留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第36話「異次元王の降臨」その6

 そう、まさにこれは絶望的な窮地であった。

 

「もう戦う元気もないだろう、メフィラス。もう終わりだ!」

 

 勝ち誇ったように微笑みながら、ババルウ星人が近づいてくる。

 今奴に真正面から対抗して、勝てる見込みは限りなく少ない。

 だとすれば、ここでできる最善策は―――

 

「―――ババルウ星人」

 

 私は、努めて笑みをたたえた。

 

「取引しましょう」

「……取引、だと?」

 

 ババルウはわずかに苛立ちを見せたが、しばし逡巡してから私の話を聞こうとする姿勢を取った。

 

「私の“装置”を提供する代わりに、私の身の安全を保証し、彼ら人間たちを無事に地上まで逃がす約束をしてください」

 

 彼は意外そうに私と、後ろの人間たちを見回し、思案するそぶりを見せる。

 

「……“装置”の場所を話すのであれば危害は加えんよ。私は同胞には優しいのだ。しかし解せないのは、何故お前がその人間たちを庇うのか、だ」

 

 彼は訝しげに、杏城たちにちらと視線を向けた。

 私は彼に近づき、そっと耳打ちした。

 

「彼らは私に協力的な人間だからですよ。地球を支配するのならば、いつまでも人間に嫌われているのは得策ではありませんからね。彼らを利用しながら、他の人間たちを取り込まねば」

「……理解できないことは無い。まぁいいだろう。“装置”さえ手に入れば、その人間たちの命など興味は無い。お前を同胞として歓迎する」

 

 私は振り返り、杏城たちのもとに戻った。

 

「リュール君が目を覚ましたら、ここから出て行って地上に戻って下さい。もう二度と会うことは無いでしょう」

「レオルトンさん! どうするおつもりです?」

 

 目を腫らした杏城が悲痛の声を上げる。

 

「私は彼に付いていきます。宇宙人として、ね」

 

 去り際、私をきつく睨み付ける早馴の姿が目に入った。

 

「……先ほど、自分は宇宙人と一緒だと言いましたね」

「……それが、何よ」

 

 彼女は身構えながら、そう答えた。

 

「勘違いしないでもらいたい。自らの意思なく人を襲うなど、そこまで宇宙人は脆弱な生き物ではありませんよ。せいぜい貴女は――」

 

 彼女に背を向け、私は歩き始めた。

 

「――ただの人間として、今までと変わりなく生きてゆけばいい」

 

 私はババルウ星人と共に、その場から立ち去った。

 さてここからは、大きな賭けとなる。

 勝てる見込みがどれほどか想像もつかないが、後戻りはできない。

 

「ではメフィラスよ。早速“装置”を渡してもらおう」

「すぐにはできません。隠し場所を教えるタイミングはこちらで決めます」

「この期に及んで、まだ渋る気か? 言っておくが、私は今すぐお前を亡き者にできる力がある。協力に免じて生かしているのだぞ?」

 

 ババルウは苛立ちを包み隠さず、うんざりしたようにそう言った。

 

「……分かっていないのは貴方の方です」

 

 私は鼻で笑ってから、話を続けた。

 

「私は先ほど“取引”だと言ったのです。つまり立場は対等。私の利益が見込めなければ、話は無かったことに」

 

 ババルウは突然立ち止まり、右手のブレードを私の首元に突き付けた。

 

「装置を渡せ。でなければお前も、先ほどの人間たちも皆殺しだ……!」

「好きにしなさい。しかし言っておきますが、“装置”は私の死と共に機能を完全に失うように設計しています。それに、私の要求を一つでも飲めなければ“装置”は永久に手に入らないと思いなさい。それに――」

 私は勿体ぶりながら、言った。

 

「私が付くべき相手は、貴方だけではない」

 

 ババルウは怒りを鎮めようとしているのか、深いため息をついた。それから再び笑みを浮かべた。

 

「私を脅すつもりか?」

「理解が早くて助かります。私は“装置”をヤプールに差し出し、その協力者になることもできるのです。しかしあえて連合側に付こうと言うのは、貴方の持つ“鍵”の存在が理由です」

 

 ババルウ星人が、その眼から余裕を失った。

 

「貴方でしょう?デスフェルが残した、ガイアインパクトの“鍵”を奪って行ったのは」

「……よく分かったな」

 

 デスフェルのような狡猾な奴から何かを奪えるとしたら、最も彼女の動きを把握できる者に限られる。だとすれば、元仲間であった“星間連合”が最有力候補だ。あの時雪宮から“鍵”を奪ったのは、ババルウ星人に違いない。

 

「私は彼女に“鍵”によって解放されたシラリー、コダラー、イーリアの力を共有する条件で、仲間になれと持ちかけられました。もちろん断りましたが、今は状況が違う。私もその力を利用したい」

「お前は“鍵”の使い方を知っているのか?」

 

 やはりこいつ、デスフェルからは何も聞かされていない。

 今ババルウ星人は、私にどれだけの価値があるかを見定めている。

 人間を容易に支配できる“装置”だけではない。裏切り者のデスフェルから“鍵”の情報を得た人物としても、私を認識するだろう。

 最後の一押しだ。

 

