ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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二連投稿です
正直展開を上手くかけなくて内容グダグダです、すいません


解散宣言と気絶

俺が望むのは救済。

現実世界からの。

仮想世界からの。

過去からの。

現在からの。

未来からの。

『救済』

 

 

 

 

 

 

この世界での正しい意味での神とは、茅場明彦である。

しかし彼にさえ叶えてもらえない願い。

全てからの救済。

敵わないと知っていても、願ってしまう。

現実世界に帰ったとして、彼らが約束を守る保証は無い。

この世界で生き残れる保証は無い。

この世界での関係が、現実世界でも続く保証は無い。

だから俺は動く。

未来をより確定的なものにするために。

 

 

 

 

 

 

「救済……だと?」

 

「ああそうだ。君が、俺が望む救済を齎すことはできない」

 

理解されてすらない相手に、叶えられる物ではない。

もし理解できていたとしても、叶えられる可能性は低い。

ディアベルが一歩前に出て、問う。

 

「それは、何からのだい?この世界からかい?それとももっと別の――――」

 

「全てさ。仮想世界(ここ)も、現実(あちら)も。生きる恐怖も、死ぬ恐怖も。全てから」

 

「じゃぁ何でPKKなんてやってるんだよ!?」

 

まだ理解できてないのか。若いのは勢いはいいが理解がなくていかんな。

 

「俺はこの世界で生き残りたい。現実でも、最底辺の生活から抜け出したい。

 そのために戦い、生き抜いている。

 けれども死ぬのは怖い。死ぬ危険のある戦闘なんてまっぴらごめんだ。

 もし死が俺への救済だったとしたらそれへの恐怖は無意味だし、

 ここでの戦果次第では報酬の上乗せがあるんだとしたら、おれは勇んで先陣を切る。

 死んでも、生還しても、救済だとおもえる。

 そんな自分であるために、俺は戦う」

 

そして

 

「この世界には俺以外にも、きっと、救済を求める者がいる。

 その人々を殺めようとする敵がいるなら、俺は救済の手を差し伸べるべく、悪と戦う。

 正直、正義だの悪だのはどうでもいいんだ。

 助けを求める人がいる。犠牲が出たなら容赦は無い。

 これは俺自身への救済でもある。

 だから、邪魔をするな。人を導く役割を担うお前らを俺は………殺せない」

 

…………もし、こいつらが先導者としての役割を投げた時、俺はこいつらを手にかけることが、果たしてできるのだろうか?

キリト、ディアベル。そんな哀しそうな目をするな。

お前らは笑え。

笑顔で皆を導いて行け。

闇を背負うのは、俺だけで十分だ。

 

「待て!!待ってくれ!!お前は!お前はそれでいいのか!?」

 

キリトの問いには答えない。

良いか、悪いか。

それを決める為に俺はこうして動いている。

 

 

 

 

 

 

クリスマスが終わると、人々の思考は年末と新年へと傾き始める。

ゲームの中で新年を迎えるなど、考えたこともなかったが、いざ前にすると、何の違和感もなかったりするから面白い。

人々は、新年を一つの区切りとして見る節があり、俺達もまたそれにならって今年を一つの区切りとすることとした。

 

「皆、掃除しながらでいい。聞いてくれ」

 

俺達は新年に向けて、部屋の掃除を――――とはいっても埃が積もったりはしないので、物を動かしたり気分を味わうだけなのだが―――していた。

こんな状況だからこそ、日常通りに過ごしたいのかもしれないが。

皆は一度手を止めたが、ながら聞きで結構だと言う俺の言葉に止めた手を再び動かし始めるのを見て、俺は口を開いた。

 

「今年で俺達shadowを事実上解散しようと思う」

 

ガシャンと、何かの砕ける音がした。

見るとカガミが整理するためか手に持っていたのであろう皿を落とし、硬直していた。

 

「事実上とは、どういうことですか?」

 

ヒリュウの質問に、俺は目を閉じて答える。

 

「解散とは言うが、ギルド自体は解散しないし、解散した何て世間に報告する気も無い」

 

