相良良晴無双   作:空気破壊者

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注:原作には登場しなかった武将が登場するが構わない
  戦は拳で決着をつけるものだが構わない






3戦目

良晴はしばらく叫び、嗚咽し、泣き続けた。

五右衛門は顔を良晴に見られないように隠し、静かに泣いた。

そして数分が経ち、良晴と五右衛門は散々泣いて吹っ切れたのか、あるいはこれ以上木下藤吉郎に情けない姿を見せる訳にはいかないと感じたのか真剣な表情になっていた。

 

「すまねぇな…こんな恥ずかしい姿を見せて…」

 

「や、拙者も忍びとして生きて初めてこん()()に顔に出して泣いたでご()()る」

 

……噛んだ。まだ吹っ切れていないのか?

 

「や、失敬。拙者、長台詞が苦手ゆえ。」

 

素のようだ。

 

「そういえば藤吉郎のおっさんの事を相方って言ってたよな?どういうことだ?」

 

「うむ。木下氏は幹として、拙者はその影を支える宿り木となって力を合わ()()、ともに出世をはた()()う、そういう約束でご()()った。」

 

半分を過ぎた時にはかみかみだった。30文字ぐらいが限界のようだ。

 

「藤吉郎のおっさんを影で支えるか……本当にごめんな、俺のせいで…」

 

「それ以上の台詞はいいでござる。

木下氏にとって命を賭して守れる存在であるおぬ()を守れ()()だけでもいいでご()()る」

 

「…悲しいのにお前のかみかみでなんか悲しくなくなってきたわ」

 

マスクの下で、五右衛門の顔が赤くなった。

 

「う、うるさい!それよりも一つ頼みがあるでござる」

 

「頼み?今の俺に出来ることなんて特にないと思うぜ?」

 

「うむ、木下氏の相棒と認めたお主にしかできないことでござる。

木下氏に代わりご主君にお()()かえしてもよろ()()でご()()るか?」

 

「俺に仕える?いいけど俺は一文無しで帰る家もない。

給料を払えって言われても払うことなんかできないぜ?」

 

「うむ、ところで今この合戦をしているのはどことどこだと思うでござるか?」

 

「合戦?えーと、今川家と……」

 

「織田家、でござる」

 

織田家。その台詞を聞き良晴は驚いた。

織田家と言えば日本人の誰もが知っている三大武将、織田信長だ。

織田と今川が合戦中。それだけで良晴は五右衛門が言いたいことを察した。

 

「なるほど、織田家に仕官しろ…っていう事か。」

 

「ご明察。流石は木下氏が認めた御仁でござる。ご主君、名をなんと申す?」

 

「相良良晴」

 

「相良氏、ただいまより郎党『川並衆』を率いてお仕え致すゆえ」

 

良晴は冷静になりしばらく考え、ある疑問が浮かんだ。

 

…よくよく考えてみたら、俺みたいな身元がわからない奴を織田の殿様は雇うのだろうか?

この時代の人物と比べ、現代人の自分は本当に戦で役に立つのか?

不安しか浮かばない良晴の顔色を見て五右衛門は言った。

 

「大丈夫でござるよ、相良氏。木下氏との約束を果たすのであろう?」

 

約束。木下藤吉郎の野望。

相棒(とも)から託された野望(ゆめ)

 

「そうだ…俺は藤吉郎のおっさんと約束した……

おっさんの代わりに野望(ゆめ)を叶えるんだ…!!」

 

そして良晴は懐に仕舞い込んでいた、鉢巻を頭に巻いた。

 

「藤吉郎のおっさん…一緒に戦ってくれ…!!」

 

 

 

 

 

五右衛門の指示通り、織田軍の旗竿を背中に立てた良晴は、長槍を持ち今川軍の足軽隊の中へと突撃した。

が、良晴を見るやいなや今川の足軽達は一目散に逃げていった。それもそのはずである。

長槍がただの槍に見えてしまう程巨大な筋骨隆々の男、見たことがない鎧(学ラン)を身に付け、怒号とも呼べる声で雄叫びを上げながら自分達の方に襲って来る。

槍を持つだけで10人もの足軽をひと振りで軽々と吹き飛ばしそうな武将(実際はそんなことはできない)、今川軍から見たらそんな感じだ。

そのせいか、戦況は織田軍が圧倒的に有利になっていた。

 

 

「足軽ども!誰か本陣に戻り、ご主君をお守りせよ!」

 

 

