では後編です、もし宜しければ見ていただけると幸いです!
生徒会室におずおずと表れた小泉さんに対し、凛は少し驚いたようにして声をかける。
「か、かよちん!? どうしたの?」
「あ、凛ちゃん…来てたの?」
「おっと――どうしたの小泉さん? また何か悩み事でも?」
俺は頭を業務モードに切り替えつつ、小泉さんにそう尋ねた。
「い、いえ…そう言う訳じゃないんですっ……ええっと……」
しかし、そう言うとまた下を向いて黙ってしまう小泉さん。
――これはやっぱり相当の人見知りさんだなぁ、この子……
まだスムーズに会話が出来た前回が特別だっただけなのかもな。
「ねぇ、正ちゃん! この子が凛ちゃんの言ってた“かよちん”なのっ?」
すると、穂乃果が目を輝かせながら俺にそう問いかける。
……そうだな、ここは穂乃果に行ってもらうのが一番良いかもしれない。
「ああ、そうそう!この子が前の件の時の依頼人の、小泉花陽ちゃん」
「そうなんだ! ねぇ花陽ちゃん、初めましてっ! 私、高坂穂乃果!
実は、凛ちゃんから花陽ちゃんの話はよく聞いてるんだ~! 凛ちゃんも言ってたけど、本当に可愛いね!」
「え、ええええ…!? わ、私は別に可愛く無いです……」
「え~! そんなことないよ~! あ、そうだ、ちなみにこっちに居るのがことりちゃんだよ」
「花陽ちゃん初めまして、南ことりです。大丈夫? ゆっくり落ち着いてから話してくれていいから安心してね」
「は、はい……ありがとうございます…」
俺が穂乃果に花陽ちゃんについて説明してから、あっという間に穂乃果を起点にして会話が回り始めた。
やはりこういう時は穂乃果の、初対面の人にでもすぐ気さくに話しかけることの出来る、人間関係における突破力は本当に頼りになる。
そして、少し落ち着いたように見える小泉さんに対し、俺は再度問いかける。
「で、どうしたの小泉さん? 何かまた悩み事でも?」
すると、ようやくリラックス出来たのか、小泉さんはゆっくりとその口を開く。
「あ、あの……今日は生徒会の皆さんに、お礼が言いたくて来たんです……この前は本当に
ありがとうございました」
小泉さんはそう言うと、ぺこりと頭を下げる。
ああ……何かと思えばそんな事だったのか。
しかし、まだ小泉さんのお礼に素直にどういたしましてと言えない自分がいた。
「――まだ、早いよ小泉さん。
―――
彼女は竹で割ったようなさっぱりとした性格をしていて、普段から後輩の面倒見が良い姉御肌気質を持った子だった。
そして、体育祭と文化祭の時には共に実行委員としてよく手伝ってくれて、俺達は彼女にとってもお世話になった過去を持つ。
だから、彼女が学校に来なくなってすぐに、俺達は事件解明に乗り出したのだった。
そこから先は先日の通り。
彼女の不登校の原因となった部を取り締まり、事件としては一応解決したという形になった。
そして事件の後、俺達四人は彼女の家にもう大丈夫だと言うことを報告するために行った。
しかし、俺達がどんなに言葉を尽くそうが……特に穂乃果は粘り強く食らいついたのだが、彼女は結局最後まで会ってくれることは無かったのだった。
『今日は来てくれてありがとう……でも、悪いけどまだ学校無理かも……ごめんね会長、それとみんな…』
家のインターフォン越しに聞こえる、彼女らしくない覇気のない声を今も思い出す。
だからこそ、俺は今日この日まで、小泉さんに彼女の様子を報告できずにいたのだった。
「―――実は、私。果歩先輩の家に行って……果歩先輩に会ってきたんです」
すると、小泉さんの口からビックリするような発言が飛び出た。
へ? 会った…!? 会ったって何!?
