指差した。

 

「早馴愛美。君の“想い”の強さ、そのエネルギーは、通常の人間のそれとは比べ物にならないくらい強力なのだ」

 

 急に名前を呼ばれてびくりとする早馴だったが、その表情からは何の感情も読み取れなかった。

 

「だが何故だろう……心の内に強烈な想いを秘めながらも、何かがそれを邪魔し、打ち消してしまっている。まるで負の感情とでも言うべきか……」

 

 私には心当たりがあった。

 恐らくソルに対する不信が、彼女の中に巣くっているのだ。

 

「……悪いけど、私の“想い”なんてそれっぽっちのものだよ」

 

 早馴が自嘲気味にそう言って、我々から離れて行こうとする。

 

「……待ってください」

 

 私は、背を向けようとする早馴の腕を掴んだ。

 

「な、何……?」

「貴女のソルに対する不信感、それが原因だと考えます」

「……私はずっと前から、ソルに対して嫌な気持ちを持ってる」

「たとえソルの正体が……零洸さんでも、ですか?」

 

 私の言葉に、早馴は明らかに狼狽した。

 

「……もう、知ってるよ。身体を操られた時、私見てたから。でもそれが、余計に……悲しかった」

 

 彼女の眼の端から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「未来のこと、大好きだった。でも私とソルは、ずっと前、ガイアインパクトの時に何かあって、私はソルのことが嫌いだった。だから……私、未来に対してどんな気持ちでいればいいのか、分かんなくなっちゃったんだ」

 

 涙が早馴の頬を伝う。

 いつぶりだろうか、彼女の涙を目にするのは。

 きっとあの時だ。私が幻惑によって早馴の精神を追い詰め、地球をよこせと詰め寄った時だ。

 どうしてだろうか。彼女の表情のどれもが、私の感情を揺り動かす。

 最初は観察対象として、彼女の行動に関心をそそられた。

 しかしいつの間にか、観察など関係なく、彼女の一挙一動に目を奪われている。

 

「……早馴さん」

 

 私は、真正面から彼女を直視し、言った。

 

「私が、その不信感を払しょくします。貴女の8年前の出来事を思い出させます」

「嘘……そんなこと、できるわけ――」

「ゾフィー、貴方にも手伝ってもらいたい。今から私は、早馴さんの記憶世界に彼女自身を連れて行き、記憶を復活させます。そうすれば彼女は必ずソルを、いや零洸さんを救いたいと思ってくれるはずです」

「なるほど。で、私は何をすれば良い?」

「彼女の脳を守ってほしい。彼女には、一度私の“能力”を使っています。ですからもう一度脳に介入すると、脳を破壊してしまうのです。しかし貴方の力で脳を保護することができるはずです」

「……いいだろう。任せてくれ」

「ちょっと待ってよ! 勝手に話を進めないで!」

 

 私とゾフィーの間に、早馴が割って入った。

 

「早馴さん。貴方が宇宙人である私を信用できないのは理解できますが――」

「私の記憶が戻ったとして、それで本当に、私が心からソルを……未来を助けたいって思えるの!?」

 

 彼女の言っていることは、相応に理解できる。

 もし本当に、彼女たちの過去に悲劇的な因縁があったならば、彼女は尚のことソルへの不信感を強く抱くかもしれないのだ。

 

「……それでも、私は試す価値があると考えています」

 

 私は早馴の過去も、ソルの過去も何一つ知らない。

 ただ感じるのだ。私が半年以上観察してきたこの2人の絆は、何があっても固いままなのではないか――いやむしろ、足りないピースを揃えた時こそ、2人は本当のあるべき関係となるのではないか、と。

 

「早馴さん。どうか、協力してください」

 

 私は深く頭を下げた。

 

「……なんで、そんなことするの? アンタは宇宙人でしょ? 地球がどうなったって、関係ないじゃない!」

「かつてはそうでした。しかし人間と一緒に過ごす中で、私に大きな変化がありました。計算づくで、目的のためだけに行動してきた私が、何度も説明のつかない感情に任せて行動していました。今になって、その感情の正体に、気付いたんです」

 

 私は頭を上げて、早馴の後ろに居る杏城、草津、長瀬、リュールの姿を見回した。

 

「私は……私を友だと言ってくれた者たちのために行動したい。そして、貴女がこれ以上悲しむ姿を……見たくない」

 

 私は、そっと早馴の手を取った。

 

「私のことは、いくら憎んでくれても構いません。でも、零洸さんを失って嘆く貴女を放ってはおけない。余計なお世話かもしれませんが、どうか……お願いします」

 

 一方的な話だっただろうが、そんなことはどうでも良いのだ。

 私は、私の感情に従うだけだ。

 

「……本当に、未来を助けられるの?」

「私は、そう信じています」

「……分かった。好きにして」

 

 彼女は眼を閉じた。私はその手を離し、優しく額に触れた。

 

「ゾフィー。後は頼みます。恐らく3分程で済みますから、その間彼女の脳を守って下さい」

「心得た」

 

 ゾフィーの返事を耳にし、私と早馴は眼を閉じた。

 

 

 

   第37話「その日」

 

    異次元王 キングヤプール

       異次元超人 アンチラー

 

              登場

 

 

―――その2に続く


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