それは、やがて伝説に繋がる物語   作:豚汁

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前回に引き続き、読んで下さった方、お気に入り登録して下さった全ての方に深い感謝を……


 では、今回は穂乃果ちゃんの誕生日(一日遅れ)という事で、特別に【個人話】を更新させて頂きます、【個人話】なので、本編にも関わるお話となっています。
 ですので、是非どうぞです。

 時系列は――正也達が中学三年生の夏休み頃、一章が始まる前の過去話というになります。


 では、前置きが長くなってしまいましたが、どうぞ――




個人話 nexus story
【個人話ー穂乃果】 8月3日のタイムカプセル


 

 ―――突然だけど、“ひとめぼれ”って……信じますか?

 

 

 ……え? お米の名前? って、違う違う……“一目惚れ”!

 

 あの一目会った時に運命を感じた……! っていう例のあれ!

 

 『ドラマの中だけの幻想』『少女漫画の中だけの夢物語』っていうイメージが強いこの言葉だけど――

 

 でも、その一目惚れを――私、高坂(こうさか)穂乃果(ほのか)は、信じちゃってます。

 

 だって、実際に私がその一目惚れを体験しちゃったから……

 

 

 

 ――その男の子は、最初仲良くなった時の印象は“泣き虫な男の子”だった。

 

 幼稚園でいる時はずうっと、『穂乃果ちゃんっ、穂乃果ちゃんっ』って言いながら、私の後を付いてきて……だから、私にとってその新しくできた男の子の友達は、最初は友達っていうより―――妹の雪穂(ゆきほ)と同い年の、新しい弟が出来たような気分で……

 

 そのまま、その男の子とは小学校も一緒で、私はその頃には、『この泣き虫な弟は穂乃果が守る!』って、頼りになるお姉ちゃんぶって、心に決めちゃってました……えへへ、なんか恥ずかしいな……

 

 

 ――でも、それが変わったのは、私が小学校二年生のとき。

 

 

 その日は、とある事件のせいで元気を無くしちゃったその男の子を元気づける為に、私のお気に入りの場所だった公園の木の上に、その男の子を海未(うみ)ちゃんとことりちゃんと一緒に招待して……

 

 ああ――みんなは気にしないで良いって言ってくれたけど、やっぱり私は今でもこの時の事を後悔してる。

 

 みんなで一緒に同じ木の枝の上にいたせいで、足場の太い木の枝が重さでポッキリと折れて、私たち四人全員で、高い木の上から落ちそうになって……危ない所で木になんとかしがみついて、私たちは何とか無事だった。

 

 でも、本当に“何とか”木にしがみついてるだけで、いつまた落ちちゃってもおかしくないような――そんなギリギリの状態で。

 

 特に、私とその男の子は、上の木の枝に飛びついて、両手で何とかぶら下がっているだけで、手を放せばすぐにでも落ちちゃう状態だった。

 

 もう、その時の私の頭の中は、怖いって言葉で一杯で……自分がもう何をやっているのかもわかんなくなってて……

 

 そして気が付いた時には、私は片手で木の枝にぶら下がっているだけになってて……いつ落ちてもおかしくないような、そんな危険な状態で

 

 

 ―――ああ……もう穂乃果、死んじゃうのかな……

 

 

 そんな風に、諦めに近いような気持ちでそう思った―――その時。

 

 

 ――穂乃果ちゃん待っててっ!! 今助けるからぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!

 

 

 私の隣から、そんな声が聞こえた。

 

 そして私が隣を見ると、そこには私の知らない男の子が居て……

 

 そしてその、私の知らない男の子は、必死で木の枝をよじ登ると

 

 

 ―――穂乃果ちゃん! つかまって!!

 

 

 そう言って、落ちそうになる私に、木の枝の上から手を差し伸べてくれた。

 

 その時のその男の子の姿は、夕日に照らされてキラキラ輝いて見えて――まるで、絵本の中に出てくる、お姫様のピンチに駆けつける王子様みたいにカッコよくて。

 

 

 ―――うんっ!

 

 

 そんな王子様の手を掴みながら、私は――その王子様に一目惚れしちゃいました。

 

 

 その王子様の名前は、織部(おりべ)正也(しょうや)――略して(しょう)ちゃん。

 

 

 

 これが、私の今も続く―――キラキラ光る初恋の記憶。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 ―――今度こそ、ここにあるはずっ!