俺はビックリして小泉さんに問いかける。
「ええっ!? 本当!? 果歩と会ったの!?」
「花陽ちゃんっ!? 果歩ちゃんと会ったって本当なのっ!?」
思わず小泉さんに詰め寄る俺と穂乃果。
「え……!? ええと……その、あの…」
「正也先輩! 穂乃果先輩! かよちん困ってるから、そんな詰め寄らないで欲しいにゃ!」
「正ちゃん、穂乃果ちゃん…落ち着いて~…」
俺と穂乃果は、凛とことりに諭され何とか平静に戻る。
おっと、つい驚いてしまった…反省しないとな……でもどうして、俺達に面と向かって話せないぐらいに弱っていた果歩が、小泉さんだけには会ってくれたのだろうか?
いや、そもそもこの明らかに引っ込み思案そうな小泉さんが、彼女に会いに行こうと行動できたこと自体が、俺としては驚きだった。
「……か、果歩先輩は……最初、私が来たことにすっごく驚いてました。
でも…わ、私、何も出来なかったから……だから、せめて果歩先輩に元気になって貰いたいって思ったから……」
そう言って花陽ちゃんは、所々つっかえながらだが、果歩の家に尋ねた時の事を話しはじめた。
「私……果歩先輩に、『帰って欲しい……』って言われちゃいました。
――でも、そのまま帰っちゃったら私……先輩がどこか遠くに行っちゃう気がして!
だ、だから言ったんです『私……果歩先輩がどんな先輩でも構いません!』って……」
俺は、そんな小泉さんの話を聞きながらも、驚きを隠せない自分が居た。
だって……そうじゃないか、この子の性格なら、彼女の家に行くまで相当の勇気が要ったはずだ。
それなのに相手にはそっけない対応をされて……普通ならそこで引き下がるはずなんだ。それなのに小泉さんは……
さらに、小泉さんの話は続く。
「『果歩先輩が何をやってたとしても関係ないです! いつか、私を励ましてくれたみたいに――今度は私が先輩を励ましたいんです! 誰が先輩の事をおかしな目で見ても、私は果歩先輩の事を良い先輩だって、ずっと思ってますっ! だから……学校に来てください!』 ……って、言ったんです!」
――――ああ、なんて強い子なんだ。
この子は外側が弱々しく見えるだけで、本当の中身はすごく強い。
ゴメン小泉さん、俺こそ君の評価を改めないといけないみたいだ。
流石――いつも元気でパワフルな凛が、まったく真逆の性格の大人しいこの子の事を、小さい頃から大好きな“親友”として、認めてるだけの事はあるんだな……
「そしたら、果歩先輩が玄関から勢いよく飛び出してきて……だ、抱きしめられちゃって……何度何度も『ありがとうっ…!』って言われちゃいました……だから、今日は生徒会の皆さんにお礼を言いに来たんです。
きっと、私一人だったら何も出来なかったですから……ありがとうございました」
最後にそう締めくくって、小泉さんは俺達にもう一度頭を下げた。
すると突然、凛が小泉さんにとびかかって抱き着く。
「ええっ……!? り、凛ちゃん!?」
「かよちん……やっぱり、すっごいにゃ!」
「ああ……こっちこそ果歩を助けてくれてありがとう、小泉さん」
凛にいきなり抱き着かれて慌てる小泉さんに、俺はそう言った。
これに関してはお礼を言われる筋合いはないだろう。
果歩を本当の意味で救ったのは、紛れもなくこの子だ。
他の誰でもない、今まで果歩が助けてきた後輩である小泉さんが言ったからこそ、彼女の心に届いたんだろう。
いつの日にか助けた相手に、今度は自分が救われる。
巡り回る
―――また、人の
「花陽ちゃんありがとう! 果歩ちゃんを助けてくれて!」
「うん! ありがとう花陽ちゃんっ!」
「ええっ……えええっ……?」
穂乃果とことりに続け様にお礼を言われ、混乱してしまう小泉さん。
それもそうかもしれない、何故ならお礼を言いに来た相手に、逆にお礼を言われてるのだ。
でも、彼女のしたことを考えると、こっちとしては当然の感謝のつもりなんだけど……うん、小泉さんはもっと自分に自信を持つべきだと思う。
「小泉さん自信持って、果歩を助けたのは間違いなく君だ。
