相良良晴無双   作:空気破壊者

10 / 10
注:ストーリーを忘れられてるかもしれないが構わない
  信勝が魔改造されているが構わない



10戦目

突然の信勝の発言で良晴は少し困惑していた。

俺が?信勝の部下に?

 

「あー……信勝、一ついいか?」

 

「うん?なんだいサル君?」

 

「俺が信奈の家来……というか草履取りっていうことは知っているよな?」

 

「知っているとも?」

 

信勝は良晴が何を言っているんだ?と思っているような顔でキョトンとしていた。

 

「知っているって…俺に二主君持ちになれって言うのか?

もしくは信奈から離反しろっていうのか?」

 

前者の場合は信奈の怒りを買うだろう。

説得……いや無理だ。俺自身も忠義に反する行為を行いたくない。

結局前者後者ともに論外だ。

 

「できれば姉上から離れてぼくの部下になってもらいたい……いや!なったほうがいい!

キミほどの男が姉上の草履取りで生涯を終える訳にはいかない!」

 

信勝の言葉には熱が篭っていた。打算的な言葉、狡猾さなど微塵も感じられない、

己の意思を持った言葉。

だが良晴は首を縦には振れない。

 

「草履取りで生涯を終わらせるつもりはねえよ……

それに草履取りになったのもまだこんな手だからだよ」

 

良晴はヒラヒラと包帯を巻いた手を見せ付けた。

 

「こんな手じゃ拳を握ることもできない、槍も持てない。だから草履取りに…」

 

 

「嘘だね」

 

 

良晴の言葉を遮る様に信勝はハッキリとした口調で言った。

 

 

「キミはぼくを連れて行く時にぼくを持ち上げた、両手でね。

でもおかしいじゃあないか、キミの両手は怪我をしているんだろう?

槍が持てない程の。

でもキミは痛がる素振りを一切見せなかったね?

それにさっき店の人がヤマメやらイワナやらの礼って言っていたね。

多分キミが釣りでもして手に入れた魚の事を言っていたんだろう。

釣り針に餌をつけて釣ってきた魚の事を。

キミは拳を握ることもできないって言っていたけど

釣りをする時に餌をつける事よりも難しいことなのかい?」

 

 

信勝の指摘に良晴は驚いた。この幼い姿でこの慧眼か。

流石は信奈の弟…いや、織田家の血筋か。

 

「ハァ…凄いな。信奈ですら気づかなかった事をこうも簡単に気づくとは……

待て、俺と信奈があまり接していなかった所為か?」

 

「ほら!やっぱりあんな(・・・)姉上だからサル君のことをよく知りもせず、

ただただ草履取りを命じてるだけじゃないか!」

 

信勝が興奮しているのか、それとも素のままで言ったのか分からないが、

良晴は少し頭にきた。

自分の姉である信奈を「あんな(・・・)姉上」呼ばわりするのは言い過ぎだ。

信奈を、最近まで孤独で誰からも理解されなかった野望(ゆめ)を知っているのか?

そう思った良晴はキツめの口調で信勝に問いただした。

 

「じゃあ信勝、もし信奈から家督を奪ったら何をするつもりだ?

どんな野望(ゆめ)があるんだ?」

 

「え…ええと……う、ういろうを宣伝して、全国区の食べ物に育ててみたい、かな?」

 

「それはいいな、飢饉で苦しんでいる人間にういろうを渡して

『これで少しは腹の足しにはなるでしょう』って言って宣伝するのか?」

 

良晴は信勝に対して少し意地の悪い言い方をした。

案の定、信勝はたじろいで頭を抱え別の案を考えていた。

 

「ち、違う違う!ぼ、ぼくが国主になった暁には…

ええと…尾張中からかわいい子を集める!」

 

「それでもいいな。槍も持てない女の子を城に集めて籠城したら一日も立たずに落城だ」

 

良晴の言葉責めに信勝は涙目になっていた。だけど良晴は真剣な眼差しで信勝を見る。

 

「う、うう…ぼくが尾張をまとめた暁には、東の今川義元を討ち、北は斎藤道三を討ち…

いや、斎藤道三は姉上が会見で話をつけているからもしかしたら戦わないかも…

ええい!それでも戦勝して海道一帯を織田家の領地にしてみせる!」

 

まともな意見が出たように見えたがこれもまた夢物語だ。

 

「確かにお前の家臣の勝家なら討ち死にを果たせば叶うだろう。

だがな、その両方を倒したとしてもまだまだ他の国には化物揃いの武将がいるんだぞ?

勝家がいなくなったらどうするつもりだ?」

 

信勝は歯を食いしばり涙が零れないように気持ちを抑えていた。

だが良晴のトドメの一言は止まらなかった。

 

「お前が言っている事は所詮夢物語なんだよ」

 

とうとう信勝の頬に涙が零れおちた。

やりすぎたか?と良晴が思ったとき信勝が大声で叫んだ。

 

 

「ぼ…ぼくだって姉上みたいな才能なんかこれっぽちもないって気づいているさ!

でも、男として生まれたからには夢の一つや二つあったっていいじゃないか!

ああ、キミには分からないさ!

