相良良晴無双   作:空気破壊者

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注:老け顔だろうが構わない






4戦目

 

 

「で、あんたの名前はなんだったかしら?」

 

良晴がしばらく悶絶している時に信奈から質問がきた。

しかし、見事な攻撃だった為会話が出来る程回復していなかった。

 

「さ……ああぁ………る」

 

良晴は自分が口にした言葉に後悔した。もう少し回復してから名乗ったほうがよかったと。

 

 

 

「さああぁる?わかったわ、あんたの名前はサルね!」

 

 

 

違う!と訴えたかったがまだ回復していなかった。男の急所というものはデリケートなのである。

それに、サルと言えば木下藤吉郎が織田信長に呼ばれていた名前だと思いだした。

史実の通りなら、自分は藤吉郎のおっさんの代わりなのかもしれない。

いや、代わりではない、俺とともに野望(ゆめ)を果たす!それならサルと呼ばれようが構わない!

 

「姫様、サルにしてはこいつ大きすぎませんか?」

 

「んー?確かにそうかもしれないけど、もしかしたらどっかの山の大猿なんじゃない?」

 

「なるほど!言われてみればサルに似た顔ですね!」

 

勝家と信奈は良晴の姿を見て議論を交わしていた。

…前言撤回、やっぱり女の子にサルサル言われると、思春期の俺はかなりへこむ。

良晴は誰にも分からないように涙を浮かべた。

 

「雇うとしても敵将を一人討ち取ったんだからそれなりの役職を与えないと…」

 

良晴に与える役職を悩んでいる信奈。

そこにやっと回復した良晴は口を挟む。

 

「草履取り…からでお願いします」

 

「はぁ?何言ってんのよ?」

 

良晴が何を言い出すのか分からない、という顔をする信奈。

サル、と呼ばれるぐらいならいっそ木下藤吉郎と同じ役職に就きたい。

そして、ここから始まる良晴の口八丁。

 

 

 

「いや、俺はそれなりの地位を与えてもらってもそれに応えることができないかもしれないんだ。

さっき敵将を討ち取ったって言ったけどそいつは生きてる。俺は人を殺す覚悟がまだできないんだ。そんな奴が戦場にいたらいざという時に邪魔になるだろ?それにさっきの技で手がちゃんと動かなくなってるんだよ。槍は愚か、刀すら持てなくなってる。この手が治るまでに持てる物といえば草履程度。だから草履取りで頼む」

 

 

 

良晴は信奈にもっともらしい理由を説明をした。半分本当で半分は嘘だけれども。

人を殺す覚悟は出来ていないというのは本当だ。

実際に朝比奈泰朝を倒すときに一切顔や急所を殴ってはいない。

すべての攻撃は鎧の上から殴っている。

もし、良晴が顔を殴打した場合本当に死んでしまうかもしれないからだ。

手がちゃんと動かないというのは嘘だ。見た目は血で滲んでいるが普通に動く。

少し治療すれば重い物もすぐに持てる。

 

 

 

信奈は良晴が言っていることが本当かどうか疑っていた。

だが、良晴がダメ押しに一言付け加えた。

 

「まさか槍を無理やり手に括りつけてでも戦に出ろ…なんて事は言わないよな?」

 

「~~っ!分かったわよ!そんなに草履取りがやりたければ草履取りをやりなさい!

草履取り決定!!」

 

「ハハッ、ありがたき幸せ」

 

良晴は取ってつけたような言葉を言い、恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 

無事織田家の草履取りになった良晴は信奈から住み家を与えられた。

その長屋までの案内を犬千代と呼ばれる信奈の小姓に案内してもらっている。

良晴は犬千代に「相良良晴だ」と自己紹介をした。

…犬千代…っていえば前田利家のことだよな。やっぱりこの子も女の子か…

 

「……良晴は珍しい服を着ている」

 

「ああ、学ランのことか?俺の世界じゃ普通…でもないな、ブレザーを着ている奴もいるし」

 

「……南蛮の人?」

 

