サチが内職への転職を決めた翌日、サチは黒猫団の皆を集め自分は内職に変えたいといった。
皆は最初、サチの変わりっぷりに驚いていたがサチ話に納得したのかあっさりのサチの転職をOKした。
「サチ、お前変わったな。たった一晩の内に何があった?」
「ジンに言われたの。『自分に自信を持て』って」
「成程な」
「ま、とりあえずサチのスキル練度UPの為にも素材集め頑張るぞー!!」
「「「「おー!!」」」」
ケイタのその掛け声と共にギルドホームを飛び出した。ちなみにサチは「掃除して待ってる」だそうだ。
そして時と所変わって樹海深部エリア。ここには猪や蜂型のモンスター以外にも狼型や蛇、バビルサ、熊、獅子などの猛獣型モンスターも出てくる。
そこでは何度も剣閃が煌めき、剣技の鍛錬に勤しむ少年少女の姿があった。
「それ!!」
「ケイタ!!そこはもう少し離れてからスキルを使え!!」
「うおおおおお!!」
「テツオ!!前に出過ぎだ!!」
「ねーボクは?」
「ユウキの剣技は凄すぎて注意すべきところが無いからよしだ」
昨日よりも格段に強いバビルサを相手にしながらこんな風に会話ができる程度にはレベルにも精神にも余裕ができた。
そしてササマルが少し前に習得した槍上位スキル『ライトニング・ピアース』を発動し、バビルサを倒した。
『ライトニング・ピアース』は単発技だが10mもの距離を一瞬にして突き詰め貫くスキルだ。攻撃力と効果が魅力的だが発動するまでの時間が少し長いのと、武器の耐久値の消耗が激しいのが欠点だ。
「ふむ、少し休憩としようか」
途端、「ふぃー疲れた」や「もう、ダメだ…………」などと言って倒れこむ。
まだ3時間しかやっていないのだが、これではノルマを達成できそうにない。
…………仕方ない、もう少しペースを上げるか。
これを皆に伝えると「なん……だと…………!?」と言って絶望する姿があった。ただ1人を除いて。
「ひーまーだよー!!」
「仕方ない。ユウキ、少し離れた場所に蜂の巣がある。やるか?」
「やろうやろう!!」
フンス!!とやる気十分な様子で蜂の巣へと突っ込んで行っては…………
「たっだいまー」
無傷で帰ってくるのだからメンバーは驚愕し、絶望した。まさにorzな体勢になっていた。
ちなみに戦果の順は俺、ユウキ、同率でササマルとケイタ、そしてテツオ。まあテツオは防御よりなステータスなので仕方ないのだが。
そうだ。
「今日のノルマを手っ取り早く得る方法があるがどうする?」
「どんな方法だ?」
「モンスターの巣を見つけ次第突っ込んで撃滅する方法だがやるか?このままじゃ夜になっても帰れないが」
「くっ、仕方ない。皆もそれでいいな?」
「「ウィーッス」」「OKだよ!!」
方針を1分1体討伐から1撃多討へと変更した。
そして予定時間前にノルマが達成できたがケイタ達男共は目が死んだ状態で、ユウキは達成感に満ち満ちたホクホク顔で帰ってきた。
「ふむ、まだ少し足りないな。明日はもう少しノルマを上げるか」
「イェーイ!!」
「「「…………」」」
俺がそう零すとユウキは歓声を上げ、男共は黙って涙を流した。
「おかえりなさ…………ど、どうしたの!?」
ギルドホームにてサチが出迎えるが男共の姿を見てギョッとする。確かに今のコイツらは幽霊のようだがその反応はないんじゃなかろうか。
椅子に座るなり机に突っ伏す男共はとりあえずサチに戦果を渡す。
薬草や茸などのポーションの材料からバビルサの皮や狼の鬣(たてがみ)などの防具の材料、そして蛇の肉や熊の肉などの食材まで全て揃えてきたのだ。
「とりあえず裁縫スキルの防具作成に必要な素材は十分にあるはずだ」
「わかった。皆は休んでてね」
サチは素材をストレージに入れると別の部屋へと移動していった。
後に残ったのは疲れ果てた男達と元気なままのユウキと俺であり、男達は明日への絶望に打ちひしがれていた。
で、結果
『獅子の鎧』×1
『蛇皮のチョーカー』×2
『バビルサの手甲』×2
『餓狼の靴』×3
以上8点。
「ご、ごめんね?」
「何、謝る必要はない。初回でこれだけ作れたんだ。上出来な方さ」
この結果を見た黒猫団男子は机に顔をぶつける。涙を流しながら。
恐らくもっといい結果を期待していたのだろう。馬鹿だな。スキル練度0でそんないい結果が出るわけないじゃないか。
「スキル練度は何%上がった?」
「ええっと、3%」
「3%だと!?凄いじゃないか!!」
「ジン、頭おかしくなったの!?たった3%だよ!?」
「ユウキ、お前何も分かっちゃいないな」
