ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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PKプレイヤー

「なんでなんだよ!!」

 

歓声のなかで叫びがあがる。

 

「なんで死ななかったんだよ!!」

 

「は?」

 

コイツ、何て言った?

 

『なんで死ななかった?』

 

あり得ない。そんな言葉はあり得ない。あり得てはいけない。

それじゃあまるで、死を望んでいたかのような言い方じゃないか。

 

「お前、何が言いたい?」

 

「だからさぁ~」

 

俺達と後退していたセンチネル討伐隊やパリィ班の間に出てきた男の姿は、攻略組とは思えない風貌だった。

ボロマントに初期装備。何者だ?

 

「あそこで何でディアベルとかいうヤツ助けちゃったんだよぉ~」

 

「あ?」

 

「あのまま攻撃受けて死んじゃってれば、ベータテスタの無様な死に様を見れたのにさ」

 

ディアベルが、ベータ上がりだと知っている?何故?

こんな男がどうやって?

 

「あっはは、何故?って顔してるね。僕がどうしてそれを知っているか、どうしてこんなことを発言するのか、教えてあげるよ」

 

男はペラペラと、必要もないのに話し始めた。

 

「僕のギルドはとても小さかったんだけどさ、そこに1人、ベータ上がりが居たんだよ。最初は情報をくれたりと

優秀だったんだけどさ、俺達が情報もっと寄越せって脅迫したらさ、あいつMPK紛いの状況作って逃げやがったんだ。まあ全員生還できたんだけどさ。3人の仲間の内2人が戦闘恐怖症になっちゃってさ、1人は自殺で。

そのくせしてベータ上がりの仲間は他のギルドで呑気に生活してんじゃねぇかよ

そん時から僕はベータ上がりを嫌うようになったんだよ

だから生贄をこの階層で1人位だしてやろうと思ったんだよ

その大チャンスをさあ、アンタは潰しちまったんだよ。何てことしてくれたんだよまったく

おかげで――――」

 

突然の殺気に後退した。

その直後、俺の頬を刃が掠めた。

 

「僕が直々に殺さなきゃならなくなっちゃったじゃないか」

 

「なっ!?」

 

とっさに取った回避行動が幸いしたが、それでもHPが残り2割にまで減らされてしまった。次はもう無い。

すぐに短剣を取り、姿勢を低く構える。

 

「アハハハ!!いいねぇアンタ!!人殺しになる覚悟がある眼だぁ!!

 さあ殺し合おうよ!!命を賭けてさ!!」

 

危険だ。一発も食らわずに生き残れるわけがない。

それに、俺が攻撃するときは相手に攻撃された後だ。

すぐにストレージからポーションを出し、口にくわえ後退し距離を取る。

中身を飲みほして体力が半分にまで回復したところで後退を止めて、近接した。

そして…………

 

カスッ

 

攻撃をワザと掠めさせた。

その瞬間、相手のカーソルが緑から橙に変わった。

 

「今だ!!両手を狙って攻撃!!」

 

「あ、しまっ」

 

「とったぁぁぁ!!」

 

「借りは返す!!」

 

ユウキとディアベルが背後から男の両腕を切り落とした。

 

「そんな」

 

「捕獲完了」

 

俺は米俵を担ぐ要領で男を担ぐと、出口へと向かった。

 

「ケイタ、俺は牢獄にコイツぶち込んでくる。アクティベートよろしく」

 

「え、あ………おうよ」

 

「ちょぉ待った」

 

俺に声がかけられた。

声の主はキバオウだった。

 

「何だ?」

 

「………ディアベルはんを助けてくれたんは感謝しとく。それだけや!!」

 

「フッ、そうかい」

 

そういって俺はそこを後にした。

 

 

 

 

 

 

あれから2週間が過ぎて、攻略活動も本格化しはじめて来た頃のことだった。

俺達はディアベルの班と共に第10層迷宮最深部のボス部屋まで到着した。

 

「ふぃー疲れた」

 

「ま、迷宮の最深まで、余すと来なく全部マッピングしたからな」

 

「3回の探索でボス部屋まで行けるようになったんだ。それだけ忍耐力や持久力が付いたってことだ」

 

「そんなことよりボクお腹すいたよ~」

 

黒猫団のメンバーはそんな会話をするが、ディアベルが結成したギルド『聖竜連合』の探索隊は全く違う内容の会話をしていた。

 

「いやー今回の探索は楽勝だったな」

 

「ああ。敵は全部あいつらが倒しちまうし、俺達はそれについていってマッピングするだけだもんな」

 

「毎回こうあってほしいんだけどな」

 

「ホントそれな」

 

そんな会話を聞いて俺は俯いた。

これでは聖竜連合の団員に、レベルは高くなっても技術が身に付かない。どうすれば…………

そう考えていた矢先に、事件が起こった。

 

「あ、え?」

 

おかしな言葉と共に聖竜連合の探索隊の隊長が倒れた。

立て続けに残りの探索隊も倒れる。

異常事態を感じたのは俺だけではないらしく、ケイタにテツオ、ユウキは柱に隠れる。

 

ヒュン

 

「っっ!!」

 

カーン!!

