あれ? これって『ラブライブ!』だよね   作:片桐 奏斗

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第9話 まきりんぱな

 

 

 

 

「あ、ありがとうございました」

 

 自作の曲を嫌な顔せず歌って踊り切った少年らを迎え入れたのは、数少ない拍手。

 音の発生源は非常に少なく、講堂の席の数と比較すると、数える行為こそが烏滸がましい。そう思われるぐらいの差ではあるが、少年らは喜んだ。練習通りの成果を本番で出来たのだから。

 少ないけれど、観客に見てもらうことが出来たから。

 

 やり切った雰囲気を漂わせる穂乃果達の前に、講堂の入り口からゆっくりと歩み寄ってくる生徒が一人――。

 

「これでわかった?」

「……生徒会長」

 

 緩やかな階段を降りながら、リーダーである穂乃果を見つめながら告げる。

 

「君らが何をしても無駄ってことが。努力をしても結果が報われなかったら意味がない。それでも、続けていられる?」

「続けます」

「それは、何故?」

「やりたいからです」

 

 生徒会長の問い掛けに寸分迷わず即答してしまう穂乃果の精神の強さに、驚愕を隠しきれない。少しぐらいは迷走してもいいはずなのに、彼は道を決めてしまったら良くも悪くも一直線に進んでしまう。

 

 そんな穂乃果が俺らの手を全力で引っ張ってくれるから、安心して今の活動を続けられるのかも知れない。

 物怖じすることなく、ただ純粋に現在(いま)を楽しむことが出来る。

 『μ’s』に加入したのは半ば強制的にだったけど、普段の活動を見て経験して、ほとんどお客さんはいないけど、初めてのライブを目の当たりにして俺は確信した。

 

 

 

 

 

 ――もう、こんな想いを彼らにさせたくない。

 

 

 

 

 

 それは何故?

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果に海未、ことりが……『μ’s』が大好きだから。

 

 だから、活動を邪魔するのが生徒会であっても、教員であっても、誰が敵として前に立ち塞がっても、妥協して後悔したくない。

 

 

「……思い付きで続けても、後悔するだけだよ」

「それでもっ!」

 

 今までずっと壁を背に預けていた俺は、一歩前に踏み出し生徒会長に反論する。

 

「それでも、私達は続けます! 確かに今回は人が集まりませんでした。それは事実です。でも、この失敗を活かして次からはもっともっと努力して、色んな人に見て貰えるようになります」

「……けど、努力をしても見向きされないかも知れない。ですけど、俺は勿論、海未君やことり君ももっと踊りたい歌いたいって思っています。だから、俺達は活動を続けます。そして――」

 

 俺の口上の後に穂乃果が続いて言葉を紡ぐ。

 加入してからいつも練習を見ていた俺はわかる。彼がその次に告げる言葉を。……事前に穂乃果と打ち合わせをして、こういう台詞を言おうとか話していたわけじゃない。けど、今の俺になら、穂乃果と一緒の台詞を言えるんじゃないかと思い、彼と同じタイミングで言葉を紡ぎ出す。

 

「「いつか、この会場を満員にしてみせます!!」」

 

 俺らの言葉を聞き届けた生徒会長は、唇を噛み締め「勝手にして」と捨て台詞を吐いて講堂から出ていく。

 その影を追うように一人の少年もまた、会場から離れていく。彼は最初からこの物語を演出していたかのようにほくそ笑んでいた。

 

 

 

「……ついに生徒会長にまで喧嘩売ったわけだけど、覚悟出来てる?」

 

 舞台上に立っている穂乃果達はライブの達成感で気付いていないかも知れないが、これは一種の宣戦布告だ。

 その事実を実感させるように真姫が隣に来て呟いた。

 

「出来てる。確かに喧嘩を売った形になったけど、もう後悔したくないから。……努力すれば出来ること、それをしないで後悔するのって、嫌じゃない?」

 

 原作通りの物語を紡がなくちゃいけない。そう決め付けて何もしなかった自分との決別の為に、俺は敢えて言葉に現す。これから先、絶対に迷わない。そう決意するように――。

 

「私はね。欲張りなんだよ」

「えっ?」

 

