ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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発見せし悪の巣

蒼白い光は一瞬で俺達を包み込むと、周囲の足音や怒号、景色さえも消し去り、まったく別の場所へと吐き出した。

そこには先に転移したキリトとシリカの姿だけでなく、泣きじゃくるシリカを見に来たのであろうか、野次馬が俺達を囲んでいた。

 

「一体何があったん―――――どういうことだ?」

 

人ごみを掻き分けてこちらに駆け寄ってきたのはディアベルと臣下キバオウ。

ディアベルの表情は怒りに染まっていたのだが、俺達を目視するとその表情は怪訝そうなものへと一転する。

 

「一先ず場所を移動しよう」

 

「………!分かった。何か事情があることは理解した。手を貸そう」

 

俺をしばらく凝視していたが、HPゲージに気付いたのか表情を険しい物へと変えて手を差し伸べてきた。

それは俺のHPバーに表示されたアイコンの一つ、麻痺の影響で動けないからだ。

それ以外にも、猛毒と出血を併発しているが、ここは圏内なのでHPの減少は無い。

リジェネの効果も切れ、HPはあと10きっかり。数秒でも転移が遅れていたら死んでいただろう。正に危機一髪。

けれど俺が庇い守りきった二人が俺の下から這い出ると、ユウキが右の肩を。アスナが左を持とうとするが、それより先にキリトが肩を持つ。筋力値としても、アスナでは不安要素があった。まあ軽装な俺ならアスナでも肩を持つくらいはできるのだろうけれども、こういうのは男の仕事と相場が決まっているのだ。

 

 

 

 

 

その後、場所を移した俺達は事の顛末をディアベルとキバオウと、ディアベルの信頼する上級幹部に話した。

シリカは精神的に疲れたのか聖竜連合の医務室ベッドで眠ってしまっている。

黒猫団の皆も疲れたのかホームに帰ったが、俺とキリト、アスナとユウキは少し残り、ディアベルと話し合っていた。

 

「恐らくだが、ラフコフが雑魚PKギルドを支援しているんだと思う」

 

「俺もそれに関しては同意見だ」

 

ロザリア達が捕まった直後に襲撃。偶然とは考えにくい。

もしかしたら、ロザリア達を餌として俺達をおびき寄せようとしたのか。などとも考えられる。

アスナも精神的にやられてはいそうだが、他の皆よりも打たれ強いのか普通に会話できている。

 

「ラフコフの人数からしても、明らかに偶然じゃないわ」

 

そう。明らかに仕組まれたこと。

道を挟む木々全てに毒ナイフ投擲部隊がおり、俺達を囲むように近接戦闘部隊が配置されていた。

全ては敵の手の中だったが、死者を一人も出さずに戦闘離脱できたのは誠に幸運であったと思う。

 

「………やはり他の所と協力して、掃討作戦を行うしかないのか」

 

顎に手を当て考え込むディアベル。

この状況ではいち早く元凶のラフコフを討伐しなければPK撲滅は難しい。

けれども敵の本拠地すら分かっていないのに、どうすればそんな作戦が結構できるだろうか?

 

「その点は安心してくれ」

 

「何?」

 

「僕達聖竜連合は各階層に支部を作ってあるのは知っているね?ここに来る途中で報告があってね。黒衣の集団が7階層の幽魔の霧谷に向かっていくのを確認したとのことだ」

 

幽魔の霧谷は、7階層にしては高レベルな敵と、視界を阻む濃霧。それ以上にマッピング不可というエリアで攻略困難と言われている。出現するモンスターも様々な状態異常系モンスターばかり。

盲点だった。だが、最も可能性の高い場所だった。

マッピング不可ということもあってあの場所にどんなものがあるのかは正確に把握されていない。

マッピング不可範囲が広く、7階層の3分の1も占めている。

そのエリア内に安全エリアがあっても不思議は無い。それどころか小規模な村があってもおかしくは無い。そこで工房でもあれば、周囲は毒素材の宝箱。素材にも金にも困らない。

 