 

闇に煌めいた白刃を短剣で弾く。

続けて飛んでくる2連の刃は1つを躱して1つを弾いた。

しかし何故聖竜連合の奴らは立ち上がらない。

 

「そんな!?」

 

ユウキが何かに気付いた。続いて俺達も気付いた。

連合の奴らの背中に刺さったサイフには、黄緑色の粘液のようなものが付着していた。

麻痺毒だ。

つまり相手はオレンジ、殺人者だ。

 

「おいおいおいおい、仲間を見捨てちまうのか?」

 

その声は俺の鼓膜を振るわせ、過去の記憶を呼び起こした。

 

「てめぇ、生きてやがったか。PoH」

 

「そんな簡単にくたばる訳がねぇだろ?」

 

「ッチ!さっさと牢獄に入ってくれると嬉しいんだけどな!!」

 

隠れるのをやめ、姿を消してPoHに近づく。

しかしそれを見越していたのかヒラリと躱して鉈型の短剣で攻撃してくるPoH。

 

「急いで連合の奴らを連れて脱出しろ!!」

 

「わかった」

 

「やらせるかよ!」

 

横から飛び出してきた男が聖竜連合の1人の背中に麻痺属性の短剣を突き刺した。

しかし残りは全員転移結晶で撤退していた――――ように思われた。

 

「ジンを離せぇぇぇぇ!!」

 

「ユウキ!?来るな!!」

 

飛び込んできたユウキの背後から隠れていた1人が忍び寄る。

けれどユウキはそれに気付かない。

ユウキの背に、ライトエフェクトで輝く刃が振り下ろされる。

 

「我慢しろ!!」

 

「へ………ガッ」

 

俺は思い切りユウキの腹を蹴飛ばした。

だが筋力にステータスを振っていない所為であまり吹き飛ばないユウキを、光刃が切り裂いた。

 

ザクッ

 

切られたのはユウキの左腕。本来食らうはずだたダメージと比べると些細なものでしかない。

それでも少女に死の恐怖を与えるには十分な一撃だった。

 

「ひぃ!!」

 

 

死への恐怖で身体が動かないユウキ。

 

「ッチ」

 

俺は麻痺して動けない連合の仲間に視線を送った。

涙や唾液、鼻水でグショグショの顔は恐怖に染まっている。ただ視線はずっと俺から外さなかったのか顔についている汚れは片側だけでなく両側についていた。

視線を送ると諦めたような表情になったあとで無理矢理に笑って見せた。

 

「すまない」

 

それだけを言い残して俺はユウキを抱えて、隠蔽スキルを発動させて姿を隠す。

 

「見捨てんのか?」

 

その言葉には返答せず、転移結晶で街へと返ってきた。

転移したさきの広間には黒猫団を始め、聖竜連合や勢力を強めてきた血盟騎士団までもが集まっていた。皆一様に心配そうな表情を浮かべていたが、片腕の無いユウキの姿を見て表情は恐怖の者へと変わった。

 

「ジン、ユウキ!!」

 

「さ、サチ………」

 

ユウキはサチに飛びつくと大衆の前にも関わらず大声をあげて泣きじゃくった。

事態を概ね把握したのか黒猫団の皆はギルドへとユウキを送っていった。

ジンも休めと言われたが、今は休めるような気分ではなかった。

俺は各ギルドのトップ、副官を呼び、状況を離した。

 

「そう、だったのか」

 

「恐らく最近PKが増えているのは奴らの影響だろうな」

 

「情報が確かなら、彼らは『ラフィンコフィン』、笑う棺桶と言う名のPKギルドのようだ」

 

ラフィンコフィン、PKを専門とするそのギルドの誕生は第1層ボス攻略時に、俺を殺そうとした人間を見た者が創設したものだ。

デスゲームからの脱出不可能という状況を受け、精神が狂ってしまった者も多く、PKギルドへと足を踏み入れてしまった者もいた。ただ、戦力として機能しているのは元から精神が狂っていた者ばかりだった。

しかし1人でも死者を少なく生還するを目指すこの状況ではPKギルド狩りなどできるはずなかった。だからPKは増加し加速し続けている。

この事件はSAOプレイヤーに、そして俺に深い傷を残した。




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