留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第36話「異次元王の降臨」その3

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 目隠しを取られた時、私は薄暗い牢屋の中にいた。人間態のまま両手両足を縛られ、石の柱に括り付けられている。じめじめとした空間だが、鳥肌が立つほど寒い場所だった。

 牢屋の外には、広大な空間が広がっているようだった。恐らく牢屋は人間サイズで作られており、外は巨大怪獣が行き来できるように設計されているのだろう。

 広い空間に、小さな足音が響いた。足音は徐々にこちらに近づいてくる。

 

「手荒な真似をして失礼だったかな、メフィラス」

 

 鉄格子の向こう側に、ババルウ星人が現れた。彼の手には、私から取り上げたソルの変身アイテムが握られていた。零洸と戦っていた時もずっと懐に隠し持っていたが、ここに連れて来られる途中にテンペラー星人に奪われていたのだ。

 

「ここはどこですか」

「我々“星間連合”の協力者の居城さ」

「ヤプール、ですね」

「その通り。連合に加わりこそしなかったが、同盟を結んでいるのだよ」

 

 彼ら“星間連合”が、自信満々に大部隊を動かした理由――光の戦士ソルをまったく恐れずに行動したのは、ヤプールという強大な後ろ盾があってこそだったのか。

 

「さて、私がここに来たのは君と交渉したかったからなのだ。どうだろうメフィラス。“星間連合”に加わるつもりは無いか? 共に地球を支配し、ゆくゆくは光の国へ侵攻するのだ」

「デスフェルといい、貴方といい、連合とは縁がありますね」

 

 一瞬、ババルウ星人は眼を見開いた。

 しかしすぐに、愉快そうに目を細めた。

 

「私は、お前の作った“装置”が欲しい」

 

 ババルウ星人は3歩進み、鉄格子を掴んだ。

 

「お前の装置を使って、人間たちのつまらぬ信念を打ち砕く。そして地球全土の人間に波長を飛ばし、支配下に置くのだ」

「それで私に見返りは?」

「共に地球を支配する権利と、その命だ」

 

 彼の合図で、マグマ星人が後ろから現れた。奴は格子扉を開き、私のすぐ前までやって来た。

 そして、サーベルの先端を私の首元に向けた。

 

「私を殺せば、装置のありかは永遠に分からなくなりますね」

「そうだな。だから――」

 

 ババルウの言葉と共に、マグマ星人のサーベルが私の二の腕を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

 皮膚と、その下の筋肉をわずかに裂くだけ。つまりは拷問、というわけだ。

 

「それなりに痛いだろう? お前が黙る分だけ傷は増えていくぞ」

 

マグマ星人が忌々しげに嗤った。

 

「ババルウ様。もう一カ所いきますか?」

「待て待て。もう一度聞くぞ、メフィラス星人。我々に降り、装置を渡せ」

「断ります」

「残念だ……。マグマ星人、やれ」

 

 それから同じ問答が続き、私は無数の切傷を負った。

 時間が経てば再生できるほどの傷ばかりだが、エネルギーを消耗しているうえ、時間的余裕が無かった。

 ただ傷が増えていくばかりで、徐々に体内の血液量も減少している。

 なんてつまらない死に方だろうか。

 ソルを打ち破ることもできず、他の侵略者に地球をかすめ取られ、拷問の後静かに死ぬ――想像していなかったわけではないが、何とも気分が悪い結果だ。

 そういえば、地球に来てから同じように死にかけたことがあった。

 あれは……そう、バルタン星人の産卵場を破壊した後だった。バルタンに負わされた傷が想定よりも深く、街をさまよった時だ。

 あの時は、ソルに――零洸に救われたのだ。

 

「なんだ!?」

 

 再びサーベルを私に向けたマグマ星人が、突然の爆音に動揺し、ババルウ星人の方に振り返った。

 

「……招かれざる客が来たらしい」

 

 ババルウはマントを翻した。そこに黒い宇宙人――異次元人ヤプールが現れる。何やら耳打ちをしているようだが、こちらには何も聞こえなかった。

 

「聞け、メフィラスよ。冷凍星人グロルーラと数人の人間が、異次元への入り口で暴れているようだ。私は侵入者の討伐に向かう。マグマ星人、お前はここに残りメフィラスの相手をしてやれ」

「はっ!」

 

 ババルウがヤプール人と共に姿を消した。

 

「どぅれ続きを―――」

 

 その時、紅い炎が鉄格子の向こうから吹き込んできた。マグマ星人はそれを背に食らい、牢屋の端まで吹き飛ばされた。

 

「ぐおぉぉ……一体何が――」

「ギャァァァァス!!!」

「ど、ドラゴンだと!?」

 

 突如現れた、巨大な真紅のドラゴンが鉄格子を掴む。格子はいとも簡単に捻じ曲げられ、扉が開け放された。

 

「ニルにーちゃん!!」

 

 その声は……リュール少年か。

 彼はドラゴンの背からこちらに飛び降り、丸い瞳でこちらを見つめた。

 

「このガキ! 一体どこから!」

 

 マグマ星人がサーベルをリュールに向ける。

 

「ドラゴン!」

 

 リュールはそう叫び、その場に伏せた。

 その上を、ドラゴンの拳が通ってマグマ星人の小さな身体を鷲掴みにした。

 

「何だとぉぉぉ!!」

 

