ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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ラフコフ掃討作戦、開始

現在時刻0500。

朝日の眩しいはずのこの時間でも周囲に立ち込める濃霧はそんな光さえもを遮り薄暗い空間を作り出す。

風も無い。そよ風も無い。

葉擦れの音も聞こえず、あるのは鳥の鳴き声を水の音。

 

しかし周囲には無数の討伐隊が潜む。

大きな円を描くように、1m感覚である一点を囲んでいる。

その中心にあるのは廃墟と化した建物の群れ。ゴーストタウン。

そのこそが今回の討伐目標、ラフィン・コフィンのアジトだ。

 

 

 

 

 

 

「作戦を説明する!」

 

数時間前。血盟騎士団のミーティングルーム内。

壁に張り出された紙を指差しながらヒースクリフは今回の作戦の内容を説明しはじめた。

 

「まず、私率いるタンク部隊が包囲網を徐々に狭めていく」

 

「次に俺率いる近接精鋭部隊が肉薄する」

 

キリトが紙を指でなぞり動きを指示する。

 

「俺達風林火山はタンク部隊と雑魚の掃討だったな」

 

「そして俺達聖竜連合は精鋭部隊と挟撃を行う」

 

クライン、ディアベルの両名が各々の役割を口に出す。

場は緊張感で張りつめた空気を作り出す。

 

「では!これより、ラフィン・コフィン掃討作戦を開始する!!」

 

 

 

 

 

 

作戦通り、ヒースクリフとその元にあるタンク達は徐々にアジトへの距離を詰めていく。

ジリジリ、ジリジリと。

だが、アジトから敵が姿を現す気配は無い。

まだ気付いていないのか?

そう思った時。

 

「敵襲!!背後から敵襲!!」

 

キリトの声が張りつめた空気の中、響き渡る。

振り返ると後ろから多数の敵影がこちらに突進してくる姿を捉える事が出来た。

やはり!!

 

「作戦の内容が、漏れてやがったんだ!!」

 

聖竜連合と黒猫団、そして風林火山が反転し、背後の敵を迎え撃った。

それに気付き、タンク部隊もまた振り返り襲撃の現場へと駆けようとしたその時だった。

廃墟の窓から白刃が一斉に放たれる。

振り返るのが遅かったのが幸いし、放たれた投剣の大半はタンク部隊の盾と剣に弾かれる。

だが打ち落とし切れなかった投剣がタンク部隊を襲う。

 

「ぐっ、あ」

 

投剣をくらった者たちは、次々とその麻痺毒に浸食され倒れこんでいくが、毒を免れたタンク部隊の者が消痺結晶を使い麻痺を解除していく。

状態異常になる可能性が高かったタンク部隊には、解毒、消痺、回復結晶を渡してあった。

それにより、崩壊しかけた戦線はすぐに立て直しを可能とした。

 

「タンク部隊は廃墟内の投剣部隊の攻撃の妨害に専念せよ!!」

 

ヒースクリフは飛来する投剣を次々に切り落とし、部隊に指示を出す。

部隊は盾を構え頭上をかすめる投剣の全てを切り落とすべく剣を振りかざした。

臨機応変な対応だ。

状況は筋書通りに進んでいる。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

廃墟の窓からポリゴンの欠片が噴き出した。

そして立て続けにその両隣の窓からも、更にはその一つ上の階の窓からもポリゴンの光が溢れだした。

仲間が次々とやられていくことに驚いたのか、投剣部隊の攻撃が止んだ。

それを見逃すことなくヒースクリフは指示を出した。

 

「総員、反転!!背後に進行せよ!!」

 

タンク部隊を反転させ、すぐさま背後の奇襲部隊の殲滅に向かう。

タンク部隊の反転に投剣部隊が気付く頃には、俺達暗殺部隊はその全てを殲滅していた。

 

「読み通りだ。よし、俺達も奇襲部隊の背後に回る!回廊結晶展開!!」

 

手に持っていた回廊結晶を展開し、あらわれた転移口に飛び込む。

 

 

 

 

 

 

時刻0430。

俺はヒースクリフに内密で話したいことがあると個室で会話の場を設けた。

 

「それで、話したいことというのは何かね?」

 

「今回の作戦。恐らく情報は漏れている」

 

だから、その裏をかく。

 

「皆には作戦通りに動いてもらう。ただ、俺達は仮称『暗殺部隊』として、独自に行動する」

 

「具体的には、どう動くのかね?」

 

「それは言えない。アンタが裏切者でない保証が無いからな」

 

「フッ、よかろう。我々は、予定通りに動く」

 

 

 

 

 

 

