ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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こちらも久しぶりの投稿です


逆転する立場

PKKギルドの創設、ジンの失踪から2ヶ月が経った。あれ以来一切のジンに関する情報が消えた。

あのアルゴでさえジンの居場所を、PKKギルドのメンバーや拠点の場所でさえ掴めていないのだ。ただ、ジンの失踪した日に消えたギルドが4つあったことは分かっており、そのギルドではまだ誰も死んでいないことも分かっている。

けれど、黒猫団では大きな変化が表れていた。

 

「ただいま」

 

「…………」

 

「…………あ、お帰りなさいキリト」

 

常に暗い雰囲気が漂い、無言が多くなったこと。

ジンというプレイヤーの名前を発することがなくなったこと。

ジンの名前を発した途端、誰もが口をつぐみ、ただ無言が続くようになったこと。

特に変化が大きかったのはユウキだ。

ユウキは、何かに憑かれたようにレベリングを始めたり、夜になると毎晩声を押し殺して涙していること。食も激減し、常に1人で行動するようになった。

2人以上で行動するとジンのことを思い出してしまうかららしいい。

 

「…………」

 

これほどまでにジンの存在が大きかったことに驚かされる。

ジン、お前は黒猫団の皆をこんなにしてまですることなのかよ。お前のしてることは。

 

 

 

 

「っ!!」

 

「大丈夫ですか?ジンさん」

 

拠点で俺は顔を顰めた。

様子がおかしいことに気付いたセツナに心配されてしまう。

 

「心配はない」

 

「黒猫団のことですか?」

 

「バレたか」

 

そうだ。俺の心に深く根付いて、後悔の悲しみを巻き起こしているのは、黒猫団のことだ。

そして俺をここまで揺らがせるのは、手元に映るアルゴからのメッセージだ。

 

『ジンの言う通リ、黒猫団にはお前の情報は流していなイ。ケドお前の起こした変化はそう小さいものじゃなかったゾ。少しは顔を出してやったらどうダ?』

 

そこに添付されていた画像を見て、俺の心は、抉られるような痛みを感じた。

添付されていたのは、やつれ、やせ細ったユウキの姿だった。

もし覚悟していなければ泣いていたかもしれない。

 

「後悔、してますか?」

 

「後悔か。してないと言えば嘘になるが、これが最善だと思っている」

 

「そうですか」

 

直後

 

バンと大きな音を立てて扉が開かれた。

 

「ジンさん、PKギルドの1つ『ナイトメア』への攻撃準備完了しました!!」

 

「ん、では。出発する」

 

慣れた手つきで装備を整える。

 

「行くぞ!!!」

 

「了解!!」

 

隠蔽スキルで姿を隠し、霧の中を突き進み、敵の終末を作る。これが今できる俺の最前だ。

索敵班と情報を交換し合いながら、場所まで疾駆する。

今回の決戦の地は第3層のサバンナ。現在討伐対象のギルド『ナイトメア』は、サバンナにてレベリング中のギルド『ゴム&スライム』を狙って待ち伏せしているらしい。

 

「ナイトメアは麻痺塗布投げナイフ使い2人、両手剣1人、両手斧3人、細剣1人、盾持ち片手剣2人の計9人で構成された中規模PKギルドです。注意すべきは両手剣使いのギルドリーダー<ピーター>と盾持ち片手剣の<ブル>、両手斧使いの<バイト>の3人です。

 

ピーターは仲間であっても容赦なくスキルで斬り倒すので注意で、ブルは時間を稼いで相手の背後を仲間に討たせる戦い方です。バイトは体の大きさを利用して広範囲に斧を振り回します」

情報班のセツナが説明する。

そのほかにも、投げナイフ使いは命中精度が低い為躱すのは安易だということ、注意すべき3人以外はあまり戦闘力や戦闘技術が高くないことを聞き、索敵班と合流する。

 

「どうだ、相手に変化は?」

 

「ゴム&スライムの動きに合わせて場所を変えてますが、恐らく次に動くときが攻撃の時だと」

 

「了解だ。皆、あいつらが動く前に仕留めるぞ」

 

「了解」

 

「突撃!!」

 

号令で総攻撃を始めた。

走る時にできるだけ音のたたない走り方を指導したのでまだ相手は気付いていない。

あと50m、40、30――――

とここで相手が気付いた。

 

「敵襲だ!!」

 

仲間に知らせるが――――

 

「遅い!」

 

厄介だと言われた両手斧使いのバイトへと忍び寄り、首に一閃。

 

「へぁ?」

 

違和感に気付き振り返るがもう手遅れだ。

絶対クリティカルゾーンである首に直撃した刃はそのまま首を胴体と切り離す。

HPバーが急速に減っていき、0になった。

そして

 

パリィン!!!

