それは、やがて伝説に繋がる物語   作:豚汁

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7話 サタデー・モーニング・デリバリー

 

 

「ははははははっ! 正也お前、また穂乃果の妹にからかわれてやがるのか……くくく……はははははっ!!」

 

武司(たけし)……笑い過ぎなんだけど……」

 

 

 俺は今、武司の実家である雑貨屋の店内で店番をしている武司に、揚げまんじゅうを届けた後、今日海未の家であった事や穂乃果の家であった事を世間話程度に軽く話すと、武司に思いっきり笑われていた。

 

 

「いや~! 笑った笑った……正也、これはいよいよ覚悟決めるしかなくね? 和菓子作り今から練習しとけよ、未来の『穂むら』の跡取りだろ? しめしめ……これはラッキーだぜ……将来は親友のよしみでタダにしてくれよ、正也!」

 

「ふざけんな武司―――あと、その手のからかいネタはもう飽きたわ、昔みたいに面白い反応返せると思うなよ」

 

「なんだよ……ちぇ~つまんねぇ~、昔はこの手のネタでお前をからかい放題だったんだがなぁ……」

 

 

 武司はそう言うと、つまらなさそうに向こうをむく。

 

 確かに、俺がその手の話題で色んな人にからかわれは始めた頃は、まだ『そ、そんなわけ無いだろ馬鹿か!』という感じで、恥ずかしくてアタフタ出来たが……それが三年も続くと流石(さすが)に慣れが来た。

 今はどんなに穂乃果達との仲をからかうような発言が来ても、俺はクールに対処する事が可能だと自負できる。というか、むしろウンザリできるレベル。

 しかし、まだ穂乃果達は俺の域にまで到達できていないようで、少しアタフタとしてしまうらしい。……早く穂乃果達も俺みたいに慣れて欲しい。

 

 それにしても、今はこうやってからかうような言動をとっている武司だが、必要な時には本気で相談に乗ってくれたりもするから憎めない。

 

 この手の話になると他の奴らは、普段は良い奴らなのに急に『爆ぜろリア充』とか、『あ? 幸せ自慢ですか?』とか言って、最後までロクに話を聞いてくれない事が多いから――特にありがたかったりする。

 

 正直、同じ男でも器ってものが違う。

 

 だからこそ、俺は今日まで武司と親友で居られたのかもしれない、勿論これからも親友のつもりだ――よろしくな武司。

 

 俺が武司との友情を改めて感じていた時、武司は急に手を打って、何かを思いついたように話し出す。

 

 

「そうだ、そう言えば――また正也は、莫耶(よめさん)の道場に行って、そして飯まで貰ってきたんだろ? そうかぁ……道場の跡取りの道もあったかぁ……すまん正也、その可能性を忘れていた俺を許してくれ!」

 

「そろそろくどいぜ……武司ぃ~~!」

 

 

 あ、やばい、さっき再確認した武司への友情の固い決意に軽くヒビが……

 確かに話を聞いてくれるのはありがたいんだけど、でもこの手のからかいに対してウザいと全く思わない訳ではないのだ……!

 

 そして、その軽い怒りに任せて、かねてから言いたかった文句を武司にぶつける事にした。

 

 

「全く、何が莫耶(よめさん)海未(うみ)って言え……

 ――それに、もうその『音ノ木坂の干将(かんしょう)莫耶(ばくや)』っていうあだ名やめてくれよ、なんだよ夫婦(めおと)(けん)って……俺と海未は全くそれ認めてないんだからな!」

 

「――嘘だろお前らっ……!? 俺達の不良の世界で、有数の実力者である奴と認められた者にのみ(かん)される(ふた)()を……!

