学園生活部と一人のオジサン   作:倉敷

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次の話くらいにはシリアスを入れることが出来るだろうか。
自分にもわからない。
ゾンビはいつ出て来るのだろう。


あめのひ

「うわあ、雨降って来ちゃってるよ……」

 

 オジサンは生徒会室から外を眺めて呟いた。それに、近くにいた丈槍が反応した。

 

「どしたのー?」

 

「いやねえ、雨降ってるとさあ、シャワー使えないのよね。ほら、あれ電熱式だから。水なら使えるんだけど、それだと何か洗ってる気がしないし」

 

「あ、そっかー。うーん……」

 

 丈槍はシャワーが使えないことに悩み始めたようだったが、恐らくオジサンの悩みの方がもっと深刻である。まだ成人すらしていない女の子と、四十過ぎのおっさん。体臭に関しては雲泥の差であろう。オジサンには加齢臭という手ごわい敵がいるのだ。それに対して女の子は何かよく分からないが良い匂いがするものである。それはオジサンにとって永遠の謎であった。

 

「まあ、少しの間なら大丈夫かな……大丈夫だといいなあ」

 

「なにが?」

 

「ゆきちゃんにはまだ分からないかもねえ」

 

「?」

 

 オジサンの曖昧な言い方に、丈槍は頭の上に疑問符を浮かべた。オジサンは一人で納得しているようである。

 

 そんな和やかな雰囲気の中、慌ただしく扉が開かれた。

 

「ゆき! 洗濯物を取り込むの手伝ってくれ! りーさんとめぐねえもいるけど、雨が強くなってきたからさ」

 

 入って来たのは恵飛須沢であった。

 

「はーい!」

 

「オジサンは行かない方がいいよねえ」

 

「下着を見たいってんならいいぜ? その後どうなるかは……」

 

「遠慮しておくよ」

 

 恵飛須沢は恥ずかしがる様子もなく、シャベルを振る素振りをした。オジサンは苦笑をして、この場を動かないことに決めた。オジサンにはラッキースケベと言うか、必然的スケベ展開は到底できない、やってはいけないのである。主に年齢的に考えて。そんなことが起きてしまえば、職務質問では終わらず豚箱行きであろう。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい」

 

 二人は揃って行ってきますと言って、生徒会室を去っていった。一人残されたオジサン。この場を動かないと先ほど決めたばかりだが、暇だと余計なことばかり考えてしまう気がした。と言うことで、オジサンはオジサンの洗濯物の様子を見に行くことにしたのである。

 

 オジサンの洗濯物は職員更衣室に干してある。室内であるので屋上のものよりは乾くのが遅いが、女の子の洗濯物が干してあるところにおっさんの洗濯物を混ぜるのはどうか、とオジサンが考えた結果であった。他のみんなにもそれを話したところ、反対意見は出なかった。年頃の女の子ばかりだから、至極当然だろう。

 

「うーん、やっぱりあんまり乾いてないねえ。中途半端に乾いてるのが一番気持ち悪いからなあ」

 

 オジサンは、物干し竿やハンガーで至る所に干されているシャツやパンツ、ネクタイ、靴下など、誰から見ても魅力がないだろう洗濯物たちを一つ一つ触っていく。指には若干湿っていて、気持ちの悪い感覚が伝わって来た。

 

「ま、夜までには乾くか」

 

 オジサンが一人で納得していると、扉がノックされた。

 

「あの、入っても大丈夫ですか……?」

 

 丁寧な喋り方からして、佐倉に違いなかった。学園生活部のメンバーの中で、オジサンにこのような接し方をするのは彼女だけである。子供っぽくとも、大人であると言うことか。

 

 しかし、オジサンにはなぜ緊張したように声が震えているのか分からなかった。

 

「ああ、うん、どうぞ」

 

 オジサンの返答を聞いて、ドアノブが回される。入って来たのはやはり佐倉であった。しかし、その視線は下に向けられ、オジサンと目が合うことはない。

 

「どうしたんだい?」

 

「……あ、雨が降って来たので洗濯物を取り込んだんですけど、室内で干すにはハンガーが足りなくなっちゃったんですよ。なので余っていたら貸してほしいと思って……ありますか?」

 

「なるほど。少し待っててね」

 

 オジサンは部屋の奥の方に掛けられていた、使われていないハンガーを持ってきた。どれくらい必要かはわからなかったので、使ってはいるがなくても大丈夫程度なものも洗濯物を外し、佐倉まで持って行った。

 

「これくらいあればいいのかな?」

 

 オジサンは佐倉の視線に入るように少し屈んで見せた。

 

「あ、これだけあれば足りますね。ありがとうございます……! し、失礼しましたー!」

 

 佐倉は礼を言うときに視線をオジサンに合わせた。いや、オジサンではなく室内にかかっているオジサンの下着類に目が行ったようである。それが恥ずかしかったらしく、佐倉は顔を赤くして急いで去って行った。

 

「……そんなに急ぐことかなあ」

 

 オジサンには、その理由は分からなかったようだ。女心なんてものを考えることもなく今まで生きてきたのだから、仕方ないことではあった。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「オジサンにはデリカシーって言うのがないよね?」

 

 夕食の時間が近くなり生徒会室に行ったとき、丈槍にオジサンは出会い頭にそう言われた。そのとき走った衝撃たるや雷に打たれたほどであった。

 

「ゆ、ゆきちゃん……いきなり重いボディブローだねえ……いきなりどうしたのよ……」

 

 癒し系の彼女に言われるのは堪えたようで、不意打ちも相まってクリティカルヒットしたらしかった。椅子に座っているオジサンの体は僅かに震えていた。

 

「めぐねえが恥ずかしがってたよ?」

 

「え?」

 

「オジサンのパンツ見ちゃったんだってさ、めぐねえ」

 

 丈槍からの恵飛須沢の連携アタックにより、オジサンはやっと理解した。

 

「ああ……あの時急いで出ていったのはそう言うことかあ」

 

「ま、オジサンのパンツで恥ずかしがってるめぐねえもめぐねえだけどな」

 

「でもくるみちゃんも顔赤くしてたよね?」

 

「あ、おま」

 

 恵飛須沢は慌てて丈槍の口をふさごうとしたが、時すでに遅し。丈槍は言葉を続けた。

 

「今日洗濯物取り込むときにねー、オジサンのが混じってて、くるみちゃんそれ見て赤くなってたもん」

 

「うっ……それは、そのー……」

 

 恵飛須沢の顔は真っ赤である。

 

「普通は恥ずかしい物なんだよねえ。ごめんよ、そこらへん適当過ぎたね」

 

「し、しっかりしてくれよな、オジサン」

 

 オジサンはデリカシーってのがないよな、と恵飛須沢は先ほどの丈槍と同じことを言って隅っこに行ってしまった。余程恥ずかしかったらしい。

 

 オジサンはそれを見て何だか見当違いだと思ったが、嬉しくなっていた。今の状況でもちゃんと女の子をしている姿を見ることが出来て、安心したのである。

 

 学園生活部、今日も賑やかに活動中。

 

 

 




思ったよりも続いたので、一応連載に変えておきました。
また、これからゾンビが現れて話が進展する可能性を考慮し、タグも増やしました。

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