あれ? これって『ラブライブ!』だよね   作:片桐 奏斗

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第1話 マネージャー

 

 

 

「……で、なんで私なの? 自慢じゃないけど、力仕事は無理だよ」

 

 

 悪夢の質問タイムを無事に終え、今日一日のカリキュラムを全てこなした放課後――。

 『μ's』の現メンバーである『高坂 穂乃果(こうさか ほのか)』、『園田 海未(そのだ うみ)』、『(みなみ) ことり』の三人と一緒にいた。

 あっちの『ラブライブ!』でも思ったけど、やっぱり三人一緒にいたらここは花園かって雰囲気がするよな。皆が皆、可愛いって意味で。

 こっちだと、花園は花園でも薔薇が咲き乱れていそうだけどね。

 

 海未やことりも穂乃果と一緒で、髪の色や瞳の色は全く一緒だけど、やっぱり髪型とか長さは変わっていた。あのままの髪型だと確かにおかしいけど、正直こんなにもカッコイイ人じゃなかったら気付かなかったよ。……キャラ補正って大事だね。うん。

 

「大丈夫だよ。光莉ちゃんに頼みたい仕事に力仕事はないから」

「……穂乃果。ちゃんと順序を守って丁寧に説明しないと伝わらないよ」

「あはは。まぁまぁ、海未君、穂乃果君はいつもこんな感じじゃない。光莉ちゃんに頼みたいことっていうのはね。……あ、光莉ちゃんって呼んでよかった?」

「あ、うん。いいよ」

 

 穂乃果のスクールアイドルに対する熱意はわかったけれど、勢いだけで向かってくる穂乃果はやっぱり怖いね。何事に対しても思い付いたら一直線だし。

 それを上手いこと制御するのが男子にしては少し長めに切り揃えている黒髪の美少年――園田海未。

 そして、どちらに付くわけでもなく中立に立ち、上手くバランスを取っているのがショタ顔でアッシュ色の髪をふんわりとヘアースタイリングしている、これまた美少年が南ことりだ。

 

「光莉ちゃんに頼みたいのは、もっとこう別のことなんだ」

「別のこと?」

「練習メニューを組んだりとか、衣装のチェックとかお願いしたいんだ。ボクらより女子の視点で見てもらった方がいいかも知れないからね」

 

 女子の視点で見れもらった方がいいかも……ね。

 俺は外面でいったら女子だけど、内面は完全に男子なんだが、言わない方がいいよな。

 

「……後は作曲家を捕まえて欲しいけど」

「穂乃果。それは図々しいよ。大体、あの西木野の腕前を僕らは知らないんだから、良いも悪いも判断出来ないですし」

「でも、穂乃果君の言いたいことはわかるよ。あの子が音楽室で聞き覚えのない自作っぽい曲をピアノで弾きながら歌ってるの結構な人が耳にしてるみたいだし」

「でしょでしょ! 俺も彼の演奏や歌声を聴いて、『μ's』に入って欲しいって思ったし。でも、いきなり入ってくれっていうのはあれじゃない? ってことで、作曲して欲しいってお願いしたんだけどな」

 

 お断りします。とでも断られたのかな。

 普段から聴く曲はクラシックとかで、アイドル系の曲は一切聴かないから曲も作れないからって。アイドルの曲は軽くて嫌なんだよ。とか言ってそうだよね。こっちの真姫ちゃんは。……ちょっと待て。

 

 

「なんで、私が説得役にならなきゃいけないの? 『μ's』はあなた達のグループでしょ」

 

 原作でも穂乃果がどうにかしてあのツンデレ娘を引き込んだんだから、こっちでも勝手にしてよ。

 ぶっちゃけ『ラブライブ!』の世界だったなら率先して協力してたけどさ。なんちゃってなこの世界ではそこまで魅力を感じないんだよね。前の世界の俺と同じ性別を好きになんてならないし。外見的な意味で言ったら男女でピッタリなんだけど、精神的な事情で言えば俺は男に属するからね、同性愛を否定はしないが、実際にしてみたらどう? と言われたら反射的に「いやだ」と断れる自信がある。

 

 おそらく俺には断られると最初から思っていたんだろう。

 穂乃果に対して海未が「ほれみたことか」といった様子で迫っていた。女子が三人揃ったら姦しいとは良く言うが、男子が三人揃っても姦しいんだな。

 非協力的な人に必死に頼むぐらいなら別の人……それこそ男子に頼めば良いという海未だが、穂乃果は一向に引かない。何でここまで俺に拘るのか検討もつかない。

 二人で言い争いを続けており、ことりが仲裁に入っているがお互いに引く気がないようだ。

 

「ちょっと来て」

 

 この言い争いは絶対に収まらないと悟ったのか、ことりは強引に俺の腕を引っ張り教室の外へと連れ出される。

 

「……ねぇ、どこまで連れていく気」

 

