相良良晴無双   作:空気破壊者

7 / 10
注:原作と少し違うが構わない






7戦目

 

 

「……小僧、今なんといった?」

 

 

 

良晴がつぶやいた挑発的な発言は道三に聞こえたようだ。

その声には年老いた狒々爺ではなく蝮という名にふさわしい覇気を込めていた。

だが、良晴は訂正しない。

 

 

 

「よく聞こえなかったようだからもう一回言ってやるぜ、まるで茶番だ。

道三、アンタが今何を考えているか、俺には分かる。

だが、アンタは信奈に自分の想いを分からせるためにわざと挑発に乗っているんだろ?

この頑固ジジイが!」

 

黙りなさい、サル!と信奈は一喝するが、道三はそれを待てと遮る。

 

「座興じゃ、言わせてみようぞ……小僧、まことにワシが何を考えているか、わかるのか?

もしデタラメを抜かせば小僧、我が小姓・十兵衛がそなたを斬るぞ!」

 

 

 

バカっ黙ってなさいよ!蝮に詫びなさいよ!と信奈がさらにしかりつけてくる。

実のところ良晴は後悔し、怖がっていた。

ああ、本当は怖ぇよ。今すぐにでも道三に謝ってこの恐怖から逃げてえよ。

だがな、信奈の悲しそうな顔を見たらそうもいかねえ!

同じ美濃を狙った道三なら理解してくれるって思っていたのに拒否されているって

勘違いしている信奈を放っておけねえ!

すれ違ったままで戦をするなんて事はさせねえ!だからこそ言ってやる!

 

 

 

「道三、アンタはこの後、家臣にこう言うはずだ!

『ワシの子供たちは、尾張の大うつけの門前に馬をつなぐことになる』ってな!」

 

つまり、道三自身が「自分の息子は信奈に敗れて美濃を奪われる」と予言することになる、

という意味だ。

 

「バカサル!!なんて失礼なことを言うのよっ!本当にアンタ斬られたいの!?」

 

流石の信奈も顔色を青くしていた。

 

「なんとっ!」

 

道三は驚きの声を上げ、その表情は驚愕していた。

良晴が宣言した言葉はまさしく一言一句、道三が考えていたことと同じであった。

 

 

 

「次にアンタは、『小僧、我が心を読んだか』という」

 

 

 

「こ、小僧!貴様、我が心を読んだかっ?……ハッ!」

 

 

 

良晴の宣言、またも的中。

道三は顔を青くし、この小僧、いかなる術を使ったっ?と胸中で思っていた。

一度目は歴史を知っていた為当てることは確実だったが、

二度目は何となくこう言うだろうなー、と思い言ってみただけ。

まさか、本当に言うとは…と良晴は逆に驚いていた。

 

 

 

「ま、おふざけはこれぐらいにして…爺さん、俺は未来から来たんだ。

そして、アンタは戦国時代の有名人。だからあんたのことはいくらか知ってただけだ。」

 

「未来じゃと…しかし、そのようなことが…」

 

未来から来たという言葉に道三は真偽かどうか疑っていたが良晴は続けて言った。

 

 

 

「爺さん、アンタは自分の息子たちが信奈の持っている器に遠く及ばないと理解しているはずだ!

だから美濃に帰ったら、こっそり信奈宛に『美濃譲り状』をしたためるつもりになっている!

今は迷っているが、アンタは必ず書く!」

 

 

 

「グッ……しかし、美濃の蝮として、信奈殿と潔く一戦交えたいと願うのも我が本心!」

 

 

 

「いやっ!本当は信奈との戦なんてしたくねえんだ!

『天下統一』というアンタの野望(ゆめ)を受け継いでくれるのは信奈しかいねえ!

信奈に美濃を譲れなきゃ、アンタのこれまでの人生は全部無駄になっちまう!

だからこそ譲りたい!しかし主君を裏切り続けて国を取った自分と同じ運命を渡らせたくはない!

アンタがただ一人孤独に!誰にも理解されず一人の力で切り開くしかなかった様に!

それを分からせるためわざわざ戦を仕掛けるしかなかった!

否定できるもんなら否定してみやがれ!」

 

 

 

道三は歯を食いしばった様な表情を浮かべていたがその表情はだんだん変わっていった。

そして掌を額にもっていき「フハッ」という声を漏らした。

 

 

 

「ククク…ハッハッハッハ!!織田家にこれほどまでの知略家がいるとは思わなんだ!

まさか足軽風情に我が心を読み切られるとはのう……よし!決めた!」

 

「え…?蝮?」

 

道三は開いていた扇子をパンッと鳴らし折りたたんだ。

 

 

 

「小僧!貴様のおかげで、この蝮、最後の最後に素直になることができたわ!

