相良良晴無双   作:空気破壊者

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注:良晴だけではなく道三も魔改造(格好良い)だけれども構わない







6戦目

 

 

信奈が火縄銃を発砲して1時間後、信奈及び家臣一同は正徳寺に到着した。

 

「……姫様、道三どのはすでに本堂へと到着されているとの由」

 

犬千代が信奈に拝礼しながら報告した。

 

「デアルカ。わたしも着替えなくちゃね」

 

「あれ?着替えるのかよ?」

 

「そりゃあこれから美濃の蝮と対面するっていうのにこの格好はおかしいでしょ?」

 

 

 

あ、そうか。と良晴は納得したように言った。

『織田信長公の野望』でも信長は正装で会見に出るんだったよな。

良晴が思い出している時、信奈は脱いだ草鞋を犬千代に渡そうとしていた。

 

 

 

「おいおい、草鞋取りは俺だぞ?」

 

「あ、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」

 

「……草履取りの役職忘れていたんなら俺を連れてきた理由はなんだよ?」

 

「えっ…えーっと……飼いサルだから?」

 

「散々悩んだ挙句思いついた理由はそれかいっ」

 

 

 

信奈から草履を受け取った良晴は自分の存在理由ってなんだっけ?と本気で考え、涙目になった。

 

 

 

 

 

正徳寺の本堂。

両軍の兵士たちは、衝突を避けるためにこの本堂からはずっと遠ざかっている。

本堂から丸見えになっている広い庭には、良晴と犬千代。

さらに、おそらくは犬千代と同じ任務を道三から言い渡されているのであろう、

美濃の小姓らしき女の子侍が一人。

きりりとした利発そうな美少女だったが、妙におでこが広いのがやや気になった。

その侍はなぜかこちらの方をジッと見ている。

犬千代になんで見ているんだ?と相談しようと振り向いたら犬千代が良晴を見上げていた。

 

 

 

「……良晴、なんでそんなに大きいの?」

 

 

 

ここで私語していいのか?

と良晴は犬千代に注意をしようとしたが隣からの視線が強くなった。

振り返ると犬千代との会話が聞こえていたのか、女の子侍が聞きたそう顔をしていた。

ああ、なるほどな。と良晴は学生時代のことを思い出した。

良晴の高校時代、同級生の友達からは

「どうやったらそんなに身長が伸びるんだ?」

とかをよく聞かれた。その時と同じような感覚だ。

 

 

 

「……普通に寝て起きて運動してちゃんとした栄養を取ったら大きくなるさ」

 

「……なるほど」

 

 

 

良晴が小声で説明すると犬千代は納得したように頷いた。女の子侍も同様に頷いていた。

二人が納得している時ゴホンッとわざとらしい咳が本堂から聞こえた。

咳をしたのは本堂にいる美濃の蝮、斎藤道三だ。

歴戦の戦国大名らしく、堂々の貫禄たるものを発していた。

老いてはいるがその体にたるんだところがなく、がっちりとした体格だ。

その時道三の視線がこちらに向けられていた事は良晴は気付けなかった。

 

 

 

 

 

道三は庭先にいた良晴の事を観察していた。

こやつ…先程わしが信奈殿を観察しておったところ、急に辺りを見回したと思うたら…

一瞬だがこちらを見ておったな…偶然か、はたまた……面白い奴じゃ……

だが、なぜ信奈殿はこやつに小姓と同じ役目を与えておるのじゃ?

火縄銃ばかりに目が行き過ぎて兵を見る目が無かったら……

流石にそんな「うつけ者」じゃったらこの同盟は破棄せねばならんのう…

道三は信奈が来る間に同盟を結ぶべきかどうかを何度も考え直していた。

 

 

 

 

 

信奈の着替えが始まって小一時間経とうとしていた。

不意に良晴は手に持っている信奈の草履を見た。

そういえば木下藤吉郎は「懐に入れて殿の草履を温めておりました」という逸話が有名だった。

良晴も実行しようと思ったが今日はそれほど寒くもない。

むしろ温めたら不快になるぐらい暖かった。

じゃあやめておくか、と良晴が横に置こうとした時、草履の鼻緒を見た。

近くで見なければわからないが布の部分がボロボロになり、鼻緒が綻びかけていた。

良晴は懐から裁縫道具を出し、布の修復にかかった。

大方の破れている部分が縫い終わり、あとは細かい所を修復しようとした時、本堂に声が響いた。

 

