ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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湖畔にて、遭遇

黒猫団が攻略組として有名になってくると、それなりに顔を覚えられるようになってきた。

実力を認められたことによって、それなりに忙しくなった。

まずは、最も有名なギルドである『聖竜連合』、そのリーダーであるディアベルが持ちかけてきたマップ作成状況・方向会議(通称マップ会議)、弱小ギルドへの戦闘指導などで、仕事がいくつか増えた。

だが俺だけは有名になることは無かった。

理由は何故か。答は睡眠PKなどを恐れるあまり外出時には必ず隠密スキルを発動させているからだ。

まだPKは行われていないが、今後必ず出てしまうのだ。警戒するに越したことは無い。

で、そんな俺は樹海エリアの湖の近くをうろついていた。

その理由は、水辺のみに出現するモンスターを狙っているからで。

 

「見つけた」

 

俺は木の陰に身を潜めて標的を確認する。

体長およそ1mの亀が、木陰で眠っているのが見える。あれが標的だ。

俺は使い慣れた木の棒を持って突撃した。

 

「ごめんなさいねっと」

 

起こさないように静かに近づくと首を狙って、短剣2連撃範囲スキル『ラウンド・アクセル』を放つ。

亀は、起きることなくポリゴンとなって弾けた。

 

ピコーン

 

「お、漸く出たか」

 

盾『タートルバックラー』。このレアドロップ装備を手に入れる為に、ここ数十分もの間、モンスターを狩っていたのだ。

メイサーのテツオがタンク(盾持ち)を兼任すると言ったのでその為の装備の情報を、情報屋アルゴから買い取って、ただひたすら狙っていた武装である。

タートルバックラーは、第1階層にしては高ステータスな盾で、防御力50とVIT+5という防御特化の装備だ。

円盾(バックラー)に亀の甲羅を付けただけの武骨な装備ではあるが、見た目通りの硬度で耐久値の心配がいらないのがいい装備だ。

 

「さて、夜も遅い。帰るか」

 

そういって湖畔から遠ざかっていた時、

 

ドサリ

 

何かが近くで倒れる音がした。

俺はとっさに隠密スキルを発動させて木の棒を構え、音源へと慎重に移動する。

草むらからこっそり見ると、マントを纏ったプレイヤーが気絶していた。

 

「ウインドフルーレ、細剣使いか」

 

それなりに強い武器を持ったプレイヤーが何故ここで気絶している?

そんなことを考えたが、ここはモンスターのいるエリア、放置するわけにもいかないので、抱きかかえてギルドホームへと連れて帰った。

 

 

 

 

「で、お前は武装を取りに行ったはずなのにプレイヤー拾ってきたわけか」

 

「失敬な。ちゃんと盾もとってきたぞ」

 

ギルドホームにて、プレイヤーを俺のベッドに寝かせて、俺は居間で事情を説明しようとしていた。

 

「珍しいね」

 

「何がだ?」

 

「あの人、女の人だったから」

 

「あーはいはい。今時確かに珍しいもんな、ゲームの女性プレイヤー」

 

そもそも俺はあのプレイヤーが女だったことにすら気付けていなかった。あんなボロマント着るのはダサい男位だと思っていたから。

そういえば着替えとかはサチとユウキが担当していたな。その時に気付けよ俺。

 

「あ、テツオ。所望の品だ」

 

「おお、助かるってやっぱ重いな」

 

タンクは基本的に重装備なんだからあたりまえだろうと思ったが、俺は溜息で誤魔化した。

軽い盾も無くは無いが、そういう奴は大抵攻撃重視のソードマン(剣士)やメイサー(棍使い)が躱し切れない攻撃を防ぐために使う小型で耐久値の低いものだ。タンクが使うにはかなり不便だ。

前に1度、ササマルが小型の盾を使ったらしいが、動くのに邪魔といって結局使わなかった。

 

「サチ、プレイヤーの様子見てきてくれ」

 

「分かった」

 

サチは水の入った桶に手拭を入れて、俺の部屋に入っていった。

ケイタはユウキ達と一緒にシリトリを始めている。俺はサチ特製のMAXコーヒーモドキ(練乳IN)を啜る。

まったりとした平和な空間が到来した…………が、それは一瞬のことだった。

 

コンコンコン……コン

 

ノックの音が響いた。最後に外してきたということは、アルゴか。

客人か、そうでない人かを分かりやすくするために、フレンド登録してあるプレイヤーにはノックの方法を教えてある。ギルドメンバーはコン……ココン、アルゴやディアベルはコンコンコン……コンというノック方法を教えてあり、この時間帯だと訪問するプレイヤーはアルゴだけに絞られる。

