スマホを拾ったので異世界を救います   作:TOLI

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第8話 初戦闘と初銭湯 (後編)

 少年は、魔女と呼ばれる化け物のすぐ近くに来ていた。廃ビルを連想させるようなオブジェクトを自分の身を隠す壁として利用した上、《重力操作》と呼ばれるスキルを使い、自分にかかる重力を軽くし、足音を一切立てずにここまで来たため。魔女はまだ少年に気付いていないようだ。

 

 少年は魔女の背後から、手にした銃で狙いを付けた。もしかしたら、人間の弱点が魔女にも効くかもしれない。少年はそう考え、銃口を魔女のドロドロとした頭に銃口を向ける。

 

「……ッ!!」

 

 少年は、歯を食いしばり、魔女の頭部めがけて、銃弾を放った。しかし、魔女は少しよろめいただけで、効いている様子はない。

 

 魔女は銃撃を受けた方向──少年のいる方へ顔を向けた。そして、少年を視界に入れた瞬間。効くに耐えない奇声をあげる。その様子はまるで、自分の縄張りに侵入者が現れた事に対し、怒り狂っているようにも見えた。

 

「クソッ!使えねぇ!」

 

 少年は手に持っていた銃を投げ捨てる。入れ替わるようにして、少年の右手に一本の剣が転送された。

 

「絶対に倒す!!」

 

 少年は手にした剣で、魔女の芋虫のような胴体部分めがけて、切りかかる。少年の渾身の一撃は斜めの軌道を描き、がら空きだった胴体部分に命中した。

 

 間髪いれず、今度は垂直に剣を振り下ろす。感情をぶつけるようにして振るわれた剣は、魔女にとって無視できないダメージを与えていた。だが、魔女を黙ってはいなかった。

 

 魔女は先端にハサミのようなものが付いた触手を、少年に突き刺そうとする。それは、冷静さを失い、攻撃する事しか頭になかった少年の左腕に、やすやすと刺さる。

 

 今までの人生で味わったことのない痛みが、少年を襲った。少年は痛みに耐えながら、触手を力任せに引き抜いた。しかし、極限まで熱せられた鉄板を押し付けられたような痛みは収まらない。

 

「まだだ、まだ手は尽きてない」

 

 少年の目は死んで無かった。右手を魔女に向けてかざし、《重力操作》を使い、魔女のいる範囲の重力の向きを変化させる。その結果、魔女は重力に従い、“上空”へ落ちていく。

 

 魔女はすぐさま、蝶のような羽を震わせ。《重力操作》の影響範囲から脱出する。

 少年はその隙に、魔女に近づいた時と同じ方法を用いて、魔女から距離をとった。

 

 魔女によって痛手を受けた左手の傷を、もう片方の手で押さえつつ、全速力で走り、魔女のいる位置とは正反対の方向に向かって行く。

 

 

 

 結界の端までたどり着いた所で、少年はようやく走ることを止めた。そして、魔女の結界に入ってから、何度目になるかわからない深呼吸をした後、少年は再び、右手に銃を転送した。

 

 魔女のいる場所から限界まで距離をとったため、少年のいる位置から銃を撃ったとしても、少年の持つ銃では明らかに射程が届かない。当たるはずが無かった。

 

 にも関わらず。少年は銃口を、効くに耐えない奇声を放ち、侵入者である少年を探している魔女へと向け、慎重に狙いを定めた。

 

「…………アクセル・ショット」

 

 かすれた声で、技の名前を呟くのと同時に、魔女へ向けて、銃弾を放つ。

 

 少年の放った銃弾は、時間とともに、そのスピードと威力を増していった。そして、吸い込まれるようにして、魔女の胴体部分に命中した。

 

 命中した瞬間、今までとは比べものにならないボリュームで魔女は奇声をあげた。しかし、魔女はたおれなかった。再び背中に生えた蝶のような羽を使い、真っ直ぐ少年の方へ飛んでくる。

 

 どうやら、今の銃撃で少年のいる場所を把握したようだ。大量の触手を展開しながら、その巨体からは、有り得ない俊敏さで、瞬く間に少年との距離を詰めていく。

 

 だが、少年は動じなかった。スライドを引く手間すら惜しいのか、先ほどまで持っていた銃を捨て、スマホを使い新しい銃を今度は左手に転送し、再び魔女へ銃口を向けた。

 

「……残念だったな。この技は、連射可能だ」

 

 少年はろくに狙いをつけずに、連続で銃弾を放った。撃つ度に、少年の足元にある銃の数が増えていく。そして遂に、放った銃弾の内の一つが、魔女の頭部を吹き飛ばした。

 

 残された体は、徐々に減速していき、地面に衝突、完全に動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

「終わったよ」

 

 俺は、結界の最深部の入り口で待っていたキュゥべえに声をかけた。

 

「酷いケガをしてるじゃないか、すぐに病院で手当てを受けた方がいいよ」

 

 キュゥべえは俺の左腕の傷を見て、そう言った。

 

「わかってる。すぐに病院に向かうよ」

「歩いて病院に行けるかい?キツいようなら、黒咲達を呼ぶけど」

「問題ない、一人で大丈夫だ」

 

 ──多分。今ならあの違和感の正体をハッキリさせることができるだろう。 

 

「手当てが終わったら、あの廃ビルで大人しくしてるよ」

 

 ──あの質問をすれば、簡単にわかるだろう。

 

「キュゥべえは先に帰ってくれ」

 

 ──だが、心の準備がまだできてない。

 

「俺は軽く休んでくからさ」

 

 ──このまま時間が経てば、思い出すのだろうか。

 

「……面倒なことになったなぁ」

 

 

 

 


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