ガブリエルとの通話が終わった後。黒咲は自分の寝袋を買うと俺に言った後、ビルから出て行った。
特にやることも無かったので、俺はビルの中を探索した。途中で、掃除用具と大きめのタオルを見つけた俺は、それらを回収し、現在は寝床となる予定の、ビル内のとある一室を掃除していた。
「そういや、能力を使えるようになったのはいいが、どう使うんだ……?」
俺の問いには、誰も答えない。今、この場所に居るのは、絶賛気絶中のキュゥべえだけだからだ。
仕方ないので、一人で色々試してみることにした。
まずは身体能力上昇という、スキルだ。
試す方法は簡単、その場でジャンプするだけだ。
「せーのっ!──ぐふぅ!?」
天井の高さはそれなりにあったはずだが、俺は天井に頭をぶつけてしまった。
どうやら、本当に身体能力が上昇しているらしい。
オマケに、天井に頭をぶつけた痛みは殆ど無かった。
当初の予想以上に、このスキルはかなり役に立ちそうだ。
続いて、大本命の重力操作について、試すことにした。確か、ガブリエルは、イメージした現象を実際に起こすとか。重力操作で、できると思った事を、全てできると言っていた。なので俺は、一番イメージしやすいであろう、無重力で自分の体を浮かす事に挑戦した。
俺が頭の中で、イメージすると。あっさり自分の体は浮いた。しかし、重力操作を使った事で、不意にある疑問が浮かんだ。
「……どう活用すればいいんだ?」
その後も、しばらく重力操作について、色々試行錯誤していると。ようやく、キュゥべえが目を覚ました。
「大丈夫か、キュゥべえ?」
「…………僕は」
「……ん?」
「僕は何てことをしてしまったんだぁぁぁ!!!」
そう言うと、キュゥべえは床に頭を何度もぶつけ始めた。
「落ち着け!何があった?」
「僕はとんでもない過ちを犯してしまった!」
キュゥべえは床に頭をぶつけるのを止め。俺の方に向き直った。……心なしか、その瞳は真っ赤に燃えている気がした。いや、真っ赤なのは元からか。
「僕はたくさんの女の子達に、過酷な運命を背負わせてしまった!僕は償わないといけない!彼女達を救う為にも、僕は自分の身を削る覚悟だ!僕は今!正義に燃えている!今の僕は昔とは違う!言うなればnewキュゥべえだ!僕は魔法少女達の為のマスコットキャラクターとして!彼女達に本当の事を言わなければならない!そして、ケジメとして踏んでもらおう!よし、そうと決まれば、早速行動だ!待っていてくれ魔法少女達!僕を踏んでくれぇぇぇぇぇ!!!!!」
「マジで何があったぁぁぁ!?」
キュゥべえがぶっ壊れた!?明らかに原因はガブリエルだよねコレ!?あの手術は失敗だよね!?いや、失敗なんてレベルじゃない!うっかり患者を殺すレベル、いや、うっかり患者をオーバーキルするレベルの歴史的大失敗だよね!?
俺が混乱していると、先ほど、買い物しに行った黒咲が戻ってきた。
「何だこの騒ぎは!敵襲か?」
「……キュゥべえが壊れた」
「殲滅する!」
「何でだよ!」
「殲滅?魔法少女を救った後なら、大歓迎だよ!」
「お前はその口を閉じろ!」
「大丈夫!基本テレパシーで話してるから、口は閉じてるよ!」
「何?テレパシーだと!貴様、デュエリストか!」
「もう、勘弁してくれませんかねぇ!」
数分後、ようやく落ち着いた一人と一匹と一緒に、俺は、アプリNo.001グローバルインフォメーションを使い。この世界についての情報を得ることにした。
「ええと、クリア条件はワルプルギスの夜とやらを撃退。重要な出来事は、近い内に、ワルプルギスの夜が襲来。で、重要人物だけど……」
重要人物の所には、先ほど会った。黒髪の少女も含む四人の少女、まだ会ったことのない、赤髪の少女、そしてキュゥべえについての情報があった。 ご丁寧に顔写真付きな上に、軽くプライバシーが、侵害されているレベルの情報が書かれていた。
「キュゥべえは魔法少女と魔女を利用して、エネルギーを得てたのか」
「それが、僕の犯した過ちだよ。」
「罪を犯したのか、ちょうどここに、ベッド兼牢屋になりそうな物があるが、入るか?」
そう言うと、黒咲は鳥かごを買い物袋から取り出した。後で、何故それを買ったか問いただしたい。
「喜んで入らせてもらうよ」
キュゥべえは一瞬たりとも、迷うことなく鳥かごに入った。流石に可哀想なので、ビルを探索した時に手に入れたタオルを、底に敷いた。
「アプリで手に入る情報は、これで全部かな」
「行動するとしたら、明日だろう。」
「そうだな、もう寝る準備をすることにしよう」
「寝袋を買うついでに、ダンボールを入手してきた。使うといい」
「助かるよ。このビルの床は堅いし冷たいからな」
俺達は寝る準備をした後、明日に備えて就寝──しなかった。寝る直前にキュゥべえが
「そういや、デュエリストとか言っていたけど、デュエリストとは何だい?」
と言い出して、それに対し黒咲が
「ふん、いい機会だから。今から俺がデュエリストについて教えてやろう」
そして、狙ったかのごとく、ガブリエルから着信。
『デュエルの準備ができたぞ!スマホを腕に添えてくれ!』
その言葉を聞いた黒咲がスマホを腕に添えると、スマホが何かのディスクに変形した。ていうか、黒咲も俺と同じ……いや少し色が違うけど、スマホ持ってたのかよ!
「準備は整った、バトルだ!」
「いや、寝かせろぉぉぉ!!」
結局、その後デュエルをやることになり。俺達が寝たのは翌日の午前四時頃だった。何故そんな時間までデュエルをしていたかと言うと、俺がデュエルにハマったからだ。つまり、半分は自業自得だ。
今の時刻は午前十時、黒咲とキュゥべえはまだ就寝中だ。約束の時間まで余裕があるので、二度寝しようと思ったのだが、そこに思わぬ来客が訪れた。
「昨日の礼を言いに来たわ」
黒髪の少女──いや、アプリの情報によれば、暁美ほむらと書かれていたな。
「昨日……?ああ、契約を妨害したことか」
「まどかが契約すると言ったときは、思わず撃つ所だったけど。良くやってくれたわ」
やっぱり、撃とうとしていたのか……
「安心しろ。今のキュゥべえはキュゥべえじゃない。newキュゥべえだ」
「言っている意味がわからないのだけど」
「話せばわかる──ほら、起きろキュゥべえ」
「うーん、はっ!君はもしかして、僕が契約してしまった魔法少女かい?」
「……ええ、そうよ」
「踏んでくれ!」
「何でだよ!」
「うるさいぞ、敵襲か!」
「めんどくせぇぇ!!」
話が進まないので、黒咲には街に情報収集をしに行ってもらった。そしてほむらには、スマホの事を含め、殆ど話した。アプリの情報で敵じゃないことはわかっていたし、問題は無いだろう。
「つまり、まどかが契約する可能性はゼロと言うことね」
「そういうことだ。だから君には、ワルプルギスを倒すのに、協力してもらいたい」
「構わないわ」
そう言うと、ほむらは、帰って行った。
「しまった、踏んでもらうのを忘れてたよ!」
「まだ言うか!」