わしの野望(ゆめ)を信奈殿に……いや、我が義娘(むすめ)に受け継いでもらおう!」

 

 

 

良晴はその言葉を聞き、ようやく安堵の表情を浮かべることができた。

信奈は意外そうな顔で「…え?…え?」と道三と良晴の顔を交互に見た。

 

 

 

「言ったはずであろう?

わしができぬと思うても、わしの息子や()()にでも天下への道を拓くまで……と。

わしが出来ることといえば美濃を譲ることだけじゃ」

 

「……あっ」

 

 

信奈はようやく気づいた。最初から道三は信奈の事を応援するつもりでいた事を。

その時、信奈の目が少し潤んで見えた。

 

 

 

「じゃが一つ言わせてもらおう!お主の野望(ゆめ)はお主一人で叶えるな!

それができぬならすぐにでも美濃を返してもらおう!」

 

 

 

不器用な義父(おやじ)からの忠告。

野望(ゆめ)は一人で叶えるものではない。誰かと分かち合い、そして叶えるものだから。

道三の想いが信奈にちゃんと伝わったか分からないが美濃と尾張の同盟は結ばれた。

 

こうして、信奈と道三の会見は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

道三と信奈の会見が終わってしばらく経ったあと、良晴は道三に呼ばれた。

道三の小姓である十兵衛と呼ばれた少女が私も同席してよろしいでしょうか?

と言ったが道三は構わん、小僧にちと話があるだけじゃ、とやんわりと断った。

この時良晴は、やべぇ!道三に対して失礼な言い方をしすぎたか?と内心ビクビクしていた。

 

「さて…小僧よ…って何を緊張しておる、普通にして良いぞ」

 

「……そう言ってもらえると助かるぜ」

 

「しかし小僧…なかなか肝が座っておるのう…

一歩間違えればお主の言葉を聞く前に斬られておったのに」

 

「大丈夫だ、アンタは信奈の主義主張を黙って聞いていた…

そんな爺さんが何も聞かずに斬るとは思わないさ」

 

「ほう…」

 

「第一、俺はあんな女の子に黙って斬られる程弱くは…」

 

「…良かったのう、お主。十兵衛が聞いておったら既に黄泉の国へ行っておったぞ……

あやつはああ見えて鹿島新当流を免許皆伝しておるのだぞ?」

 

「……聞こえてないよな?前言撤回、絶対勝てねぇ!」

 

 

 

良晴は振り返り、遠くにいる十兵衛と呼ばれていた少女を見る。

鹿島新当流。これを聞いて連想する人物は、足利義輝、塚原卜伝といった剣豪達だ。

特に塚原卜伝といえば『剣聖』とも謳われ、斬って捨てた剣士の数が212人いるという人物だ。

その流派を免許皆伝した少女。人は見かけによらないものである。

 

 

 

「フハハ、自分の実力を見極めるのもまた必要な事……小僧、お主なら頼めるかもしれぬな…」

 

「ん?頼み事か?俺に出来ることならいいんだが」

 

「先ほどの会見で信奈殿が『世界』の話をした時に言った言葉を覚えておるか?」

 

「家臣からは誰にも理解されずに一人孤独に……ってやつか?」

 

「そう、あの子には忠告したが、それでも誰にも理解されずに一人孤独に世界へ旅立つじゃろう……そこでじゃ…」

 

道三の目つきは真剣な眼差しから慈愛に満ちた目つきに変わった。

 

 

 

「信奈殿…いや、()()()、信奈ちゃんの野望(ゆめ)をお主が支えてやってはくれんかの?」

 

 

 

道三の放った言葉には重々しく、そして切なる願いが込められていた。

自分の娘を誰かに頼る様に。父親が娘を心配するように。

 

「……野望か…どうして俺はおっさん達に野望関連を頼まれるんだろうな」

 

「ほう…わし以外にもそういう御仁がおったのか?」

 

「ああ、死んじまったけどな」

 

「…そうか」

 

 

 

良晴はどこか遠い目で自分を庇って死んでしまった木下藤吉郎のことを思い出していた。

誰かの為に命を張ることができた漢。志半ば野望(ゆめ)を良晴に託した漢。

藤吉郎のおっさん…俺はまた誰かの野望を背負っていくよ。

 

 

 

「爺さん。世界を渡るっていうのはまだ考えさせてくれ」

 

「ぬぅ…」

 

「だけど、あいつの『天下統一』っていう野望は俺が支えていってやるよ。

()()()()の俺がな」

 

「……そうか」

 

道三の顔は夕暮れに照らされて見えなかったが、良晴には笑っている様に見えた。

 

