ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

10 / 27
PKK誕生

俺達がPKに狙われた日から、攻略の速度は著しく低下した。

探索班とはいえ攻略組から死者が出てしまったのだ。

しかしボス部屋が見つかった今、主力ギルドは街の外に出て経験値を稼ぎ、コルを稼ぎ、装備を整えなければいけない。

よってPKを警戒してパーティーの人数を増やすという対策を取らざるを得なくなる。それによって装備や消耗品にかかるコルの量がかさばり、安易に外にでることすたできなくなってきている。そんな悪循環が続いた。

あれから2日ほどでユウキも俺も立ち直った。表面上は、いつも通りに、普段通りに戻った。表面上は。

俺はあの日からとある計画を考えていた。

計画は誰にも認められるはずのない、理解されることのない、許されることのない内容だ。ただ、それによって攻略速度は以前のようになるだろう。

 

「やらざるを得ない状況だ」

 

1人、ダンジョン奥の安全地帯で呟く。

鏡の如く光を反射する水溜りに映る俺の顔は、決意と狂気そして殺意に彩られていた。

 

 

 

 

 

「おいおい、なんだよコレは」

 

「キリト君、どうしたの?」

 

街中でふと目に留まった。俺はそこまで目がいいわけでは無い。スキルのアシストを使ったわけでもないが、これだけはハッキリ見えた。地層のように重ね張りされた掲示板。その中の1つが。

 

『新ギルド、<shadow>。PK殲滅を推進する、PKKです。協力を考える方は、第9階層のバー<夜の帳>までお越しください。

 shadow ギルドリーダー ZIN』

 

それは、顔馴染みであり、実質攻略組トップである黒猫団主力であるはずの人物の名前が書かれた紙だった。

彼は確かにここ数日様子がおかしかったが、こんなものを作ってしまう程だとは思わなかった。

アスナもすぐに気付いたのか、フレンドリストを開き、場所を特定しようとしていたが、その指が止まった。

 

「どうした?」

 

「そんな……何で…………」

 

「何があった?」

 

「ジンの名前が無いの」

 

俺は耳を疑った。アイツは根は心優しいやつだと思っていた。だからこそフレンドだけはブロックしないと思っていた。

すぐに自分のフレンドリストを確認するがやはり見つからない。

急いで黒猫団のギルドホームがある第1層へと転移した。

ギルドホームには、ジン以外の全員がいた。皆重い空気に顔を俯かせる。

 

「キリトか。お前もアレ、見てきたんだろ?」

 

「ああ。どうなってるんだ?」

 

「分からない。ただ、テーブルの上にこれが置いてあったんだ」

 

そこには、袋と置手紙があった。

許可を取り、中身を確認する。

まず袋の中身は、俺の全所持コルの倍額のコルだった。そして置手紙にはこうかいてあった。

 

『黒猫団の皆、ゴメンな。できればこの手は最後まで使いたくなかった。ただ使わざるを得ない状況になった。それだけだ。

 ギルドリーダーはケイタが引き継いでくれ。皆を頼んだ。

 誰も俺のギルドに来るなよ。悪人だの罪人だの殺人狂だのと被害を受けるのは俺だけでいい。

 最後に。

 

 絶対生き残れ

 

 ZIN』

 

ジンの置手紙を読んだ。

最初に感じたのは、何でジンなんだという疑問だった。

PKが続き、いつかPKKが行われるのも時間の問題だとわかっていた。しかしこれに納得のできない点が2つあった。

1つは、PKKが生まれたのがあまりにも早すぎたこと。1つは、その重すぎて苦しすぎる、計り知れない辛さと悲しさを伴う任務を、どうしてジンが負わなければならないのかということだった。

ともかく俺は、ありとあらゆる知人を集め、ジンの捜索の協力を仰いだ。

ヒースクリフを除いた全てのギルドトップや情報屋が賛成の声を上げた。

俺は唯一反対したヒースクリフに問う。

 

「何故反対したんだ?主戦力を失うのは痛手のはずだ」

 

「うむ。現状、彼を失うのは痛手だ。だがいずれ現れるであろうPKKギルドを彼が率いると言うのだ。彼の意見を尊重すべきではないのかね?」

 

「あんな行為は認めない!!」

 

「認めようが認めなかろうがPKKギルドが居なければPKを抑制させることはできない。それに彼の戦い方は対人に特化した形になっている。実力も示している。それだけでも抑制の効果はある。もしPKKギルドが無くなれば、再び、いや、以前よりPKは増え、激化するだろう」

 

正論だ。何も言い返すことができない。機械のような冷静な分析。

ただ機械的すぎる。人間はそんな簡単な生き物ではない。

 

「どんな方法であろうと俺はジンとコンタクトを取る。そこで決めればいい」

 

「そうか」

 

それだけ言って集会は解散となった。

 

 

 

 

「んな感じできっと今頃は大捜索網が敷かれていることだろうな」

 

「ジンさんがいなくなったからでしょう」

 

俺はshadow本部である第8層の地下室にいた。

第8層のファグタウンという町に拠点を構えたのは、追跡を撒きやすいからだ。

常に濃霧が立ち込めるこの町は、建物はあってもNPCが居ない、いわばゴーストタウンだ。だからここを訪れるのは俺達を狙う輩か、俺達を追跡してくる輩か、俺達の仲間くらいしかいない。

誰も近寄らず、ばれにくい。好条件だった。

 

「よく集まったもんだ」

 

「ジンさんが有名だからですよ?小規模とはいえ4つもギルドが集まったのは」

 