では、どういう?という問いが、間髪入れずに入る。

普段ならば冷静なヒリュウではあるが、やはりどこか動揺しているのだろう。

 

「俺達は、ここに集まらず、ソロとしての、あるいは援助や補佐として、PKKと言う情報は伏せて生活する。いわば一般的なプレイヤーのフリをして生活するということだ」

 

無論だが、PKが増えてくれば活動を再開する。

しかし、PK自体が少なくなってきた今だからこそ、活動する姿が無くとも抑制効果程度にはなる。そう考え、今の発言に至った訳だ。

皆はしばしの間無言だった。

やはり言うべきではなかったか、などと考えていると、ガルドが手を上げた。

 

「俺は、賛成する」

 

「私もです。きっと、今だからこそできることだと思うんです」

 

「僕もです」

 

次々と賛成の手が挙がっていく中で、唯一。

 

「アタシは反対」

 

唯一の反対意見は、ホタルだった。

この中で最も最近入ってきたホタルだが彼女の技量ならば引く手数多だろうに、何故このギルドに拘るのだろうか?

俺にはそこが分からなかった。

 

「アタシはここで好きなようにできるって言われたからここにいるの。勝手に解散されたってアタシが困るんだけど」

 

「そうか。なら俺に付いてきな。俺が何とかする。これでどうだ?」

 

「ん。ならいい」

 

思いのほかあっさり折れた彼女に呆気にとられたが、まあこれで反対意見は全てなくなった訳だ。

まぁそんなこんなで事実上の解散が決定した。

こんなグダグダでいいのだろうか?

 

「ねぇジン?こんなグダグダでよかったの?」

 

「……言うな。俺もそう思ってたんだから」

 

同じことをユウキが思っていたと言うことを喜んだ反面、やはりそこ気になってしまうかという残念感が内心をせめぎ合っていた。

というか。

 

「お前はサボってないで掃除しやがれぇぇぇ!!」

 

「うわーっ!?髪ぐしゃぐしゃにしないでよ!!まったく……」

 

ふくれっ面で抗議してくる。しかし何故か少し嬉しそうだ。

が、俺は髪を手櫛で整えるユウキの手を掴む。

 

「手櫛はダメ!ちゃんと櫛で梳きなさい」

 

「ええー。別にいいじゃん!」

 

「よくありません!いいか?ユウキはまだまだ女の子なんだ。髪のことも、掃除のこともだが、今のうちに花嫁修業とでも思ってしときなさい」

 

ユウキは興味のあることには一直線に進むが、興味の無いことに関してはめんどくさがりな性格もあって全く関心を示さない。

しかしだ。

仲間贔屓目でみているからかもしれないが、ユウキは美少女に部類される。

……少なくとも、俺の中では。

きっと磨けばもっと素晴らしい女性になれる。

ユウキのことだ。将来は働く女性にはならないだろう。献身的………かどうかはさておき、夫を支えるべく家事を熟すタイプだ。

だから俺がこうしてユウキに女性としての身の周りを教えているのだが………

どうにも子供な部分が抜けないのか、こういったことを覚えようとしないのが俺の手を焼かせていた。

 

「花嫁修業って、ボクはまだそんなことしなくっても大丈夫だもん!!」

 

「そんなことだと、俺みたいになるぞ?もっと素敵なお嫁さんになって、俺を感動させてくれよ」

 

「お、おおおお嫁さん!?なななな何言ってるのジン!?」

 

「どうどう、落ち着け」

 

「馬じゃないし!!」

 

狼狽したり憤慨したり、クルクルと回る水車のように次から次へと表情が変わるのもまたユウキの魅力だと思う。

そんなユウキの姿は、見ていてとても愛らしい。

 

「とりあえず座りなさい」

 

「はぁーい」

 

今回はすんなり座ってくれた。

ストレージから櫛を取り出すと座ったユウキの髪を梳いていく。

まあこの世界で髪を梳く必要は無いのだが、習慣付けるという意味でこうして髪を梳いてやっている。

 

「ね、ねぇ……ジン?」

 