「…あー、誰にも言っていなかったが、俺は未来から来たんだ」

 

良晴はこの時代に来て初めて自分が未来から来たということを説明した。

 

「……ほらふき?」

 

「やっぱりそういう反応が返ってくるか…なんか証拠があれば……ん?」

 

良晴はポケットに仕舞ってあったあるものに気づいた。

 

「おっ、これなら……電池は…ギリギリか?」

 

「?」

 

良晴が四角い黒い板を触っているのを犬千代は黙って見ていた。

不意にパシャッと言う音が鳴り、犬千代はビクリと反応した。

そして良晴は手に持っていた黒い板を犬千代に見せた。

 

「どうだ?これなら少しは信じる気が起きただろう?」

 

「……驚いた…これ……犬千代?」

 

良晴が持っていた黒い板には良晴の視点から見た犬千代(上目遣い)が写っていた。

黒い板とは『iphone』。そしてカメラ機能を使い犬千代を写した。

ちなみに良晴はその写真を保存した。他意はない。

 

「これは『カメラ機能』といってだな、自分の撮りたい画像を撮ることができるんだ」

 

「……すごい、これは姫様が喜びそう」

 

「渡すとなんかすぐに壊しそうだけどな…と、電池がもったいないから電源切っておこう」

 

「……姫様の悪口、ダメ。……到着した」

 

犬千代が指差した先には、雑然と並列した長屋が広がっていた。

…予想していた場所よりもなんかひどいな。

と良晴は少したじろいだ。

 

「ここは。うこぎ長屋。下級武士が暮らしている」

 

「へぇ、うこぎ長屋か。犬千代も住んでいるのか?」

 

「そう……ここが良晴の住まい。犬千代と隣同士」

 

「ここか。じゃあ早速ウゴッ!」

 

良晴は早速家の中に入ろうとしたが入り口の所で顔をぶつけてしまった。

これは現代でも自分の身長を忘れてしまう良晴がよく行うことだ。5回のうち3回はぶつける。

 

「……なにやってるの?」

 

「クッ…癖みたいなもんだ…ほっといてくれ…」

 

「……馬鹿?」

 

良晴が顔を抑えしゃがみ込んでいると犬千代から辛辣な言葉が送られた。

良晴は改めて中に入ると、狭くて隙間風が入ってくるような長屋だった。

だが住む場所もなかった良晴が屋根がある場所で寝れるだけでも十分だった。

 

「しかし何もない部屋だな。食い物すらないじゃないか」

 

「……食べ物なら庭にある」

 

良晴は犬千代と一緒に庭に飛び出したがどこにも食べ物がなかった。

あるのは生垣に生い茂っている葉っぱだけだ。

 

「…あー、もしかして?」

 

犬千代はコクリと頷いて葉っぱをペリッとちぎった。

 

「これは『うこぎ』の葉っぱ。茹でると美味しい。」

 

この時良晴の頭の中では『狩り』や『漁獲』等の言葉が浮かんだ。

プロテインが取れないというのは諦めていた。

だがタンパク質が取れないというのは流石にいただけない。

狩猟などはした事ないが死活問題になる為、絶対に覚えなければならない。

良晴は心の中で強く決意した。

そして良晴はあることに気づいた。

 

「犬千代、お前何歳だっけ?」

 

「……?十二歳だけど」

 

「……ハァ、だから年の割に小さいのか」

 

「……むっ」

 

栄養をちゃんと摂ってないから小さいままなのか。

良晴はもし狩猟を覚えたら犬千代の分も獲ってきてやろう…と思っていた。

不意に、良晴の腕が抓られる感覚がした。

 

「……胸なんて、飾り」

 

犬千代は怒気を孕んだ声で言った。

抓られてはいるが良晴にとっては少し痛いとしか感じなかった。

 

「いや、胸の話じゃねぇよ。犬千代ぐらいの年だったら俺のいた未来ではもう12cm…っと、

四寸だったかな?それぐらい大きいんだぜ?」

 

「……そうなの?」

 

