スマホを拾ったので異世界を救います   作:TOLI

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第7話 初戦闘と初銭湯 (前編)

 キュゥべえの視線の先には、中心に謎の模様が描かれた穴のようなものがあった。

 

「これが結界の入り口か……」

「この中に魔女がいる。さあ、早く中に」

「そういや、俺達が寝床にしている廃ビルの近くに、新しく銭湯ができたらしいぞ?」

「……先に行ってるよ」

 

 キュゥべえは一切の躊躇なく、結界の入り口に入っていった。俺は一度深呼吸をしてから結界の内部へと踏み込んだ。

 

 結界の中に入ると、以前にも目にしたことがある綿のような頭に、チャーミングなヒゲ、それに蝶の羽のような下半身を持つ化け物達が、奇声をあげて俺達を歓迎していた。

 

「キュゥべえ、後ろに下がっといてくれ」

 

 俺の言葉にキュゥべえは素直に従った。俺はスマホを使い、剣を一本、右手に転送した。化け物相手なので、切れ味は最大にしておいた。

 

「記念すべき初戦闘だ!速攻で片付けてやる!」

 

 そう意気込んで、化け物達のもとに向かって走り出した瞬間。化け物達は一斉に真っ黒な目と、青紫色の口を開いた。

 

「すいませんでしたァァァァ!」

 

 いきなり化け物達のホラー具合がランクアップしたため。俺は反射的にその場をUターンした。

 

「何かハサミをカチカチしてんだけど!助けろキュゥべえ!」

「無茶言わないでよ。僕はマスコットキャラクターだから戦闘力は皆無だよ」

「いったん逃げるぞ!結界の出口はどこだ!」

「もう閉じてるよ」 

「……腹をくくるしかないか」

 

 俺は改めて、化け物達に向き直った。そして一呼吸おいた後、眼前にやってきた化け物めがけて、右手の剣を切り払った。たったそれだけで、化け物の体は真っ二つとなった。

 

「何だ、守備力ゼロのモンスターだったのか」

 

 化け物が弱いとわかった事で、俺は調子づき。化け物達を片っ端から斬り伏せていった。

 

 

 

 化け物達を一通り殲滅した後、俺とキュゥべえは結界の中を進み、今は最深部と思わしき扉の前に来ていた。ここに来る間も、何度か襲われたが特に苦戦することもなく、切り抜けた。

 

「いやー初戦闘で、あれは凄くない?」

「最初はビビって逃げ出したけどね」

「可愛い小動物が一瞬で化け物のような顔になったら、誰だってビビるだろ」

「まあ、それは置いといて。おそらく、この先に魔女がいると思うけど、心の準備はできたかい?」

「いや全く」

「……不安だなぁ」

 

 どんな魔女が来るかわからないが、とりあえず先手を打てるよう、銃を転送しておいた。剣の方は刀身を短くし、今では持ち手の部分だけという、物凄くコンパクトになっている。オマケに刀身が短くした分だけ重さが減っていたので、キュゥべえの背中に紐で括り付けていた。

 

「準備はOK、行ってくるよキュゥべえ」

 

 そう言って俺は目の前のドアを蹴り破った。

 

 

 

 最深部は、予想以上の広さだった。所々に蝶や薔薇の装飾があり、廃ビルを連想させるようなオブジェクトも散見していた。そして何より目を引くのが──

 

「何だ、あのデカいのは!?」

 

 中央に鎮座する使い魔とは比べものにならないほどの巨体を持つ化け物──魔女がいた。

 

 その魔女は、ドロドロとした緑色の頭に、無数の触手のような足、さらに美しい蝶の羽を携えていた。

 

「……おかしい」

 

 唐突にキュゥべえが、そう呟いた。

 

「確かにあの不気味さは、おかしいな。」

「そうじゃないよ、何というか違和感のようなものを、感じたんだ」

「……ズバリ、その違和感の正体は?」

「……今はまだ、わからない」

「駄目だ、気になる。気になって集中できねぇ」

 

 俺の言葉を聞いて、今まで冷静であったキュゥべえが慌てだした。

 

「しっかりしてくれよ。戦えるのは君だけなんだよ?ドゥーユーアンダスタンだよ?」

「気になるものはしょうがないだろ。後、英語っぽい何かはやめろ」

「……今更だけど、どうして黒咲を連れてこなかったんだい?」

「巴マミに、実力があるのはわかっているが、それでも女の子一人に任せるのはどうかと思っただけだ」

「君が一人で魔女と戦うのもどうかとおもうけどね」

 

 キュゥべえの失礼すぎる発言に対して、俺はニヤリと笑って答えた。

 

「俺一人でも戦えるってことを、今から証明してやるよ!」

「随分と自信に満ちあふれているね」

 

 色々なスキルを手に入れたからな。そうだ、景気付けに、特撮ヒーローのように、改めて名を名乗ってみますか!

 

「まあ、見てろって。この俺…………」

 

 ──アレ?

 

「……どうしたんだい?」

 

 ──唐突に、違和感を感じた。何故だかわからないが、その違和感の正体を知ろうとは思わなかった。……多分、これがキュゥべえの言っていた違和感なのだろう。

 

「いや、何でもない。この俺が華麗に魔女を殲滅するところを、そこで見ているといい」

 

 ──いや、薄々気付いてはいた。これは、キュゥべえの言っていた違和感とは違う。全く別の、この世界に来てから、ほんの少しだが感じていた違和感だ。でも、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

 おそらく、こうしている間にも、巴マミと黒咲は魔女と戦っているはずだ。一緒に戦うと最初に言ったのは俺だ。逃げるわけにはいかない。

 

「……ちょっと殲滅してくるよ」

 

 動揺を誤魔化そうとして、いつもと同じ調子で口にしたつもりだったが、その声は自分でも驚くほど小さかった。

 

 

 

 

 

 


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