ハルケギニア全土でその名を知らないのは言葉も知らぬ子供くらいだと言われるその邪神こそシラナミと呼ばれる一族だ。
100年に一度現れ、数年間で世界を散々掻き回してはまた100年の眠りに就くとされている。正確な人数は知られていないが、確認されているのは五人。うち名前が知られているのが「邪神 リン」「母神 エヴァ」「絶望の足音 ニアラ」の三人のみとなっている。
数多くの伝説を残しているが、特に有名なものが始祖ブリミルと戦い敗れ100年の枷を付けられた話『邪神の野望』だろう。今でも貴族の母が子を寝かしつける話はコレが定番で、舞台劇としても非常に人気だ。
ルイズも下の姉にこの話を散々迫った事もあり、人並みには詳しい。
ルイズはその白い肌に差していた朱が抜け、文字通り顔色を蒼白にする。
何故タバサがそんな事に詳しいかは置いておくとして、もし本当に召喚されたのがシラナミなら、この使い魔はとんでもない不敬に当たるのではないか? そもそも、何故邪神の一族がサモン・サーヴァントで呼ばれるのか? 頭おかしいんじゃないのか? コレは夢? そういえばタバサに殴られた頭の傷も痛くないs……いや、痛い。いったいわ。めっちゃ痛い。痛さと現実感で泣きたくなってきた。でもサーヴァントを呼べずに終わる事を考えたらまだこっちの方がマシかも。いや、そもそもタバサが呆然とした私を元気づける為に言った冗談なのかもしれない。頭から流れる赤い濁流もボケ慣れていないタバサの愛情表現かと思えば全然許せる。ふふふ、愛いやつめ。
煙が収まってきた円筒を見ながら朦朧とする意識の中、ルイズはそんな事を考えていた。が、彼女の意識もすぐにはっきりとする事になる。円筒が変形し始めたのだ。
円筒の横一文字に切れ目が入り、少し持ちあがり、その隙間から怒涛の勢いで煙が噴き出し、かと思えば頂点から4つに分かれ外側に開いた。数秒で煙は消え、筒の中心にはあまりに黒すぎる髪を持った彼女らと同年代の少女が立っている。
ルイズは人生で一番のアホ面を晒しながらぼうっと見ていたが、その顔をしていたのはタバサ以外の全員なのでルイズのアホ面に気付く者は誰も居なかった。
「私のマスターは?」
彼女は高くも低くもない声を出し、辺りを見回し視線をルイズに止めた。
「あなたが私のマスターね」
「え? あ……え、ええそうよ! 貴女は私がサモン・サーヴァントで呼び出した使い魔!」
よくって? くらいは後ろについていても違和感のない程度に食い気味で答える。
「じゃあ契約を」
「……へ?」
「コントラクト・サーヴァントを」
「あ、はい。
我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……んぶ!?」
呪文を言い終わるとほぼ同時に、ルイズはその頬を使い魔の両手で挟まれ、開いた口に舌を捻じ込まれる。ルイズも抵抗はするが、細いのに異常に強いその腕を少しも動かす事が出来ず、呼吸のために口を開けたらさらに深く吸いつかれ舌を捻じ込まれるという事を一分近く続け、頬から手を離されると同時に膝から崩れ落ち地面で痙攣しはじめた。
その犯人は無表情に口を拭い、使い魔のルーンが刻まれた左手を確認した。そんな彼女にタバサが歩み寄り声をかけた。
「久しぶり」
「ええ。久しぶり」
「姉さんは」
「元気よ」
「そう」
キュルケは顔を赤くしながらも神妙な面持ちで無表情で話す二人を見ている。他の女子生徒は顔を赤らめルイズと彼女の召還した使い魔を交互に見たり鼻息を荒げたりしており、男子生徒は前屈みだ。
「あ、あの、状況を伺っても?」
歳のせいか、いち早く復帰したコルベールがタバサたちに近付き話しかける。
「私は透子。タバサの友人よ。そしてこの子の使い魔になったわ」
「へ? し、しかしよろしいので?」
「特別扱いは必要ないわ。タバサの友人としてでも、この子の使い魔としてでも。そもそも私は貴族ではないし」
「そ、そうですか……ではルーンを見せていただいても?」
無言で左手を差し出すとコルベールは素早くルーンのスケッチを行い、短く礼を言った。
「起きなさい」
トウコがルイズの頭の上に手を翳すと、ルイズは目を覚まし飛び起きた。
「へ? え? なに?」
「説明は私がしておく」
呆然とした目で方々から見られつつ、タバサが出所不明のよだれを垂らしたルイズとトウコをレヴィテーションで浮かして自分は使い魔の竜シルフィードに乗って寮に帰っていった。
こんな場で言うのもどうかと思いますが、ゼロの使い魔、続編決定してなによりです。