「ああ……ついでに言えば胸の方ももうちょっとでかくて―――」

 

良晴が語る前に犬千代は良晴の脛を蹴り飛ばした。

流石の良晴も脛を蹴られた時、脛を持って畳の上に転がった。

更に追い打ちで良晴の背中を蹴り続ける犬千代。

 

「やめて!犬千代さん!痛い!おもに心の痛みが!!」

 

「良晴がっ、謝るまでっ、蹴るのをっ、止めないっ」

 

 

 

 

 

 

 

良晴と犬千代の一悶着が終わったあとうこぎの葉っぱをぐつぐつと沸騰している鍋の中に入れた。

 

「そういえば、お互いちゃんと自己紹介していなかったな。俺は相良良晴。十七歳だ」

 

「えっ」

 

十七歳、と聞いた途端犬千代は驚いた表情をしていた。

 

「どうした?」

 

「……いや、なんでもない。うん……良晴は十七歳……見た目通り」

 

「本音は?」

 

「二十五歳以上かと思った」

 

「チクショウ、聞くんじゃなかった…」

 

 

 

良晴は傷ついた。見た目が実年齢よりも老けて見える事を気にしていた。

高校に入学した時に必ずと言ってもいいぐらい同級生に

「先輩ですよね…え、同級生?……あぁ、すいませんでした」

と何年も留年しているように見られたことがあったからだ。

まさかこの時代でも思われるとは……いや、この時代だからこそか。

良晴は食べていたうこぎ汁が少ししょっぱかった、と後日語った。

 

 

 

「おうおう、犬千代。こちらの男はどなたかな?」

 

不意に玄関の方から枯れ切った感じの好々爺といった印象の爺さんが話をかけてきた。

 

「え、誰?」

 

「……浅野の爺さま、長屋の侍の中では、いちばん偉い」

 

「おうおう、犬千代の父さまだったかな?」

 

良晴の心は塞ぎかけてた傷に無理やり引き剥がされたような感覚がした。

犬千代の父さま……俺はそんなに老けて見えるのか……?

 

「……浅野の爺さま、良晴は十七歳」

 

「…お、おう。すまんかったのう、じゅ、十七か!

ねねがもう少し年を取っておれば、嫁にやりたいところじゃがのう!」

 

「ハァ……、その『ねね』って子は何歳なんだ?もしかして俺よりも少し下の子か?」

 

ねねと…いえば木下藤吉郎の正妻だったはず。

もし年齢が近ければ…と淡い願いをかける良晴。

 

「数えで、八つじゃ」

 

「犯罪者になれっていうのか、ちくしょう!射程範囲外だよ!!」

 

「まぁ、ねねも新しく入ってきたお主を見てみたいとねだっていてのう

…ねねや、おぬしもこちらへおいで」

 

「はい!爺さま!!」

 

 

 

元気な声が玄関から聞こえてきてねねという少女が姿を現した。

数えで八つ…ということは満七歳という事か。

現代人と比べると小柄なせいだろうか、見た目はほぼ幼稚園児だった。

だが俺には分かる!ちゃんと成長すれば美少女の中でも上位に入るだろうと!

その為にはちゃんと栄養を与えなければ!

必ず狩猟を覚え、犬千代とねねの分も獲ってきてちゃんと栄養を取らせよう!と決意した。

良晴は子供の為に今日も頑張ろう、という父親の様な気持ちがわかったような気がした。

 

 

 

「この子がわしの孫娘のねねじゃ」

 

「ねねにござる!サルどの!どうぞよろしゅう!」

 

口を開くと大人ぶっている口調だが、笑うと年相応に無邪気そうだった。

 

「…ていうか、サル…か……もしかして長屋ではその名前が広がっているのか?」

 

「そうですぞ!サルどのが不思議な動きで今川の武将を倒した!という噂が広がっておりますぞ!」

 

「不思議な動きって……デンプシー・ロールの事か」

 

田夫氏(でんぷし)?それはなんでありますか?ねねに教えて欲しいですぞ!」

 

