してボス攻略当日。目の前には大きく重厚な、それでいて押せば簡単に開く扉。感じたことのない威圧感が放たれるその前でプレイヤーたちは集まった。
「遂に来ちまったなジン」
「ビビってんのか?」
「ちげぇって!!興奮してんだよ」
「は?」
「辿り着くだろうとは思ってたけどさ、果てしなく遠いこの部屋には、心のどっかでたどり着けないと思っちまっててさ。そんな俺達がここまで来れたんだ。
気分が高揚するっつーかさ、感動って訳でもなくてさ。やっぱ興奮って言葉が1番しっくりくるんだよな~」
他のメンバーもケイタの言葉に頷く。
扉の前に誰かが移動した。
ディアベルだ。
大衆の前に立った彼は剣を抜き、号令をかける。
「今日は、1人も欠けることなく集まってくれてありがとう。 もう俺から言える言葉は1つしかない……」
やや間を空けて
「 勝とうぜ!!」
そう言い放った。
周りから溢れだす雄叫び。それは呼応し大きくなっていく。
扉に手をかけたディアベル。
そしてその扉を押し開いた。
「行くぜ!!」
先陣を切るディアベルに続いて突撃する大衆。
暗い空間に明かりがつく。
明かりがボスである<イルファング コボルド ザ ロード>を、取り巻きの<ルイン コボルド センチネル>を照らし出す。
味方が、敵が、お互いを認識する。
「攻撃開始だ!!死ぬなよ!!」
俺達は取り巻きを他のパーティーに任せてイルファングへと向かう。
赤熱の色の身体に兜、手には斧と丸い盾を持った王。吠える姿は正に野獣。
「テツオとササマルはディアベル隊のパリィ班と一緒にパリィに専念してくれ!!ケイタとダッカーはとにかくヘイトを稼いでユウキを狙わせるな!!ユウキは俺と背後を狙うぞ!!キリトとアスナはセンチネル討伐班を支援しつつ攻撃だ!!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」
それぞれが担当の任務を果たすべく散開し行動を開始する。
通常短剣は攻撃力の低さから、敵を攪乱させたりヘイトを稼ぐのが殆どだが、俺は違う。
隠蔽スキルの1つ、戦闘補助(バトルアシスト)スキルであるバックスタブを発動し、クリティカル確率を上昇させる。クリティカルが発生すれば短剣であろうとも大剣なみな威力が発揮される。
「せい!!」
一際大きな効果音が発生し、クリティカルの発生を知らせる。イルファングが仰け反り、こちらに視線を向けるが……
「「こっち向きやがれ!!」」
ケイタとダッカーが渾身の一撃を見舞う。
ケイタは飛び上がり棍棒を横薙ぎに振り、イルファングの兜ごと頭を弾き、ダッカーは斧を持つ右手に大剣ソードスキル<アバランシュ>を叩き込み、イルファングの攻撃を許さない。
怯んだイルファングに、ここぞと言わんばかりに接近し、顔面の1m先程に飛び上がる。
「暗闇を知れ!!」
そこから短剣ソードスキル<アーマー・ピアース>で右目を貫く。
GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!
ほぼ真正面から食らう大音量の雄叫び。それを耐え凌いでアイテムストレージから出しておいたもう1本の短剣を左手に持ち、短剣ソードスキル<トライ・ピアース>で左目を3度連続して貫く。
これで両目を潰したことによってボスは盲目状態になった。
これによってイルファングは敵味方構わず四方八方に無暗に斧を振り回す。
「離れろ!!」
センチネル討伐隊に号令するディアベル。
バックステップで緊急回避したセンチネル討伐隊にいるセンチネルの身体を、イルファングの斧が切り裂く。
ポリゴンとなった最後のセンチネルを見て、ユウキにアイコンタクトを取り、イルファングに接近する。
「「いくぜ(よ)!!時計円舞(タイム・ロンド)!!」」
ユウキが腹に、俺が背中に刃を突き刺し、タイミングを見計らって時計回りに回転する。
腹を輪切りにするかの如く切り裂いていく。
これによって一気にHPゲージは減り、遂に1本を消し去った。
GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!
より大きな雄叫びを上げて俺達めがけて斧を振り下ろすイルファングの目は俺を正確に捉えていた。
「盲目から回復したぞ!!センチネルも出る!!一旦離れろ!」
スライディングするようにしてイルファングの又の間を滑り抜け、斧を回避する。
そして見えたイルファング背中に短剣ソードスキル<クロス・エッジ>を叩き込み一旦離脱する。
しかし空中で不自由な俺をイルファングは捉えていた。
振り向きざまに斧を振りぬこうとしたイルファングに、俺はニィと笑みを浮かべた。
「「任せろ!!」」
ディアベルとテツオが俺とイルファングの間に駆け込み、ソードスキルで斧を弾き返(パリィ)した。
攻撃を弾かれ姿勢を崩したイルファング。
「総攻撃!!」
号令によってパリィの班が攻撃に転じた。
「隙あり!!」
ユウキがスキル後硬直の少し長めの片手剣ソードスキル<サベージ・フルクライム>で猛攻を見せる。
<サベージ・フルクライム>は全てクリティカルヒットし、HPゲージの4分の1を削りきった。
「ユウキの援護を!!」
イルファングの斧がユウキを捉えていた。
すぐさまディアベルのパリィ班が援護しに入り、ソードスキルで弾き返そうとするも
パキィン!!
