「二人にお願いがあったからだよ」
キュゥべえの言葉に二人の少女は戸惑う。
「私達に……」
「お願い?」
「そうなんだ、鹿目まどか、それと美樹さやか」
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
「今なら、早期契約特典としてキュゥべえが踏み放題だ!」
──契約という単語には嫌な思い出しかないからな。そのうえ、少し離れた所にいる黒髪の少女が、キュゥべえの言葉を聞いた瞬間、キュゥべえに向けて、静かに銃口を向けていた。
どうやら、最初に会った時、キュゥべえを殺そうとしていたのは、契約を阻止するためのようだし。……ちょっと妨害しておこう。
「え、ホント?」
「さやかちゃん!?」
「いやー、キュゥべえって何となく踏み心地が良さそうじゃん?」
……まさか食いつくとは、前世でキュゥべえに何かされたのか?
「キュゥべえの踏み心地の良さは、既に実証されている。」
「本当に踏み放題なの?」
「本当だ。キュゥべえは今、マゾヒストという名の無限の可能性を秘めた道を切り開こうとしているんだ」
自分で言っておいてアレだが……何を言ってるのだろうか俺。
「君達は僕に何か恨みでもあるのかい?」
「さあ、どうする?契約するか?」
「んー、悩むなぁ。まどかはどうする?」
「さやかちゃんが契約するなら、私も契約しようかな」
「うーん、わかった。契約するわ」
「私も契約します」
──あれ?妨害するつもりが、何でこうなった?
おかしいな。契約をしない方向に持っていく予定だったのだが、どうやら現実は厳しいようだ。
それにしても、あっさり過ぎる。特典のせいだろか?ますます、前世でキュゥべえがやらかした説が現実味を帯びてきたな。
……そういや、黒髪の少女は契約を阻止しようとしてたな。ちょっと様子を窺って見よ…………やべぇ、銃口がいつの間にか、俺に向けられてるじゃねぇか。
何とかして、契約を阻止しないと、撃たれるよな俺。どうすればいいんだ。阻止する方法が思いつかない。
「…………」
「どうしたの、キュゥべえ?契約しないの?」
「……少し、考えさせてくれないかな」
──キュゥべえ、それ逆。普通そのセリフは契約を持ちかけられた方が言うものだ。というか、それでいいのかキュゥべえ。そんなにマゾヒストの道が嫌か。それとも、自分を狙う何者かの気配を察したのか?
「えっと、話は済んだのかしら?」
恐らく俺の暴走のせいで、会話に参加するタイミングを失ったであろうマミが、少々困惑気味にそう言った。
「たった今、終わった所だけど、どうかしたのか?」
「あなた達三人に、魔法少女についてちゃんと説明したいと思ってね。けど、門限もあるだろうし……そうね、明日の午後は空いてるかしら?」
あの後、俺を含む四名は互いに自己紹介して、解散となった。明日の午後一時に、街中のファミレスで集合し、魔法少女とやらについて、説明してくれるしうだ。因みに黒髪の少女はいつの間にか居なくなっていた。
今の時刻は午後七時三二分。そろそろ腹が減ったので、スマホの地図機能を使い。近くのデパートに来ていた。そして、食料を確保したあたりで、寝る所が無いことに気づき、寝袋も購入した。
そして今は、あの人気の無いビルに向かっていた。
買い物をしてる最中、道行く人が皆そろって、俺の事をジロジロ見ていたが何だったのだろう。俺の服にゴミでも付いて──
「…………」
何で……忘れていたのだろう。いろんな事が有りすぎたからか?失敗した。デパート行ったときに買っとけば良かった。
「……寝よう」
俺は再びビルに入り、良さそうな場所を見繕って、寝袋をセットした。
そして、デパートで買った、あんぱんを食べている最中、スマホに着信が入った。
「もしもし……」
『どうした、やけにテンションが低いじゃないか』
「寝間着のまま、街中歩き回った。死にたい」
『それは災難だったな、そこだけ記憶を消してやろうか?』
「是非そうしてくれ」
『任せたまえ』
「え?本当にでき…………あれ?」
『成功したぞ』
「……何が?」
『ああそうか、そこも覚えてないのか』
覚えてないとは一体何の事だろう、それにしても、何故か知らんが、少し頭に違和感があるような……