母上に期待され一所懸命に努力しても姉上に勝る所何て何も無いぼくに!

家臣には『信勝様はただ居られるだけで十分です』と言われ、

何もできずにただいるだけのお飾りのぼくに!

それでも周りの顔を伺って、嫌な事でも同調しなくちゃいけない愚か者のぼくに!

キミに!何が分かるって言うんだい!」

 

 

ようやく信勝の本音が出たようだ。男としての意地。譲れないプライド。

信勝の言葉には悲痛な願いが込められている。

泣いている信勝の背中を優しく良晴は優しくさすった。

 

「ようやくお前の心からの叫びが聞こえたな……

そういえばお前に聞かせたい事があったな……

どっかのお偉い道三(オッサン)が言ってた事だ。

『自分の野望(ゆめ)は自分一人で叶えるな』

この言葉の意味は分かるか?」

 

「……分からないよ」

 

野望(ゆめ)は一人で叶えるものじゃねえ。

誰かと分かち合って、そして叶えるもんだ。

……信奈の野望(ゆめ)は一人だけじゃ叶えられないんだよ。

ましてや誰も理解してくれないものだったらな……

だから唯一の弟であるお前も支えていってくれねえか?」

 

「……姉上の野望(ゆめ)なんて……ぼくには関係ないよ……」

 

「そうか?お前だって信奈の才能には気づいているんだろ?」

 

良晴の言い分に反論できない信勝は無言になり俯いてしまった。

 

「……信勝、今日お前が俺の肩に乗って見た光景はどうだった?

いつもと違う光景に見えたって言っていたよな?」

 

「……それがどうしたっていうのさ」

 

「……俺が見せることができるのは高いところから見る光景だけだ。

だが信奈はこの日の本を……世界を変える程の力がある」

 

「せ……かい?」

 

信勝は泣いた所為か少し赤くなった目で良晴を見上げた。

 

「そうだ……お前だって見てみたいだろう?誰も見たことがない世界ってやつをな」

 

「……うん」

 

「お前も見てやれ、誰も見た事がなかった世界ってやつをよ

……そしたらお前も歴史に名を残すことになるぞ!

『世界を始めて見た歴史上偉大な織田姉弟!』ってな!」

 

少し大げさな口調で語る良晴を見て、信勝はクスりと笑った。

 

「おっ!やっと笑ったな、信勝」

 

「え?」

 

「気づいていなかったのか?こっちに来てから…

いや、『酢鍵屋』にいた時からちゃんと笑っていなかったぞ」

 

良晴の言葉が理解できていなかったのか、

少し呆けた様子からハッとした表情になり気づいた。

『酢鍵屋』にいた時笑ってはいたが、それは取り巻き達に同調するために笑っていた。

思い起こせばここ最近、周囲の反応に気を使い、

心の底から思った事を言ったり表情に出した事が無かった。

それなのにサル君に会ってから自分の感情や表情をさらけ出す事が出来た。

 

「そうやって笑うと歳相応の顔になるな……

まぁ、なんだ…お前の部下になる事はできないがな…

お前の愚痴でも相談でも聞ける相手にはなってやるよ」

 

良晴は信勝の頭にポンッと手を置き、少し無骨ながらも優しく撫でるが

信勝は少しも嫌がる素振りを見せず、ただ気恥ずかしそうな表情をした。

 

 

 

 

日が落ち、辺り一面が暗くなってきたなと思い、

良晴はまた信勝を肩に乗せ、戻ろうとしたが

どうせなら信勝の城まで送って行ってやろうか?と信勝に提案したが

城まで行って肩車をされてる姿を家臣に見られたら笑われてしまうよ、

と苦笑をしながらやんわりと断った。

護衛もつけずに一人で帰らせて大丈夫なのか?と疑問に思いつつ『酢鍵屋』に戻り、

店先にぽつんと立っている人影を見た。

 

「あ!信勝様!サル様!お帰りなさいませ!」

 

「やあ、蘭丸。待たせて済まなかったね」

 

「ら、蘭丸!…お前、ずっとここにいたのか?」

 

良晴は信勝を肩から降ろしつつ、『酢鍵屋』で待っていた蘭丸の姿を見て驚いた。

普通ならこんな時間まで主が帰ってくるのを待つものなのか、

それとも蘭丸の忠誠心からなせるものなのかと。

 

「?主君の帰りを待つのは小姓の務めだと思うのです?…違うのですか?」

 

「そ、そうか…じゃあ信勝も連れてきたことだし、俺は帰るから…」

 

「あ…あのだねサル君!」

 

良晴が長屋に戻ろうと足を運ばせた時、後ろから信勝の決心とも言える宣言を耳にした。

 

「ぼ、ぼくも自分で……姉上のような自分で決めれるような人間になるよ!!」

 

良晴はその言葉を聞き、初めて会ったときよりも良い顔になったな、

と思い苦笑しながら帰路に着いた。

 




久しぶりです(2年以上ぶり)
本当にすいませんでしたぁぁぁ!!

この話が今まで一番難産でした(汗

この話でルートが3分岐以上変わる予定でした
悩んだ挙句これで安定するかなと思います。

次の話は1週間~1ヶ月以内に投稿予定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。