スマホを拾ったので異世界を救います   作:TOLI

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第9話 超能力者とステーション

 病院で手当てを受けた俺は、すっかり寂しくなってしまった財布を片手に、廃ビルに向かって歩いていた。

 歩いてる最中、昼間に訪れたファミレスが視界に入る。思わず立ち止まった結果、偶然すぐ後ろを歩いていた少女とぶつかってしまった。

 

「すまない、少し呆けていた」

「……いえ、こちらこそ、よそ見を──何だ貴方だったの」

 

 ぶつかってきた少女は、今日の朝早くに、協力関係を結んだばかりの暁美ほむらであった。ぶつかった相手が俺だとわかり、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「俺、何か気に障る事した?」

「まどかが、契約をしようとした件について」

「俺なりに、善処はしたぞ」

「それにしても、随分と辛気臭い顔をしているわね。何か、辛いことでもあったのかしら?」

「まあ、色々とな」

「安心して、そんな貴方を弄ることで幸せになれる人もいるから」

「どんなフォローの仕方だ!」

「そろそろ飽きたがら、恒例行事はこれくらいにしておくわ」

「いつ恒例になったんだ。会うたびに精神すり減らされるじゃねえか」

「冗談よ。それはそうと、その左腕はどうしたの?」

 

 ほむらは、包帯が巻かれている俺の左腕を見てそう言った。

 

「魔女のダイレクトアタックを喰らっただけだ」

「そんなみすぼらしい服装で、よく通報されなかったわね」

 

 ほむらの言うとおり、俺の服──もとい寝間着は、ボロボロな上に血が付着していた。

 

「何か隠せる物とかが、あればいいんだが」

「それなら、ちょうどいい物があるわ。コレを着なさい」

 

 そう言って俺に手渡したのは、科学の実験で着るような白衣だった。

 

「こんな立派な物を貰っていいのか?」

「気にしないで、とあるステーションで無料で手には入った物だから」

「いやそれゴミステーションだよね?捨てられた物を拾っただけだよね!?」

「……用事があるから失礼するわ」

 

 それだけ言い残し、暁美ほむらは去っていった。俺は白衣を握りしめながら、再び廃ビルに向かって歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 廃ビルにたどり着くと、そこには黒咲と巴マミがいた。

 

「自力で脱出できたようだな」

「キュゥべえから話は聞いたわ。傷の方は大丈夫?」

「このくらいの傷なら、すぐに治るさ。表面はもう塞がってるからな」

「ということは、湯船に浸かっても大丈夫なのかしら?」

「長時間浸からなければ、問題無いかな」

「なら、一緒に戦ってくれたお礼に、この入浴券をあげるわ」

 

 巴マミは二枚の券を俺に手渡した。

 

「垣根銭湯……新しくできた銭湯か」

「良かったら、今から三人で行ってみない?」

 

 

 

 

 

 巴マミと共に、銭湯のある場所まで来た俺達は、そこで、有り得ない物を目にしていた。 

 

「なあ、銭湯ってこんなデカい建物だったっけ?」

 

 自分の目を疑っている俺の質問に、巴マミは丁寧に答えた。

 

「資料によると、この垣根銭湯は十一階建てで、百種類のお風呂があるらしいわ」

「どうなってんだ、ここの経営は……」

「百種類のお風呂か、相手にとって不足はない!」

「お前は何と戦ってるんだ!?」

「今気付いたが、その白衣はどうした?少しばかり臭うぞ」

「……確かコインランドリーがあったよなこの銭湯。臭いを落とすためにも、入って見ますか」

 

 

 

 銭湯の中は、意外にも普通の造りとなっていた。その事に安心しつつ奥の受付へと、俺達は進んだ。

 

「すいません、この入浴券を使いたいんですけどー」

「二名ですね。どうぞごゆっくりー」

「え、三名ですけど?」

「君は──うん、あれだ記念すべき四十三人目のお客さんだから、ちょっと奥の部屋に来てもらえるかな」

「記念すべき事なの!?」

「一名様、特別室にご案内~♪」

「問答無用なのか……」

 

 受付にいた茶髪でホスト風の男に連れられて、訪れた部屋は特別室と言われていた割には、ごく普通の応接室だった。俺と謎の男はテーブルを挟んで、ソファーに座り向かい合った。

 

「さて、面倒くせー駆け引きはナシだ。単刀直入に効かせてもらうぜ」

 

「お前、この世界の人間じゃないな?」

「なっ、何故その事を知ってる!?」

 

 俺の反応を見た、謎の男はニヤリと口元を歪ませた。

 

「半信半疑だったが、まさか本当にそうだったとはな」

「……鎌掛けだったのかよ」

「安心しろ、敵対する気はない。ただ、聞きたい事がある」

 

