相良良晴無双   作:空気破壊者

8 / 10
注:原作の話をちょっと変えたが構わない
  オリキャラが出るけど構わない






8戦目

太陽が真上に昇ろうとする刻。

良晴は苦戦していた。

彼には不利な地形の敵地。

足取りが重く、手の動きも鈍くなる。

敵は彼の攻撃を難なく避けていく。

 

 

――――まだだ!まだ俺は諦めねえ!

 

 

良晴は溜まっていく疲労を無視して猛攻をやめない。

そしてついに決着がついた。

 

 

――――………!ここだ!

 

 

良晴の腕が完全に敵を捉えた。

 

 

「獲ったどーーーーー!!」

 

 

 

 

 

良晴は道三との会見が終わって1週間が過ぎ、信奈の命令でとある山奥の村に行った。

その村には龍神が棲み付いていると噂されている「おじゃが池」という池があった。

 

「その龍神を信じきっているせいで村人が人柱として乙女を沈めているそうよ」

 

「なるほど、神や仏を信じない奴にとってはそんな馬鹿なことをやめろ!って思うよな」

 

「よく分かってるじゃない、サル。

だからあんたがその村に行って二度と生贄を捧げないようにやめさせてきなさい」

 

「へいへい、合戦に出れねえ俺はこういう仕事をやっていたほうがいいな」

 

良晴も霊などは信じるが神や仏はあまり信じない。

ましてや生贄をしてまで信じられている神などは一切信じない。

 

「でもなあ……池の底に沈んでる人骨とかは見たくないぜ……」

 

「ぐずぐず言ってないでとっとと行ってきなさい!」

 

 

 

そして、良晴は案内役の犬千代を連れてその村に着いた。

生贄の準備をしているのか村人たちは忙しなく動いており、

服を幾重にも着込んだ祈祷師っぽい人物が火を焚いて儀式をしていた。

その祈祷師の後ろには青白い顔をして震えている和服の少女。

遠目で見てもなかなかの美少女だと分かった。

 

「……あの子が今回の生贄」

 

良晴が少女を観察していたとき、犬千代が淡々と説明してくれた。

あの子が人柱になるのか…余計にこの儀式を中止させてやりたくなったな!

良晴も年頃の男。カワイイ子が犠牲になるのは勘弁ならない。

良晴と犬千代はゆっくりと村人たちに近づいた。

 

「ん、なんじゃお主ら……!?お、鬼!?」

 

村人たちに近づいた時、祈祷師が良晴を指して驚いた。

 

「またか……俺たちは織田家の者だ」

 

良晴は初めて出会った姫武将、今川義元にも鬼と勘違いされた事もある。

勘違いするのも仕方ない。自分たちよりも遥かに大きく、そして筋骨隆々の肉付き。

龍神を信じている奴が、今まで見たことがない巨大な人物を見たらそう思うのも仕方ない。

この時代に来て呼び名は鬼かサルか。

極端な二つを想像したら良晴は不思議と笑ってしまった。

 

「お、織田家のお侍様ですか…

して、なんの御用でしょう?見てのとおり私たちはこれから儀式の準備がありますので」

 

「ああ、その儀式とやらを止めさせる為に派遣されたんだよ」

 

何気なく言った良晴の一言で村人達はざわめいた。

村人達の顔は困惑の顔になり、生贄に選ばれていたオロオロとしていた。

その中で一番早く反応したのは祈祷師だった。

 

「なりませぬ!この池には龍神様がおられる!

龍神様の機嫌を損ねぬようこの娘を贄に捧げねば!」

 

祈祷師は必死の形相で良晴を叱りつけた。だが、良晴は引き下がらない。

 

「本当に龍神様なんているのか?誰も見たことはないだろ?」

 

「いいえ!私はこの目ではっきりと見ました!忘れられぬあの10年前に!」

 

 

 

 

祈祷師が言うにはこうだ。

 

10年前の嵐の夜、祈祷師がこの村を訪れるとき、

空が輝き一匹の巨大な龍がこの池に落ちてきたらしい。

祈祷師は龍神様を一目見ようとすぐさま池のそばにより池を覗き込んだ。

その時池の底から重く低い声が祈祷師の頭の中に響いた。

『若き娘を贄に捧げよ。さすれば我はこの村を襲わずにいよう』

 

 

 

良晴は村人たちに本当にそんな嵐があったかと聞いてみたが実際にあったらしい。

なら、この祈祷師以外に龍神様を見た物はいるのか?

