東方物部録   作:COM7M

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本当なら前回の投稿からすぐに更新できたのですが、次の話にてこずっております。おそらく結構遅くなると予想。

今明かされる衝撃の真実(ただのちょっとした伏線回収です)

それと憑依鈴仙の短編的な黒歴史ノートを投稿しました。大したものではありませんが一応報告させてもらいます。


種明かし

 

「我が名は物部布都! 本家頭領である物部尾興の娘である!」

 

生駒山前に立ち並ぶ物部の大軍へ、平野全体に響き渡る大声で叫ぶ布都。その後ろ姿は、つい先程まで顔を真っ赤にして私の背中に隠れていた少女と同一人物とは思えない。

牽制状態とは言え、戦の中にいながらも私は布都達が帰って来てからの事を思い出していた。

 

 

 

布都が衣服を脱ぎだした時には私も混乱してしまっていたが、屠自古の拳によって、殴られていない私も冷静さを取り戻す事ができた。

あれから私はふて腐れる屠自古の機嫌を取り、そしたら今度布都が拗ねていたので布都の機嫌も取り、すると今度は屠自古が安心したのか急に泣き出したので宥め、布都がキスを強請って来たので抱擁で我慢させたりと戦よりも忙しい時間を過ごした。

この二人の好意を受け取って感じたのは、これ以上女性を手元に置こうものなら疲労で倒れてしまうかもしれないということだ。二人とも愛らしく、可愛く、美しく、賢く、強いと、まさに理想の女性と言えるが、身分の高い女性の中でも嫉妬深い。特に布都に関しては、壊れた(あの)時からは更に嫉妬深くなっており、一度屠自古の方を向くだけで頬を膨らませる。それでも屠自古を五体満足で助けてくれたのだから、優しい子である。

いくらか時間を掛けて二人の機嫌を直すことに成功した私は、一度生駒山へ進軍した兵を戻す様に命じた。屠自古がこちらの手に戻った時点でこの戦はほぼ終わりなのだ。

すると屠自古がチョンチョンと私の袖を引っ張り、そちらを向くと屠自古は首を傾げて立っていた。久しぶりに眺めるその愛らしいその姿に、私は彼女の頭を撫でながら、どうしたのか聞いた。

 

「どこまで神子様の計算だったの?」

 

「どこまで、と言うと?」

 

「私、人質になっていた時に一度だけ布都と会ったんだけど、その時布都、神子様を助けるために神子様を裏切るって支離滅裂な取引に応じてさ」

 

なるほど。どうやって布都を向こうの軍師にさせるか悩ませていたのだが、向こうから布都を取り込んできたのか。つくづく騙されやすい男だな、守屋とは。とは言え守屋の方も決して考えなしに布都を軍師に誘ったのではないだろう。むしろ私も守屋の立場であれば、少なからず何らかの立場に布都を置かせていた。

言うのも、これに似た概要を今から屠自古にするのだが、元より尾興殿を失った今一枚岩ではなくなった物部を、守屋が束ねるのは不可能と言ってもよい。いくら本家の親戚とは言え、本家の親戚は他にもたくさんいる。守屋に賛同しついて行くのは物部の中でも強い廃仏派だけだろう。そこで守屋が目を付けたのが布都の存在、そして屠自古を利用して布都を操ること。しかしいくら布都を裏から操れるとはいえ、布都をポツンとてきとうな役職に就けているだけでは他の物部の有力者達に不振に思われる。そこで並外れた布都の才とも相性がよく、周りの有力者達にも不審がられない軍師の立場を布都に与えた。

私は人の心が読める訳では無いので守屋の心境は分からないが、例え守屋が自ら言わずとも、これらの事実を上手く利用して布都を軍師にさせるつもりだったので結果は大きく異ならんだろう。

さてと、屠自古に分かりやすく説明するにはまずどこから話すべきか…。

 

「屠自古は叔父上の元へ送られてきた手紙を知っているか?」

 

私の質問に屠自古はコクンと頷く。左腕にガッシリとしがみ付いて唇を尖らせる布都を適当に宥めながら、それなら早いと説明を始めた。

 

「まずあの時点で守屋の狙いが布都の名声と気づいていた。布都の名は物部を纏めるのには十分、その力を求めていた。だがそれは諸刃の剣。無論敵もそこまでは馬鹿ではないので、屠自古を使って布都を操ろうとした。守屋の行為を一から十全て足蹴りする必要はなかったので、私は布都に物部に付いた振りをするように命じた」

