虚無の使い魔!マジカル☆透子ちゃん   作:麻っくん

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 日没間際の斜陽が差す石レンガ造りの部屋でタバサとトウコ、そしてルイズがベッドや椅子に腰掛けて座っている。

「彼女はトウコ=シラナミ。知っての通り、邪神の一族でガリアの国賓」

「よろしく」

 ルイズは話を聞いていない。何を言っているのかさっぱり理解出来ない。それもそうである。かつて自分たちが信仰するブリミルと敵対していた邪神たちのうち一人が目の前に、しかも自分の使い魔としてそこに居るのだ。しかも大国ガリアの国賓。これならまだ平民を呼び出した方がマシだった。本当に。

「う、嘘でしょ? こんなの夢に決まってる……そうよ、そうじゃないとおかしいもの。だってシラナミはおとぎ話……そう、現実の私はちいねえさまに童話を読んでもらってる最中に眠りについたの」

「私をキズモノにしておいてそんな現実逃避が通用すると思っているの?」

 トウコがルイズの目の前に左手をかざし、そのルーンを見せつける。

「私のお父様が……邪神『リン』が知ったらどう思うかしら?」

 ルイズは固まり、次第に白く煤けていく。タバサの「多分お腹を抱えて大笑いする」というトウコに対する返答もまともに聞こえていないようだ。

「いや、待ちなさいよ……あ、あ、ああああああ!!!」

「うるさい」

 ゴ。という音がルイズの頭とタバサの杖の間から響くが、ルイズは気にしていないように頭から血を流しながらトウコに食いつく。

「あ、あ、あんた、あんな公衆のめ、面前で、わ、私にキ、キ、キスを……!!」

「コントラクト・サーヴァントよ」

「そ、そんなのもっと、軽く触れる程度で充分なんぶ!???!!?!??!?!??」

「こうかしら?」

「あ、あう、ああ! あうああああ!!」

 

 

 

 ルイズはひとしきり顔を赤くしたり青くしたり唸ったり布団に顔を埋めて暴れたりした後トウコに向き直った。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。ご主人様と呼びなさい」

「いいわよ、ご主人様」

 ルイズは何となく釈然としない気持ちになりながらも、言われたとおりにしてるが故に違和感に気付かず話を続ける。

「まずは情報の整理ね。アンタは私の使い魔」

「そうね」

「アンタは邪神」

「正確に言えば邪神と呼ばれているだけで、私たちシラナミは一般的にそう呼ばれる神とは別よ」

 ルイズにはトウコの言っている事の意味はさっぱりわからない。トウコの方を見ると、全身の力が完全に無くなったように脱力し、前に倒れ込みそうになっている。ルイズは思わずトウコを支えようと立ち上がった。

「ちょ、と、トウコ?」

「instant boot

 白波:\透子>boot EVA」

「へ? な、なに?」

「小娘よ、透子に代わって私が説明してやろう。おい、頭が高いぞ。座れ」

 唐突に立ち上がり腕を組み、悪そうな笑顔を浮かべてこれまでとは真反対に流暢に喋りだすトウコ。

「あんた、誰に向かって……」

「話すことを許可した覚えはないぞ? “黙っていろ”“座れ”」

 威圧的な物言いに抗議しようと声を上げたルイズだったが、トウコに命令されそのまま思わず黙り座り込んでしまった。何故か逆らう気も起きない。

「さて、久しぶりだなシャルロット」

「エヴァ、その名前は……」

「なんだ、秘密だったか。おい、小娘“忘れろ”。

 まあ久しぶりとは言っても、私はエヴァ本人じゃない。透子のストレージに蓄積されたエヴァのデータをブートした仮想人格だ。白波は一部を除き情報を共有している。だからこそ透子はほぼ100%の精度で各人格をブートすることが可能な訳だ。まあ動作や見た目は100%には到底及ばんがな。透子は説明下手だから私が表に出たという訳だ。

 さて、では改めて話そう。白波というのは、まあ当然本当の名前ではない。透子もだ。尤も、知る必要も有るまい」

「な、何で知る必要が無いのよ」

「必要が無いものに理由があるか、間抜けが」

「ま、まぬっ!?」

「白波は出自を問わず全員を家族として扱う。故に、透子と敵対するのであれば白波と敵対するものと思え。まあ、人間程度がなにかした所でわざわざ敵対してやるほど狭小ではない。透子も満更でもないようだから使い魔の真似事くらいはする気で居るらしい。まあ人間、長く生きてもせいぜい200年か。いや、今の医療や生活では100年生きれば長いか? まあその程度だろう。今まで100年表に居た事も無いでもないからな」

「ちょっと待って。出自を問わずって?」

「言った通りだ。白波はこれまでの歴史の中、その節目で家族を増やしている。まあ眼鏡に適った者のみではあるがな。貴様が白波になる事は無いだろうが、有り得んとも言い切れん。こんな所だろう」

「私もシラナミにって、どういう事よ?」

「白波は出自を問わない。さっき言ったな。しかし、なろうと思ってなれるものでもない。条件は白波の気まぐれだ。

 さて、そろそろ私は寝るが、まあ喜べ。透子は白波の中では特に優秀で素直だ。貴様は運がいい。また遠からず、次は私の本人と会うことになるだろう。

 白波:\透子>reboot」

「あ、ちょ、待ちなさいよ」

 ルイズの制止も空しくさっさと消えてゆき、またもや無表情のトウコが平然と座っていた。冷静に見れば二人も無表情の少女が目の前に座っている。こっちにも無表情がうつりそうだと思ったルイズはタバサに話を振る事にした。

「さっきトウコが言っていたことが本当だったとして、なんでアンタはソレを知ってるのよ」

「国賓」

「それはもう聞いたわよ!」

「恩人」

「何の?」

「言えない」

「そう、気を悪くしたなら謝るわ」

「悪くしてない」

 不愛想過ぎて本当に怒ってないのかさっぱりわからないルイズは気を取り直しトウコと向かい合った。

「じゃあ話を纏めるけど、トウコがシラナミなのは本当で、私の使い魔をしてもいいって事よね」

「ええ」

「じゃあこれからよろしく、トウコ」

「よろしく、ご主人様」

「私は疲れたから寝るわ。後は好きにしなさい」

 ルイズはさっさと服を脱ぎ、タバサと透子を押しのけてベットに入り、ものの数秒で寝息を立て始めた。

「計画は?」

「進行中よ。問題ないわ」

「そう。食事は?」

「今日はいいわ。また機会があれば誘って」

 タバサは返事をせずに窓から飛び降りていった。

 




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