 

 

 夜も更けて、空がうっすらと明るくなってきたぐらいの早朝。

 

 私は、小さい頃よく遊んだ公園内で、スコップを持つ手を一心不乱に動かしながら、その作業に没頭していた。

 

 

 ―――手ごたえ、アリっ!

 

 

 私はスコップの先に何か固いものがぶつかるのを感じて、急いで手で確かめる。

 

 

「って……ただの石!? もう! これじゃないってば!」

 

 

 私はその石を捨て、ふと、手にしている腕時計を見る。

 

 時刻は午前4時23分……一睡もしてないけど、もうそんな時間!? と、私は驚く。

 

 今日は8月3日……記念すべき私の15歳のお誕生日。

 

 そんな、おめでたい15歳のお誕生日の早朝に、私、高坂穂乃果は

 

 

 

「もーーー! どこに埋めたの、タイムカプセルーーー!!??」

 

 

 

 

 

 ―――穴、掘ってます。

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 事の起こりは昨日のお昼頃、正ちゃんの家からの一本の電話から始まった。

 

 

「穂乃果、明日は何の日か覚えてるよな?」

 

 

 私が電話にでるなり、正ちゃんはいきなりそんな事を言った。

 

 

「ええ?い、いきなりどうしたの正ちゃん?」

 

「いいから、何の日か言ってみ、穂乃果」

 

「え、ええ……何の日かって…そ、それは……ねぇ……?」

 

 

 私は正ちゃんの言葉に、どう返したらいいのか戸惑う。

 

 明日は私のお誕生日、そんな事を聞いて正ちゃんはどうしたいんだろう……?

 ――も、もしかしてっ! 明日は穂乃果のお誕生日だからって、正ちゃんが記念にどこかに連れて行ってくれるとかっ!?

 

 大きなデパートで二人で楽しくショッピング。次に、今流行りの映画を見て二人で楽しくその映画の感想を話し合って――そして、夜には綺麗な夜景の見えるレストランで―――って、正ちゃんに限ってそれはないか。

 

 私は、そんな乙女チックな想像を一瞬して、それを振り払う。

 

 

「はぁ……やっぱり覚えてないのか」

 

 

 私がそんな事を考えていながら黙っていると、正ちゃんが呆れた様な声でそう言った。

 

 これには少し、私もムッとする。

 

 確かに穂乃果がおバカなのは自覚してるけど、流石に自分のお誕生日も覚えていないぐらいのおバカだって思われたくないもん!

 

 

「覚えてるよっ! 明日は穂乃果の誕生日だけどそれが何!?」

 

 

 少し怒りながら私は正ちゃんにそう言う。

 すると正ちゃんは……

 

 

「ほ~ら、覚えてない。――だから俺言ったじゃん、1年後に掘り返すのにしようって……15歳になるまで待ったら穂乃果は確実に忘れてるって……」

 

「―――え? なんの話?」

 

 

 私は、正ちゃんが何を言いたいのか分からなくて、思わずそう聞いてしまう。

 

 

「―――タイムカプセル。ほら、5年前に穂乃果から言い出したんじゃん、15歳になった私達に、お互いにメッセージを送り合おうって……」

 

「―――ああ……そんな事、言った……ような?」

 

 

 私はうっすらとだけど、そんな事を正ちゃんに言ったような記憶を呼び起こす。

 

 確かに、そんな約束をしてた気がするけど……う~ん、なんで私、そんな事を正ちゃんに提案したんだったっけ?

 

 

「言ったの! だから穂乃果、明日朝10時に小さい頃よく遊んでた公園に集合な!」

 

 

 そう一方的に言うと、正ちゃんは電話を切ってしまう。

 

 こうして、私は正ちゃんと明日、二人きりで会う約束をしたのでした。

 

 

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 

「―――えへへ、明日は正ちゃんと久しぶりに二人っきりで待ち合わせ~♪」

 

 

 その日の深夜、私は自分の部屋でウキウキしながら明日着ていく服を選んでました。

 

 いつも正ちゃんと会うときは、だいたい海未ちゃんとことりちゃんも一緒だから、久しぶりに二人きりで会うって事が嬉しくて、私はそわそわして眠れなかった。

 

 ――あ、別に海未ちゃんとことりちゃんが一緒なのが嫌な訳じゃないよ?