 ――しかも、数ある二つ名の種類の中でも、最も最強の部類に属する【剣名(つるぎな)】を要らないって、お前らどんだけだよ……! 俺でも【剣名】を冠するのに苦労したんだぜ……!?」

 

 

 俺の文句に、信じられないと言ったように目を見開く武司。

 

 あ~! はいはい厨二厨二! 全く……武司といい、武司の舎弟たちといい……不良の奴らってのは厨二病(ちゅうにびょう)患者の奴しか居ないのか? せめて武司だけでもその厨二病を早く治して欲しい……。

 

 

 

「いらないよ! 何が嬉しくて付き合ってもないのに夫婦夫婦言われなきゃいけないんだよ!?

 最初二つ名って聞いて、正直俺は心が躍ったけど、その剣の名前を調べて詳細を知った時に、俺と海未は恥ずかしくて顔から火が出そうだったわ! ちなみに海未は今でも名付けた奴に復讐狙ってるからな!?」

 

「マジかよ……そんなに嫌か……? お前らの【剣名(つるぎな)】カッコいいだろ?

 俺なんて――『音ノ木坂の同田貫(どうたぬき)』だぜ?

 (どう)(たぬき)って……太ってる俺を馬鹿にしてるのか!? マジでお前と海未が羨ましい……!」

 

「武司……同田貫(どうたぬき)は、史実(しじつ)上唯一“兜割り”に成功したと言われる日本刀だぜ……? スゴイだろもっと誇れよ……!?」

 

 

 武司が羨ましすぎる……! 絶対それ夫婦って言われるより断然マシだからな!?

 まぁ、最悪俺はいいけど、恥ずかしがりな海未が一番かわいそうだ……。

 

 全く……最強に属する【剣名(つるぎな)】とか何とか知らないけど、俺と海未をそんな厨二病を患ってる不良達の仲間と一緒にしないで欲しい。

 

 ほんの一年ぐらい前まで、自作の詩を作って俺達によく見せていた海未と、一人でこそこそ自分が使えるカッコいい必殺技の名前とか、能力の名前をノート(黒歴史)に書き留めていた俺は、確かに二人ともその頃は厨二病だったと言えるが……今は違う。

 特に俺は、絶対厨二病は治ったと言える。

 

 たま~に少しカッコつけたくなるぐらい、男だったら当然だって父さんも言ってたし……うん、俺は絶対に厨二病治ってるな!

 

 と、俺がそう思った時、武司が軽く伸びをしながら、少しつまらなさそうに俺にこう問い掛けた。

 

 

 

 

「あ~もったいねぇ……二つ名欲しくなかったんだったら、なんでお前らは()()()()()()()()()()したんだよ? あれさえなかったら、そんな二つ名付かなかったのによ……」

 

 

「…………知らね」

 

 

 

 

 武司の言葉に、俺はそっけなくそう返す。

 

 

 

 

 それは――今の俺を語る上で、語る必要のない過去の物語だからだ。

 

 

 

 ――――ただひたすらに自分を犠牲にし続ければ、誰もが憧れる“英雄(ヒーロー)”のような『カッコいい男』になれると信じて、『強さ』もないのにズタボロになりながら……たった一人で、届きもしない目標に向かって『前に進み続けた』哀れな少年と――

 

 

 ――――才能と言う名の『強さ』を示す花は持っていても、『前に進む』為の見据える先の目標が無く、ずっと足踏みを続けていた……咲かせることの出来ない花を持つ少女の――

 

 

 ――そんな、似ているようで全く正反対の二人の、“初めての出会い”の物語を。

 

 

 

 

 

「なんだよ正也、急にそんな黙り込みやがって……わかった、悪かったぜ正也、この話はヤメにする」

 

 

 ――と、武司にそう声をかけられるまで、俺はずっと考えこんだままだったらしく、俺は少し驚いたように武司に返事をする。

 

 

「え……ああ……すまんすまん武司、そんなに俺考え込んでたか?」

 

「おう、すっごく考え込んでたぜ……まるでレストランでメニュー見て何食うか迷った時の俺みたいな顔してやがったよ」

 

「食い物関係で例える辺りがお前らしいな、全く……」

 

「おい、今俺の事をデブって言ったか?」

 