と聞いてみれば誰も首を縦に振らず、首を傾げるだけだ。

しかし、村人達は祈祷師様がそう仰るのなら間違いないと疑わなかった。

この時点で良晴は祈祷師の話を真に受けなかった。

どうにもこの話は作り話の感じがする。

おそらく災害があった時期に祈祷師がやってきてこの話をでっち上げたのだろう。

だが良晴にはある疑問が浮かんだ。この生贄を捧げる行為である。

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「さあ、話は済みましたぞ!織田家のお侍様、どうぞお引き取りください!

儀式を再開させてもらいます!」

 

良晴が考えているとき、祈祷師は再び儀式の準備に入った。

生贄の少女は悲痛の表情を浮かべ、こちらを見ていた。

このままでは儀式が始まりあの少女は生贄に池の底に沈められてしまう。

良晴は祈祷師にちょっと待て、と静止をかけた。

 

 

良晴はここに来る前に二つの策を考えていた。

一つは説得。この策は良晴の口八丁でなんとかなるかと考えていた。

だが、村人達は祈祷師の言葉を信じ説得すらできない。この策は諦めた。

そしてもうひとつの策というのは――――

 

 

 

「……じゃあ、俺が龍神様とやらがいるかどうか証明してやるよ」

 

 

 

――――強硬策だ

論より証拠。良晴が自ら池に潜り、龍神様がいないことを村人に伝える。

 

 

 

良晴は学ランとTシャツ、ズボンを脱ぎ捨てフンドシ一丁になった。

ちなみに良晴が身につけているフンドシは下着一枚というのは困るので

この時代に買った物だ。

祈祷師と村人の男たちは良晴の肉付きを見て言葉を失った者もいれば

「すごい…」と言葉を漏らす者もいた。

少女と村人の女たちはキャーキャーと騒ぎながら手で目を隠すが隙間から

覗いている者もいれば、ゴクリ…と生唾を飲む者もいた。

犬千代は無言で頬を赤く染めた。

 

 

 

「今から、この池に入って龍神様をご拝謁してきてやるよ」

 

 

 

良晴は体が攣らないように準備運動を一通り終えたらザブザブと池の中に入っていった。

池の一番奥深い場所まで行ったが、良晴の顎の下ぐらいの水位しかなかった。

やはりこんな浅い池に巨大な龍など棲むはずがない。

祈祷師が早く出なされ!龍神様の逆鱗に触れますぞ!と叫んでいるが構わない。

池自体はそれほど広くない。なら、しらみ潰しに池の中を歩き続ければ……

良晴がそう考えていたとき足元に()()()が通り過ぎた。

こいつが龍神様の正体か。良晴は池の底を救い上げる勢いで手を振り下ろした。

池の水面(みなも)に小さな水柱が立った。だが、良晴の手には何もなかった。

逃がしたか。良晴はチッと舌打ちした。その時、もう一度良晴の足元にナニカが通り抜けた。

先ほどと同じように手を振り下ろした。が、捕まえられなかった。

まるで、良晴を挑発しているかのようだ。

 

 

 

「お侍様!いい加減になされ!龍神様の機嫌を損ねてはなりませぬ!!」

 

 

 

祈祷師が焦って大声で警告を続けるが良晴は無視をした。

俺の目の前にいるのは龍神なんかじゃない、俺よりも小さい生き物だ。

この水中でこれほど早く動けるのならおそらく水辺の生物だ。

なら、どう動く?生き物の本能なら危険を察知したらすぐ逃げるはずだ。

だが、こいつは逃げるどころか近寄って来ている。その油断を突くしかない。

動けば捕まらない、一瞬で終わらせる。

良晴は腕を上げ静かに呼吸を整え、タイミングを図る。そして、手の先を集中させる。

 

 

―――あせらず、あせらず、心を無にし、動きを悟られない様にする…

 

 

彼の動きはまるで水面に漂う木の葉のようになっていた。

 

 

――――………!ここだ!

