ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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超久しぶりの投稿


人らしからぬ人

「と、いう訳で新メンバーが2人来ることになってるっていうか、まあその内1人はそこで馴染んでる訳だが」

 

「ねえねえジン。そのもう1人は誰?どこにいるの?」

 

「落ち着けユウキ」

 

拠点にて、「パンプキン・パイ」の殲滅直後のはずなのに異様に馴染むユウキを宥める。

まさかあの後ユウキがshadowに入るなんて言い出すとは思いもせず、勢いに押されて許可してしまったのだ。そして皆より遅れてギルドに帰投するといつのまにか馴染んでいたんだ。一体何者なんだ?

 

「皆疲れているところ悪いが急遽決まったことでな。来てくれ」

 

キィィィ…………

 

扉が音を立てて開く。

そこからコツコツと足音を立てて入ってきたのは…………

 

「本日付でPKKギルド、shadowに来ました。ホタルです」

 

禍々しいローブや手袋を纏った少女が、そう名乗った。

俺は改めてギルメンに説明する。

 

「コイツはあのPKギルド、『silent curtain』で、武器防具の手入れや製造を担当していた人物だ…………っておいおい。そう武器を構えるな」

 

「ジンさん。そいつは信用足る人物なんですか?」

 

「ああ、最近俺達の噂が広まってきただろ?その噂を聞いて身を隠して俺達を探し回ったそうだ」

 

「こっちの方が断然やりやすそうだし。あいつらみたいに強制的に働かせない、3食出る、アタシ専用の部屋をくれる、欲しい物をある程度買ってくれるって言う条件でここに来たわ」

 

理由は実に適当だが、奴隷のように働かされてきたこいつの状況から考えるとそれだけでも十分な理由となるんだろう。

 

「アタシはアタシのペースでアタシ好みな武器とか防具が作れればいいの。ま、そんだけ」

 

「と、いう訳だ。武器とかの趣味が悪くても文句は言わんでやってくれ」

 

「フン。何さ皆して。アタシが厨二だろうといいじゃない。アタシは聖剣とか邪剣とか言われるような神々しい武器とか禍々しい武器が作りたいってだけなのに。作り直せだとか趣味悪いとか馬鹿にして!!」

 

「落ちつ――――」

 

「ほんとにそれですよね!!」

 

殲滅班のペンドラゴンが大声でホタルに同意の言葉を放った。

コイツも厨二なところがあるやつだったが今まではそれを隠してきた(皆にはばれていたが)。それがホタルが自己紹介を始めた瞬間から目を輝かせていた。こんなことになるのは目に見えていたが実際に起きると面倒なことこの上ないな。

 

「ええい、今日はここまでだ。続きは自分の部屋でやれ!!」

 

ホタルからペンドラゴンを引きはがして宣言する。

面倒から解放されて拠点に戻ったらこれだ。

そういう星の元にうまれてしまったのかもしれないが、どこか心地よかった。

 

 

 

 

 

数時間前

ユウキと別れてから俺は背後で隠れていた黒い影に声をかけた。

 

「いつまでそんなところに隠れているつもりだ」

 

 

「キリト」

 

 

影はスクッと立ち上がると物陰から姿を現した。

そこには現在攻略組のトップ3の1人、攻略の主戦力である黒の剣士ことキリトだった。

 

「気付いてたのか」

 

「最初からな。大方来た頃にはもうギルドは壊滅寸前ってところだったのか。そこにユウキが乱入してきたから出るに出られなくなり隠れたってのが俺の憶測だが」

 

「アタリだよ」

 

キリトはおどけるように肩を竦めるが、すぐに真剣な表情になりこちらを見る。

 

「ジン、お前は自分の行っている行為についてどう思ってるんだ」

 

「人間として正しくは無いだろうな。ただここでは人間性を捨てなければいけない。情けなんてかけてたら攻略なんてできる訳がない」

 

時として最善の行動は人間性を消し去らなければいけないこともある。

それが今のような場合だ。

 

「例えば」

 

「あ?」

 

「ここは俺のイチオシ漫画から抜粋させてもらおうか。

 全てが終わって、何もかもが手遅れになった後で、茅場明彦が現れて―――――

『お前があの時もう少し戦えば結果は変わったのだ』と言われるのと

『お前がどう足掻いても結果は変わらなかったのだ』と言われるのだったら

どちらが報われると思う?」

 

「そりゃあ後者だろ」

 

「ならそれはこの世界をクリアした時にも言えることだろ?