 

 むしろ、正ちゃんと二人っきりなのは嬉しいけど、なんで私と正ちゃんの二人だけで、そんなタイムカプセルなんて楽しそうな事をしようと思ったのか、昔の私の行動が不思議なぐらい。

 

 でも、好きな人と二人っきりで会うのは事実。

 

 これでも私は今年で15歳、お年頃の女の子として、着ていく服をどうしようかと悩みたくなるわけで……

 

 

「うーん……出来るなら、このお気に入りのスカートとキャミソールを合わせて着て行きたいんだけど……タイムカプセル掘るんだったら、動きやすい服の方がやっぱり良いよね?――うーん、どうしよう……」

 

 

 私は持っている服を、部屋の床にごちゃごちゃに並べながら、明日の着ていく服を考える。

 

 ああ……こんな所を雪穂に見られたら『また、お姉ちゃんはだらしないだから~』って怒られちゃいそう……

 

 こういう時、服とかオシャレに詳しいことりちゃんなら、すぐにパパッと決めちゃえるんだろうなぁ……そうだっ! ことりちゃんに電話して相談しちゃえば良いんだ――って、ダメダメ……タイムカプセルなんて楽しい事を二人でやってたなんて知られちゃったら、きっと海未ちゃんとことりちゃんは拗ねちゃいそうだから……

 

 でも、本当になんで昔の私は、正ちゃんと私の二人だけでタイムカプセルなんてやろうと思ったんだろう?

 

 私は、ふとそう思ってしまった。

 

 ――ほら、5年前に穂乃果から言い出したんじゃん、15歳になった私達に、お互いにメッセージを送り合おうって……

 

 今日の昼に正ちゃんが言った言葉が、私の頭の中で変に引っかかる。

 

 つまり、それって10歳の頃の私が、今の正ちゃんに対してメッセージを書いたって事だよね、それって――――あっ! 思い出したっ!!

 

 その瞬間、頭の中で鮮明に、タイムカプセルなんて事を提案した小さい頃の私の目的を思い出す。と、同時に私の中で血の気が、サーっと引いていくのを感じる。

 

 ――服を選んでる場合じゃないっ!

 

 私は速攻でジャージに着替え、懐中電灯と、お母さんに言って物置から出して貰ってたスコップを手に家を飛び出し、公園を目指して夜の町を走りだした。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そして――現在。

 

 

「次っ! 多分あっちの木の根元っ!」

 

 

 徐々に太陽が昇ってきて、明るくなっていく公園内で、不眠不休で一心不乱に穴を掘り続ける私が居た。

 

 

 

 ――10歳の頃、私はとある少女漫画を見て、とってもロマンチックで良いな~って思ったの。

 

 その内容っていうのも――男の子に中々好きという想いを伝えられない主人公が、中学校卒業式の前に、二人でお互いに向けたメッセージを書いてタイムカプセルに埋め、それを主人公とその男の子が大人になった時に二人で掘り出し、そして10年越しに主人公の愛のメッセージがその男の子に通じて―――見事にゴールインっていう内容で……

 

 

 ――それを……あろうことか私はっ……!

 

 

「バカバカバカ……! 本当に穂乃果のおバカッ……!」

 

 

 私は顔を真っ赤にしながら、昔の私に思いっきり恨み節を呟いていた。勿論、手は止めない。

 

 そう、今の私が探しているのは、時限式告白爆弾(タイムカプセル)

 

 爆発してしまえば、もれなく私が、恥ずかしくて死んじゃうのが確定してしまうという恐ろしい物で…!

 

 

「ああもう……! ここじゃない!」

 

 

 私によるタイムカプセル捜索は、困難を極めていた。

 なにより、肝心の私がタイムカプセルを埋めた場所を覚えていない…って言うのが特にタイムカプセルを見つけられない原因になっていた。

 

 ここで私は今の時間を確認する。午前7時26分――良かった、まだまだ時間はあるみたい。

 

 何とか8時半までにはタイムカプセルを見つけて、私のメッセージを処理して、そして、朝ご飯は最悪食べれなくても良いから、せめて――シャワーを浴びたい。

 

 私は夜通し穴を掘り続けて、ジャージ姿で汗だくの今の自分の姿を確認する―――これじゃ正ちゃんの前に出られない。

 シャワーを浴びる時間をとる為にも、何としてでもあと一時間以内にはタイムカプセルを見つけたい!