 

 

 

道三との会話が終わったあと本堂で待っている信奈達と合流した。

 

「サルの分際でご主人様のわたしを待たせるとはいい度胸しているじゃない」

 

信奈は待たされていたせいかカリカリした口調で文句を言った。

 

「いや、悪かったって……」

 

「で、蝮のジジイはあんたになんて言っていたの?」

 

「あー…なんかお前の野望を一緒に支えてやってくれって…」

 

「なっ!……あ・の・ジ・ジ・イ~!!」

 

信奈は顔を赤くして、拳を握りワナワナと震わせていた。

良晴は苦笑いを浮かべたとき、信奈はバツが悪く感じたのかゴホンッと咳をたてた。

信奈はなんとかして別の話題をふる為に「そんなことよりも!」と大きな声を出した。

 

「サル!あんた未来から来たってことをどうして私に黙ってたの!」

 

「いや、お前絶対に未来から来たって言っても信じないだろ?」

 

「当たり前じゃない!わたしは合理主義で、神も仏も怪異も信じない!

ましてや未来から来たなんて信じるわけないじゃない!」

 

「ホラな!そんなやつに言ってどうする!?」

 

「……ちなみに、犬千代は知ってた」

 

「なんで飼い主のわたしよりも先に小姓の犬千代に教えてるのよ!」

 

「飼い主いうなっ!信じないお前よりも()()の犬千代が信じるって分かってたんだよ。

だから…って痛っ!」

 

「……良晴、犬千代のことを子供って言わない」

 

 

 

喚く信奈と犬千代に脛を蹴られ脛を抑えている良晴とふくれっ面の犬千代。

その姿を見て帰り際の道三は愉快そうに笑い、

「ワシのような老人よりも、信奈ちゃん達のような若者達が未来を拓くのじゃろうな」

と、一人呟いた。

 

 

 

「はぁはぁ…もういいわ、サル。聞きたいことはまた今度聞くから」

 

「おう……分かった……でも、痛みが引くまで待ってくれ……」

 

 

 

信奈は少し頭にきたのか、脛を蹴られ片足を持って膝を押さえる良晴の股間に蹴りを入れた。

良晴は危険を察知し、片手で股間をガードした。

が、股間をガードしたといっても完全に防げる訳ではない。

初めて蹴られた時よりも蹴りの威力は弱かったがしばらく行動不能にするには十分だった。

 

 

 

「そろそろ帰るわよ、犬千代……じゃなかった、サル!わたしの草履を返しなさい!」

 

「おっと草履か…ちょっと待てよ、緒の部分の布が綻びかけてるから……」

 

良晴は道三との会見が始まり、縫い途中だった草履を出し再び縫い始めた。

 

「ちょっ、何してんのよこの変態サルー!!」

 

「うぉっ!縫ってんだから大声出すのやめろよ、指に刺さるだろ?」

 

信奈は、どういうわけか激怒しているらしかった。真っ赤だった顔が更に真っ赤になるぐらい。

 

「ああああんた、わたしの足の裏の匂いを嗅ぎたくて草鞋をそんなに顔に近づけてるんでしょっ!

もしかして、わらじで興奮する男なのっ?うわっそんな高度な変態初めて見たっ!

やっぱりこいつの前でわたしの美しい素顔を見せたのは生涯の不覚だったわっ!

まあでもここで手討ちにしてしまえばいいわけだし、是非に及ばずねっ!」

 

「待てぇぇぇ!俺はそんなつもりはないっ!ただ俺はこういうのが見逃せない性格なんだっ!」

 

「はぁ?そんな図体してる癖にそんな小さいこと気にするの?分かった!

そういう理由をつけてまでわたしの足の裏を嗅ぎたいってこと?やっぱり手討ち決定ね!」

 

「どうしてそうなるんだよ!?」

 

抜刀。

信奈がいつもよりもハイテンションなのは、うつけをやめたからか。

道三が自分の野望を理解してくれたことからか。

 

 

 

「今こそ成敗してあげるわ!」

 

 

 

刀を振り回して良晴を追いかける信奈。

 

 

 

「うわっ!やめろっ!縫ってる途中に……って、痛ぇ!針が指に刺さった!!」

 

 

 

追い掛け回されながらもなお信奈の草履を縫い続ける良晴。

縫いながらでも信奈に追いつかれることはまずなかった。

 

 

 

「……姫様のこんなおもしろい顔、生まれて初めて見た」

 

 

二人の追いかけっこを遠くで眺めていた犬千代は一人呟いた。

 

 

 

 

 

 




ようやく美濃の同盟編終了。
次回、原作には出なかったオリキャラが出ます。


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これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

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