『まあ、細かい事は気にするな。それよりも、この間の続きだ。三つ目のアプリについて、説明するぞ』
「三つ目って……。スキルについてか!」
ついに来たか。俺にも超能力や魔法が使えるようになるとか、異世界に来て本当に良かった。一体どんなスキルがあるのだろう。
『ああそうだ。三つ目のアプリの名前はスキルカスタマイザー、ポイントを使う事でスキルを取得することができる』
「ポイントはどう手に入れるんだ?」
『最初は6ポイント用意されてる。後はクリア条件を満たすことで、手に入る』
「いや待て、クリア条件を満たしたら、元の世界に戻れるんじゃなかったのか?」
『一回クリア条件を満たせば終了とは、一言も言ってないぞ』
……契約って何だろう。
『それと、このアプリは異世界に転送されてから、二十四時間しか使えないからな。今、こちらで操作してスキルリストを開いたから、説明してほしいスキルがあったら言え』
「…………なあ、殆ど地味なスキル何だが」
スキルリストに、表示されているスキルの殆どは、八割方、明らかに無くてもいいレベルのものだった。
「特に!食事スピード上昇って何だよ!」
『食べるスピードが二倍、食える量も消化スピードも二倍になる。その上、顎の力もかなり強くなる。一つのスキルなのに、四つの効果が得られる、超強力なスキルだ』
「強さの方向性がおかしいだろ!」
『私が一番お勧めするスキルなんだが……』
「ポイントに余裕できたら、取得してやるよ」
『わかった。次回スキル取得時に強制的に入れてやろう』
何でコイツはそこまでして、食事スピード上昇のスキルを取らせたいんだ……
「取り敢えず、気になるスキルが五個ほどあるから教えてくれ」
「スキルセット01とは何だ」
『今、君がいる世界で必須のスキルや汎用性のあるスキルが入っている。必須のスキルは世界ごとに違うから、世界によっては五個以上入ってることもある』
たった今、食事スピード上昇のアイデンティティが失われたな。一つ一つのスキルはあまり役にたたないし。
「次、身体能力上昇とは何だ」
『身体能力が上昇するぞ』
説明短かっ!でも、なかなか役に立ちそうだ。
「次は、銃の心得と剣の心得について教えてくれ」
『それぞれ、中級者レベルの知識と技術が身に付くぞ』
……中級者レベルってアバウトすぎないか?
「次は……何かスキルの前に星のマークがある奴なんだが」
『それは、スペシャルスキルだな。確か今あるのは、重力操作と瞬間移動、そしてステルス化の三つのはずだ。スペシャルスキルは、今の所一つまで取得できる』
「重力操作について教えてくれ、今いち何ができるかピンと来ない」
『君が重力を操る事で、できると思ったこと全てだ』
「できると思ったこと?」
『そうだ、今の内に一つ忠告しておこう』
『気がもし、重力操作を取得する気なら、重力について、調べたりしないことだ』
『もし、重力について調べたら。能力に余計な制限がかかるからな』
「もっと、わかりやすく説明してくれよ」
『厳密には、このスキルは重力を操る訳じゃないのさ』
『スマホを使うことで取得するスキルは、正確には一つだけだ』
『そのスキルは、自分がイメージした現象を実際に起こす強力なものだ』
「だったら、最初からそのスキルを取得すれば、すぐに異世界を救えるじゃないか」
『いや、このスキルは危険だ。』
『例えば、このスキルを持った人が、ふとしたきっかけで、地球が崩壊するイメージを抱いたとしよう』
『その瞬間、地球は崩壊する』
……扱い辛すぎるだろ。うっかり地球破壊しましたとか、洒落にならないな
『最悪のパターンは自分の死をイメージする事だな』
そこまでいくと最早、チートではなくバグだと思う。
「……だいたい解った」
『理解が早くて助かるよ』
『スキルリストの全ては、それぞれに強力な制限をかけたものだ。スペシャルスキルが一つだけなのは、君にはまだ使いこなせないからだ』
『さて、次はポイントのもう一つの使い道、恩恵について、説明しよう』
「恩恵?」
『ポイント一つ消費で一回、効果が使える』
『効果は今の所二つある。』
『一つは死亡時に、前日の好きな時間に戻る効果』
死亡時って何だよ……選択肢ミスったら死ぬのか?