「腕にもラフコフの刻印がある者がいたと報告されている。ほぼ確定的だろう」

 

だが……今日はここまでだとディアベルは話を打ち切る。

席を立つと扉を開き

 

「君達は疲れている筈だ。俺は今から他の有力ギルドに声をかけてくる。今日は休んで明日、会議をしようじゃないか」

 

ディアベルの言うことは最もだった。

俺も精神的に疲れている。その疲労感は隠し切れるものではないが、他の者もまた同様だ。

こんな状態ではまともな作戦を立てられる訳がない。

作戦は完璧でなければいけない。少しのミスも許されない。

だから俺は、ディアベルのこの提案に乗った。

 

「分かった。こんな状態じゃまともな作戦にならなさそうだ」

 

「ボクはまだ大丈夫なのに………」

 

「ユウキ、無理すんな」

 

ユウキを宥めると俺達は聖竜連合の本部から出る。

ディアベル達は態々護衛隊まで付け、黒猫団ホーム前まで送ってくれたが余計なお世話だと伝言を頼み、ホームの扉を開いた。

 

「ただいま」

 

「たっだいまー!!」

 

「!!大丈夫だったの!?」

 

ホームの扉を開き中に入るや否や、サチが抱き着いてきた。

突然のことに困惑していると、先に戻っていた皆が呆れた表情でサチを見ていた。

 

「ったく、俺達と戻ってきたんだ。大丈夫に決まってるだろ?」

 

「サチは心配性だなぁ」

 

「だって……私とホタルさんは留守番してたから………」

 

そうか。事態を正しく理解できている訳じゃないからこその不安感。

PKの代名詞ともいえるギルド、ラフコフに襲われたと聞けば例え無事だと聞かされても不安になるだろう。特にそれが、このパーティー唯一の女子の友達であるユウキであったら。

………辛かっただろう。

そんな騒ぎを聞きつけたのか奥から目をクシクシと擦りながら寝ぼけ眼のホタルが姿を現した。

 

「………えっ、どういう状況?」

 

……………お前はいつも通りマイペースだなおい。

いやまあ夜更かしして今の今まで寝ていたのならそりゃあ気付かないわなと思うが少しは心配しやがれ、そして空気よみやがれこのマヌケ。

 

「………ともかく今は早く飯食って明日に備えよう」

 

「だねぇ」

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

事の顛末を食事しながらホタルに話す。

へぇ~大変だったねぇ~で済まされた時はさすがに心にグサリときた。

が、そんなことも言ってられなくなる。

キリトの元にディアベルからのメッセージ。

会議の時刻をお知らせするものだ。

 

『黒猫団の皆さん。

 前もって言っておきますが、参加は強制ではありません。意志のある者のみ参加ください。

 会議の場所は血盟騎士団本部。集合時間は0830に決定いたしました。

 遅れる場合はご連絡ください。』

 

現在時刻は0730。あと一時間後には集合だ。

それまでにこちらも準備しなければならない。

一先ず、参加不参加の確認を取る。

 

「さて、先に聞くが。会議には誰が参加する?俺は参加だ」

 

「ボクは参加だよ!」

 

「俺もだ」

 

「私も参加よ」

 

参加するのは俺、ユウキ、キリト、アスナ、ケイタ、ダッカー、テツオの7名。

ホタルとサチは非戦闘職だが、ササマルも不参加だ。

けれども誰も咎めない。

ヴァーチャルでも殺人を犯すことに変わりは無い。殺人は無いことがベストだが、捕獲する暇は無いだろう。

自分が手を抜けば相手に殺られる。

それは一瞬だ。

それだけの覚悟がある者のみが参加するこの掃討戦。

この7名の覚悟に敬意と感謝を。

 

「分かった。参加者は出発の準備だ。髪形、武器、香水……調整したいやつはしとけよー」

 