敵の背後に設定していた回廊結晶の行き先。

飛び出すとその先には奇襲によって混戦となった濃霧の森。

しかし、俺達と奇襲部隊の間に、ラフコフが誇る3大トップが行く手を阻むように立っていた。

左に立つのは毒ナイフ使い、ジョニー・ブラック。黒い目出し帽でその素顔は見えない。

右に立つのはエストック使い、赤眼のザザ。髑髏の仮面の瞳は赤く輝き、視覚的恐怖を与える。

そしてその中央に立つ男。

ボロポンチョに身を包み、その手に持っているのは大型の中華包丁型ダガー<友切包丁>を携える。手の甲には笑う棺桶の刻印、その顔には小さ目な刺青。PKギルド最大手、そのトップに君臨する虐殺の王。

Pohだ。

俺達が背後に回り込むことは敵に筒抜けだったらしい。

だがそれを前提に組んだ作戦だ。あの乱闘にこいつらが参加し、死者を出される可能性が高められてしまうよりかは、俺達の行動を筒抜けにさせて、引き寄せるほうが最善であるというもの。

 

「来ると思ってたぜェ!!」

 

「作戦、が、安直、過ぎる」

 

「さっさとやっちまいましょうぜ!!」

 

余裕綽々と言ったところだ。

確かに、厄介な状況には違いないわけだ。

こちらは4人であちらは3人。これだけ見れば有利に聞こえるかもしれない。

だが、あちらは殺人のプロ集団の、そのトップ3人である。

対して俺達は暗殺のプロ集団の、そのトップ4人。

正面対決ではこちらの圧倒的不利は明白。

こちらが数で勝っていても、あちらには戦術と地の理がある。

ここで俺達にできる最前は目の前の敵を倒すことだが、戦力的にそれは望めない。

よって今俺達にできる最善は、キリトやヒースクリフの加勢を待って耐え忍ぶことだ。

だが、少し位カッコつけたっていいだろう。

 

「なあヒリュウ、モーフィー、ペンドラゴン」

 

ニッと歯を見せ笑う。

 

「別に、アレを倒してしまっても構わないのだろう?」

 

この世界に弓兵は存在しない。

そんなことは大した問題ではない。

戦うか、戦わないか。そしてその戦いにかける思いの大きな方が、勝利を挙げる。

快楽殺人を楽しむ彼らが勝つか。

生き残る為に戦う俺達が勝つか。

 

「ho-……中々な余裕だなァ」

 

「どうせ、見せ掛け、だけの、勇気、だ」

 

「んなことどーでもいいっしょ?楽しんだモン勝ちってな!」

 

殺人を楽しむ感覚は、俺には理解できない。

おれがPKKである理由は、罪無き人々を助ける為、自らへの救済である為。

この手に残る命を切り裂く重さ、感覚。それは生涯忘れることのできない傷となって俺を蝕み続けるだろう。

だが、そんな俺でも、まだ生きている。

死んでなるものか。

 

「いいか、俺達はお前らに勝とうとは思わん」

 

「ジンさん!?」

 

「だが!!俺達はお前らには殺されない!!」

 

俺達の心得は一つ。

 

「勝たなくてもいい。だが死ぬな!!」

 

死して得る勝利に価値は無い。死は終わりを意味する。

敗北から学ぶこともある。そうやって、俺は地に落ちて、今再び立ち上がる足を手に入れた。

自らには失望しきった。落ちる所まで落ちた。これ以上落ちることは無い。

底辺であるが故に目指す場所は上しかない。

迷うことなど無い。道は一つしかない。

 

「了解です」

 

「了解しました」

 

「了解」

 

死ぬ覚悟はある。それはこの戦いに参加した全ての者が持っている。

だが死ぬ者を出さぬために俺達はこうして戦っている。これは正解ではないのだろう。

言葉が通じないから、話しすらできないから、己が持つ武力で捻じ伏せ従わせる。

こうして世界各国で戦争は起きる。

けれどもそんな中で、誰かが言っていた。

 

『戦争は、会話、交渉の延長線上でしかない』と。

 

ならば俺達が行っているこれは、交渉や会話だろうか。

答えはない。いつだって、勝者が正解なのだ。

未来こそが、正解なんだ。

 

「それがテメェの指示か。いいぜェ。なら俺はこう指示を出す。一人残らず殺し尽くせ!!」

 

「承知、した」

 

「その言葉を待ってたんだぜ!!」

 

両者共に、武器を抜く。

短剣を構える。

刀を握り、居合の構えに入る。

両手剣を振りかざす。

片手剣を逆手に持つ。

 

「今、ここにラフコフ掃討作戦、最終段階への突入を宣言する!!全員突撃!!!」

 

濃霧の森に、漸く光が淡く照らし始める頃に、最終決戦は始まった。


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