 ……この男の情報は、アプリには無かった、つまりこの世界における重要人物では無いはずだ。だが、一連の流れを見るに、この男が普通の一般人だとは思えない。まあ、下手に情報を隠すよりは言ってしまった方が怪しまれないだろう。

 

「俺に答えれることなら、答えるぞ」

「じゃあ早速聞かせてもらうぜ。どうやってこの世界に来た?」

「スマホを拾ったら、いきなり転送された。寝間着で」

「なるほど、俺の状況と似ているな」

「……ということは」

「ああ、俺もこの世界の人間じゃない」

「転送される前後に何があったか聞いても良いか?」

 

 俺の問いを聞いた謎の人物は、どこか遠い目をしながら語り出した。

 

「……あれは、とある夏の日の出来事だった。余りの暑さに汗だくだった俺は、シャワーを浴びようと思い、その日宿泊していたホテルの部屋の備え付けのシャワールームに入ったんだ。するとそこには、謎の黒いヘンテコな装置があったんだ」

 

「なるほど、それを拾ったらいきなり転送されたわけか」

 

「ああ、気付いたら俺は、見知らぬ土地に全裸で立っていた」

 

「」

 

「全裸で立っていた」

「強調しなくていいから!」

「まあ、すぐに街中を滑空して、人気のない所に隠れ、服を作ることに成功したがな」

「何で先に服を作らないんだよ!?というか、街中を滑空とか服を作るとか、全裸で何も持ってないのにどうやって……」

「何だ忘れたのか?お前は一度、俺が空を飛ぶところを見たはずだが」

 

 ……思い出した。この男、昼間のファミレスで天使のような白い翼を広げて空を飛んでいた店員じゃないか。

 

「あれは、一体どういう仕掛け何だ?」

「……実際に見せたほうが早いな。そうだ、お前の服ボロボロだから、この俺が新しい服を作ってやるよ」

 

 突如、謎の男はその背中に六枚の翼を展開した。そして、その手には──

 

「ほらよ、心して受け取りやがれ」

 

 ──新品以上の輝きを放つ寝間着が、握られていた。

 

「トラックと衝突しても、重傷で済む程度の防御性能を持ってるぞ!」

「重傷で済むって凄いのか?いや待て、寝間着を着たままトラックにぶつかるってどういう状況だよ!?」

「この寝間着に常識は通用しねえ」 

「トラックは通用するようだけどな」

「……話が少しそれたな、今のが俺の能力、《未元物質》だ」

 

 謎の男は誇らしげに胸を張った。それだけ自分の能力に自信を持っているということだろう。

 

「空を飛んだり、服を作ったりできる理由はわかった。……そうだ、一つだけ俺から聞きたいことがある」

「何だ」

「何故、俺がこの世界の人間じゃ無いと思ったんだ?」

「……この世界に来てから俺は、元いた世界に戻る方法を探していた。でもって今日、見たこともないような謎の生物を連れたお前を見つけた。それで俺は、お前と話をする機会を得るために、お前と一緒にいた女に入浴券を渡したという訳だ」

「まんまと誘き出されたという事か」

「そういう事だ、まあ、せっかく来たんだ。ここの温泉を──あ」

「どうした?」

「もう、閉店時間だったわ。悪いな、また今度来てくれ」

「……コインランドリーは使えるか?」

「それなら、まだ大丈夫だ。後、売店もギリギリやってるぞ」

 

 

 

 

 

 売店に行くと、黒咲と巴マミの二人が、商品を物色していた。

 

「二人とも、温泉は堪能できたか?」

「ええ、とてもいいお湯だったわ」

「なかなかの強敵だったな」

「だから、お前は何と戦ってるんだよ……」

「結構好評のようで、何よりだ」

 

 いつの間にか付いて来ていた謎の男が、コーヒー牛乳を片手に、売店の前にあったベンチに腰掛けた。

 

「貴様は誰だ?」

「……そういや、自己紹介がまだだったな。この銭湯を経営している垣根帝督だ」

 

 ──待てよ。

 

「黒咲隼、デュエリストだ」

 

 ──待ってくれよ。

 

「巴マミと言います」

 

 ──このタイミングで来るのかよ。

 

「おいおい、名前くらい教えてくれたって良いだろ。同じ境遇の者同士、仲良くしようぜ?」

 

 ──頼む、止めてくれ。

 

「そういえば、俺はまだ、お前の名前を知らないな」

「私もだわ、いい機会だし、教えてもらってもいいかしら?」

 

 ──嘘……だろ。

 

「オイ、どこに──」

 

 

 

 

 

 気付いたら俺は、暗い夜道を一人で走っていた。とにかく、あの場から離れたかった。あの言葉を忘れたかった。

 

 俺は、ただひたすらに体力が尽きるまで、走りつづけた。

 

 

 

 

 

 

 


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