「ん?どした?」

 

丁寧に髪を櫛(現実に戻っても髪を梳くことを前提にしたので現実の実物と違和感の無さそうなありふれたもの)で梳きながらユウキの言葉に受け答えする。

 

「ジンはさ、その………す、好きな人っているの?」

 

「俺か?俺は皆の事が好きだぞ?」

 

皆。その中には黒猫団も含まれている。

この答が不服だったのか、違う違うと顔を左右に激しく振るユウキを両手で押さえて、引き続き髪を梳く。

 

「ぼ、ボクが言いたいのはそういうのじゃなくって!!」

 

「どういうことなんだ?」

 

「え、えぇっと…………れ、恋愛的な?」

 

……………ははぁん。なるほど。

漸く理解したぞ。

OKだ俺。ここはクールに対応しよう。もうここはクールではなくCOOLってレベルで適切な対応を――――

 

「ユウキ」

 

ガシッと。

 

「え?――――ひっ」

 

「どこの馬の骨だね?言ってみなさい。俺が直々に男とはどういうものかを教え込んでくるから」

 

「ど、どうしたの?か、顔が怖いよ?」

 

「何を吹き込まれたのかは知らないけども。安心しな。殺しはしないから」

 

「じ、ジン?そのぉ……か、顔が近いんだけど………」

 

「さぁ、教えて御覧?」

 

「~~~~っ!!!…………きゅぅ」

 

少しずつ顔が赤くなってきていたユウキの顔も、紅潮の限界に達したのか、突然目を回したように気絶してしまった。

「お、おい?………ダメだ、反応が無い。ただのしかばねのようだ」

とは言った物の。

やはりこういう場合に遭遇したことが無い俺では経験値が足りない所為か、ただただオロオロするしかなかった。

そこへ一部始終をみていたのであろうミーナが助言してくれる。

 

「ああ、それは放っておけばなおるよ」

 

「よかった」

 

「けど……」

 

けど、と続く言葉を待つ。

 

「貴方が膝枕してあげればその子も目覚めがよくなるんじゃないかな?」

 

は?

と、口走りそうになるのを堪えて理由を尋ねる。

しかし帰ってきたのはまともに理解できそうにないものだった。

 

「そりゃあれだね、乙女心ってやつ?」

 

ああなるほど、そりゃ俺には理解できない訳だ。

全てにおいて、最も面倒で複雑なのは女の心だと誰かが言っていた。

男が女を理解しようとすること自体が馬鹿げたことなんだな。

ふと背後でクスクスと笑いを堪える声が聞こえた。

それはミーナの耳にも入ったのか、笑顔を張り付けたまま、凍てつくような冷たく鋭い声音で、

 

「そこの、あとで私の部屋ね」

 

「ハイ」

 

どうやらガルドは女の尻に敷かれるタイプらしい。

しかしまあ、オトメゴコロとやらを理解することのできるミーナが言うのならば、それが正解なのだろう。

ゆっくりとユウキを横抱きで持ち上げ、ソファの方へと移動する。

ユウキが起きないように丁寧に、ソファに寝かす。

そしてそっと、俺の膝にユウキの頭を乗せた。

顔に髪が散っていたので指先で払いのけると、ユウキが僅かに呻く。

起こしてしまったかと危惧したが、起きるには至らず、スゥスゥ……と、可愛らしい吐息を聞かせてくれた。

しかしこう、人の寝顔をマジマジと見る機会が無かったから、改めて見るとこう……感じる物があるな。

まだまだあどけなさの残る顔。

色の白い肌。

健康的な桜色の唇。

呼吸と共に艶めかしく動く喉。

細くしなやかな髪の毛。

 

「辛い思いをさせたな………ゴメンな………」

 

優しく頭を撫でる。

絹のように触り心地のいい、きめ細やかな髪が指と指の間を擦り抜けていく。

俺がお前にしてやれることは、これくらいしかないから。




ジンが使用していた櫛は、アイテム名<つげ櫛>。
選んだ理由は櫛の花の彫刻が綺麗だったから。

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