「もしかして、魔法少女になる気か?」
俺の問いに、二人の少女は露骨に目をそらした。どうやら答えづらいようだ。しかし、暁美ほむらに、契約をする可能性はゼロと言った手前、素直に契約させるつもりはなかった。
もし、鹿目まどかが契約したら、間違いなくほむらによって、俺のライフがゼロになりかねないからだ。
何故そう判断したかというと。アプリで見た彼女の情報の中に…………いや、もう忘れよう。彼女の家のタンスの中に、鹿目まどかの隠し撮り写真が入ってるとか、一日の半分は鹿目まどかのすぐ近くにいるとか、数え出すとキリがない。というか、プロフィールの九割がそんな内容だ。
そのため、彼女だけ他の重要人物よりプロフィールの量が半端なく多かった。とにかく、そういう訳だから、絶対に契約させるつもりはない。
「頼む、答えてくれ!(俺の)命がかかっているんだ!」
「ええ!?」
「どういうことですか!?」
「二人が契約すると、撃たれるんだ!」
「「何で!?」」
二人の声が見事にハモる。
「……あれ?マミさんは契約済みですよね?」
「そうじゃん!マミさんは撃たれた何て一言も言ってなかったよ!」
「いや、巴マミは撃たれた。そのせいで一度、首から上が無くなっている」
「でも、この前会った時はちゃんと頭があったような……」
「残像だ」
「そういう問題なの!?」
何か色々と嘘を言ったり、巴マミに失礼なことを言った気がするが、本当に命がかかってるから、しょうがないだろう。
「そういう訳だから、魔法少女になるのは諦めてくれ。……一応聞くが、何で魔法少女になろうと思ったんだ?」
「誰かの役に立ちたくて」
「早期契約特典を使って、キュゥべえを踏みた──」
「おい待て、一人おかしい」
「ちょっと!まどかはおかしくなんてないわよ!」
「いや、おかしいのはお前だよ!」
というか、よく早期契約特典とか覚えてたな……
「誰の頭がメルヘンですって!?」
「お呼びでしょうか、お客様?」
「呼んでないよ!?」
「そうでしたか、失礼しました」
そう言うと、ホスト風で茶髪の店員は帰って行った。
……空を飛んで。
「何か、天使の羽みたいのが現れたと思ったら、大空に飛び立って行った……」
「すごいなぁ、最近の店員さんは、空をとべるんですね」
「くー!私も空を飛びたいわー」
「……もうやだ、このファミレス」
俺が、うなだれているとスマホにメールに送られてきた。差出人は巴マミ、先ほど必殺技を作るときに連絡先を交換したのが、早速役に立ったようだ。俺はすぐにメールを確認した。
「……遂に来たか」
メールの内容は、見滝原市に2体の魔女が同時に出現し、そのうち1体を殲滅して欲しいとの事だった。
幸か不幸か、魔女が出現した場所は、ファミレスからそう遠くはなかった。
「二人とも、すぐ家に帰るんだ。どうやら近くに魔女がいるらしい。黒咲──あれ?さっきまで、キュゥべえと一緒に寝てたはずなんだが……」
すぐに店内を見渡してみるも、不審者らしき服装は見つからなかった。仕方ないので、キュゥべえを起こし、黒咲の行方を聞くことにした。
「キュゥべえ、二人がお前の事を踏みたいそうだ」
「ハッ!今何か、凄く嬉しい事を言われた気がする!」
俺の言葉にキュゥべえは飛び起きた。
「キュゥべえ、黒咲がどこに行ったか知らないか?」
「彼なら、茶髪でホスト風の店員さんとデュエルしているよ」
「……急いで連れ戻して、巴マミの所に行くよう伝えてくれ」
「……?よくわからないけど、わかったよ」
「伝えたら、俺の所に来てくれよ」
「君はどこに行く気なんだい?」
キュゥべえは可愛らしく首を傾げた。いつの間にか、悪徳詐欺師からマスコットにクラスチェンジしたようだ。
「近くに魔女が現れたらしいから、そいつを殲滅してくる」
「それは大変だ。黒咲に伝えたらすぐ君の元に行くよ」
そう言い残して、キュゥべえは黒咲の元に走り去っていった。
魔女が現れたという場所にスキル《身体能力上昇》をフル活用し向かっている途中で、スマホにガブリエルから、着信が入った。俺は休憩を兼ねて、応じることにした。
「今、取り込み中なんだが」
『うん、知ってる♪』
……都合よく、ハンマー落ちてないだろうか。
「切るぞ」
『まあ待て、武器について話そうと思ってな』
「……ああそうか、せっかく《剣の心得》と《銃の心得》の二つのスキルを取ったのに、剣と銃が無いと、意味がないからか」
『その通り。そういう訳だから、好きな剣と銃をスマホを使う事で無限に転送できるようにするぞ』
「じゃあ、聖剣エクスカリバーとか、ロケットランチャーを頼む」
『作るのが面倒だから、魔改造した剣と、ハンドガンをそれぞれ一種類だな』
好きな剣と銃って言ったじゃないか……。それに、面倒という事は、一応作れるのか。
「魔改造ってなんだよ……」
『刀身の長さを調節できたり、オマケ程度のホーミング性能を付けれるぞ』
「……だったら、刀身の長さを調節と任意──いや、デフォルトで切れ味を悪くできるようにしてくれ」
『何故わざわざ、切れ味を下げるんだ?』
「あー、鈍器的な?」
『……まあいい、銃の方はどうする』
「弾数無限にできるか?」
『無限に転送できるからな、許可しよう』
「後、俺以外は使えないようにできる?」
『なかなか欲張りだな、それで最後にしてもらうぞ』
「そうだ、転送についての詳細が知りたいな」
『スマホから半径一メートル以内、以上。寝る』
そう言って、通話が切れた。話している間に息も整ってきたので、俺は再び魔女の元へ走り出した。
しばらく走っていると、俺の肩にキュゥべえが飛び乗ってきた。
「まだ、魔女の結界は見つからないのかい?」
「残念ながら、まだだ。それにしても、よく追いついたな」
俺はガブリエルとの通話を除くと、ずっと全力で走っていたはずだ。通話時間だって、たった数分の事だ。何か移動手段でもあったのだろうか?
「実は途中まで、黒咲の召還した《RR-バニシングレイニアス》に乗っていたんだ」
《RR-バニシングレイニアス》とは遊戯王というカードゲームにあるカードの一つだ。スマホの機能を使うことで、デュエル中に限り、質量を持ったモンスターが召還されるが、それ以外では召還できないはずだ。気になるから、魔女を倒し終わった後に、黒咲かガブリエルに聞いてみるとしよう。
「キュゥべえ、魔女の結界の正確な場所は解るか?」
「このまま進んで行った先にあるよ」
「わかった」
キュゥべえに言われた通り、俺は走りつづけた。そして──
「見つけた。アレが魔女の結界への入り口だよ」