相良良晴無双   作:空気破壊者

5 / 10
注:良晴万能説だけど構わない
 

 


5戦目

誰もまだ行動しない時間帯。

良晴は外に出ていた。

良晴は静かに座り込む。

時間は卯の二つ刻(午前五時半)。

良晴は手の先を集中させる。

彼の視線の先はゆるりゆるりと流れる川。

 

 

―――あせらず、あせらず、心を無にし、獲物に悟られない様にする…

 

 

彼の心はまるでこの流れる川のようになっていた。

 

 

―――さて……来たか……

 

 

そして、良晴の腕は大きく動いた。

 

 

「いよっしゃーーーーーー!!」

 

 

 

良晴はあの長屋の騒動から4日が経ち、今は釣りに興じていた。

庭にあるうこぎだけでは良晴にとってあまり腹の足しにはならない。

その為次の日からやったこともない釣りをし始めたのである。

一日目は小振りな(10cm以下の)ヤマメが2匹釣れた。

二日目は昼になるまで粘ったが一匹も釣れず。

三日目は雨の為、行けなかった。

そして本日四日目。コツを掴んだのか、ただいまの釣果は20cmのヤマメが2匹釣れた。

 

「始めてから30分ぐらいで2匹か……この調子ならねねと浅野の爺さんの分まで釣れかな…っと」

 

良晴はそう呟きながら軽く竿を振り、餌をつけた釣り針を放った。

 

 

 

 

 

「釣果は5匹か…上々だな」

 

釣りを始めてから一時間半、良晴はヤマメ4匹イワナ1匹を釣った。

入れ食い状態とは言えないが初心者にしてはなかなかの釣果だ。

久々にうこぎ汁以外の飯が食える!と少々興奮気味の良晴。

 

「さて、帰るとするか」

 

良晴は釣った魚の目に紐を通し、竿を肩に担いで帰路に就いた。

 

 

 

 

 

「……よし、調理も終わったし犬千代達を呼ぶか」

 

「……呼んだ?」

 

「うぉっ!?い、犬千代っ!それに浅野の爺さん、ねねも…いつの間に…」

 

「おうおう、朝から豪勢な料理じゃのう」

 

「おおっ!美味しそうな料理ですぞ!サル殿が作ったのですか?」

 

良晴が釣ってきた魚を調理し終わった時、犬千代、浅野の爺さま、ねねがいつの間にか

良晴の長屋に入っていたことに気づいた。

調理に集中しすぎていた様だ。

 

「ハァ……ま、いいか。呼ぶ手間も省けたしな」

 

本日の朝食

ヤマメの刺身×4

イワナの塩焼き×1

うこぎとヤマメのだし汁×4

 

「……美味しい……けど、味が薄い」

 

「刺身の味付けは下ごしらえに塩しか使ってないからな…醤油があればよかったんだけどな」

 

「ねねはこの味付けでも好きですぞ!」

 

「おうおう、年寄りのわしには薄味の方がいいのう。サル殿は料理が上手じゃのう」

 

「そ、そうか?

へへ、こう見えても俺の通信簿は体育だけじゃなくて家庭科の成績も5だったんだぜ」

 

良晴の両親は父が海外、母はパートという共働きの家庭である。

そんな両親が忙しい中で良晴は何故ここまで成長したのか?

その答えは良晴が自分で食事を作りバランスのとれた食事をしていたからである。

ちなみに良晴の成績は体育、家庭科、日本史(戦国時代の時のみ)は5。

あとは2ばかりである。

 

「つうしんぼ?かていか?」

 

「えーと、通信簿って言うのはな、学校…この時代で言う寺子屋だっけな?

そこの成績が書かれている紙の事だ」

 

「……よく分からない」

 

「簡単に言えばな…運動がよくできて、家庭的な事…料理とかがよくできましたって事だよ」

 

「……それなら分かる」

 

 

 

 

 

「……ごちそうさま」

 

「ごちそうさまでしたぞ!」

 

「ごちそうさまじゃ」

 

「はいはい、お粗末さまでした」

 

手を合わせ良晴たちはご馳走様といい朝食を済ませた。

ねねは「また美味しいものをお願いしますぞ!」と良晴にお願いをして、

浅野の爺さまと一緒に帰っていった。

良晴は魚の頭と骨だけが残っている器を片付けている時犬千代が「そういえば」と言った。

 

「どうした、犬千代?」

 

「……姫様が呼んでた」

 

「おっ!待ってたぜ!いよいよ合戦か?」

 

「……今は合戦の準備中…でも今日は姫様の大事な会見」

 

「会見?どこかと同盟を結ぶってやつか?」

 

「そう……姫様は美濃の蝮と同盟を結ぶ会見をする」

 

「美濃の蝮?……誰だっけ?」

 

良晴は美濃の蝮と聞いてもピンとこず、うーんと唸って思い出していた。

 

「……蝮は美濃の大名、斎藤道三」

 

 

 

斎藤道三、と聞き良晴はようやく思い出した。

元は油売りの商人でありながらも美濃の大名として出世した男だ。

油売りの商法で

「漏斗を使わずに一文銭の穴に通して油を注いでやる。油がこぼれたらお代はいらねぇよ」

といって油を注ぐ一種の芸を見せたという逸話は良晴もよく覚えている。

今思えばそういう器用さと度胸があるからこそ美濃を乗っ取ることができたのか、

と良晴は感心した。

そして織田信長の義父になり、道三の娘、帰蝶はのち信長の妻になった。

 

 

 

「斎藤道三と会見か……っていうことは正徳寺に行くのか」

 

「……?良晴、まだ会見の場所は分かってない」

 

「俺が未来から来たって前にも言っただろ?