 マグマ星人はあっけ無く、暗闇の中に放り投げられた。その間に、ドラゴンの爪が私を縛る鎖を柱ごと破壊した。

 

「助けに来たよ! ニルにーちゃん!」

 

 リュールは、倒れる私を必死に支えようとした。しかし子供の身体ではどうしようもない。

 

「……何故君がここに?」

「言ったじゃない。助けに来たって!」

 

 リュールは歯を食いしばり、自分よりも大きい私を引っ張った。

 

「ドラゴン、ニルにーちゃんを安全なところに――」

「ふははは!! ドラゴンを操る少年よ、なかなかやるじゃないか!」

 

 破壊された牢屋の外に、黒いオーラと共にババルウ星人が姿を現した。

 

「いい作戦だった。一緒に来た仲間は陽動だったようだな。しかし神殿に入り込んだネズミはとっくに捕まえたぞ」

「仲間?」

 

 私の問いに、リュールは答えない。代わりにドラゴンに指示を飛ばす。

 真紅のドラゴンが、その拳をババルウ星人目がけて凄まじい勢いで繰り出す。

 

「ふんっ!」

 

 しかし、ババルウ星人はその拳を片手で受け止めた。

 

「眠れ」

 

 黒いエネルギーがババルウの手からドラゴンの全身に流れ込む。ドラゴンは気を失ったようにその場に倒れ、地面が大きく揺れた。

 

「このっ!!」

 

 リュールは捨て身で、ババルウに向かって走り出した。しかし首根っこを掴まれ、ドラゴンと同じように彼も気絶させられてしまった。

 

「人間というのは、実に甲斐甲斐しい生き物だ。お前を宇宙人と知ってなお、助けに来るとはな」

「彼らは……」

「あそこだ」

 

 ババルウが指差す先に、青白い光が差し込んだ。

 そこは、石造りの神殿のような建造物だった。中心に荘厳な玉座を据え、それを囲むように7本の巨大な柱が立っている。

 中心の巨大な玉座の前には、人間大の小さな玉座も設置されていた。そこから5メートルほどの位置で、地面から繋がっている鎖に拘束されているのは、草津、杏城、そして長瀬だった。

 

「そうだ。メフィラスよ、お前をいくら傷つけても従わぬと言うのなら、代わりにあの人間たちに死んでもらうとしようか」

「そんなこと、脅しにはなりませんよ」

「それはどうかな」

 

 ババルウは高笑いを響かせながら、草津たちに向けて歩き出した。

 

「そこで黙って見ていろ!」

 

 彼は腕のブレードの切っ先を向けながら、3人に迫った。

 無駄だ。そんなことをしても、私は従わない。

 私にとって人間など、何の価値もないのだ。

 そう、何の価値も――

 

「やめ――」

『ババルウ星人。そやつらの命は、わが目的のために使う。手出しするな』

 

 広大な空間に、深く、威厳のある声が轟いた。

 

「……分かった」

 

 ババルウはすんなりと従い、ナイフをしまった。

 

『メフィラス星人よ。貴様も見ると良い。これから始まる出来事を』

 

 私は何も答えず、重い身体をきしませながら進んだ。

 近づいて分かったことだが、小さな玉座はこちらに背を向けて配置されているため、そこに誰が腰かけているのかは見えないのだ。

 

『そしてソル。貴様も見るのだ』

 

 別の方向から、十字架に縛り付けられた零洸が台座に乗せられ、ヤプール人たちに担がれてやって来た。彼女は必死に抵抗しているが、その自由を奪っている鎖は空しい金属音を立てるだけだった。

 

「未来さん! それに、レオルトンさん……!」

 

 私たちの姿をとらえた杏城が、悲痛な叫びをあげる。

 

「何故キミたちが……それに、レオルトン」

 

 零洸は眼を見開いて、私と杏城たちを交互に凝視している。

 そして私と零洸が小さな玉座の近くまで来たとき、玉座がゆっくりと回転した。

 

『役者が揃ったな』

 

 鎮座していたのは、真紅のマントで全身を包んだ人物だった。

 その顔面に日本の面――般若の面を付けている。

 その不気味な様相を前に、長瀬が小さな悲鳴を上げた。

 

『ここに足を踏み入れる人間が居ようとは考えもしなかった。大層なことだ』

 

 声は面の人物から発せられているというよりは、この空間全体が発しているような感覚だった。

 

「お前は、何者だ」

 

 零洸が鋭い視線を投げかけながら問いかける。

 

『貴様は既に知っているはずだぞ。光の戦士ソルよ』

 

 般若の面の人物がゆっくりと立ち上がる。

 

『憎しみに呑まれた貴様に、一度力を貸してやったではないか』

「まさか……あの時の……!」

 

 あの時――百夜過去との戦いの中で、ソルが突如としてマイナスエネルギーを爆発させた時のことだろうか。

 この声の主が、その時ソルを手助けしたとでも言うのか?

 

『そうだ。非常に居心地の良い身体であったが、すぐに追い出されてしまったな。しかし――』

 

 面の人物が、その白い般若の面に手をかける。

 

『貴様の心は、更なる憎しみに満たされるだろう』

 

 仮面が、外される。

 見知った顔――何度も見つめた、あの顔。

 仮面の後ろにあったのは、早馴愛美の顔だった。

 

 

―――その4に続く


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