 

ポリゴンとなって散っていくバイト。地に落ちる装備。

それをみて恐怖するナイトメア団員。

まさかPKを行う自分たちがPKされるなどと考えたこともなかったのだろう。逃げ出そうとするプレイヤーの先には哨戒班が待ち構えている。退路の確保もせずにいたからこその失敗だろう。

 

「お前がジンってやつか!!!」

 

「さて、誰がジンでしょうか?」

 

「うぜぇ野郎だなァ!!」

 

両手剣ソードスキル『ブラスト』を間髪入れずに発動して攻撃してくるがスライディングのように横に振り回される剣の下を擦り抜けて相手の目の前に立つ。

スキル後硬直で動けないピーターにニィと邪悪な笑みを見せて、ピーターが絶叫した。

 

「このクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「死ね」

 

短剣ソードスキル『トライ・ピアース』で、両目と口を刺し、貫いた。

現実で慣れても、仮想世界であっても、見たくないから。聞きたくないから。

憎しみの目を声を言葉を。怒りの目を声を言葉を。

再び消え去る仲間を見て、ありもしない逃げ道を捜して、相手は武器を取った。

しかし戦況は一方的。対人戦に慣れていても、自分達より強い相手と戦ったことのないという事実から弱気になり、本来の力を発揮せず倒れて、消えていく相手をみた。

そして最後の1人。

 

「い、イヤだ!!殺さないでくれ!!」

 

「それと同じ言葉を聞いて、助けなかったお前を、俺が助ける訳がないだろうが。寝言は永遠の眠りについてから吐け」

 

「ああああああ!!!!」

 

叫んでも、何も変わらない。短剣ソードスキル『クロス・エッジ』で顔を4つに切り分けて、ポリゴンとなって消えた。

討伐目標を全て討伐したかの確認をする。

それぞれが討伐したか、補佐したかで戦果を挙げているのを確認し、転移結晶で拠点まで転移する。

 

「お疲れだ。今回の相手は弱小だが俺達の最終的目標はラフコフの掃討だ。それまで気を緩めるな!!以上」

 

「ジンさん」

 

セツナが俺の名を呼んだ。

 

「何だ」

 

「今日だけは、ジンさんも休んでください」

 

「俺は休むわけには」

 

「黒猫団のこと。気になるんでしょう?知ってるんですよ?毎日黒猫団の写真を見つめては苦しそうに泣いてること」

 

「…………アルゴか」

 

あいつにしてあるのは『黒猫団と黒猫団に近しい人物とギルドへの情報を流さないこと』だけだ。それ以外はなにも制限していない。だから、アルゴからこいつらが情報を買っても何も文句は無い。

 

「だから、今日だけは会ってあげてください。何が変わるわけではないと思いますが、それでもきっと―――」

 

「分かった。後から会ってくる。お前らも休めよ?」

 

「はい!!」

 

ったく、こいつらは…………世話焼きばっかりだな。俺が心配させてるって話もあるが。

まあ今だけはこいつらの優しさに感謝だな。

部屋に戻ると、装備を解除して寝間着に着替えてベッドに倒れこむ。

今だけは寝させてくれ。寝たら会いに行くから。

 

 

 

 

目の前に現れる敵の攻撃を可能な限り余分な動きをなくして躱す。必然的に攻撃スレスレを動くことになる。けれど、そんなことはどうだっていい。

攻撃は鋭い突きに限っている。振ると線の動きになって防御されやすくなる。

槍持ち骸骨にそのまま剣を突き刺す。ポッカリと開いた目の穴に。

突き刺した瞬間、片手剣ソードスキル『ストーム・アタック』を発動して剣を下へと振る。

 

「せやぁぁぁ!!」

 

顎の骨、肋骨を砕きながらもう一撃。頭蓋骨へと剣を振り下ろして背骨ごと2つに割る。

そして粉々の光になって消える。

背後にはまた1体、今度は鎧を纏い盾と片手剣を持った骸骨だ。

 

「まだまだ!!」

 

まだ、行ける。

まだ、限界は来ない。

まだ…………

 

「あ、れ?」

 

勢いよく駆け出したはずの自分の体は、地面に倒れこんでいた。

自分のステータスバーを見る。

しかし状態異常を示すアイコンはなにもない。

 

「まだ、まだ!!」

 

動け、動けと身体に力を入れる。

動きはするものの立ち上がろうとすると力が抜けて再びうつぶせに倒れる。

視線を動かすと自分の上にまたがる骸骨。そして背中の中心に狙いを定められた剣の刃。

刀身が緑色のライトエフェクトを纏う。片手剣ソードスキル『スラント』だ。

ここまで、なのかな…………

ジンを捜してあちこちでモンスターを倒して、強くなって、レベルも上がって、それなのに…………

 

「ジン……ゴメンなさい…………」

 

緑の刃が振り下ろされ――――

 

「謝んなよ。悪いのは俺なんだからさ」

 

「えっ」

 

ガキィン!!

 

緑の刃が軌道を大きく外れて、攻撃がHPバーを削ることはなかった。

声は、懐かしい暖かい安心するような低い声。

声の主は攻撃を中断されて隙だらけの骸骨の首に、正確に鋭く早い連撃を叩き込んだ。

ソードスキルに匹敵するほどの早さで、けれど敵のHPの減り方から見るとデフォルト技、ソードスキルではない。

 

「ふっ」

 

骸骨がスキルを発動させようとすると、足払いで姿勢を崩させて再び連撃する。

そして、膝蹴り、足払い、肘鉄。回避だけでなく攻撃にも体を使って、自分のペースを崩させず、相手の守りを許さない。

何1つ攻撃することが出来ずに骸骨はポリゴンとなって散っていた。

けれどもそれと同時に自分の意識も遠のき、消え去った。


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