信長…間違えた。信奈が道三と会見する場所も知ってんだよ」

 

「……良晴、今日の会見で同盟ができる?」

 

「……信奈の性格だと破棄する可能性もあるな」

 

 

 

良晴は初めて信奈と出会った時のことを思い出した。

茶色がかった髪にでたらめな茶筅を結って、湯帷子を片袖にし太刀と脇差をわら縄で巻き、

腰の周りには火打ち袋とひょうたんをぶら下げ、そして腰と足を覆う袴の上には虎の皮を

腰巻のように巻いていた女の子。

名前を間違えただけで男の急所を蹴り上げた。今思い出しても内股になってしまう。

見た目は女の子なのにファッションセンスと中身が男みたいな尾張の姫大名。

口が出る前に手を出して同盟を破棄するかもしれない。

 

 

 

「まぁ、何かあったら俺がサポートすればいいよな……できればだけど」

 

「……とにかく良晴もちゃんと来る……あ」

 

「ん?どうした?」

 

「……犬千代の服……肘の部分が破れてる」

 

「おお、ホントだな…縫えるか?」

 

「……むぅ」

 

犬千代は裁縫が出来ないらしく、少ししかめっ面をした。

 

「やれやれ…ホレ、縫ってやるから貸してみろ」

 

「?良晴、縫えるの?」

 

「さっきも言っただろ?家庭科は得意…あー説明するのが面倒だな…ま、いいか。

脱いでる間俺の学ラン着とけ」

 

 

 

良晴はなぜか懐に入っている裁縫道具を出し、学ランを犬千代に渡した。

犬千代は「……良晴のコレ、おおきい」と背丈には合わないぶかぶかな学ランを着て呟いた。

袖部分が長過ぎて、手全体が覆ってしまっている。現代でいう『萌え袖』というやつだ。

ロリ属性のある男なら今すぐ悶絶するだろう。

だが、そんな姿の犬千代に目もくれず良晴は着々と犬千代の服を縫う。

大男が裁縫をする光景。なんともシュールである。

 

 

 

「……良晴、お母さんみたい」

 

「うっ……み、未来の男はな、これぐらいできないと女の子にモテないんだよ」

 

 

 

 

 

信奈と道三の会見場所は史実通り正徳寺だった。

正徳寺は美濃と尾張の国境にある門前町(寺院勢力が治める町)で、

両国の軍勢が立ち入れない非武装中立地帯である。

 

「だから会見場所としては最適ってことか」

 

「なにブツブツ言ってんのよサル、さっさと歩きなさい」

 

正徳寺へ向かう道中で良晴が納得していた時、

隣にいる馬上の信奈はイライラしたような口調で言った。

良晴は信奈の草履取りいう役職の為、信奈の隣を歩いている。

 

「なあ、これから会見だからってそんなにピリピリするなよ」

 

「これからの会見のことにイラついてるんじゃないわよ!それとは別のこと!」

 

「会見の事じゃない?…もしかして今川関連か?」

 

「そうよ。あんたがわたしを助け……し、志願してきた時に倒した武将…

朝比奈だっけ?そいつを牢に入れてたのに脱獄してたのよ!」

 

「は?」

 

良晴は信奈が言ったセリフに耳を疑った。

 

「朝比奈泰朝が脱獄した?あの怪我でか?」

 

「……脱獄した手口から見て今川の乱破の仕業らしいわ…

ああもう!今川の情報を少しでも手に入れたかったのに!!」

 

信奈は怒りに満ち、頭をバリバリと掻いた。

 

「……ま、まぁ、気持ちは分かるがこれから会見なんだしそんな姿を道三に見られたら――」

 

 

 

良晴は自分の言った言葉を聞き、ある事を思い出した。

斎藤道三は「うつけ者」と評されていた信長が多数の鉄砲を護衛に装備させ、

正装で訪れたことに大変驚き、道三は信長を見込むという話を。

 

―――もし、道三がこの場を見ていたら

 

良晴は辺りを見回し、ここを見るのに適した場所……ここよりも高い場所を探した。

良晴がある一点を見たとき視界の中に光が反射する箇所があった。

こんな自然だらけの山の中に光が反射するものなど普通はない。道三だ。

おそらく遠眼鏡かなにかでこちらを観察しているのだろう。

良晴はその事に気づいたが信奈は気づいていないようだ。

 