『お前があの時あの選択をすれば死者は減ったのだ』と言われるのと

『お前があの選択をしたところで死者は変わらなかったのだ』そう言われる。

 そう考えた時、俺達の人間性を捨てるだけで死者を1人でも減らせるのなら、人間性を捨てるだけの価値はあると思うんだ」

 

たかだかこの世界で人でなし、人殺しと蔑まれるだけで死者が減る。ならそれに賭けてみようじゃないか。

きっと現実世界に戻ったとしても、この体が記憶してしまった怨嗟の声は消えることは無いだろう。

けれど、それでも死者を減らすことで、生還者を増やすことで、その苦しみも報われるだろう。

 

「だったら、PKK以外でも死者を減らすことはできるはずだろ!!」

 

「そうだな。だが、最終的な生還者の数は、PKKが最も影響が大きい。

 PKした奴らが現実に戻って、また殺人を犯せば、殺される人はSAOの中で死んだのと同じなんだ。極論ではあるが、犯罪者を減らすことで死者が減るのなら、尚の事俺達の働きは報われる。そう思うんだ」

 

「くっ」

 

何も言い返すことのできないキリトを見て、俺は諦めた。

和解の道を、諦めた。

 

「俺の考えを理解し、納得し、許容することができないのなら、諦めろ」

 

「っ!!それでも俺は、ジンのやることを認めない!!」

 

「お前は子供だな」

 

「だからどうだっていうんだ!!」

 

「だから、お前とは分かり合えない。

 だから――――」

 

 

「さよならだ」

 

 

そのまま走る。

キリトよりも俊敏ステータス、AGI値は上回っている。キリトが追い付くことはない。

今、自分はどんな表情をしているんだろうか?

過去に殺した人々の怨嗟の声に苦しんだ表情をしているんだろうか?

自分の存在を再認識してほっとした表情をしているんだろうか?

狂気に歪んでいるのだろうか?

どれも違う。

新たなる目標と試練に向かって挑む、ただそれだけを見つめて全てを殺した無表情だろう。

それでもきっとその裏にあるものは、自分でも分からなかった。

 

 

 

 

 

これが拠点に戻る前の出来事1である。

俺の言っていることは極論である。それは自分でも理解している。

この理論で行くならば、理解、納得できなければ子供、できたら大人みたいになってしまっているが、社会に出て、犠牲を知って、それでも犠牲を、対価を払わないと言う人が、いたとしたらそいつは、そいつの中身はまだ子供だ。俺はそう思っている。

 

「hohoho……中々面白れぇ事言うじゃねぇか」

 

「っ!?Pohかっ!?」

 

不意に聞こえた宿敵の声に鳥肌が立つ。

声の聞こえた方へと視線を動かすと、そこにはやはり声の主が居た。

ボロボロのマントは怪しい雰囲気を醸し出し、のらりくらりと気まぐれに人を殺めるヤツに似合っている。

 

「オイオイ落ち着けって。今からここでおっぱじめるつもりはねぇんだ」

 

「何の用だ」

 

「暇だったからよォ、そこらへんのPKギルドにでも布教してこようかと思ったんだが、面白そうな会話が聞こえてなァ」

 

そういうことか。

ギルド拡大のために移動した先に俺達がいたってだけか。不幸だな。

しかし戦う雰囲気を見せないってことは戦う気は本当にないのか?

とりあえず警戒は怠らずに会話を続ける。

 

「俺達の会話の何が面白かったって?」

 

「お前さんが言うその最善ってやつがよォ、まるで人じゃねぇみたいでなァ」

 

「何?」

 

「人って言う生き物はよォ、どう足掻いたって最終的に大切に守るものは我が身な生き物だ。それなのに我が身顧みずに死地へ飛び出していくお前は人らしくない」

 

人とはそのようなものなのだろうかと、ふと考える。

確かに、自己犠牲で仲間を守ろうとする人間を俺は見たことが無い。

その考えでいくならば、死を恐れずに死地へと赴いた俺は人らしくないものなのだろう。

 

「人らしくない、ある意味機械的とも言えるお前に、興味があったんでな。まァお前は人間だと知ってはいたがな」

 

「俺は人間だ。怒りもすれば憎しみも抱く。ただ他の人間よりも失った物が多いだけだ」

 

「俺の知る限りじゃァ仲間の数人ってところだが、その口ぶりだと現実の方でも事情持ちらしいな」

 

「そうだが――――そうか。無自覚なうちにどっかの感覚が麻痺してるみたいだな」

 

hohohoとPohは笑いながら腰を上げる。

楽しそうに、狂気の笑みを浮かべながら。

 

「まァお前は俺のお気に入りだ。そう簡単に死ぬこたァねぇだろう。お前はこの俺が殺してやる。その日が楽しみだぜェ」

 

「ハッ、言ってろ。最後まで生き残ってやる」

 

俺達はそこで別れた。

覚悟も後悔も、たった数時間で思い出し、新たな事実も知った。

疲れた心身を拠点に戻って更に騒がしさで疲弊させるのだ。




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