 

 

 

「よっし! あと約一時間……ファイトだよ! 私!」

 

 

「何がファイトだよ! なんだ穂乃果?」

 

 

 

 ――――え?

 

 私は声のする方向に振り向く、そこには――

 

 

「ってか、こんな所でこんな時間に何やってんの?穂乃果?」

 

「し、しししししし正ちゃんっ!? なんで!?」

 

 

 自転車に跨りながら、呆れた顔でこっちを見る正ちゃんが居ました。

 

 なんでっ!? 今まだ10時じゃないのに何で正ちゃんが居るの!?

 

 

「なんでって言っても……海未の道場で、海未と剣道の試合やった帰りなんだけど?」

 

 

 そっかぁ! 忘れてた! 正ちゃん確かこの夏休みは毎朝、海未ちゃんと剣道の稽古するって言ってたっけ!

 

 

「で、質問に答えてくれて無いんだけど……何やってたの?」

 

 

 あわわわわ……どうしよう!? どうしよう!?

 

 今の私って、どこからどう見ても『タイムカプセル探してました!』って全力で言ってる恰好してるよ!? ごまかせるの私!?

 

 ――いや、もう最悪それは置いといて良いかもしれない、今一番重要なのは――

 

 

「し、正ちゃん…………今の私の格好……あんまり見ないで……」

 

 

 私は思わず今の自分の姿を見せたくなくて、思わず手で今の自分の恰好を隠す

 

 今の私は汗だくで、その上可愛くもないジャージ姿。

 本当なら、しっかり準備した格好で会うはずだったのに――どうして、私はいつもこうなっちゃうんだろう。

 

 いつもいつも考えなしで、後先考えずに勢いだけで行動しちゃう私。

 

 正ちゃんは、そこが穂乃果のいい所だって言ってくれたけど、今この時ほど、私のそんな性格を恨めしく思ったことはなかった。

 せめて、タオルだけでも持ってきてたら良かったな……

 

 

「……ふう。はい、海未の所に行くから持っていったけど、結局使わなかったから、よかったら使うか?」

 

「え……?」

 

 

 そう言って、正ちゃんから渡されたのは一枚の真っ白なタオル。

 

 

「あ、ありがとう正ちゃん……」

 

 

 私はそのタオルを受け取って、顔の汗をタオルで拭う。

 

 やっぱり、何も言わなくても私にこういう細かい気配りをしてくれるのって、正ちゃんの良い所だよね…

 私は正ちゃんのそんな優しさが心に染みた。

 

 すると正ちゃんはニコッと私に笑いながらこう言う。

 

 

「いや、なんていうか……嬉しいな。穂乃果が覚えてないのに、俺だけが覚えてて…ちょっと恥ずかしいなって思ってたから。

 穂乃果がそんな必死にタイムカプセル探してくれて、楽しみにしてたの俺だけじゃないってわかったから嬉しいよ」

 

「う、うん! あはは〜! ちょっとどこに埋めたかな〜って思ってたから、気になって先に探しちゃってさ〜」

 

 

 あ……正ちゃんも楽しみにしてくれてたんだ。私はそう思うと少し嬉しくて、心が跳ねるのを感じる。

 

 それと同時に、私は今の会話の流れを読んで、何とかこのまま誤魔化せる可能性を見出した。

 このままなんとかやり過ごせば、また10時に集まろうって流れになって、その間に何とか私の目的を達成出来るかも……

 

 でも、そうはいかないのが現実だった。

 

 

「よし、じゃあこのままタイムカプセルを掘り返しますか!」

 

 

 正ちゃんは無情にもそう宣言すると、私からスコップを自然な動作でスッと奪い取る。

 

 

「あっ!? スコップ……! い、今はまだ10時じゃないからまだ良いんじゃない? 私、一旦家に帰ってシャワーも浴びたいし――ほら、正ちゃんはこんな格好の穂乃果と居るのって嫌だよね?」