だからもう一度言うぞ、小泉さ……いや、もういいか、良く考えたら凛と友達だったら、もう俺達とも友達みたいなもんだしな! ―――花陽ちゃん、果歩を助けてくれてありがとう!」
「ふえっ!? ……うう……ど、どういたしまして…」
そう言って、ようやく花陽ちゃんはおずおずと頷いた。
こうして、ようやく本当の意味で先日の一件が解決したのだった。
「……ひっく……ぐすっ……ううっ……い、良い話ですねっ……!」
……うん、あとは
「彩、わかってると思うが……!」
俺は、さっきの話に感動したのか、ポケットからハンカチを取り出して泣いている彩に対し念を押す。
「は、はいっ……! グスッ……だいじょうぶですっ…! 記事にはしません……!」
うん、わかっててくれて何よりです。
これはモロにさっき取材NGした事件の内容にひっかかるからな……まぁ、彩がそんなに悪い奴だと思ってないんだけど、そこは一応念を押しておいた。
「……花陽さんっ! 同じクラスですが、こうして話すのは初めてですね!
私、
「み、御手洗さん……う、うん……よ、よろしく…?」
涙目で花陽に話かける彩に、花陽ちゃんはしどろもどろになりながら返事をした。
……どうやら彩に気に入られちゃったみたいだな、凛、大変だと思うけど彩の行動から、花陽ちゃんをしっかり守ってあげてくれ……
その後、『用は終わったので、これ以上は邪魔になっちゃいますから…』と言って、花陽ちゃんは生徒会室を後にした。
あと、凛も部活に行かなければいけないらしく、花陽ちゃんに付き添う形で生徒会室から出て行った。
「ああ……! 今まで同じクラスでしたが、あんないい子だったなんて知らなかったです私!」
「おお~そうかい、俺も同感だけど、そう思うならなんで一緒に行かなかったんだ?」
俺は、未だに花陽ちゃんの事を絶賛し続ける彩に対し、すこし呆れながらそう尋ねた。
「だって、花陽さんとは同じクラスですし、これから友情を深めることが出来ますが……取材は別です! 情報は生ものなんです! 仕入れたいと思った時にすぐ仕入れないとダメなんです!」
「つ、つまり……取材を続行したいと」
「はいっ!」
ヤバい……この年で記者魂たくましいよこの子……
俺は迷惑な子だが、目の前にいる記者の卵を少し尊敬してしまいそうだった。
「ってな訳で……はい! “いつものやつ”やってください!」
「……はい?」
「……え?」
「い、いつものって何かなぁ?」
俺は、穂乃果とことりと共に、意味が分からないと言った風な反応をした。
「とぼけないで下さいよ~! ほら! 今日も悪人探してレッツパトロール&悪人成敗!
記事に華を飾るような、悪相手に繰り広げられる熱いバトルを取材したいんです! 生徒会の仕事って、そんなのじゃないんですか?」
―――ふう……こいつはヤバい勘違いをしている奴が目の前に居るみたいだ。
俺は息を深く吸い込む……そして
「あのなあ!生徒会の仕事ってのは、各部活の要望を聞いたり、定期的に部活動の部長を集めた会議を開いたり、また体育祭や文化祭みたいなイベントごとに運営をしたりみたいに、本来バトルとかそんなのは全く無縁なの!無関係なの!前の一件が特別中の特別だったの!だから彩の期待してる展開には全くならないの!OK!?」
―――と、一気にまくしたてた。
「……そ、そんなぁ…! た、確か、私が生徒会の活動内容の勉強にと参考にした資料には、胸躍るようなバトルが一杯…!」
と言って、彩は『めだかボックス』というタイトルの漫画を取り出した。
「おい彩、その現実の生徒会の仕事を学ぶ上で、ほとんど参考にならないその学園バトル漫画を今すぐ家の本棚にしまってこい」
「ええーー!? そんな!?私全巻揃えたんですよ!? もうストーリーの展開が気になって気になってっ…!」
「その時点で、もう自分が勉強を目的としていないことに気づけよっ!?」
ダメだ……この子完全に二次元文化の生徒会の活動が、現実でそのまま行われてると思ってやがる……いや、めだかボックス俺も好きなんだけどね、うん。
そういえば俺、球磨川事件編が終わった辺りから、コミックス買えなくなっちゃったんだよなぁ……言えば貸してくれるか……? って、思考が脱線してるぞ俺っ!?