「しまった!?」
片方の棍が折れてしまった。
それによって弾き返し(パリィ)の力が弱まりパリィに入ったプレイヤー達とユウキが吹き飛ばされてしまう。
「急いで回復と武器の交換だ!!ユウキは一旦下がれ!!」
「わかった」
後退しポーションを飲むユウキ。その隙を狙ってイルファングが飛び掛かってきた。
「遅くなった!!」
「させない!!」
背後からイルファングへと突進していったのはキリトとアスナだ。
キリトは片手剣ソードスキル<バーチカル>、アスナは細剣ソードスキル<ストリーク>でイルファングを押し返そうとするが、体重のかかった攻撃は先程よりも重い。
「負けんな!!」
俺も短剣ソードスキル<ラウンド・アクセル>で押し返しに加勢する。
一撃目で静止させ、二撃目で押し返しに成功する。
「今だディアベル!!」
「応とも!!」
ディアベルが片手剣ソードスキル<ヴォーパル・ストライク>で急接近し、最後の一撃で2本目のHPゲージを刈り取った。
周りのプレイヤー達に疲労の色が見え始めた。
するとディアベルが
「ここまで余裕じゃないか!!このペースなら誰一人欠けることなく攻略できるぞ!!まだ戦いは終わってない!!気を引き締めていこう!!」
『おおおおおおおおおお!!!!!!』
戦意を薄れさせず、失わさせず、慢心させない。ディアベルの指示のタイミングは素晴らしい物だった。
そこから先は順調に進み、ついにHPゲージを最後の1本にまで攻めたてた。
しかし、そこで事件が起きた。
手筈では一時後退し様子を見ることになっていた。だが後退せずにボスに向かって疾走した者がいた。
「皆下がれ!!ここは俺一人で行く!!」
それは皆をここまで率いてきたディアベルだった。
ディアベルがキリトに視線を送り、キリトもまたそれに気付いた。けれどキリトは、キバオウと名乗った男の視線には気付かないままだった。
イルファングが武器を持ち替えた。
ご自慢のタルワール、見せてもらおうか…………!?あれはタルワールじゃない!!
キリトもそれに気づいた。
細身の刀身、研ぎ澄まされた白銀の刃、直刀だ。武器種類(ウェポンタイプ)でいう所のエクストラゾーンの武器、太刀だ。
「ディアベル下がれ!!」
キリトの叫び虚しくディアベルに向けて刀ソードスキルが叩き込まれる。
「パリィ班は全速力で接近!!ボスの追撃を許すな!!」
俺は俊敏ステータスを全力で発揮させ、ディアベルの元へと辿り着く。
左手をディアベルの左腕へと伸ばし、掴んだ。
「耐えきれ!!」
ディアベルの左腕を引っ張り、迫りくる刀の軌道上にディアベルの左腕が掴む盾を移動させる。
そして…………
バキキィ!!
盾はいとも簡単に破壊されたが刃の直撃は避けられた。
「くっ!」
「ぐあっ!!」
衝撃で吹き飛ばされる俺達。HPも紙防御の俺でも6割しか削られていない。
「ディアベルは回復!!すぐに戦線に復帰しろ!」
「すまない」
悔しそうに唇を噛みしめるディアベルをパリィ班に任せてボスの討伐に専念する。
ユウキが駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「何、HPが残り4割も残ってるんだ。まだいける」
「4割!?すぐに回復を―――」
「そんなことは当たらなければいいんだ!!すぐに攻撃が来るぞ!!」
緊急回避をしたが若干間に合わず、赤いライトエフェクトを纏った刃が鼻の頭を掠める。
「キリト!!アスナ!!ユウキ!!全力で攻撃だ!!」
「「「了解!!」」」
キリトはアスナとスイッチで連撃し、ユウキはパリィで隙を見せたイルファングにソードスキルで攻めたてる。
そしてついに…………
「トドメだ!!」
キリトが片手剣ソードスキル<ホリゾンタル・スクエア>の最後の一撃で、イルファングの腹を突き刺し、そのまま顔まで切り裂いた。
GAAAAAAA……AA…A…………
雄叫びが切れ切れになって、途切れた刹那――――
パリャン!!
<イルファング ザ コボルド ロード>は光の破片となって消え去った。
「やった…………やったぞ!!」
ケイタの言葉を聞いて、それに呼応するかのように歓声があがった。