 

「別に穂乃果だったら俺、気にしないし大丈夫大丈夫」

 

「私が気にするのぉぉぉーーーー!!」

 

 

 私の魂の叫びを正ちゃんは見事にスルーして、さっき私が掘りかけた穴を掘りにかかる。

 

 ――すると、信じられない事に

 

 

「――ほら、ここにあった」

 

「えっ!? 嘘っ!?」

 

 

 正ちゃんが掘り当てたのは、一辺30センチぐらいの正方形のステンレスの箱。

 

 その蓋の部分には、確かにうっすらとタイムカプセルという文字がかかれているような気がする。―――って、あと少し掘ってたら私が先に見つけてたよ!?ああもう……今日は本当に運が悪いな私……。

 

 

「特徴的な形の木の根元に埋めたから、俺覚えてたんだよね~!」

 

 

 そう言って楽しそうに笑う正ちゃんには、悪気なんて本当に無さそうで……

 私は静かに、その掘り起こされた時限式告白爆弾(タイムカプセル)を見つめる。

 

 

 

 ――よし、もうこうなったら告白するしかない……!

 

 

 

 私はついにそう覚悟を決めた。

 

 今こそ、幼い頃の私の想いを受け継ぐ時…!

 

 正ちゃんが箱を開けたら、告白するぞ私!

 

 

「じゃあ、開けるぞ穂乃果……って、なんでそんな今から死地に赴くような顔してるの?」

 

「きっ……気にしないで! あ、あああ開けて、大丈夫だよっ!」

 

「わぁ……顔真っ赤……全然大丈夫そうにみえないんだけど……? まぁいいか、開けます!」

 

 

 

 

 開けたら告白…開けたら告白…開けたら告白…開けたら告白っ……!

 

 

 

 

 ――箱の蓋に、正ちゃんの手がかかる。

 

 

 

 

 

 開けたら……告白っ……!

 

 

 

 

 

 ――そして、ついに正ちゃんの手に力が込められ……

 

 

 

 

 

「や、やっぱりダメェェェェェーーーー!!!」

 

 

 

 

 私は、思わず正ちゃんに飛びつく。

 

 

「な、何だよ穂乃果っ!? 今開ける所じゃん!?」

 

「ダメっ……恥ずかしいからやっぱりダメっ……!」

 

「そんな!? 言っとくけど、この中には俺から穂乃果に送ったメッセージも入ってるんだぞ!? 恥ずかしいのはこっちも同じなんだぞ!?」

 

「じゃあ私もそれ見ないから! だからお願いっ……!」

 

「ええっ!? 穂乃果、お前こんなに汗だくになるまでこれ探してたんじゃなかったの!? 何のためにこんなに穴掘ってたんだよ穂乃果はっ!?」

 

 

 ―――そのメッセージを読まれたくなかったから穴掘ってたのっ!

 

 

 私と正ちゃんは、そう言いあいながらお互いに箱を引っ張り合う。

 

 

 すると、

 

 

 

「「……ああっ!?」」

 

 

 

 ステンレスの箱が私達の取り合いの末、宙を舞い――蓋が開いた。

 

 

 

 ―――あ、終わった。

 

 

 

 私は、思わず目を閉じる。

 

 ああ――こんな形で告白する事になるなら、ちゃんとさっき告白したらよかったなぁ……

 

 

 

「……え? 一枚しか手紙は入ってない……」

 

 

 

 ―――え?

 

 

 私は思わず目を開く。そこには『穂乃果へ』と書かれた手紙が一枚が、箱の中にポツンとあるだけだった。

 

 

「ええっと……そういえばあの頃、俺が先に手紙を書き終わって、穂乃果がまだだったから、穂乃果が箱に詰めて持ってくるって言ってこの箱もって帰ったんだっけ……って事は穂乃果…?」

 

 

「あ、あはははははは……ドジ、しちゃったかな?」

 

 

 

 よ、良かったぁ~~~~!!!