 

 

良晴の腕が完全に獲物を捉えた。

 

 

 

「獲ったどーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

時は流れ、夕刻……良晴と犬千代は清洲城の本丸にいる。

部屋の中には三人きり。信奈と犬千代、そして良晴だ。

場所は信奈の茶室。部屋にいるものは皆、信奈の点てた茶を飲んでいた。

この場に良晴と犬千代がいるのは信奈に本日趣いた村についての報告だ。

 

「結局その鯉が龍神の正体だったんだが、祈祷師…いや詐欺師の野郎がそれでも騒いでてな」

 

 

良晴が捕まえたのは大きな鯉。その鯉を陸にやってピチピチと跳ねる姿を見て、

村人達はどよめいた。

鯉を村人たちの目の前に出したが「あれは龍神様の依代だ!」とまだ喚いていた。

 

「へぇ…その詐欺師をどうたしなめたの?」

 

「面倒だったからそのまま池に放り投げてやったぜ」

 

「……なにやってんのよ、あんた」

 

 

 

祈祷師が騒ぎ村人が困惑している時、良晴の我慢が限界になり祈祷師を掴み

「いい加減にしろぉぉ!!」

と叫びながら勢いよく池の中に放り込んだ。

その行動には村人たちだけでなく、犬千代の目が点になっていた。

信奈が呆れてため息を出したが、まだ良晴の話には続きがあった。

 

「あいつが溺れている時に何か言うことがあるだろっていったらな

『助けて!全て話しますから!』って言い出してな」

 

良晴は生贄になっていた少女達に対しての謝罪の言葉が欲しかったが、

予想外の言葉が返ってきた。

 

「どういう意味なのか分からないかったから引き上げてやったら最悪の事を吐きやがった」

 

 

 

その祈祷師は生贄にやる少女たちに竹の筒を持たせ、

忍者が水遁をするように水中で息をする。

その後少女たちは池の対岸まで泳がせ、山道に逃げさせる。ここまでなら人道的だった。

が、その先には山賊を忍ばせておき、その山賊どもに身売りされる。

そして少女を売買した金の少しを祈祷師に渡すというものだ。

 

「結果として生贄になった子は誰も死んでねえが女として殺されちまったってことだ…!」

 

良晴はその話を思い出し、手から血が出るほど強く手を握り締めた。

 

「そう……でもアンタ、その山賊達を放っておいたわけじゃないわよね」

 

「ああ、きっちり潰させてもらった」

 

 

 

祈祷師の話を聞いた後、良晴は五右衛門を呼び、川並衆を集結させた。

五右衛門が音もなく突如現れて、村人達は驚いた顔をしたが、

犬千代は「驚いた」と無表情で言った。

祈祷師が言っていた通り、池の対岸先の山道に山賊達がいた。

いつもは少女が来るのにガタイのいい男たちが来たので山賊達は面食らっていた。

その隙を突き、川並衆と良晴は奇襲をした。山賊達は川並衆よりも遥かに弱かった。

 

 

 

「俺は手が使えなかったから、蹴りだけで戦わなきゃならなかったけど問題はなかったぜ」

 

 

 

良晴の手は先の戦のせいで使えなかった(本当は普通に動く)為、蹴りだけで応戦をした。

だが、手が使えないから不利というわけではない。蹴りの威力は殴る威力の約三倍。

しかも手加減(足加減)ができないので、顔を蹴れば頬骨骨折、胴を蹴れば肋骨骨折、

足を蹴れば足骨骨折…結果的に山賊達は重傷を負った。

その姿を見て川並衆は「流石親分が認めた兄弟!…いや、大将だ!」

と良晴の事を『大将』と呼ぶようになった。

 

 

 

「山賊達を捕まえたって報告したら村人達に感謝されたよ…あと身売りされた少女たちは俺の部下達に頼んで捜索してもらっている……以上が今回の村についての報告だ」

 

「デアルカ。で、犬千代、ほかに報告はある?」

 

信奈は良晴の報告を聞き、黙々と茶菓子とお茶をすすっていた犬千代にも話を振った。

犬千代は少し黙ったあと頬を赤く染め、手を口に持っていきながら言った。

 

 

 

「……良晴の裸……すごかった」

 

 

 

犬千代の爆弾発言に良晴と信奈は茶を噴き出した。

 

 

 

「ササササル!!ああああんた犬千代にななななに見せてんのよ!?」

 

犬千代の言い方に誤解したのか、信奈は激しく動揺した。

 

「池に入るために脱いだんだからしょうがないだろ!?

