少し短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
スマホを拾った。普通なら警察に届けるべきだろう。ただ、スマホが落ちていた場所がおかしかった。
俺がスマホを拾った場所はズバリ、自分の部屋だ。
見た目は俺の持っているスマホと同じなのだが、俺のスマホは現在進行形で充電中だ。つまり、俺の物ではない。
同じ見た目のスマホが二台、存在している。見分け方は簡単だ。いつも使用しているパスワードで、ロック解除できるのが俺のスマホだ。もう片方はロック解除が出来なかった。
取り敢えず俺は、謎のスマホを放置する事にした。わざわざ警察を届けるのが面倒だからだ。それに、このスマホは不可思議な点が多すぎる。警察に「すいません、落とし物です。このスマホが自分の部屋に落ちてました」と言っても相手にされないだろう。
今日はもう寝ようと思ったが、不意に晩飯の時に見た、テレビの内容を思い出した。『真夏の心霊現象スペシャル』という番組で、確か話の一つに、自分の部屋の物が、勝手に動いたりして振り向くと……
「……いや、え?いやいや!それはない。そもそも動いてないしセーフ──」
セーフでしょ、と言い切ろうとした瞬間。スマホのバイブが作動した。
「……」
俺はすぐさま毛布を被り、背中を壁に背中を預けた。何故か下半身の一部がジワリときた気がしなくもないが、気のせいだろう。そうに決まってる。いや、それは大した問題ではない。このバイブは何なのだ。こっちの方が問題だ。とにかくまずは様子見だ。
毛布の隙間からスマホを確認すると画面に明かりが付いていた。電源はパスワードを試した後に消したはずだ。仕方ないので、確認するとすることにした。
しかし、スマホに手を伸ばした瞬間、俺の部屋にスマホの着信音が流れた。着信音は俺のスマホと同じ、好きなアニメの音楽だった。それで確信した。俺がスマホを拾ったのは偶然ではないと。何者かが、俺を狙って意図的にスマホを用意したと。
異常な事態、そう解っていても。俺の手は、謎のスマホに向かっていた。いつの間にか恐怖心が、好奇心に変わっていた。スマホの画面を見ると、本来、相手の名前が表示される所に謎の文字が表示されていた。そして俺は着信に応じた。
『……聞こえるかい?』
少しノイズが入った後、聞こえてきたのは、男性の声とも女性の声とも言えるような、中性的な声だった。得体の知れない相手だが、不思議と怖いとは思わなかった。
「……聞こえてるぞ」
『それは良かった、早速だけど確認させてもらうね。』
「確認?」
『君の名前は幽奇、誕生日は八月二十日、○×高校一年生、住所は──』
謎の人物は次々と俺の個人情報をしゃべりだした。いや、個人情報というレベルじゃない、誰にも言っていない、俺しか知らない情報──俺の考えている事すらも、言い当てていた。
『──なるほど、貧乳が好きか』
「何故知ってる!?」
『すまんな、ご期待に添えなくて』
「期待なんざ、してねぇよ!」
駄目だ、思考が追いつかない。
『どうした?』
「……聞きたいことが山ほどあるんだが」
『性別とスリーサイズ以外なら、教えてやろう』
性別はともかく、スリーサイズって何だ……
「……まず最初に聞きたいことがある」
『何だね?』
「目的は何だ」
『単刀直入に言おう、異世界を救って見たくはないか?
「……はい?」
『OK、契約成立だ。詳しくはスマホを見れ、じゃあな』
「いや!今の“はい”は疑問の──あれ?切った?もしもーし!」
切りやがった、あの野郎。まあいいか。アレで契約成立とか馬鹿げている。一応確認しとくか、流石に謎の文字で書かれてはいないだろう。ん?何だこのカウントダウンは?
『強制転送まで、残り三分』
「いやー良かった。日本語で書かれていて……いや良くねぇよ!残り三分て、何?強制転送て何?マジで異世界行くの?カップ麺もギリギリ間に合わないじゃないか!アイツに連絡……連絡先どころか、名前も性別すらも知らねぇよ!」
……一端落ち着こう。夜中だというのに、思わず大声で叫んでしまった。冷静になろう。もし、仮にだ。本当に異世界に転送されたらどうなる?いや、そもそも異世界とは何だ?駄目だ、考えてもどうしたら良いのか解らない。取り敢えずカウントダウンを確認しよう。
『強制転送まで、残り二分』
……今気付いたけど、秒数は?とにかく何か役立ちそうな物だけでも持って置こう。
『強制転送まで、残り一分』
「……今の服装、寝間着なんだけど。コレって──」
『転送開始します』
その瞬間、俺の部屋は、謎のスマホから放たれた光で埋め尽くされた。俺は結局自分の部屋にあった物しか、用意出来なかった。
転送が始まる。俺の体は段々と薄くなっていた。そして──