 

 

「美濃の蝮!待たせたわね!」

 

 

 

突然、信奈が本堂へ姿を現した。

道三は、口にしていたお茶を噴いた。良晴は手に持っていた草履をポロリと落とした。

良晴はサルになったように口をぽかんと開いて、視線は信奈に釘付けとなった。

とにかく今までの奇妙なうつけ姿ではなかった。輝く茶色いがかった長髪をはらりと下ろし、

最高級の京友禅の着物を艷やかに着こなしたその姿は、まさしく尾張大名・織田家の姫君。

前に男みたいな性格とファッションセンスだと思ったが改めなければならない。

例えるならこいつは原石だ。

まだ磨かれていない部分もあるが完成すれば誰にも負けない輝きを見せる。

いや、そんな遠まわしな言い方はしなくていい。綺麗だ。

可憐にして高貴な存在、それが織田信奈。

 

 

 

「な、な、な……なんという美少女っ!?」

 

 

 

良晴は美少女って表現すればよかったのか、と道三が漏らした感想に一人納得していた。

信奈は、すすっと優雅な足取りで、道三の正面へと腰を下ろした。

 

 

 

「わたしが、織田上総介信奈よ。」

 

「あ、うむ、わしが斎藤道三じゃ……」

 

 

 

道三は年甲斐もなく照れてしまったせいか、わざとらしい咳をゴホンッとして一拍を置いた。

信奈は「デアルカ」と女の子らしいカン高い声で返事をし、髪をかきあげながら茶を一杯口にした。その飲み方も、実に作法にかなっていて完璧だった。

 

 

 

「さて、本題よ。蝮!今のわたしには、あんたの力が必要なの。わたしに妹をくれるわね?」

 

 

 

本題、と聞きピクッと眉を釣り上げ顔に威厳というものを取り戻した道三。

迫力満点の悪人面になった。

 

 

 

「いや、それにはまず、お主の力量を見極めなければのう……力無き者には娘は預けられん」

 

道三は手元にあった扇子をパンッと鳴らし、扇子を開いた。

 

「わしの判断次第では…この場でお主の命を盗らねばならんのう」

 

 

 

良晴は道三の言葉を聞き内心焦っていた。

『織田信長公の野望』も選択肢をミスったらいきなり死亡……という事もあったな…

少しでも信奈が答えられなかったり迷ったりしたら即座に死亡or道三と合戦!

 

 

 

「まず聞きたいことは…そうじゃな、庭先に居るあの大男…あやつは何ものじゃ?」

 

 

 

良晴が色々と対策を考えている時、いきなり道三の疑問の矛先が良晴に向かった。

ハァッ!?なんで俺!?と心の中で叫ぶ良晴。

 

 

 

「相良良晴、通称サルよ」

 

「サルと呼ぶのか…あやつ程の大男はわしの生涯の中で見たことがないほどの大男じゃのう…

して、何故あやつは小姓と同じ役職を与えておるのじゃ?」

 

「……あいつは先の戦のせいで手を負傷しているの。

槍も持てない奴を戦に出すなんて馬鹿な事はしないわ」

 

「なるほどのう……ただ、あやつの場合戦に出したほうが良いのでは?

あやつほどの歳ならば子供の一人や二人養わねばならないしのう」

 

 

 

道三の言葉に良晴はピシッと石になった。

ああ、この爺さんもまた俺の歳を……

そして良晴は無言で手をまっすぐ上げた。

 

 

 

「そうね…その方が……ってなによ、サル。なんで手を挙げてるのよ?」

 

 

 

「お言葉ですが、俺は17歳だっ」

 

 

 

良晴は訂正する為にも声に出さねばならなかった。例えそれが大事な会見であろうとも。

良晴の発言に道三、信奈はおろか、隣の女の子侍まで目を見開いてこちらを見てきた。

 

 

 

「な、なんとっ!義龍よりも年下っ!?」と驚く道三。

 