軍馬に乗った女性の鎧武者が大声で命令するが足軽達は目の前の敵に集中している。

誰も彼もが敵の首を一つでも取ることに夢中になっているのだろう。

だが良晴はその命令にいち早く動いた。

ここにいても絶対活躍することもできないだろうし、

それに俺が抜けても戦況は変わらないだろう。

良晴は自分がいたから戦況が有利になったとは気づいていなかったようだ。

 

 

 

「おい!そこの大男!!お前は抜けるな!!お前が抜けると…

ええい、お前ら怯むな!突っ走れ!!」

 

 

 

遠くで軍馬に乗った女性の鎧武者がなにか言ったようだが良晴には届かなかったようだ。

良晴が抜けたせいで織田軍の圧倒的有利が多少有利になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

良晴は織田軍の本陣へと駆け込んだ。

乱戦が続いたのだろう、本陣には織田軍の大将しかいなかった。

だが、今川の軍は決死隊をかけたのだろうか。

織田軍の大将は今川軍の兵に取り囲まれていた。

この距離では走っても間に合わない。

そう思った良晴は落ちている刀…ではなく刀の鞘を拾った。

そして、ピッチャーのごとく振りかぶって刀の鞘を投げた。

当てることが目的ではない。少しでもこちらに注意を逸らすことが目的である。

 

 

「織田の大将よ、お命頂戴致ゴファ!?」

 

 

当たった。大将に今すぐ切りかかろうとした足軽の肩と顔に命中した。

驚いた今川の決死隊と織田の大将は良晴の方に振り向いた。

良晴もまさか当たる筈がないと思っていたのか少し呆けていたが視線が

こちらに向いていることに気づき気を取り直した。

そして、獣のような雄叫びを上げ、織田の大将と今川の決死隊の間に割り込んだ。

 

 

 

「織田家に仕官する為、この場に参った!!俺の名は相良!相良良晴!!

織田の大将を討つ前に俺の屍を越えていけ!!」

 

 

 

突然の援軍に織田の大将も今川の決死隊も驚愕していた。

筋骨隆々の薄汚れた鉢巻を頭に巻いた途方もなく大きな男。

だが今川の決死隊は怯んでいるわけにはいかなかった。

 

「怯むな!相手はたった一人だけだぞ!一斉にかかれば問題ない!!」

 

流石の良晴も決死をかけた兵たちの多勢に無勢には勝てる訳がない。

この姿を見て怯んで、本来の力を出せなくさせるだけでも儲けものなのだが。

良晴はあることを考え行動をとった。おもむろに手にしていた槍を横にして拳を前に突き出すようにした。

 

 

そして良晴が力を入れるとパァンッという音が鳴り響き、槍の柄が()()()()()()

 

 

戦をしても折れるはずがない槍を、両手で折ったのではなく、片手で握り潰し、

真ん中から折れた。

 

 

 

「(この槍が)数分後のお前らの姿だ」

 

 

 

とドスのきいた声で良晴は言った。

良晴は少しでも脅しになりそうな方法を考え、最近インターネットで知った言葉を引用し、

脅してみた。

少しでも怯んでくれればいいなー、と淡い考えをしていた良晴だが予想は

いい意味で裏切られた。

向かってきた決死隊はその場で腰を抜かし「お、お助けぇ…!」

といい良晴から地を這いながら遠ざかった。

そこまで怖かったのか…と良晴は内心少し傷ついていた。

だが、決死隊の中で一人だけは違った。

よく見ると他の決死隊の足軽とは違い身分の高そうな鎧を身につけている。

そして、青年は腰にかけてある刀を抜き、良晴に言い放った。

 

 

 

「名のある武将と見受けられる…我が名は朝比奈泰朝(あさひなやすとも)

いざ、尋常に参る!」

 

 

 

朝比奈泰朝…今川家に仕えていて掛川城の城主で忠義に厚いやつ…だったか?