「そんなもんかねぇ」

 

有名だからというだけでそんなに集まるとは思ってもみなかったが、それならそれでいい。

集まったのは名も知れぬギルドばかりだが、全員が自ら来た者だった。

 

「全員の志願した理由は何だ?」

 

まず最初に答えたのは、赤と青が目立つギルドのトップだった。

 

「俺はギルド『火炎蒼氷』団長のセッカ。志望理由は俺の仲間が殺されたからだ」

 

「私はギルド『リバース』団長のリンネ。志望理由は早く現実に帰りたいからです」

 

「私はギルド『日の元の和』団長のセツナ。志望理由は、命を弄ぶ輩が憎いからです」

 

「我はギルド『蒼天』団長、ガルドだ。志望理由はこれが最善だと知ったからだ。憎まれることを恐れては何も始まらない。だれかが損をせねばならぬというのならそれは我の役目だ」

 

「そうか。では、入団の申請を許可する。後悔しないというのならYESを押せ」

 

俺は集まった全てのギルドにメッセージを送った。

赤と青の『火炎蒼氷』に、白と黒の『リバース』に、和を基調とした出で立ちの『日の元の和』に、重厚な鎧を纏っている『蒼天』に。

そして全てからYESの返答が返ってきた。

 

「フッ、では改めて。shadowへようこそ。偽善者諸君」

 

こうして、shadowが力を持った瞬間だった。

 

 

 

 

 

俺から1週間がたった。全員の特徴も掴めてきた。

まず元『火炎蒼氷』は攻撃的な者が多く、元『リバース』は距離を取った戦い方をする者が多く、『日の元の和』は全員が剣道を軸にした戦い方の者で、元『蒼天』は防御よりな戦い方の者が多かった。

それぞれから特徴別の部隊を作った。

1つは『索敵担当班』、1つは『情報担当班』、1つは『哨戒班』、最後に『殲滅班』だ。

『索敵班』にはリンネ、マックス、フラック、ミーナの4人。

『情報班』にはセツナ、ヒュウガ、カガミの3人。

『哨戒班』にはガルド、ヴァース、ドルーガー、ヘステル、ナーガの5人。

『殲滅班』は、俺を主軸にヒリュウ、モーフィー、ペンドラゴン、ブローの5人。

しかし皆レベルが低く、スキルの練度も低かった。

よって最初は必要最低限のスキルのレベリングと対人、対テイマー用の戦闘方法を指導するところから始まった。

集まったのは第7層北部に位置する『影に忍ぶ邪鬼の枯森(こしん)』に来ていた。

ここは20階層レベルのモンスターが出現するとのことでマッピングもされず、人も寄り付かなくなっていた。

 

「それではこれより戦闘指導を行う」

 

『了解』

 

「ここには現存する全ての武器を持つ敵がいる。まずはそいつらを1人10体討伐するんだ。ありとあらゆる武器との戦闘を想定し、複数戦での戦闘も兼ねてだ。尚危険となったら迷わず転移結晶を使え」

 

それだけを告げて隠蔽スキルを使って身を隠し、あちらこちらを移動しながら様子を観察する。

索敵班は散開し、敵の位置の把握から始め、情報班は、会敵した相手の弱点を的確に突き、哨戒班は、可能な限り武器装備体力の損耗を抑え、持久戦の構えを取る。

殲滅班は他とは違い、まだ日も浅い筈の仲間と連携し、容赦ないソードスキルの連続で殲滅し、攻撃が来ようがものならカウンターを仕掛ける。相手のペースにさせず、攻撃を途切れさせない。正に攻撃特化、殲滅に相応しい組だった。

10分が経過した時、俺の元に殲滅班が現れた。

 

「1人10体。計50体の討伐が完了しました」

 

「ほう、早いな」

 

まさかここまで早いとは思ってなかったが、コイツらなら簡単かと思った。

その30分後に哨戒班が報告に来たが、索敵班と情報班はリタイアのメッセージを送ってきた。

拠点に戻り、思ったことを話す。

 

「よくやった。索敵班と情報班は非戦闘員だ仕方ない。

 意見するならまずは哨戒班。持久戦に持ち込んだのはいいが時間をかけ過ぎだ。実践なら増援が来てる。もう少し早くしろ」

 

「了解であります」

 

「次に殲滅班。支給品の損耗が激しい。これからはそこを重点的に改善する。それ以外は言うことは無い」

 

「はっ」

 

ただ、弱小ギルドを集めた所でと思っていたが、弱小ではなかったらしい。ギルドの方針だったり、組合せが悪いだけらしい。

皆能力はある。それが何かに特化しすぎていたから、そしてその能力を発揮できる状況がなかったから弱小止まりだっただけなんだ。

しかしまだこのギルドには足りない要因があった。

 

「うーん。やっぱ足りないよなあ」

 

「何がです?」

 

「メンタルヒーラーが。サポーターがさぁ」

 

「ん?なんですそれ」

 

「メディック(薬学師)だったりスミス(鍛冶師)が足りないってことだ。このペースだと士気に問題が出るだろうし、いくらコルがあっても足りないぞ?」

 

「そうですね。こちらでも損耗は省いていくつもりですがそれでも補えない箇所もありますしね」

 

「自給自足って訳じゃないが、生産性は必要だ。そこらへんをどうにかしないとな」

 

まだまだ前途多難、エベレストありグランドキャニオンありウォールローゼありな感じだが、1つ1つ解決していくしかなさそうだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。