 廊下を二人で歩いて約五分ぐらい。

 擦れ違う男子生徒から怪訝そうな眼差しを向けられ続けて、俺は少しイライラしていた。なんで、何にも悪いことしていない俺がそんな眼差しを向けられないといけないのさ、って。

 

 イライラが限界に達したと悟ったのか、ここが目的地だったのか知らないが、ことりに連れられて来たのは、人気のない屋上だった。

 

「こんなとこに連れてきて何?」

 

 俺の問いにことりは一切答えずに、ゆっくりと一歩ずつこちらに向かってくる。

 そんなことりの様子に俺は恐怖を感じ、少しずつ距離を取る。

 一歩近付いてきたら二歩下がるという行動を何度も行っていると、何かにドンッと背中が当たった感触がした。

 

「っ!?」

 

 チラッと後ろを確認した俺が目の当たりにしたのは、背中に当たっている飛び降り防止の為の柵と、そこから見える地表までの距離。

 高所から下を見下ろしてしまった俺の足は自然と震えてしまい、恐怖のために体が硬直してしまった。

 

(早く安全な場所に……)

 

 一刻も早く高所から逃げようと扉まで行こうとした俺を止めたのは、紛れもない。同じクラスメイトでここまで一緒に来たことりだ。

 このまま突き落とすんじゃないかと思われるぐらいの勢いで、俺はことりに押し倒された。押し倒されたといっても、柵に背が当たったままで、正確に言えば身動き取れなくされた。

 顔のすぐ横には手をつかれ、左にも右にも動けない状態。

 しゃがんで避けようと足を開けば、隙間に膝を入れられ、完全に身動きの取れない人形のようだった。

 

 今の自分に出来るのは、高所から下の景色を見下ろさないように、ことりの顔を睨み付けることぐらい。目を背けようとしたら景色が目に映ってしまう。ならば、物凄く近いことりの顔を睨み付けて、絶対に屈しないという気持ちを伝えるしか今の俺には出来ない。

 

 

「……離してよ」

「いやだよ。どうしても離して欲しかったら、マネージャーになってよ」

「それも私じゃなくていいじゃない。力仕事が出来る男子の方が絶対にいいと思うよ」

 

 俺は衣装作りが上手いわけでも、作詞作曲の才能があるわけでもない。何もないんだから。

 

「ボクは君が良いんだ。君以外の誰かがマネージャーなんて考えられない」

「……っ!」

 

 真っ直ぐ目を見て真剣な顔付きで言い放ったことり。

 その想いに嘘偽りがないことに気付いた俺は、どうしようもなく恥ずかしくなり、ことりから少しだけ視線を逸らす。

 

 

(……なんだよ、これ。必要とされたことが嬉しいのかな。凄くドキドキして恥ずかしい)

 

「光莉ちゃん、お願い」

 

 顔を背けたことで、より近くなった俺の耳に直接ことりが囁くように呟いた。 

 

「……わ、わかったから。『μ's』のマネージャーやるから離れて!」

 

 心臓がバクバクと凄い勢いで脈打ち出し、このままの状態が続けばどうにかなっちゃいそうだったので、降参の意を示す言葉を口から漏らす。

 俺の許可を得たことりは嬉しそうに「二人に伝えてくる」と言って、屋上から去っていった。

 ことりがいつ気付いたのかは定かではないが、高所恐怖症で高い所から下を見下ろすと体の震えが止まらないことを理解したことりは、屋上から去る前に俺を校舎への入り口の壁に凭れ掛けさせてくれた。おまけに自身が羽織っていたブレザーを体に掛けてくれる始末。

 気を使って高所から遠ざけてくれたことや、体の震えが寒気の可能性があるかもと自分の上着を掛けてくれたのも嬉しいよ。でもね。その運び方が嫌だった。何が悲しくてお姫様抱っこされなきゃいけないんだよ。生まれて初めての経験だよ。

 

 

 

(……でも、嫌な気がしなかったのはなんでだろ。ドキドキが止まらないし)

 

 

 

 自分に掛けられたブレザーをギュッと握り締め、俺は思った。

 

 

「暖かいなぁ……」

 

 

 何処まで『μ's』のために出来るかわからない。

 才能のない自分だけど、ほんの少しでも力になれるのであればなりたいな。とさっきまでの俺なら一切考えないことを思い始めていた。

 ことりがしたのはセクハラに当て嵌まる行為だったかも知れない。けど、それもこれも穂乃果や海未が、『μ's』が大好きだから。

 大切にしたいと思っているモノを護るために、仕方のない手段だったのかもと考えると怒りもなくなった。

 

 

「私も、好きになれるのかな」

 

 

 

 

 

 

 ――この世界の『μ's』を。

 

 

 

 

 

 

 ――自分自身を。

 

 

 

 

 

 

 






(書き終えた自分の作品を見て)



……なんだこれw
これはことりじゃないし。面影完全にない気がする……けど、なんだこの甘さ。


気のせいだよね。うん、キノセイダヨー

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