「よっし……そういう事なら、俺から華のあるとっておきの依頼があるんだが……」
そう言って生徒会室の壁に背を預け、今までずっと沈黙を貫いてきた武司がおもむろに喋りだした。
「あれ?
「ふっ……穂乃果、俺は生徒会じゃ無くて、最初は海未に用事があったんだ……が、正也とことりが居るなら“あれ”出来るだろ?だったらもう生徒会に依頼って形で良いかなって、さっき思ってよ……」
「え……わ、私と正ちゃんがやる“あれ”ってもしかしてぇ……」
「おい武司、華のある依頼で“あれ”が必要なやつってまさか……」
「その通りだぜ! さあ、来いお前ら! この武司様の直々の依頼だっ!」
そう言って、武司はいつの間にかリーダーになったかのように、俺達を先導する為に歩き出す。
「わ、わぁ! 来ました来ました依頼っ! よっし、取材しますよ~!」
そう言って意気揚々と彩もその後に続く。
ちょっと待てよ……“あれ”やるには色々準備があるのに…!
俺達は急いで準備をした後、二人の後を追った。
■ ■ ■ ■ ■
「……よっし! じゃあ頼む!」
そう言って武司に俺達が案内された場所は、校庭の野球グラウンドバッターサークル側にある、高い金網フェンスの所だった。
そのフェンスの上の方に、白い野球ボールが見事に金網フェンスの間に食い込んでいた。
「いや~、今日野球部の奴らが休みじゃん、だからつい俺の野球好きの心が疼いちまってよ、仲間よんで野球やってたは良いんだが……俺の投げたボールがコントロールすっぽ抜けちまって……」
「……で、ボールが金網フェンスの間に食い込んで、フェンスを揺らしても落ちなくなってしまったと……武司、お前どんな馬鹿力でボール投げてたんだよ……」
「そんな事言わずに…! 頼むぜ正也……いくら俺がこの学校内で名の知れた番長とはいえ、勝手にボール借りてそれを使えなくしちゃいましたって言うのは……なんていうか、俺の沽券に係わるっつうか、主義に反するっつうか……」
そう言って武司は、バツの悪そうに顔を背ける。
「はいはい、了解だよ武司」
「じゃあ、ことりと正ちゃんであれを落とせば良いの?」
そう言って、ことりが高い所に食い込んだ野球ボールを指さす。
「そう……みたいだな、どう? いけるかことり?」
「距離は大体大丈夫そうっ! 後……風がちょっと強いかもだけど大丈夫正ちゃん?」
「そこは任せといて、“いつものように”教えてくれれば、何とか修正してみせるから」
「……す、すいません。今から何が始まるんですか?」
俺とことりの会話を聞いて不思議に思ったのか、彩が穂乃果と武司に尋ねる。
「うん、見てて彩ちゃん……正ちゃんとことりちゃんって、凄いんだよ…」
「そ、そうなんですか! 了解です! 私、わくわくしてきました!」
穂乃果の言葉を聞き、興味深々と言った風に俺達を凝視する彩。
そんな大したことじゃないんだけどな……そうだ、どうせこの際だ、久しぶりにフルで行くか…!
俺はことりにこう提案する。
「ことり……今日はいつもの
「ええっ……! ほ、本当に?」
「ほら……どうせこの件も記事になるんだろ? だったら
「おおお! 久しぶりに“あれ”が聞けるのか! 頼むぜ二人とも!」
「えええっ……“あれ”を久しぶりに言うのは、ちょっと恥ずかしいかも……」
少し顔を赤らめながら、顔を背けることり。
しかし、一度やると決めてしまった俺のテンションは覆せない。
「頼むっ! ことり! せっかくだからカッコよく決めたいんだよ!