良晴は『織田信長公の野望』の知識を振り絞って目の前の男に関して辛うじて思い出した。

今川家が滅んだと同時に歴史の波から消え去った男ということも思い出した。

…というかなんで決死隊の中にこんな奴が混じってんだよ!と良晴は心の中で悲鳴を上げた。

脅しは通用しない、戦うしかないか…と良晴が決心した時槍を構えようとした。

が、槍が折れていることに気づく。そう自分で折ったのだ。

俺のバカ野郎ォォォ!!と心の中で自分で自分を叱っていた。

だが良晴は顔色を変えなかった。

良晴の表情は真剣そのものだった。少しでも自分が圧倒的に不利(実際に不利なのだが)だと悟られるわけにはいかなかった。

良晴は手を前に出し、構えをとった。ボクシングの構えに似ている。

 

「む…素手か…それに見たこともない構えだ…」

 

「剣道三倍段って知ってるか?素手の奴が剣を持っている奴と同等になるには

三倍の力がいるそうだ…だが俺はその剣道三倍段を覆すために編み出された無手だ」

 

泰朝は良晴の構えを観察し、良晴はそれに応じた。

もちろん良晴の剣道三倍段を覆す為の云々というのはハッタリだ。

織田の援軍が来るためにも少しでも時間稼ぎをしたかった。

もし援軍が来なかった場合、良晴が目の前の男を倒さなければならない。

良晴が死んだ場合、後ろに居る織田信長も死ぬ。

そうなったら歴史が完全に書き変わる。それだけは絶対に避けねばならない。

良晴は『死ぬ覚悟』ではなく『生きる覚悟』を決めた。

泰朝と良晴の間合いは10m前後。だが良晴は前に進み距離を詰めなければならない。

何故なら泰朝が距離を詰めた場合、後ろにいる織田信長も巻き込みかねない。

良晴は構えを解かないまま前に走り出した。同時に泰朝も前に走り出した。

 

 

最初に動いたのは良晴、しかし攻撃を最初に仕掛けたのは泰朝だった。

良晴の心臓を狙った刺突。右か左に避けなければ確実に死ぬ。

避ける(それ)を狙って第二の手で殺そうと考える泰朝。

だが良晴は右にも左にも避けなかった。刃がゆっくりと良晴の心臓に吸い込まれる様に進んでいく。

が、良晴は上半身だけをそのまま後ろに下げ、皮膚と紙一重で触れないように避けた。

この行動には流石に泰朝も驚いたのか、心に一瞬の油断ができた。

良晴は油断(それ)を見逃さなかった。

良晴は体を捻り、泰朝の顎目掛けてアッパーを放った。

だが、泰朝は間一髪のところで刀を手元に戻し柄でガードした。

 

「クソ…完璧に捉えたと思ったのに…流石は戦国武将」

 

「グッ…柄で守ったのにこれほどの威力とは…貴様、なんだあの動きは!!」

 

泰朝は困惑していた。あんな動きをする人間なんて見たことがない。

仮にできたとしても、実戦で真剣相手に出来るはずがない。恐怖というものがないのか?

 

対して良晴は、焦りとある事に気がついた。

同じ手が通用する相手ではない、

だがこの時代に無い動きをすれば相手にとって次の行動が推測できなくなる。

推測ができなくなるということは、相手は必ず後手に回り、隙ができるということだ。

 

「朝比奈泰朝、お前が見たのはただの準備運動だ。よく見ておけ、これが俺の奥義だ」

 

良晴の台詞に身構える泰朝。

そして良晴はゆっくりと上半身を数字の8の字を横にした軌道(∞)に振りはじめた。

右へ、左へ、右へ、左へ。

ゆっくりとした動きがどんどんと加速していき風を切る音が聞こえてきた。

 

「な、何だその動きは!?」

 

 

 

そう、良晴の奥義とは現代でいう『デンプシー・ロール』のことである。

 

 

 

上半身を左右に振り、戻ってくる反動で左右の連打を叩き込むものである。

この時代より数世紀先のボクシングの技術であり、

当然この時代の人間には見たこともない動きである。

泰朝は混乱した。左右に振る動きでどちらから拳が来るのかわからない。

良晴はその表情をみて、ゆっくりと泰朝に(動きを止めずに)近づいていった。

泰朝は落ち着いて動きを読もうとしたが、近づいて来る良晴を見て心が乱れた。

 

「く、来るなぁぁぁぁ!!」

 

動揺した泰朝はただ剣を振るう事しかできなかった。

だが心に迷いがある剣筋では良晴は切れない。

良晴は右へ動き刀を避け、そしてデンプシー・ロールをし始めて初めて攻撃に移った。

右に避け左に戻る反動を利用して泰朝の左脇腹に拳を放った。

鎧の上から殴る。それだけでも拳がおかしくなる。それでも良晴は拳を止めなかった。

ミシッという音が聞こえ拳から鋭い痛みが伝わる。それでも良晴は拳を止めない。

更に左拳で右脇腹に拳を放つ。左拳にも鋭い痛み。それでも良晴は拳を止めない。

右に、左に、右に、左に。相手が倒れるまで繰り返し続けた。

 

 

泰朝は鎧の上からの激しいむちうち現象が起こり、激痛が走り続けた。

内臓が体の中で踊り、骨にヒビが入る感覚が起こった。

泰朝は何故こうなっているのか?どうしてこうなったのか?