「ぷっ……ははははははっ! 全くそんな事言ってねーよ……はははははっ!」

 

「うるせぇ! お前が言ってなくても、俺にはそう聞こえんだよ!」

 

 

 武司はそう言って、店のカウンターのテーブルを拳でガンッ!と叩く。

 俺はそんな武司が面白くて、ついまた笑ってしまっていた。

 

 ――やっぱり、俺達の会話のノリはこうでないとな。

 

 そうやって笑っていると、武司がふと思い出したようにこう言った。

 

 

「そうだ……今日はせっかく正也が律儀に揚げまんじゅう届けてくれたことだし、ありがたく頂くとするか……!」

 

 

 そして武司が揚げまんじゅうに喰らいつこうとしたその瞬間……雷が落ちる。

 

 

 

「コラァァーーーー!! 武司ぃ! アンタなに店番中にお菓子食おうとしてんだいっ!」

 

 

 

 そう言いながら、いかにも肝っ玉お母さんと言った風な、恰幅(かっぷく)のいい女性が店に入って来た――いや、帰って来たという方が正しいか。

 この雑貨屋の主である、武司の母親のご帰還だ。

 

 

「か、母ちゃんっ!? ち、違うんだこれは……正也の奴が俺にくれるっていうから……」

 

「問答無用っ! 正也君を理由に逃げようったってそうはいかないよ! 今日という今日は店番の心得の基礎について、みっちり叩き込んでやるから覚悟しな!」

 

「ヒィィィィィーーーー!! 正也ぁ! 助けてくれぇ!」

 

 

 母親の怒声に、武司は本気で涙目になりながら俺に助けを訴える。

 

 

「―――すまん武司、俺が持ってきておいて本当に悪いが、俺には多分もうどうする事も出来ないっ……!」

 

「こ、この薄情者ォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

 

 武司の悲痛な叫びが店内に響く。

 本当にすまん武司……でも、俺は一度も今食べろとは言ってなかったから、無罪なはずだ。それに、武司のお母さんは自分の息子に対して怒ると手の付けようがないから本当にどうしようもないのだ……。

 

 そうこう思っているうちに、武司のお母さんが武司の耳をガシッ!とひっつかむ。

 

 

「いてぇ! いてぇよ母ちゃん!」

 

「あらぁ……! それにしても正也君久しぶりねぇ……! しばらく見ない内に随分カッコよくなっちゃってぇ……! 年々無駄にデカくなっていくだけの、ウチの馬鹿(バカ)息子とは本当に大違いだわぁ……!」

 

「ありがとうございます。いえいえ、武司は俺なんかよりずっと男らしくてカッコいいですよ、きっと、お母様の育て方が良かったんだと思います」

 

 

 そう言って痛がる武司を尻目に、平然と交わされる俺と武司のお母さんの会話。

 それにしても、よくその状態で俺に話かけることができるな武司のお母様……こんな剛毅な性格の人に育てられたら、今の武司の性格も納得だ。

 

 

「あらぁ……ねぇ、武司今の聞いたかい!? これがアンタと同い年だよ!? なんて出来た子かしらぁ!」

 

「うるせぇ! 良いから離せ母ちゃん!」

 

「どうやら、まだ反省してないようだねぇ……来な武司! アンタはこっちだよ!

 ――あ、正也君はいくらでもウチの商品見て行っても良いわよ……おばさん、イケメンには弱いから全品半額にしちゃうよ!」

 

「あ、あはははは……是非ともそうしたいところなんですが、今日はあいにくとお金の持ち合わせが無くて……すいませんが、これで帰らせて頂きます――じゃあな、武司……ファイトだよ」

 

「そんな覇気のねぇ『ファイトだよ』は要らねぇぇぇぇぇーーーー!!!」

 

「武司! いいからアンタはこっちだよ! じゃあまたねぇ、正也君~」

 

「はい、お邪魔しました」

 

「うおぉぉぉぉーーーー! 学校で覚えてろよ正也ぁぁぁーーーー!!」

 

 