それに……もう二人で“これ”が出来るのは、これで最後かもしれないしさ……」
「正ちゃん…………うんっ!了解!」
ことりは少し驚いたようにこちらを見つめた後、笑顔でそう言って頷いた。
よっし! ことりの了解は得た! 後は決めるだけ……!
そして俺は、持ってきたカバンから、ある道具を取り出す。
「あ、あの、おもちゃ屋さんで売ってるみたいなゴムパチンコが、強化されたみたいな道具は何ですか!?」
「ふふ……ゴムパチンコっていうより、あれは“スリングショット”って言った方が良いかもな――ほら、持ち手の腕をしっかり支える腕あてがあるだろ……あれは、ああ見えて、実は狩猟にも使える立派な武器なんだぜ?」
「な、なんでそんな物を持ってるんですか会長は!?」
「あれはね、正ちゃんのお父さんがやってる楽器屋さんのお隣にある、防犯グッズ専門店の店長さんが、閉店する時に在庫の残りだからって事で正ちゃんにくれたんだって!」
「へ、へぇ~……って事は、こっからあの高い所のボールを撃ち落すんですかっ!? あんな小さい的をっ!? 無理ですよ!」
「おい、静かにしろ“記者っ子”……始まるぜ」
俺は、そんな彩と武司と穂乃果の声を聞きながら、スリングショットを構えてことりと共に並び立つ。
―――目標は一つ……あの野球ボールを狙い撃つ!
「よし、準備オーケ! やるぞ、ことり!」
「はいっ!」
合図と同時に、ことりが人差し指の指先を口に軽く含んで湿らし、腕をピンと伸ばしてその指を立てる。
「風速、北東にやや強め、目標との距離目測計算……約20メートルっ!」
「風速風向予測、目標物間距離予測了解――――威力、角度調整っ……!」
俺はことりの
それは、あえて言うならば、
昔からことりは、よく自分の周りに気を配れる子だった。
だからこそ、ことりは周囲の状況予測と判断能力が、実は本人にあまり自覚というか自信がないだけで、実は俺達四人の中で群を抜いて優れていたりする。
だからこれは、そんなことりと俺の協力技。
ことりが目標物までの障害を予測、判断し俺に伝え、俺はそれを全力で信頼して狙いを定める。
そう、一人で狙いを定めるのではない――二人でだからこそ、俺達は狙いを決して外さない。
「発射準備完了! ことりっ!」
そして俺達は言葉を紡ぐ
それは狙い定めた目標へ、必中を宣言する言葉。
「――――私の瞳はあなたの瞳っ!」
「――――四つの瞳で見据える先は必中っ!」
その宣言と同時に俺は、狙いすました鉛玉を目標に向かって放つ。
―――そして、その鉛玉は正確に野球ボールを捉え、金網フェンスにめり込んだボールを見事に一発で撃ち落した。
「すすす……すごいです! あんな小さな的を……!」
その光景を見た彩は、興奮したようにそう呟く。
「ね、二人とも凄いでしょ彩ちゃん!」
「全くだぜ……普通の奴なら10メートル先の的を狙うのでやっとなのによ……サンキュー二人とも! カッコよかったぜー!」
そう言って武司はブンブンとこちらに手を振る。
無事に依頼達成って事でオーケーみたいだな。
「正ちゃん……ことりは正ちゃんの役に立てたかな?」
すると、ことりが不意に俺に対してそう呟く。
「ことり……ああ、勿論っ! ことりは凄いからな、むしろ俺の方が最後に無理にカッコつけなセリフをお願いしちゃって、ことりに迷惑かけてると思ってるからさ……」
俺は素直に思った事をことりに話す。
実際、発射する前の最後のセリフが無くても全然的には当てれるのだが、そこはモチベーションの問題だ、あのセリフがあるのと無いのでは俺のテンションが全く違う。
「ううん、正ちゃんと遊んでるみたいで、ことりも楽しかったからいいよっ」