 

 私は胸を撫で下ろす。まさか、自分のドジに感謝する日が来るなんて……

 

 

 

「穂乃果っ!!?? じゃあ、これ何!? 俺だけ穂乃果への手紙公開っていう羞恥プレイ!?」

 

「いや~ごめんね正ちゃんっ! じゃあ、ありがたく読ませて頂きます!」

 

 

 私は、上機嫌で『穂乃果へ』と書かれた手紙を手に持つ。

 

 

「ちょっ! 返せ穂乃果っ! こんなの理不尽だぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 

 私は、正ちゃんの叫び声を聞きながら、正ちゃんの手紙の封を切って、その内容を読む。

 

 その内容は――

 

 

 

 

 

 

 穂乃果へ

 

 

 いつも元気で、俺と海未とことりを引っ張っていってくれてありがとう。

 

 多分、予言だけど絶対15才になっても、穂乃果はそのままだと思う!

 

 どう? 当たってる? 当たってたら俺の勝ちな!

 

 俺の勝ちだったら、これから先も、ずうっと俺達の事を引っ張ってくれるような、

 

 そんな俺の、いや、俺達の大切な親友でいてくれよ!

 

 俺達、ずっと仲良し親友四人組っ!

 

 

                         織部 正也 より

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――グサッと、心に何かが刺さった気がした。

 

 

 薄々気づいていたけど、やっぱり正ちゃんにとって、私はいつまでも幼馴染で……大切な親友で。

 

 ああ、今わかっちゃった。

 

 多分小さい時の私は、この事をなんとなくわかってたんじゃないのかな?

 だから、小さい頃の私は、ラブレターを最後の最後で入れる勇気が出なかったんだ。

 

 

 

 ―――もし入れてたら私、そんな大事な事、忘れるはずないもんね。

 

 

 

 でも、私の心がグサッとダメージを受けている一方、ずっと親友で居てくれって言われて、どこか嬉しい私も居た。

 

 

 このままずっと、私たちは大切な親友同士のままでいて。

 

 大人になって、お父さんやお母さんたちがやってるみたいに、時々会って、お互いの辛いことや楽しかった事を話し合って支え合って、そして別々の人と結婚して――お互いに生まれた子供の成長を自慢しあったり――そんな、永遠に切れない絆。

 

 

――そんなのも悪くないかも……って思っちゃう私も居て。

 

 

 こんな気持ちになっちゃうって――恋する女の子としては、やっぱり失格なのかも。

 

 

 

「―――おーい? 穂乃果? さっきからずっと黙ってたけど、どうしたの?」

 

「う、ううん! なんでもない!」

 

 

 私はそう言うと、正ちゃんに手紙を渡す。

 

 正ちゃんは手紙を読んで、そして笑った。

 

 

「ぷっ……! あはははは! すげえ俺大予言者だ! わーい、俺の勝ち!」

 

「もー! 正ちゃん酷いよー!」

 

 

 正ちゃんの楽しげなテンションに、さっきの手紙でショックを受けてるはずなのに、無理することなく合わせる事が出来てしまう私。

 

 ああ――今の私たちって、本当に仲の良い親友みたい。

 

 私がどんなヒドイ恰好をしてても、全然気にしてくれないし――

 

 もうきっと、正ちゃんにとって私は、女の子じゃ無くて、ただの仲の良い親友で――もう男の子と一緒みたいな扱いなんだろうな……

 

 

 

「ほい、そんじゃあ穂乃果! お誕生日おめでとう!」

 

 

 

 私がそんなことを思っていると、突然そう言って、正ちゃんは私に小袋を渡して来た。

 

 

「……え? なにこれ?」

 

「いやー、そういえば会った時に渡そうと思って、今日カバンの中に入れっ放しにしてたから、渡しとこうかと思ってさ、良いから開けてくれよ」

 

 

 私は不思議に思いながら袋を開ける。

 

 

 

 ―――すると中には、薄いオレンジ色のフリルのついた、可愛いシュシュが入っていた。

 

 

 

「―――え?」

 

「はいはい、じゃあ良かったら今付けて貰っていいか?」

 

 

 正ちゃんに促されるままに、そのシュシュを手首に付けてみる。

 

 

「おお~! 可愛いっ! やっぱりこれは穂乃果に似合うって思ってたよ!」

 

「え……えええええっ!!??」

 

 

 正ちゃんに急に可愛いって言われて、私は一気に顔が熱くなるのを感じる。

 

 なにこれ? 何が起きてるの?