 

「ゴメンナ~」

 

「何だ」

 

アルゴはいや~と頭に手を置いて話す。

 

「宿屋に人が多くなってきたからサ~、新しい宿屋が決まるまで泊めてくれヨ~」

 

「残念ながら俺の部屋は使えなくてな」

 

「!ホッホ~ウ、ジンの部屋には入れない事情があるト」

 

「そういうことだ」

 

「ナラ…………オレっちはそれを見る権利があるってことダ!!」

 

アルゴは俺の間を擦り抜けて俺の部屋へと一直線に走っていく。

ケイタが止めようとするも後一歩届かず、

 

「何があるのか、ナ~………」

 

「開ける、なよ…………」

 

「「へ?」」

 

アルゴとケイタの動きが止まり、そして…………

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「何やってるの!!!!」

 

「やべっちったナー。ニャハハハハ」

 

「うわぁ!?ごめんなさいごめんなさいぃぃ!!!」

 

寝かせたプレイヤーの物であろう悲鳴と、サチの怒鳴り声、アルゴの笑い声とケイタの情けない謝罪の声が響いた。

その声の嵐に、ユウキが尻餅をつき、ダッカーが持っていたグラスを落として割って、ササマルは飲んでいたMAXコーヒーで咽た。

扉がバン!!と大きな音を立てて閉まると、アルゴは笑い転げ、ケイタはひぃぃぃと言いながらこちらへ退散してきた。

おそらく着替えてるところだったんだろうな。

嗚呼……平穏は一瞬で終わった…………

 

 

 

 

「誠に申し訳ございませんでした」

 

DO・GE・ZA☆な姿勢のケイタと、

 

「ニャハハー悪かったナ」

 

笑うアルゴと、

 

「「…………」」

 

ジトッと2人を睨むサチと細剣使い。

細剣使いの女はフードを纏ってはおらず、サチの服を借りている状態だ。

美人の部類に入る女性で、栗色の長髪が目を引く。

 

「2人とも反省した?」

 

「はい、すいませんでした」

 

「悪かったっテ」

 

土下座を続けるケイタに、相変わらず笑顔のアルゴだが、反省の色が(アルゴの方は薄いが)見られるのでサチは細剣使いへと向き直る。

 

「すみません、こういっているので許してあげてください。えっと」

 

「アスナと言います。今回のことは不問としますけど、次回は容赦しませんから」

 

「本当にすみませんアスナさん」

 

何故かサチが謝る。

しかし細剣使いことアスナとやらは、腕を組んでの仁王立ちを止めて腰に手を当てて、呆れの仕草を見せた。

俺はアスナに聞きたかったことを聞く。

 

「何であんなフィールドで気絶したんだ?」

 

「…………」

 

「攻撃されたといった感じじゃなかったし、プレイヤーによる意図的な睡眠状態でもなさそうだった」

 

アスナは黙り込んでいたが、諦めたように口を開いた。

 

「思い当たるのは休息不足しかないわね」

 

「取っていた休息は?」

 

「モンスターの出現しない場所で仮眠して…………食事もしてないわね」

 

「何でそんなことをしていた?」

 

この世界でも現実世界であった欲のようなものはいくつかある。

食欲はあるし睡眠欲も、果てには性欲だってある。

それを疎かにすればどうなるか、知っているだろうに。

 

「私は、早くここ(SAO)から出たい。だから休んでいる暇なんてないの」

 

「だからと言ってアンタだけが努力したところで意味なんてないんだ。プレイヤーのレベルが上がるまで待つほかないんだ」

 

「レベルが高かったら、能力も上がって、戦闘に必要な時間だって少なくなるわ。攻撃なんて、当たらなければ問題ないもの」

 

「俺と同じ考えか。だったらアンタが倒れるまで磨いたその技術とやらを見せてくれよ」

 

俺は、アスナに、初撃決着モードでの、対戦を申請した。

この行動し、黒猫団の皆がそれぞれ動きを見せる。

 

「おいジン何してんだよ!対戦挑むとかよ!!」

 

「ずっと籠りっ放しの相手に勝てるわけねぇよ!!」

 

「ジンの戦いって見たことなかったな。頑張ってね!!」

 

「ちょっとユウキ!!」

 

「お前ら落ち着け。で、受けるのか?」

 

俺は席を立って問う。

するとアスナは、

 

「いいでしょう。けど、場所を変えましょう」

 

「そうかい。じゃ、ホーム前の広場でいいな?」

 

俺とアスナの対戦が決定した。

観客のいない、技量を確かめるだけの、技術を証明し合う対戦が、始まろうとしていた。




アスナさんとの邂逅。

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