目をキラキラと輝かせ良晴を見つめるねね。

だが良晴はちゃんとした栄養が摂取できない今、戦以外では無駄な動きをしたくないと主張した。

それでもねねは引き下がらない。

 

「……はー、分かったよ。少しだけな」

 

「やったー!」

 

娘にねだられる父親…ではなく、ねねにねだられる良晴はしぶしぶと了承した。

良晴が見せてくれると言い、両手を挙げぴょんぴょんと跳ねて喜ぶねね。

文句を言いつつもねねが喜ぶ姿を見て良晴は和やかな気分になった。

良晴は部屋の中では狭くて動きにくい為、庭に出た。

 

「拳が痛いから動きだけだ、それでいいな?」

 

「やや!拳を怪我しておるのですか?あとでこのねねが治療してあげますぞ!」

 

良晴は両手を怪我していると言ったら、ねねは心配してくれたようだ。

しっかりとしたいいこだなー、と良晴は思った。

 

「ま、殴るものが元からないからいいか」

 

 

そして良晴はゆっくりと上半身を数字の8の字を横にした軌道(∞)に振りはじめた。

ゆっくりとした動きがどんどんと加速していき風を切る音が聞こえてきた。

犬千代は…わぁと感嘆の声を上げ、浅野の爺さまはほぅ…という声を漏らした。

ねねは良晴の真似をしているのだろうか、首を右に左に振り始めた。

そして、途中で目を回し、倒れた。

ねねが倒れたことに気づき、良晴はデンプシー・ロールをやめ、ねねを受け止めた。

 

 

「おーい、ねね。大丈夫かー?」

 

「目が…目が回りましたぞ…」

 

ねねは良晴に返事をしたということは大丈夫なのだろう。

 

「……良晴、すごい動きだった……でもあの動きに何の意味がある?」

 

「ん?あれか?そうだな……例えるなら、竹だな。竹を曲げた時、手を離すと凄い勢いで戻るだろ?あれと同じだ。右に動いたあとすぐに左に戻る反動で威力が上がる。そしてまた左に動いたあと右に戻る反動で威力が上がる。それを繰り返して左右に殴打するっていう技だ」

 

「……むぅ、よく分からない」

 

「今度信奈に聞いてみろ。俺が殴った相手がどんな風になったか聞けば大体の威力がわかるぜ?」

 

「……聞いてみる。あと姫様を呼び捨てしたらダメ」

 

良晴は犬千代にデンプシー・ロールの動きについて解説したがよく分からなかったようだ。

 

「なるほどのう…あの動きにはそういう意味があったのじゃのう…」

 

「おっ、浅野の爺さんは意味を分かってくれたか」

 

「おうおう、当たり前じゃ。伊達に歳をとっておらんよ」

 

流石はうこぎ長屋の侍の中で一番偉い浅野のじいさん。と良晴は感心した。

 

「ふふ…わしも若い者には負けてられんよ。どれ、わしもやってみ゛!!」

 

浅野の爺さまは良晴の動きを真似しようとしたのだろうか。

腰を少し動かした時、グキッと嫌な音が長屋に響き、倒れた。

 

「おいぃ!浅野の爺さん、無茶すんな!!」

 

「むぅ…うぅん…」

 

良晴は浅野の爺さまにツッコミを入れたとき、腕の中で目を回していたねねが気がついたようだ。

 

「ようやく気がついたか」

 

「むぅ…どうやら気を失っていたようですな…かたじけのうございます、()()()

 

寝ぼけていたのだろうか、ねねは良晴のことを父さまといった。

良晴にとっては本日三度目の老け顔を指摘される言葉だった。

しかも、良晴にとっては父親と間違われることが一番ショックだった。

良晴は白目を剥き、ゆっくりとその場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

良晴の長屋小屋には倒れた男が二人。

そしてそれを呆然と見る二人の少女しかいなかった。

 

 

 

 

 

 




卒論と試験週間があるので今週はもう投稿できないと思います。あしからず



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