「えっ、嘘っ、わたしと同じ年だったのっ?」と戸惑う信奈。

 

隣からはありえないです、ありえないです。という呟きが聞こえてくる。

良晴は顔を手で隠しメソメソと泣いた。隣にいた犬千代はよしよしと背中を撫でてくれた。

 

 

 

「えー……あー…ウォッホン、あやつ…いや小僧の話はこれぐらいにしておこうかのう」

 

「え……ええ、そうしましょう。話が進みそうにないから」

 

 

 

泣いている良晴をよそに道三と信奈は話を進めていった。

うん、老け顔って呼ばれ慣れてるからいいや。

無事に話が進みそうなら俺が犠牲になってもいいや。

と良晴は(無理矢理)自分に言い聞かせた。

 

 

 

「なるほどのう…お主が種子島を揃える理由は分かった。

この同盟を結び次第攻めるとしたら…まずは今川かの?」

 

「いいえ、美濃を攻めるわ。あんたが『天下』を盗る為に美濃を狙ったようにね」

 

「ほう!何故わしが天下盗りを目論んでいたと断言できるのじゃ?」

 

「美濃を制する者こそが、天下を制するからよ!美濃こそが日本の中心だもの!

西は京の都に連なり、東は肥沃な関東の平野へとつながっている。

この美濃に難攻不落の山城を築いて兵を養い、天下をうかがう。

そして(とき)が来れば一気に戦乱の世を平定し、日本を平和な国にする。

商人が自由に商いに精をだせる、そんな豊かな国にする。

それがあんたの野望だったのでしょう?」

 

 

 

信奈は自信に満ちた瞳できっぱりと言った。確かに全て理にかなっている。

智謀に長けた頭脳。圧倒的なカリスマ性。そして原石とも呼べる美貌。

天は彼女に何物を与えたのだろうか。

良晴がそんなことを考えていた時あることを疑問に思った。

何故信奈はうつけと呼ばれているのか?

 

 

 

「クハッ、ククク……もはや何もかもお見通しのようじゃのう……

だがのう、わしは天下を諦めてはおらぬ!わしができぬと思うても!

わしの息子や娘にでも天下への道を拓くまでじゃ!!

たとえお主のような小娘を踏み潰してもな!」

 

 

 

道三の顔からは先程までの余裕の持った表情が消え、

代わりに獰猛な蝮と呼ばれてもおかしくない表情を浮かべた。

 

 

 

「あんたが簡単に美濃を渡す気がないって分かっていたわ…

でもわたしはここで立ち止まりはしない!わたしの野望(ゆめ)は日本をこんなふうに乱れさせた古い制度なんか全部叩き壊して、南蛮にだって対抗できる新しい国に生まれ変わらせてみせる事!『世界』にだって行ってみせる!」

 

「『世界』と来たか!お主の家臣は誰一人理解できぬであろう!()()()()に!!

世界に渡ろうとしておるのか!!」

 

「ッッ!…それでもわたしは進み続ける!誰に理解されずとも!!」

 

「そうか…ならばまず手始めにわしの首を盗らねばならぬぞ」

 

「望むところよ!!」

 

 

 

『世界』。この時代の人間には到底理解できないだろう。

仮に理解できたとしても信奈の考えには誰も着いていかないだろう。

自分の国で精一杯のこの時代、だからこそ皆『うつけ者』と呼ぶ。

そして、道三は一人孤独に生きる生き方を心配してのこの行動。

その考えを止めるための行動。

対して信奈は理解してくれると思っていた道三へのこの行動。

失望の念からくる行動。

傍から見れば、大名同士の国盗り合戦が始まりそうな雰囲気だが、

良晴から見てみれば親子ゲンカの様なもの。

理解しているのにすれ違ってしまった者同士。このままでは戦争が始まってしまう。

この流れを変えることができるのは未来を知っている良晴だけ。

だがお互い頭に血が昇っている為、ただ止めようとしただけでは聞き流されてしまう。

ならここで取るべき行動は―――――

 

 

 

「ハァ……まるで茶番だな」

 

 

 

 

―――――挑発だ

 

 

 

 

 


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