 お母さんに耳を引っ張られながら店内の奥に消えていく武司。

 

 

「すまんな……武司……助けられなかったよ……」

 

 

 俺はそう呟きながら、雑貨屋を後にした。

 

 武司……生きてくれ。

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

「なんだあれ……」

 

 

 俺は思わず目の前の光景に息を飲む。

 

 

 ――緊急事態です。

 武司の家から帰ってきたら、俺の家の前に黒塗りの高級車が止まっていました。

 

 

「おいおいおい……この車まさか……!」

 

 

 しかし、俺には何が起こっているのかが何となく分かっていた。

 俺の家を訪れる人で、こんな高級な車に乗ってこれる人物と言えば――俺は一人しか心当たりが居なかったからだ。

 

 

「た、ただいま帰りましたぁ……」

 

 

 俺はすこしビビりながら家のドアを開ける。

 

 

 

「正也ぁ~~! おっかえりぃ~~!!」

 

 

 

 すると、輝くような笑顔で俺の母さん――織部(おりべ) ひかり が、キッチンの方から小走り気味に玄関にやってくる。

 

 (ふじ)色をした長い髪をストレートに伸ばし、とても年頃の子供を持った一児の母とは思えないような、綺麗で若々しい容姿をしている。。

 実際、過去に俺と母さんの二人で町を歩いていた時に、モデルのスカウトさんが母さんの事を20代の女性だと勘違いして声をかけて来た事があったレベル。

 

 その容姿から、どちらかと言えば男勝りで明るい母さんの性格とは裏腹に、『現代に生きる魔女』という物騒な通り名で近所では噂高い存在らしい。

 

 

「さて……帰ってきた所、さっそくではありますが! 私の愛しい息子である正也に、素晴らしいビックニュースがあります!」

 

 

 そう言って、やたら上機嫌な様子で俺にそう言う母さん。

 そのまま母さんは、大きく息を吸ってタメをつくった後……俺にそのビックニュースを伝えようとして……

 

 

「……なんと今! 久しぶりに我が家に正也もご存じの、私の親友である()……」

 

「はいはい、真姫(まき)が来てるんだよね母さん、今は真姫どこに居るの?」

 

 

 そのニュースの内容を予測していた俺に遮られた。

 

 ――あ、母さんちょっと涙目になってる……なんかゴメン。

 

 

「もう~! せっかく正也を驚かせようと思ったのに……察しの良い息子を持つとつまらないわ……真姫ちゃんは居間でクロちゃんと遊んでるわよ」

 

 

 俺は、母さんのその言葉に思わず耳を疑う。

 そのまま居ても立っても居られずに、そのまま玄関から急いで靴を脱いで居間に飛び込むと――そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

「ニャ! ニャーン!」

 

「……にゃーにゃー」

 

 

 

 ――そこには、我が家の飼い猫である黒猫の“クロ”と、猫の鳴きまねをしながら猫じゃらしを持って、クロと戯れる赤毛の少女―――真姫が居た。

 

 

 

「――マジ? クロ……俺に懐くまでには結構かかったのに! やっぱり女の子が良いのか!? 自分がメスなのに女好きって……クロ……まさかそんな趣味が……!?」

 

 

 俺は、飼い猫の性別による懐き度合いのチョロさに思わず絶望する。

 

 

 

「ゔぇえ! 正也!? 帰ったんなら早く言いなさいよ!」

 

 

 

 すると、今まで猫に夢中で俺が帰ってきてたのに気がつかなかったのか、真姫は真っ赤になりながら、その紫色の瞳をした可愛らしいツリ目を見開いて、俺に怒ったようにそう言った。

 

 その瞬間、クロは居間の開いた窓からスルリと出て、クロの日課であるお昼のお散歩に出かけてしまった。……ああ、俺帰ったら撫でようと思ってたのに……!