俺は風呂に入ると宣言して食器を片して風呂場に向かう。

それを見た残りの男衆は、先を越された!待ちやがれ!!とのたまっている。

俊敏の鬼である俺に速度で敵う訳が無かろうと、衣服を全解除し風呂場へと突入した。

ここで俺は俊敏ステータスの無駄遣いをする。

俊敏MAXで髪を洗い、体を洗い、泡を流して風呂に浸かる。その間僅か3分。長いか。

ちゃぷん…と湯船の表面に波紋が生まれる。

現実世界の風呂の方が暖かさが染み渡る感覚がより鮮明だが、この際文句は言ってられない。

 

「…いーち、にーいぃ、さぁーん………」

 

しかしここだけは譲れない。

湯船に浸かって100数えるまでは肩まで入る。

風呂が覚めないという点についてはこちらの世界で良かったと思えるのだが、風呂に浸かったところで現実世界の肉体の免疫が強くなる訳でも無い。無意味であってもそれが必要なんだ。この世界で無意識に野菜を口にしているのと同じことだ。

しかしダダダダという大きな足音がこちらに近付いてくる。平穏はここまでか……

がららっと大きな音を立てて扉が乱暴に開かれる。

 

「裸の付き合いってやつだぁ!!」

 

「時間ねぇ上に狭ぇんだよ!!はよ出ろ!」

 

「じゅーはち、じゅーきゅー、にじゅー」

 

うるせぇやつらだ。なおこの場でだっちゃとか言い出せば全員が感電死である。いや圏内だから死にはしないだろうけど。

数えている数字が今いくつかも良く分からなくなってきて、呪詛を吐き出すかのように、無心で唱えるお経のようにただただ脳内を空にして数を数え続ける。

30………60………75………43………?今いくつだ?最初からだな。

22………44………88………100。

ジャバァと体の表面のお湯が湯船へと滴っていく。

ふらりふらりと酒飲みのような千鳥足で風呂場から脱出する。

と、不意にくらりと眩暈がした。何故かこういう所の作りが細かい。こういうところに手間かけるなら料理に手間かけろやと思うのだが。

 

「火照った体に風が気持ちいい………」

 

扇風機からの送風が火照った体を冷却してくれる。こういう爽快感は嬉しい。

ささっと水滴をタオルで拭うと服を着て歯磨きに取り掛かる。

と、ここで扉越しに女子の抗議の声。

 

「ちょっとー!女子の方が時間かかるのよー!早く出なさい!」

 

「ボクもお風呂入りたいのにー!」

 

おうふ、俺が原因であるがこの女子の圧力にはできれば遭遇したくは無い。

しかし最初に風呂から出たのは俺なのだ。

会議前の前哨戦と思えば!!

 

「すまなかった。もう少し待ってやってくれ」

 

俺は意を決して扉を開いて開口一番謝罪する。

二人はびっくりしたものの、俺の様子を見て反省してると考えたのか特に文句は言ってこなかった。

 

「はぁ、今回は食事前に言わなかった私達にも非はあるわけだし、不問とします」

 

「仕方ないね………皆ー早くしてよー!」

 

ガララッ

 

「はー、良い湯だった―――――」

 

このタイミングで出てくるなよ馬鹿野郎。

ダッカーはユウキの発言の通りに皆より早く風呂場から出てきた。

しかしながら今風呂場前の着替え部屋と廊下の扉は開かれている。

当然風呂に入る時に服を着て入るようには教わっていない。

つまりダッカーは全裸で出てきてしまったのだ。

 

「ひっ」

 

絶叫3秒前のアスナ。

 

「おー結構筋肉してるねー」

 

少し顔を赤らめつつもその筋肉に興味を示すユウキ。

そして―――――

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

女子のように叫ぶダッカー。

自分を抱くように腕を交差して自身の胸を隠すが、筋肉のあるイケメンに分類される男がそんな恰好したところで気持ち悪いだけである。

ダッカーの悲鳴に驚いて悲鳴を上げることすらできなくなってしまったアスナは硬直している。

ここは俺が制裁を下そう。

 

「このド変態が!!」

 

俺はダッカーの股の間目掛けて足を思い切り蹴り上げた。


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