 

 

「しかも、シュシュは手首に付けるだけじゃないんだぜ!ほら、その髪をサイドにまとめてるゴムの代わりにこれ使ってみ?」

 

「う、うん……」

 

 

 もう私は真っ赤になりながら、正ちゃんの言われるがままに、髪をサイドにまとめてるヘアゴムを、そのシュシュにチェンジする。

 

 

「……おおお! いいじゃん! 可愛い穂乃果!

 やっぱり本当のオレンジ色より、すこし薄くした色のシュシュの方が、穂乃果の髪色とシュシュの色が被らないからシュシュが映えていい!これは俺の作戦勝ちだな…!」

 

「もう……な、なんなの正ちゃん?」

 

 

 私はもう真っ赤になりながら、正ちゃんに弱々しく返事を返すことしかできなくなっていた。

 続けざまに可愛いって言われて、もう私の頭は、恥ずかしさと嬉しさで大混乱を起こしている。

 

 しかもその上、さっきまで少し落ち込んでたから、感じる嬉しさはさらに倍増された気分。

 

 な、なに?正ちゃんは私をこんなに嬉しい気分にさせて何がしたいの!?もしかして私、なにか騙されてるの!?

 

 

「いや…? 普通にプレゼントの感想を素直に話しただけだけど……?」

 

「そっ、それでも可愛い可愛いって言い過ぎっ! もうちょっと恥ずかしがるとかないの!?」

 

「でも、本当に思ったことだし……」

 

 

 正ちゃんはそう言うと困ったように頬をかく。

 

 

 

「それに……私、女の子でいいの? 正ちゃんは私の事、親友の男の子みたいに思ってるんじゃなかったの?」

 

 

 

 そう……本当にそう。さっきから私の事を女の子扱いしていないって思ったら、急に可愛い可愛いって言ってきて……正ちゃんの中で私は一体どんな扱いなのか気になった。

 

 すると、あっけらかんと正ちゃんはこう返した。

 

 

 

「なんで? 女の子で良いに決まってるじゃん? ――男になんか思えるわけない、穂乃果は可愛い女の子の、俺の親友だって!」

 

 

 

 その言葉は、一切の迷いなんてないまっすぐな言葉で。

 

 正ちゃんが心の底からそう思っているのが伝わってきた。

 

 

 

 ――そっか、私、正ちゃんに女の子だって思ってもらえてるんだ。

 

 

 

 

 きっと、それでも正ちゃんの中でまだ私は、親友以上に思ってもらえてないんだろう。

 でも、それでも女の子だって思ってもらえている事がわかっただけでも、私の心は軽くなっていくのを感じた。

 

 私って、本当に単純だな……ようし! もう難しい事を考えるのは、私らしくないからやめよう! 何も難しく考えずに、これまで通り正ちゃんに接するんだ!

 

 そしたら、きっといつか私のことを、本当の意味で女の子として扱ってくれる日が来るかもしれないし!

 

 ――だから今まで通り、ファイトだよ!私!

 

 

「だったら……よかったっ!」

 

 

 そう言って私は、明るく正ちゃんに笑いかけた。

 

 

 ―――私の決めた決心は、結局は『現状維持』っていう、とってもつまんない物かもしれない。

 

 それでも、未だに正ちゃんと“そういう関係”になりたい自分と、ずっとこのままの親友関係で居たいって思う自分がいるのもあって……そういうのと折り合いを付けれないままじゃ、このまま進めないんだからしょうがない。

 

 だから今は、正ちゃんとはこの距離で良いんだ。

 

 ちょっとだけ正ちゃんの前を歩いて――そして、いつでも正ちゃんやみんなを引っ張っていけるようなこの距離が、一番今の私にはお似合いなんだ。

 

 

「よっし、タイムカプセルも見つかって、プレゼントも渡せたからこれで良し!穂乃果、帰るか?」

 

「―――うんっ!」

 

 

 

 だって、今こうして正ちゃんに向かって、一番私らしい笑顔を見せる事が出来るんだから

 

 

 

 

 




 
 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 では、誤字脱字、意見や感想などがございましたら、是非ともお気軽に感想欄によろしくお願い致します。

 

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