あと犬千代!誤解を招く言い方すんな!!」

 

 

 

「……良晴、逞しかった」

 

 

 

「やめてええええ!これ以上俺を陥れないでええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「あー…死ぬかと思った…」

 

犬千代の爆弾発言に信奈が抜刀。刀の先を良晴に向けられたが、良晴が必死に

「殿中でござる!殿中でござる!」と叫び、犬千代が「……落ち着いて、姫様」

とたしなめた。

それでも信奈は抜刀した刀を納めず、良晴に斬りかかった。

命の危機を感じ良晴は脱兎の如く逃げ、そして命からがらに良晴の長屋に帰ってきた。

 

「犬千代を置いてきたが、どうか信奈を説得していますように!」

 

良晴が天を仰いで、犬千代に願いを送っているその時、

玄関の扉からコンコンと扉を叩く音が聞こえた。

 

「誰だ…?犬千代は本丸にいるし、浅野の爺様やねねだったら無言で入ってくるし

―――はい、いますよー…っと」

 

「あ、あの…すいません。ここはサル様のご住宅でしょうか?」

 

「サルって……まあ、その通りだけど……ん?」

 

 

 

扉を開けると高い声で小姓の格好をしている子供がいた。

目が大きく睫毛も長い。小さな鼻と口だが全体的に顔が整っている。

髪型はロングの薄紅色でポニーテールの様に束ねている。

一見すると美少女にも見えるが良晴はある違和感を覚えた。

 

 

 

「……お前、男か?」

 

 

 

「わぁ、すごい!大抵の人は僕のこと女の子と勘違いするのに…

僕、ちゃんと男に見えますか?」

 

 

 

良晴が感じた違和感とは骨格の作りが女ではなく男であることだった。

歳をとれば喉仏などですぐにわかる。

もっとも数m離れれば良晴も女の子と勘違いするだろう。それほど可愛いのだ。

この子は現代で言う『男の娘』みたいなものだ。

 

「で、お前は誰だよ?」

 

 

 

「あ、申し遅れました!僕は織田勘十郎信勝様の小姓をやらせてもらっている

――――森蘭丸と申します」

 

 

 

「へー、森蘭丸……!?ちょっと待て!!あの森蘭丸か!?」

 

 

 

「ひぃっ!ど、どの森蘭丸か分かりませんが多分その森蘭丸だと思います」

 

 

 

森蘭丸―――織田信長を知っているものならば知らない者はいないというほど有名。

信長の小姓として務め、信長の亡くなる本能寺の変の時でさえ離れず焼死した。

史実では色々と言われているが美男子と謳われ続けている説が特に強かった。

だが!今目の前にいるのは美男子ではない!男の娘だ!

良晴は自分が知っている知識が崩れ去っていくような感じがした。

 

 

 

「あのー…大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ平気だ…それで蘭丸…って呼んでいいよな?何の用だ?」

 

「あ、はい。蘭丸でも構いません。

その信勝様がサル様を一目見ておきたいと仰っているので…

着いてきてもらえませんか?来てもらわないと僕、怒られちゃうので……」

 

「信勝…っていうと、信奈の弟か?」

 

「その通りでございます」

 

 

 

織田信勝―――と聞いて良晴が思い浮かぶことは謀反の常連者(ゲームの中で)。

『織田信長公の野望』ではほぼ100%の確率で謀反を起こす信長の弟だった。

史実では変わり者の信長とは対照的で落ち着いた雰囲気を出す人物と言われている。

まあ、いつかは信奈経由で会うこともあるかもしれない。今あっても別に構わないか。

それにここで断れば怒られるかもしれないと言われて目を潤ませている蘭丸が可哀想だ。

 

 

 

「わかったよ、連れて行ってくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

良晴が着いてくると聞いて蘭丸はパァッと明るい笑顔を見せた。

この表情を見れば大抵の男は、男と分かっていてもドキッとしてしまう。

しかし良晴はいかに女顔であろうと同性には興味がないのでとりあえず笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【森蘭丸】の設定 年齢15歳 男


容姿:ロングの薄紅色の髪をポニーテールの様にしている
   目が大きく睫毛も長い。小さな鼻と口だが全体的に顔が整っている。
   身長146cm。男の娘。
   気が弱い為強引に信勝の小姓にさせられている。



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