 急に話題を変更した俺について来れなくなったのか、疑問の声をあげる真姫。

 そんな彼を無視してでも、俺は言い分を優先する。脳内で前世の俺が制止の声をあげているのか、激しい頭痛に襲われるが振り払うように声を出す。

 

 ――原作? そんなものは無視だ。

 

 今誓ったばかりじゃない。

 定められた原作という名のレールを迷うことなく歩くなんて真っ平御免だ。そんな人形のようなことをして、彼らに非道な未来を突き付けるぐらいなら、“私”は……。

 

「真姫君。『μ’s』に入って」

「……花陽君、凛君。『μ’s』に入りませんか?」

 

 向こうで何を話していたかわからないけれど、心同じくして穂乃果も勧誘という手に出たようだ。

 少しでも原作を守ろうとしていた前世の俺が可哀想ではあったが、穂乃果が言い出したことをキッカケに止めようとしていた頭の中での抵抗がなくなった。

 

「……え、光莉先輩。何を言って俺は別に『μ’s』に憧れてなんて」

「そうやって自分に嘘をついて自分を隠すのはやめよう」

 

 真姫の手を強引に握り締めて、次の言葉を息をするように吐く。

 

「真姫君はあの西木野総合病院の一人息子だから、継ぐことになるのは決定してるでしょ。病院を経営するためには、たくさんの勉強をしないとダメかも知れない。それもわかってる」

 

 他人の為に自分の夢を見ないふりして、気丈であろうとする一人の少年を見ていると、不意に生暖かい水滴のようなものが頬を伝っていることに気付いた。

 

「……でも、私はそんな理由で真姫君自身の夢を潰して欲しくない。だって、音楽室で聴いた歌、素敵だったんだもん」

「ひ、光莉……先輩」

「あなたが『μ’s』に入ることで、毎日が忙しくなるかも知れない。勉強に、音楽に、アイドルに。毎日、多忙な日々を過ごすかも。でも、絶対に後悔させないから!!」

 

 頬を伝う涙をそっと袖で拭き取って、真姫に宣言する。

 彼は自分が病院の一人息子であることに不満を持ってはいない。生まれた環境を悔やんでもいない。けど、だからといって、自分の夢を諦めなくちゃいけないなんてことは絶対にない。

 どうしても、そんな未来が待ち受けているのだとしたら……その時は私が必死に勉強をして、この人になら任せてもいいそう思えるような人になって真姫の病院を引き継ぐ。原作の真姫も女子でありながらも、継ごうと頑張っていたんだ。絶対に出来ないことじゃない……はず。

 

 

「……ははっ。光莉先輩って本当に凄いですよね。人の心境がわかっているかのように的確な言葉を言って、実際に動いて」

 

 いまだに涙目で目の前の視界が潤んでいる俺だけど、真姫はそっと俺を抱き締める。と同時に暖かい真姫の体温が俺を安心させてくれる。久々に感じた本当の意味で暖かい人の温もりを感じ取った俺は、再度泣きそうになった。

 

「いいよ。光莉先輩に免じて、俺は『μ’s』に入るよ。――だけど、満足するぐらいの高みに連れて行ってくれないと許さないから」

「……うんっ!! 任せて」

 

 真姫の勧誘に成功した俺は舞台上で花陽と凛の勧誘を頑張っている穂乃果達の援護に回る。

 歩き出す前に俺の涙は引っ込んだ。

 既に涙として頬を伝っていた水滴は真姫がさり気なく拭き取っており、泣きそうになる事態には陥っていないので涙することはない。

 

 

「……けど、僕は人前で何かをするのに向いてなくて」

「おれもだよ。かっこいい服とか着たいけど、でも、似合わなくて」

 

 花陽は引っ込み思案で人前に出る行為が苦手な故にアイドル活動に憧れてはいるが実際に自分が『μ’s』となると抵抗があり、凛は雑誌とかで取り上げられているかっこいい服に憧れてはいるが、女顔のせいで着ても似合わないことにコンプレックスを抱えていると。

 

「それがどうしたの? こう見えても彼らはコンプレックスだらけだよ」

 

