ババルウ星人は“鍵”を高く掲げた。
“ガイアインパクト”を引き起こした、恐るべき3大怪獣を解き放つ“鍵”を。
「あとは念じるだけです。地上に満ちるマイナスエネルギーを集めるイメージですよ」
「分かった」
私の言葉に従い、ババルウは眼を閉じた。
「さぁ、深い眠りから解き放たれるのだ! 凶悪なる3大怪獣よ!!」
ババルウが静かに叫ぶ。
しかし“鍵”は、光を放たなかった。
私は自分の推論に確信を得て、言い放った。
「……ババルウ星人、私の思惑を図り損ねましたね」
私はありったけのエネルギーを左手に込めてブレードを形成、それをババルウ星人の左胸目がけて突き刺した。
「ぐおぉっ!」
咄嗟に急所を避けたものの、彼の胸には深々と、私の刃が刺さっている。ババルウは私を突き飛ばすようにして、その刃を自らの身体から引き抜いた。
「メフィラス……お前……!」
次の瞬間、上空で巨大な爆発が起こった。
ヤプールキングと戦い始めていたテンペラーの全身がめらめらと燃えている。その巨体は近隣のビルに落下し、瓦礫が崩れる音と共に見えなくなった。
『ババルウ星人よ……騙されたようだな』
キングは人間大のサイズとなって、ババルウ星人の目の前に降り立った。
「まずは貴様から、処刑しよう。ババルウ星人」
「死ぬのは……お前だ!」
ババルウ星人の右手に、百夜を倒した槍のような杖が現れた。
「ヤプール! ソルの肉体を奪ったのが運の尽きだったな! ウルトラ細胞ごと消滅させてやる!」
杖の先端から、紫色の光線が放たれた。
百夜の肉体を消滅させたレゾリューム光線だ。
光線はヤプールの肉体に突き刺さった。紫色の光が彼の全身に広がり――
「――効かぬ!」
ヤプールが両腕を力強く広げると共に、紫色の光は一瞬で霧散した。
「ダークネス・トライデント……私に対する切り札とでも考えていたか? しかしソルの身体はマイナスエネルギーの器に適した物だ。真っ当なウルトラ戦士と同じと思うなよ」
「ならば……自らの力で勝つまでだ」
彼は頭髪をむしり取り、分身による一斉攻撃を仕掛ける。一体一体から、ババルウ本体と同等の戦闘力を感じる。
しかしキングは笑いながら、刃で切り裂き、光線を放ち、次々とババルウの分身を消滅させていった。
分身を消し切ったキングは疲れるそぶりすら見せず、ババルウ本体に迫ろうとする。
「おのれっ!」
ババルウ星人は激昂し、その姿をゾフィ―へと変えた。恐らく宇宙最強の光線であるM87光線を放つつもりなのだろう。
キングはその様子を見ても全く驚く様子を見せず、左手を前に突き出して握りしめた。すると念力のようなものでババルウは身動きが取れなくなり、ゾフィーの姿を維持できなくなった。
キングが拳を放すとババルウは地面に倒れこんだが、ババルウの闘志は消えていなかった。彼は再度、ダークネス・トライデントを構え杖の切っ先をキングに向けて突進する。
だがキングは右手の刃で、ババルウの攻撃をいとも簡単に受け止めた。
「無駄だ!」
キングはダークネス・トライデントを振り払い、左手から光線を放った。光線はババルウ星人の腹部を貫き、その身体は無様に転がりながら私の前まで飛んできた。
それでも彼は、ダークネス・トライデントを握りしめて静かに立ち上がった。
「こうなれば……連合全軍でお前を攻撃する。宇宙に展開する艦隊を地上に――」
彼が言い終わるのを待たずして、私は背後から彼の肩に手を置いた。
「ババルウ星人、貴方の負けですよ」
「馬鹿なことを。待っていろ、お前も一緒に殺してやる。今度こそ“鍵”の力を解放し――」
「貴方の持っている“鍵”は偽物ですよ」
「なん、だと……」
彼は憎悪に満ちた表情で、振り向いた。
「デスフェルは生前、この“鍵”を切り札と考えていました。彼女は頭の切れる奴ですから、鍵を横取りされる可能性も考慮していたでしょう。だから偽物くらい作っていたのではないかと考えていたのです。案の定、その鍵は本物が放っていた光を全く発しようとしませんでしたから、偽物だと分かりました」
もし本物であれば、本当に“鍵”の力が放たれてしまう可能性もあった。だから私の策は、デスフェルの奇策あってのものだったと言えよう。
「し、しかしお前……私と組まず独りで……むざむざとヤプールに殺されて終わりだろう? 理解できん……お前の考えが――」
「一生かかっても貴方には理解できないでしょうね」
私は再び、ブレードを展開した。
そしてババルウ星人の首を切断し、殺害した。
緑色の血がまき散らされ、私の頬もその血に濡れた。
「ババルウの言っていたこと……私も気になるところよ」
ヤプールキングが真紅のマントを揺らめかせながら、こちらにやって来る。
「私がお前の立場なら、間違いなく連合に与しただろう。運よく私を倒した時、お前は連合と共に地球を支配できたろうに」
彼が三日月型の刃を私に向ける。刃は、私の首に触れんばかりの距離にあった。
「勝ち馬に乗り損ねたな、メフィラス星人。私はお前の力など必要ない。裏切る可能性が高いからな」
「……全く。貴方もババルウ星人も、まるで私の考えを分かっていない」
私は、彼の刃を掴んだ。
「ヤプール。私は、お前を抹殺する」
「ふっ……ふはははははは!!!! 気でも狂ったか! お前ひとりに何ができる!」
「さぁ。どこまで出来るかは分かりませんが――」
“何か”が私を突き動かしている。
今まで認めまいとしてきた。しかし確かにそれは、私の原動力となっていたものだった。
そうだ、きっとこれが―――
「自らの“心”に従うまでです」
そう言った瞬間に、私の胸の奥が、温かい何かに満たされたような気がした。
そして不意に、草津や杏城、長瀬たち、そして――早馴の顔が脳裏をかすめた。
―――37話に続く