「いい加減、行動すべきではありませんか? 今こそヤプールを退け、連合の首魁たる貴方が地球を手にする時ですよ」

「お前……」

 

 ババルウの表情が、全てを物語っていた。

 

「貴方はヤプールを協力者と言ったが、本当はソルを殺すために利用したかっただけでしょう? しかしヤプールはソルの身体を手に入れて強大な力を得てしまいました。貴方にとって連合に与しない彼らは大きな脅威でしょう」

 

 強欲な宇宙人の考えることは、私が一番よく分かっている。

 連合とヤプールは協力者と言いながら、明らかに友好関係には無い。しかし結局のところ、ババルウ星人は連合ーーいや自分一人だけで地球を支配したいのだ。

 

「鍵の3大怪獣を使って彼を排除すれば、地球の王はババルウ星人、貴方だ。そして“装置”を使って人間を手中に収めれば、後に戦うであろうウルトラ戦士に対しても優位に立てる。これは最大のチャンスです」

 

 私たちが向き合ったまま、数秒の沈黙が流れた。

 

「……お前は色々と知りすぎているが、殺すには惜しい」

 

 彼はにやりと笑った。

 

「お前の言う通り。ソルが居なくなった今、これ以上奴の手を借りる必要はない。で、どうすればこいつを使える」

 

 彼の手に、小さな石版が現れた。まさしくこれは、デスフェルが手に入れていた“鍵”だった。

 しかし、石版は何の光も放っていない。

 

「この異次元空間では使えません。地上に降りる必要があります。そしてキングヤプールをおびき出し、力を開放します」

「本当にそれだけか? お前が嘘を言っていない保証はあるか?」

「考えてみてください。今の私には、宇宙の覇者となり得る者の味方になるしか生き残る道はありません。貴方を騙してヤプールに殺させても、その後彼が私を必要とするとは限りません。だとすれば、現時点で交渉の余地があり、確実に勝てると見込みのある側に就くのは当然ではありませんか」

 

 私は自信たっぷりに話し終わり、ババルウの回答を待った。

 彼は私を疑り深く睨みながら、思案していた。

 だが奴の答えはとうに出ているはずだ。

 

「……いいだろう。お前を信じてやろうではないか」

「ありがとうございます。それは人間の負の感情に強く反応し、発動します。ですから地上に降りて人間を利用しなければなりません。私の“装置”によって人間たちは負の感情を増幅されていますから、発動は容易ですよ」

「ふん。それが、デスフェルがお前を仲間にしたかった理由なのだな」

 

 私は、ババルウの放つ黒いオーラに包まれて、一瞬で地上に移動した。

 異次元空間が常に暗かったせいか、曇り空とはいえ外光がやけに眩しい。

 数時間ぶりに目にした地上の光景は、まさに絶望的だった。

 巨大超獣が幾体も出現し、建造物は次々に破壊されていった。私が見ぬうちに出動していたCREW・GUYSがメシアを用いて戦闘を始めていたが、状況は圧倒的に不利だった。

 

「ヤプールは、まだ異次元空間に居るはずだ」

「ではババルウ。彼を引きずり出しましょう」

「いいだろう」

 

 彼は金色の頭髪を数本抜き、ばら撒いた。それらがババルウの分身として巨大化した。

 

「超獣どもを殺せっ!」

 

 分身たちは次々に超獣に襲い掛かった。不意の襲撃に、ほとんどの超獣はあえなく倒されていった。

 それを眺めていた私たちの目の前に、黒いオーラが現れる。

 

「ババルウ! 貴様何をやっているのだ!? 気でも狂ったか?」

 

 テンペラ―星人だった。彼は今にも掴みかからん勢いでババルウに詰め寄った。

 

「テンペラー。ヤプールとの共闘は終わりだ。こいつを使って亡き者にする!」

 

 彼は自慢げに“鍵”を見せつける。テンペラーもそれを目にするなり、高笑いを上げていた。

 

「いいだろう! 大暴れの時間だな!」

 

 テンペラ―は巨大化し、上空に飛び上がった。そして数発の光線を放って遠方の超獣を撃ち抜いた。

 それからすぐだった。

 割れた空の奥、神殿から奴は現れた。

 

『星間連合……とうとう裏切りおったな』

 

 ソルの身体を奪ったヤプールキングが、その巨体でテンペラー星人の前まで飛んで行った。

 

『ヤプール! お前と戦えるとは、実に愉快だぞ!』

『愚か者め……今の私に勝てると思うてか?』

 

 両者は挑発的な言葉を交わし合いながら、互いの出方を伺っているように見える。

 

「テンペラー、時間稼ぎは任せたぞ」

 

 ババルウ星人は“鍵”を高く掲げた。

 

「あとは念じるだけです。地上に満ちるマイナスエネルギーを集めるイメージですよ」

「分かった」

 

 私の言葉に従い、ババルウは眼を閉じた。

 

 

―――その7に続く

 


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