意識を手放しかけている中で自問自答していた。

 

 

織田の大将を打ち取るために決死隊に入り、今川家にさらなる忠義を示したかった。

だが邪魔が入った。足軽程度ならすぐ首だけにすることができた。

だが普通じゃない。おかしな動きをして、おかしな攻撃を繰り返している。

人間ではない。化物だ。魔物だ。妖だ。悪鬼羅刹だ。

運が悪かった。ただそれだけだ。

 

 

そうして、泰朝は意識がなくなった。

 

 

ドサッという音が織田の本陣に鳴り響いた。

朝比奈泰朝が倒れた。聞いた事がない、相良良晴という男によって。あの泰朝様が。

今川の決死隊はもはや戦意というものがなくなっていた。

今はただこの場を逃げたい。それだけしか考えていなかった。

良晴はただ呆然と立っていた。

 

 

勝った。戦国武将に。

自分の拳は痛みが走るが動かないわけじゃない。

勝ったんだ。俺が。

 

 

良晴は無意識に空を仰ぎ、雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

馬の蹄の音と女性の声が良晴の背後から聞こえた。

やっと援軍が来たのか、と安堵し後ろを振り向いた。

 

 

 

そして、良晴の頭上に槍が振り下ろされた。

 

 

 

風を切る音が聞こえたので間一髪で槍を避けることができた。

 

「おいぃ!!いきなり何するんだ!!」

 

「何だとは何だ!貴様!!いきなり戦線から離れやがって!!」

 

良晴は抗議をしたが、どうやら先ほどの乱戦の中で軍馬に乗って指示をしていた女性の様だ。

良晴と同い年くらいのポニーテールの女性。

そして視線を少し下にずらすと妙に大きく膨らんでいる。巨乳だ。

 

「貴様が戦線から離れたせいで結構苦労したんだぞ!!分かってるのか!!」

 

良晴の視線よりも怒りの方が上回っているのか、その女性は気づかなかった。

いつもの良晴なら興奮したかもしれない。だが今さっきまで死線を渡って戦っていたので

そこまで興奮しなかった。

 

「やめなさい、(りく)。そいつはわたしの命を救ったんだから。」

 

「ま、まことですか?」

 

「ええ。絶体絶命だったところを助けてもらったわ。そこに倒れてる奴がいるでしょ?

コイツがやったのよ、見たことがない技でね」

 

六と呼ばれた女性が朝比奈泰朝を見ると絶句した。

 

「す、すいませんでした!この柴田勝家!姫様の危機に駆けつけることができなくて…!!」

 

良晴は死んだ魚のような目になり考えるのをやめた。

 

 

……あー、もう慣れたぞ?この巨乳ポニーテールの女の子が柴田勝家?

『織田信長公の野望』で厳ついオッサンだった?……嘘だろぉ!?

と良晴は心の中で叫んでいた。

 

「で、あんた…名前はなんて言ってたかしら……あぁもう!忘れた!

とりあえず一応わたしの命を救ったんだしなんか褒美でも欲しいでしょ?」

 

良晴が葛藤している時に織田信長と思われる少女から声を掛けられた。

そうだった。忘れていた。俺は織田の大将を守ることができたんだ。

藤吉郎のおっさん、俺は小さな一歩だがあんたとの野望(ゆめ)に一歩踏み出すぜ。

 

「信長様!是非この俺を足軽として雇ってくれ!」

 

 

 

その時良晴の下半身に衝撃走る。

少女の足のつま先は良晴の股に食い込んでいた。

 

 

「【声に出ない叫び】!!!!」

 

 

 

 

「信長って誰よ!!わたしの名前は!織田信奈よ!の・ぶ・な!!」

 

 

 

 

 

織田信奈、その名前を耳にし、良晴はその場に倒れこんだ。

 

 

 

 

 




原作には登場しなかった武将
【朝比奈泰朝】の設定 年齢24歳
容姿:セミロングの銀髪で後ろに髪を束ねている。
   身長は165cmとこの時代では高身長。
   顔はイケメンである。
   剣の腕は武将としては中の中。
   良晴のデンプシー・ロールにより内臓を傷つけられ骨にヒビが入り重傷。
   良晴は顔を一切殴らなかった。

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