 

「それで布都はあの時すんなりと守屋の案に乗ったのか。ったく、本当におかしくなったと思ったじゃねぇか」

 

「はんっ。元はと言えば間抜けなおぬしが捕まるからいかんのだろうが」

 

「うるせぇ! だいたい悪いのは私じゃなくて青娥の奴だろうが!」

 

ギャーギャーと私を間にした二人の言い合いも、かれこれもう七年近く前から続いているのか。七年の歳月を思えば、もっと二人の扱いが上手くなりそうだが、生憎一向に二人には敵わない。これは将来ますます尻にひかれそうだ。

にしても青娥、か。今度彼女に会ったらどうしてくれよう。彼女もまた私のお気に入りであったが、屠自古を守屋の手に渡した罪は大きい。皇子()を侮辱した罪として大罪人に仕立て上げるのは簡単だが、青娥の術には興味がある。幸い青娥の存在を知っているのは我等三人だけで、叔父上を含む役人達は、屠自古を攫った犯人が青娥とは知らない。ここは隠しておくのが後々の為になるか。

まあ青娥の処遇は屠自古に任せよう。そして布都には……。いや、それも今考えなくともよい。とりあえず今私がすべきことは、少し目を離すとすぐに喧嘩をする二人を止めることだ。

 

「はいはい、続けますよ。えっと、布都を敵に信用させるところまで話しましたか。次の策としては、布都がいる大まかな地点を私に教えることだろうか。これは狼煙を使わせることで解決した」

 

「なんで布都の居場所を知る必要があったの?」

 

ふふっ。屠自古には少し分かりにくかったか。

屠自古の疑問に思ったことを恥じずに、素直に質問してくるところもまた彼女の美点の一つだ。無駄な誇りを持っている者は時として、無理やり話題を変えてでも自分が分からない事を隠そうとするが、屠自古はそんなことはしない。

危険なところにいた屠自古が無事に私の元へ帰って来てくれた喜びからから、いつも以上に屠自古が愛らしい。

屠自古の愛らしさに喜びを感じていると何やら察したのか、左腕にしがみ付いている布都は抱き付く力を強め、そして呆れたように溜息を吐いた。

 

「やれやれ、これだから屠自古は」

 

「あぁん? なんか言ったかチビ助」

 

「命の恩人に対し、随分と頭の高い奴じゃな」

 

「命の恩人だからってなんでも言っていい訳じゃねぇだろうが」

 

「はいはい、話を戻しますよ。布都の居場所が知りたかったのは、その周辺に屠自古がいるからですよ」

 

「えっ? 何で布都の近くに私が……。そうか!」

 

そこで屠自古は分かったようだ。屠自古はよく自分を卑下するが、頭の回転は悪い方では無い。民を思いやる心も持っているし、布都の話を理解して受け止められるだけで十分に頭がいい方である。

隣にいる私と布都が異常なだけだ。特に布都。布都に比べたら私の才能なんてたかがしれている。

 

「そう。布都が裏切った場合、すぐさま人質となっている屠自古に罰を下す必要がある。布都が現在地を教えてくれる事は、大まかではあるが屠自古の居場所を伝えることにもなる」

 

「なるほど、流石神子様。あっ、でもさ、私を助けに来てくれた人達…。どうして彼等は敵にバレずに私の元までやって来れたの?」

 

一瞬屠自古の顔が曇った気がしたが気のせいか。私もここ数日色々あって疲れているし見間違いか、そうでないのなら……もしかしたら屠自古を助けた兵士達のことだろうか? 帰って来たのが二人だけということを見ると、屠自古を助けに行った彼等はもう死んでいるのだ。そして屠自古は彼等の死に様を見た。そんなところか。

しかしこの件に関して私は口出しする気はない。そもそも屠自古の顔が一瞬曇ったのも勘違いかもしれないし、仮にそうであってもその原因が彼等の死とも限らない。何より屠自古の救出を命じたのは他ならぬ私だ。私が彼等に死ねと命じ、彼等はその命に従った。故に私は兵士の死について偉そうに語れる立場にはいない。

もし屠自古の悩みが私の予想通りであれば、それは私よりも布都が聞いてあげるべき悩みだろう。

 