 

 

「おい、信奈。少し落ち着け」

 

「なっ!主君を呼び捨てにするなんて…」

 

「道三に見られてるぞ」

 

「え?」

 

信奈は道三に見られていると良晴から聞いた途端背筋を伸ばした。

そして、どこから見られているのか分からないのか辺りをキョロキョロと見回した。

 

「堂々としとけよ……道三はおそらくお前を見極める為にこっちを観察しているんだ」

 

「…わたしを見定めるなんていい度胸してるじゃない、蝮」

 

見極めると聞き信奈はチッと舌打ちをした。

これから会う相手にこちらが気づかない間に見極められる。

そう思うと流石に心中穏やかになれない。

 

「サル、どこから見られてるの?」

 

「北西の方角…じゃなかった乾の方角の高い山だ」

 

「そう」

 

「それがどうした……って、おい?」

 

信奈は良晴から道三が見ている方角を聞き、馬上から降りた。

良晴は何をする気なんだ?と疑問に思っていると信奈は後ろから着いて来ている

鉄砲隊の一人から火縄銃を取り上げた。

 

「おい!なにやろうとしてんだよっ!」

 

良晴はそう叫ぶが信奈がやろうとしている事は大方予想できた。

信奈は良晴の声に反応せず、弾込めを着々と進めた。

そして、発射の準備が出来た火縄銃の銃口を真上に向けた。

 

「何をするつもりですって?挨拶代わりよ」

 

信奈は引き金を引き、ドオォォン!!という轟音が山々に木霊した。

周りにいた家臣達は突然の発砲に耳を塞ぎ目を瞑った。

信奈はスゥッと息を吸い込み、北西の方角を向き凛とした声で叫んだ。

 

 

 

「蝮!会見場所はここじゃないわ!さっさと正徳寺に行って茶でも飲んどきなさい!!」

 

 

 

先ほどまで轟音が鳴り響いていた山々に信奈の透き通った声が木霊した。

良晴は目を点にしていた。信奈の家臣達も良晴と同じように目を点にしていた。

なんという大胆不敵さ。なんといううつけ者。だが、なんでだろうか。

 

 

 

――――ここまで輝いて見えるのは

 

 

 

家臣達にはその理由は分からなかったが良晴には理解できた。

圧倒的なカリスマ性。見るものを惹きつける才能。それを信奈は持っている。

尾張の姫大名、織田信奈。

初めて出会った時から分かっていたがどこまで……

 

「はぁ……お前はどこまで型破りな奴なんだよ」

 

「うっさいわね、これぐらいしないとわたしの尊厳に関わるのよ」

 

尊厳って…と呆れ顔でいう良晴に「ねぇ」と信奈が聞いてきた。

 

「今のでわたしを見極めれたかしら?」

 

「道三が?」

 

「いいえ、アンタが」

 

 

 

俺が?と聞き返し良晴はなんでそんなこと聞くんだ?と疑問に思ったがすぐに分かった。

道三に見られているのにわたしは気づかなかった。わたしよりも先にサルが気がついた。

この状況で信奈は家臣にも見極められていると感じていたのだ。

だからこそあんな行動をとった。自分の尊厳を取り戻すために。

良晴はフッと笑い答えた。

 

 

 

「ああ、見極めたよ。お前はすげー奴だってな」

 

 

 

「―――デアルカ」

 

 

 

良晴の返答に満足したのか信奈は満面の笑みを浮かべた。

その時の笑顔に良晴はドキッとしたが、誰にも悟られないようにする為、顔には出せなかった。

 

 

 

 

「尾張の姫大名……織田信奈…か」

 

同時刻、斎藤道三はポツリと呟いた。

まさか、わしの存在に気づきあのような行動を取ってくるとは……

道三にはもう信奈が()()()姫大名という事は頭になかった。

南蛮のおもちゃと揶揄される火縄銃だが、現在信奈が引き連れている鉄砲隊の数は数十名。

だが、あれだけではないだろう。

あの歳で既に火縄銃は単発だが数を揃えれば相当の力を発揮するという利点を理解している。

 

 

 

「『うつけ者』……か。わしからしてみればそう言っている奴らの方がうつけじゃと思うぞ。

そう思わんか、十兵衛」

 

「……道三さま、そろそろ正徳寺へ向かい着替えたほうがよろしいのでは?」

 

十兵衛と呼ばれる少女が道三に正装に着替えることを勧めた。

これから重大な会見だが道三の格好は軽い着流しの服装だった。

 

「よいよい、織田の姫は見た限りでは正装ではなかった

…勝手に見極めていたという無礼をとったのじゃ、あちらに合わせたほうがよいじゃろう」

 

「…わかりました」

 

「では、行こうとするかの。織田の姫君との会見場所へ」

 

 

 

 




家庭的な良晴に魔改造したけど後々必要なことなので



お気に入り数50件を超えた…だと…?
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします

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