そう言うとことりは、恐らく校内で潜伏しているであろう彼女のファンを、一人残さず即死させるレベルの楽しげな微笑みを俺に向けた。
わぁ~……これ写真に撮ったら、マジで校内にまだ潜んでるらしい、ことりファンの奴らを全員摘発できそうだな……今度頼んでみるか。
「さって、彩……どうだ? カッコよかったか?」
俺はそう言って、彩にさっきやった事で満足してくれたかどうかを尋ねる為に彩に歩みよる。
「えへへ……正ちゃんにスゴイって褒めてもらっちゃったぁ……」
その時、ふと後ろからことりが何か言ったように思えたが、良く聞こえなかったのでそのままスルーすることにした。
「はいっ! 最高に華を飾れるシーンをありがとうございました!」
「よし、それなら良かった!」
俺は満足そうにしている彩を見て安心する。
良かった…これで何とか過度に脚色された記事は避けれそうだな――
「……でも、よく考えたらこれって、やってることは雑用に近いですよね?生徒会って普通、生徒の雑用も引き受けるんですか?」
――と思ったその時、急に真面目な顔になった彩が、鋭い質問を飛ばして来た。
うっ……痛いところを突かれたな……
「まぁ、正ちゃんは悩んでる人をほっとけないカッコつけたがり屋さんだから、そう思われちゃうのも仕方ないかも…」
「おい、そこは否定してくれよ穂乃果……」
「でもね! 絶対助けた人は『ありがとう』って言ってくれるんだよ! これってすごいことだよね! きっと、生徒みんなに一番感謝された生徒会って、きっと穂乃果たちだけだよ!」
そう言って穂乃果は自慢げに胸を張る。
……そうだよな、きっと俺達が生徒会やってたこの一年間も、それを思えばきっと無駄じゃなかったって思える日がいつか絶対来るよな穂乃果!
俺は彩に笑顔でこう言い放つ。
「そうだ! 俺達は生徒全員に感謝されるすごい生徒会なんだぜ!
悩み相談どんと来い! 雑用? 違うね、立派な依頼さ! ……それが俺達、音ノ木坂中学生徒会執行部のモットーだ!」
「……そうですか、先輩たちは随分お人好しな人たちだったんですね。
でも、そんな生徒会があっても良いと私は思いますよ――私はそういうの、大好きです」
そう言うと、彩はにっこりとほほ笑んだ。
「――では! これで取材終了です! 皆様ありがとうございました!」
「ああ、あとはカッコいい記事を頼むよ彩……こんな生徒会もあったんだって事を、しっかり書いてくれよな!」
「はい! 先輩方の生徒会を、後世に残せるような立派な記事にしてみせます!」
彩の自信満々な言葉を聞きながら、俺は改めてこの生徒会があと少しで終わる事を自覚した。
―――色々大変だったけど、それ以上に学べる事が多かった日々だった。
だから……今は笑顔で彩の記事を書く意欲を後押ししよう。
「ああ! 頼むぜ彩っ!」
「彩ちゃんよろしくっ!」
「彩ちゃん……お願い!」
俺と穂乃果とことりは、同時に彩にそう言った。
「はいっ! この御手洗彩に任せて下さい、先輩方!」
そう言って彩は、新聞部の部室の方に勢いよく走り去った。
こうして、千客万来だった今日の生徒会業務は、ようやく終わりを告げた。
そしてその二日後、俺達の生徒会活動を取材した内容の音中新聞が張り出される。
その、音中新聞の素晴らしいタイトルは………
《 音中新聞 》
『やっぱりハーレム生徒会っ! 愛の力で依頼も解決っ!?』
「あのヤロォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」
―――今日も、音ノ木坂中学は平和です。
ここまで読んで下さった方全員に深い感謝を……
では、誤字脱字、意見や感想などがございましたら、是非感想欄によろしくお願い致します。