『もう一つは、協力者を一人増やすことができる効果だ』
「……協力者?」
『実際に呼んでみての、お楽しみさ』
『さて、ポイントの使い道は決めたかい?』
「あぁ、スキルは先程気になると言った奴を五個取得するよ。残るポイント一つで協力者を頼む」
「そういや、ポイントが無い状態で死んだらどうなるんだ?」
『転送された時間、場所からやり直しだね』
一応保険はあるらしい。死んだときが、面倒そうだがポイントは残さなくても大丈夫だろう。
「なら、これでいく」
『オッケー、今から早速、協力者候補と話をつけてくるよ』
「その前に、ずっと聞きたかったことがある。いい加減、名前を教えろ」
『じゃあ、ガブリエルで』
「……今、考えたよな。まあいいか、何だか長い付き合いになりそうだからな。宜しく頼むよ」
『こちらこそ、宜しくお願いするよ』
ガブリエルがそういうと通話が切れた。恐らく協力者候補の元に行ったのだろう。
数分後、スマホに着信が入った
「何だ、随分早かったな」
『協力者になることは、メリットしかないからね。すぐに契約成立したよ』
「もうこの世界に来ているのか?」
『すぐ近くにいるはずだよ』
そう言われて、後ろを振り返るとそこには、青紫のコートに赤いマフラーをした男がいた。
「貴様がガブリエルの言っていた奴か」
『彼の名前は黒咲隼、デュエリストだ』
「デュエリスト?聞いたことがないな」
「デュエルを知らないのか?ならば、俺が教えてやろう。貴様には、この世界にいる間、特訓相手になってもらう」
「と、特訓!?」
『デュエルに必要なものは、後で私が揃えておこう』
『ところで、君たちは「アプリNo.001グローバルインフォメーション」を確認したかい?』
「……あ」
「今来たばかりだからな。まだ未確認──だれだ!」
そう言って黒咲はいきなり俺の真後ろに向かって、何かのカード投げた、振り向くとカードが壁に刺さっていた。その下には、白い生き物──キュゥべえがいた。
「そのスマホ、どうやら僕も知らないテクノロジーで作られているようだね。少し調べてもいいかい?」
『構わないぞ』
ガブリエルがそう言うので、俺はキュゥべえにスマホを渡した。
「へえ、すごいなあ。これは──アバババババ!?」
キュゥべえがスマホを調べようとした瞬間。スマホが放電現象を起こした。その上キュゥべえの額に、謎の模様が浮かんでいた。そして、何かが砕けるような音がした後、放電現象は収まり、謎の模様も消えた。
「あーガブリエル、何をしたんだ?」
『感情を与え、端末ではなく、一つの個体として生きられるようにした。』
「何故わざわざそんなことをした?」
黒咲の問いに、ガブリエルは即答した。
『だって、可愛いじゃないか』
「そんなに技術力に優れているなら、自分で世界を救いに行けばいいのに……」
『仕方ないだろう。肉体が無いんだから』
……サラッと明かされる、衝撃の事実。
『さて、今から飯を食うから切るぞ、ちゃんとアプリ使えよ』
通話終了。本当に自由な奴だ。というか体無いのに飯ってどうするんだよ……