 

 あ、ちなみに俺は別に真姫が猫にデレデレになってたのに驚いたわけじゃないぜ? ウチのクロは可愛いもんな、気持ちわかるよ真姫。

 

 

「はいはい、今帰ったぜ真姫……で、どうしたんだ? まだ約束の時間には早いと思うんだけど」

 

「――正也、あなた途中で私との電話切ったの忘れたの? あの後、時間をおいてから何回も電話したけど通じないから私がわざわざ来てあげたの、わかった?」

 

 

 そう言って真姫は、こちらに呆れた様な目を向ける。

 

 ああ……そう言えばまだ話がありそうな感じだったもんな……でも、まさか直接俺の家に来なければいけないほどの緊急を要する用事とは思わなかった。

 俺は真姫にすまなく感じながら、その話の内容を聞くことにした。

 

 

「そうなのか? すまん……じゃあ、さっそく何の話だったのか言ってくれ、何か用事があったんなら、直ぐにできる事だったら俺なんだってするぜ!」

 

「ええ……じゃあ……」

 

 

 そこで真姫は一呼吸おき、俺にこう告げた。

 

 

 

「――パパが呼んでるわ、ウチに来なさい正也」

 

「――――へ?」

 

 

 

 真姫の言葉に、思わず口をあんぐりと開けてしまう俺。

 え? 真姫のお父さんって事は、西木野総合病院の院長さんってことだよな……え!?

 

 

「いやいやいやいやいや! え!? 俺、真姫のお父さんと会ったことないんだけど!? なんで俺呼ばれないといけないの!?」

 

「大丈夫よ、なにか渡したいものがあるらしいわ――それと少しお話したいってパパが……」

 

「え……? お話ってなにそれ怖い! ついに俺、真姫のお父さんに娘に近づく悪い虫としてデリートされちゃうの……?」

 

「何をそんなに怖がってるのよ正也……パパもそんな風には言ってなかったから大丈夫よ……多分」

 

「おい真姫、そこしっかり否定してよぉぉぉーーー!!」

 

 

 ヤバいヤバい……嫌な予感しか全然しない……!

 真姫には悪いが、ここはもう体調悪いって言ってごまかすしか……!

 

 ―――と、俺が思ったその時……俺の顔面の真横スレスレに、ヒュゴッ!と風を切る音をさせながら何かが高速で通り過ぎ、そしてその物体は壁に物凄い音をさせながら激突する。

 

 その物体は、ページ数2000ページ越えの分厚い医学大事典だった。

 

 え……これ当たったら多分死ぬんですけど……。

 

 

「―――正也、ウジウジ考えて行くのやめるんじゃ無くて、まず行ってあげなさい……私の親友のお願いなのよ?」

 

 

 そう言うとお母さんは目を爛々(らんらん)と見開かせながら、もう片手に分厚い薬学辞典を、『次段装填完了』と言わんばかりに手にしながら俺に言った。

 

 ヤバい……次は当てられるっ……!

 俺の母さんは、我が家の中では医学書を使った攻撃のスペシャリストで、中でもこの“医学書投擲(とうてき)”はかなりの破壊力と精度を誇った母さんの必殺技だ。

 この技で父さんが、よく母さんにお仕置きされてるのをよく目の当たりにする。

 

 ――まさか、俺がこの技の恐ろしさを体感する日が来ようとは……

 

 俺は、必死で真姫に向かって叫ぶ。

 

 

「行きます! 真姫さん! 是非とも俺を家に招待してください!」

 

「なんか……言わされてる感がするけど別にいいわ……さぁ、行きましょう正也」

 

「真姫ちゃん! 正也! いってらっしゃ~い!」

 

 

 母さんは、先程の迫力が嘘のように笑顔になると、俺達に元気よくそう言う母さん。

 切り替え早いよ……

 

 

 

「うん、また今度ね……ひかりちゃん」

 

 

 

 そう言うと真姫は母さんに、俺の前では滅多に見せないような柔らかい笑みを浮かべる。

 まったく、真姫は学校でもそんな笑顔が出来れば、友達なんてすぐに出来るだろうに……

 