スキルのカンスト値は100%、今回の成果は3%。つまりこれを33回繰り返せばカンストするのだ。そしてこれからはレベルも上がっていきモンスターを狩る時間も成果も早く多くなっていくだろう。
今のままでも1ヶ月だが成長していくことを考えると大体2週間ほどでカンストできる計算になる。
裁縫スキルカンスト状態で装備を作ると運が良ければその装備のまま5層は変えずに使い続けられる装備だって作れるらしい。
これを黒猫団に説明するとユウキはもちろん、さっきまで死んでいた男共も復活した。
「っしゃぁ!!皆、これからどんどんペース上げていこうぜ!!」
「「「「「おおー!!」」」」」
多分このペースなら恐らく1週間でカンストするだろうな。
あれから俺達は何度も何度もモンスターを狩りに行っては多大なる戦果(裁縫素材)とレベルを得て帰って、翌日また狩りに行って…………というのを繰り返し、今日で17日目を迎えた。
俺とユウキ以外のメンバーの目には光がなく、何を見ているのかもわからないが、俺が鍛え上げただけあってソードスキルの使い方や回避方法だけはかなり成長しているので無意識無表情でも簡単にモンスターを狩り続けている。そんな彼らの事を見たプレイヤーが街で噂したらしく、周りからは『狂気を纏った黒猫』、『無慈悲な黒猫』などと呼ばれるようになった。
「よし、今日の分の成果はここまでだ。日も暮れてきたし帰るぞ」
「は~い!!」
「お、終わった…………のか」
「辛く厳しい日々だったな」
「腹減ったな」
「早く帰るぞ」
俺の言葉は彼らの瞳に光を戻した。最初の頃と違ってレベルも上がり、戦い方もうまくなってきたので体力的にも精神的にも余裕が見える。いつもならここで「まだ続けるぞ」という所だが今日はサチの裁縫スキルが(恐らく)100%、カンストするであろう日だ。早めに上がってもいいだろう。
今日の戦果も初日の倍量、成長していることがはっきり分かる。
現在俺達のレベル以上のレベルのプレイヤーを聞いたことはないため、恐らく俺達がレベルトップのギルドになったのだ。
「やった!!遂に裁縫スキルがカンストしたよ!!」
カンストした状態での結果
『猛獣の鎧』×5
『牙獣の冠』×1
『幸白蛇のチョーカー』×2
『熊の爪手甲』×3
以上11点。
防具の品数も増え、レアリティも増え、ステータスも上がった。
ケイタ達は防具を装備してみたり、ステータスを確認してみたりと楽しそうだ。
すると不意に肩を叩かれた。振り返ると肩を叩いた本人――――サチが俺に薄手の防具を渡してきた。
「ジンには今回の最高作品をあげる」
受け取った防具は羽のように軽く、月夜に光る星のように綺麗だった。
その防具は『月星蝶の羽衣』という名前だった。
『月星蝶』とは俺が帰り道で捕まえたあの蝶だろう。黒い羽には所々鱗粉が輝き美しく飛んでいたあの蝶だろう。
夕闇に紛れ、飛んでいたあの蝶は俺以外だれも気付かないほど見つけるのが困難だったためかかなり高いレアリティだったのを覚えている。
「ありがとう。大事に使わせてもらおう」
「うん!!」
装備して見ての感想はと言えば俺にぴったりだというくらいしかないがステータスは最早怪物というしかないステータスである。
VTR-5、AGI+10、DEX+5、隠蔽効果上昇
防御力ダウンがあるが、攻撃が当たらなければ問題ないという志向の俺にはAGI+10とDEX+5は最高の装備と言うに相応しい装備である。
「ジンにはこれだな」
向こうでは作成された防具の振り分けがされていた。
猛獣の鎧はケイタ、テツオ、ダッカーが装備し、牙獣の冠はケイタ、幸白蛇のチョーカーは俺、熊の爪手甲はダッカーとササマル、余った装備はオークションにかけられることとなった。第一階層でこれだけのステータスを持っている装備は他に見たことがないのでかなりの高額で取引されるだろう。
渡された純白のチョーカーにはステータスアップはないが付属効果として特殊なものを見つけた。
状態異常成功率、状態異常効果上昇の2つだ。
状態異常、つまり毒、睡眠、麻痺、盲目、幻覚、出血の6つだ。これの成功確率と効果の上昇は短剣を使う俺には嬉しい効果だ。
短剣は基本ダメージが少ない分、状態異常攻撃やその他効果でダメージの少なさをカバーしているのだ。
これはもし毒塗布短剣での場合、成功確率が上がり、毒によるダメージも大きくなるということだ。
「サチ、おめでとう。そしてありがとう」
「「「「「ありがとう」」」」」
「皆…………私こそありがとう!」
こうして俺達は攻略組の仲間入りを果たすことができたのだ。