 舞台へと繋がる道を一歩、また一歩と階段を降りながらも自然と口が開く。

 

「海未は緊張しいだし、チラシ配りの際とかも結構きてたし、本番前も本人は隠してたつもりだけど、他の二人と比べてかなり緊張してた」

「み、見てましたっ!?」

「ことりはダンスのステップを間違えることが多々あるし、さっきの本番でも間違えてたし。てか、歌詞も一瞬だけ忘れてたのか知らないけど、自分のパート歌い出しが少し遅れてたし」

「バレてた……」

「穂乃果は凄いおっちょこちょいで練習に何度か遅れるし、ことり同様ダンスも間違えるし、何をやってもダメダメだよ」

「ちょっと、それは言い過ぎじゃないっ!?」

 

 海未とことりと比べればコテンパンに言ってしまうのも仕方がないだろ。

 穂乃果ほど弄り甲斐のある人はいない気がするし、何より言っていることは間違っていない。

 

 

「でも、一途だ。スクールアイドルになろうとしたのも穂乃果が言い出しっぺで、誰よりも努力しているのも知ってる。だからこそ、緊張しいで前に率先して出ない海未も、おっとりしていることりもスクールアイドルになったんだよ」

 

 花陽と凛、二人がライブを見ていた場所についた俺は二人に手を指し延ばす。

 一人は憧れはしているけど、中々自分から言い出せずにいた少年。もう一人はアイドルなんて興味はなかったけど、挑戦してみても悪くはないかなと思い始めている少年。

 二人ともアイドルに興味を持ちだした理由は違うけれど、胸に抱えている暖かいものはきっと同じはず。

 

 

「プロのアイドルとしてなら、彼らは認められない。けど、資格がいらないスクールアイドルだから“やってみたい”その想いだけで出来るんだ。――二人もスクールアイドル、やってみない?」

 

 少年らはお互いに顔を見合わせた後、暫し迷った。

 原作では三人が勧誘してたけど、今回は俺だったから失敗したのかな……。そう思い始めた俺だったが、そこへ現れたのは第三者だった。

 

 二人の背中を押して、自分の手を握るように差し向けた超本人――それは真姫だった。

 

「迷っているなら、やってみない? 俺もやることにしたし。小泉君の発声練習も、星空君の容姿に合うファッションも一緒に考えるからさ」

「……そうだね。やってみよ、凛君」

「だねっ。先輩方、迷惑をお掛けするかも知れませんが、よろしくお願いします!」

 

 顔を見合わせて『μ’s』に加入することを決断した一年生三人。

 

 これで『μ’s』は六人になった。

 明日からの練習も厳しくしないと、そう考えて帰路につく俺だった。

 ライブ終了の片付けや明日からの予定をザックリと説明した後、解散した俺ら。一年生三人組は一緒に帰ることにしたみたいで、二年生三人は自分達だけで少し反省会をするといって残っていた。が、最近物騒だからという理由で、女の子は早く帰りなさいと海未に言われて帰宅することにした俺。

 

 そして、今に至る。

 

 

「そんなに最近、物騒か?」

 

 しかも、今の時間なんてまだ午後五時だよ。確かに夜中とかだったら怖いけど。

 改心して『μ’s』の活動に積極的になった瞬間のこれは、少しテンションが下がってしまう。

 翌日の朝練の際にでも、海未に文句を垂れ流ししてやる。と決意したまま、家の前についた俺だったが、思わず鞄をその場に落としてしまった。

 

 

「……え」

 

 

 なんで……? 家を出る前、きちんと電気を消したはずなのに。

 

 

 俺が目の当たりにした光景は想像を絶するものだった。

 きちんと戸締りをして、電気も消して、きっちりと鍵もかけてマンションを出たはずなのに。俺の部屋は煌々と電気が点けられており、部屋を物色しているのか人影が見えてしまった。

 

 

 

 




原作とは違う一年生組加入の回でしたが、いかがでしたでしょうか?


こんな展開もアリじゃないかなと思いやってみました。
まぁ、原作に忠実な作品でもいいかなと思ったのですが、やっぱりアレンジを入れたいと思ってしてみました(笑)



次回

最後に漂わせた不吉な予感に迫ります。


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