 ――真姫は、俺と出会う前から俺の母さんとは仲が良かったらしく、互いに年の差はあれど“親友”と互いに認め合う仲らしい。

 

 俺は母さんに、自分の勤める病院の院長さんの一人娘で……もしかしたら自分より立場が上かもしれない真姫と、何故そんな仲になれたのかと尋ねたことがあったが、『ふふふ……イイ女には秘密はつきものなのよ』と、ベタなセリフを吐かれ、母さんにごまかされてしまった事がある。

 だから、この件は全くの謎だ。なので、いつか真姫にその経緯を尋ねてみようと、俺はこっそりとそう思ってる。

 

 

 俺と真姫は家を出て、真姫に案内される形で外の高級車に乗り込む。

 そして、そこには運転席に座る妙齢の女性の方がいた――って、真姫の家のお手伝いさんの和木(わき)さんじゃん……久しぶりだな……。

 

 

「ありがとう和木さん、車出して」

 

「はい、わかりました」

 

 

 和木さんは真姫の指示に従って車を発進させる。

 

 ――ああ……緊張してきた……!

 俺、一体真姫のお父さんに何言われるんだろう……!

 

 

「……大丈夫よ正也、多分そんな大したことじゃないと思うわ」

 

 

 緊張してる俺を見て、真姫が心配いらないと言うように俺に声をかける。

 

 

「真姫……ひょっとして、心配してくれてるのか?」

 

「ば、バカッ! (ちが)…………わないわ、だって……私たちは親友なんでしょ、正也」

 

 

 そう言いながら恥ずかしそうにそっぽを向く真姫に、俺はつい嬉しくて笑顔になってしまう。

 

 

「……そうだよな! よっし、親友の真姫が居るなら勇気百倍っ! 今ならお父さんを前に『娘さんを俺に下さい!』とまで言える気分だぜ!」

 

「ば……ばばばばばばばっかじゃないの正也!? いきなり何言ってるのよ!?」 

 

 

 そう言うと、真姫は顔を真っ赤にしながら猛然と俺に言い放つ。

 

 

「あはははは! ……冗談冗談、それにしてもこの程度の冗談で引っかかるとは……真姫はやっぱり可愛い奴だな~」

 

「なっ!? ……ううう~~~!! ……もう知らないわ、正也がパパに何言われたとしても私、(かば)ったりなんてしないから」

 

「ええ!? ゴメン真姫、もうそんな冗談言わないから許して!」

 

「……ふん」

 

 

 ヤバい……真姫は完全にヘソを曲げてしまったようで、俺の方を一切見てくれない。

 そんな……ちょっと考えれば、すぐに冗談だってわかるレベルのおふざけだと思ったのに……! 真姫は真面目だな……。

 

 

 そんなヘソを曲げた真姫と、そんな真姫の機嫌を直そうと躍起になる俺を乗せた車は、真姫の家へとひた走る。

 

 

 本日の俺の用事は―――あと一つだ。

 

 

 




 
 今回でちょっとだけ、正也君が今のキャラに至るまでにあった、暗めの過去を明かさせて頂きました。
 この部分の説明は、しっかりまた後で説明させて頂きますので、待って頂けると嬉しいです。
 
 では、次回はことりちゃんの誕生日記念にかこつけて、ことりちゃんと正也君の過去のエピソードの公開になりそうです。


 さて、長くなりましたが、ここまで読んで下さりありがとうございました。

 では、前回更新に引き続き、新たに評価をして下さった方々に、また感謝の意を述べさせて頂きたいと思います。


 knaoさん、tyatyaさん、リバルラさん、ヒデカズさん、流星@睡眠不足さん
 秩序鉄拳さん、ウォール@変態紳士さん


 以上七名の方、本当にありがとうございました。

 また、お気に入り登録して下さった方と、そして感想を下さった方にも心からの感謝の意を述べさせて頂きます!

 では、また誤字脱字、意見や感想などがございましたら、是非お気軽に感想欄によろしくお願いします。

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