「屠自古も覚えているだろう? 昔私達が生駒山で妖怪に襲われたことを」

 

「そりゃあ勿論。一生忘れられないよ、あれは」

 

屠自古の顔が急にゲッソリとなる。あの土蜘蛛とか言う妖怪を刺した時、体から溢れ出る大量の小蜘蛛を間近で見たのを思い出したのだろう。現に私もその時の光景が脳裏に浮かんだ。私も屠自古程では無かったがその光景を見ていたが、数年経った今でも忘れられない。

私はまったくもってその通りだと、小さく笑みを浮かべて屠自古の言葉に頷いた。

 

「ふふっ、その通りだ。その時布都の治療の為、青娥に付いて行った川を覚えている?」

 

「……ああっ! そうか! なんか見覚えのある景色と思ったら、あそこはあの時のっ!」

 

「ええ。元々布都にはできる限りあの近くに本拠地を構えるようにお願いしておいた。そしてもしそれが成功しなかった時も兼ねて、狼煙を上げる様にさせたのです。何故そこに本拠地を構えるようにしたかは、もう分かったかと思いますが、かつて私達も通った洞穴ですね。あの洞穴の出入り口はどちらもさして大きくなく、隠密行動にはうってつけのもの。と言っても敵は数日山に籠もる訳ですから見つかる可能性も十分にある。だから屠自古の元へ布都が行った日に既にそちらに人員を送り、あの洞穴の出入り口を隠しておいた」

 

「な、なるほど…」

 

「一番理想的な展開としては屠自古が布都とではなく、あなたを助けた兵達と共に帰り、布都が隙を見て守屋を殺す事だが、そこまで上手くはいかなかった。だが何にせよ、あなた達が無事に帰った事でこの戦はもう終わりが見えている」

 

屠自古はう~んと唸り声を上げて腕を組むが、どうやら分からなかった様だ。苦笑しながら降参ですと告げたので、私は答えを言った。

 

「元々物部がこの戦を仕掛けて来たきっかけは他でもない、頭領である布都のご両親の敵討ち。しかしその犯人が我等蘇我ではなく、あろうことか守屋の仕業と知れば、集まって来た物部の皆はどう思うか? 答えは明白。ならば我等が真実を語ればいいのだが、宿敵である我等の話を聞く者などいないだろう。だが唯一、当事者であり、蘇我に立ってもなお発言力を失わない者が一人いる。それが布都。だからこそ守屋は布都の身柄が欲しかった。しかし布都が屠自古を連れてこちらに戻って来た以上、布都が真実を語らない理由はどこにもない。

それに不幸中の幸いと言うべきか、屠自古と布都が義理とは言え親子の関係なのもまた助かった。布都は屠自古を想う私の為、屠自古を助けてくれたのであり、本来物部の布都が蘇我の屠自古を助ける義理は無い。無論これは客観的に見た周りの評価であって、実際のところこの二人は互いに持ちつ持たれつのよい関係だ。私が布都に助けを乞わなくとも、布都は屠自古を助けに行っただろう」

 

「べっ、別に我は神子様の為に屠自古を助けたまでです!」

 

「なにも隠さなくてよいでしょう、誇れることなのですから。さて、先程から話がよく逸れるので戻そう。

大事なのは物部の有力者達からどう見られるか、ここです。もし屠自古と布都が親子の関係でなければ、布都が屠自古を助けた原因は自然と私に向くでしょう。そうなれば周りの評価は少し極端かもしれないが、男の為に一時的に物部(ものべ)寝返った女になる。しかし布都と屠自古に親子の縁があれば、これまた少し極端だが、人質にされた娘の為に泣く泣く守屋に従っていた母へとなる。実際どちらも両極端な例だが、大事なのは守屋の下に付いていた事に大義名分があるかどうかです」

 

「う~ん…。分かったような、分からないような。守屋にとって真実を知らない有力者達が邪魔なのなら、なんで布都がいた場所はみんな守屋の手下だったんだ?」

 

む? それは私も初耳だ。私が布都へ下した命令はそこまで多くは無く、重要なところ以外は布都に任せていた。本来なら精神状態が不安定な布都にこれ以上考え事をさせたくなかったのだが、布都が、自分は大丈夫だから私は私がやるべき事に専念して欲しいと言ってくれたので、重要な点以外はその場その場の行き当たりばったりだった。だから先ほどまでの戦も、私と布都の戦で間違いはないのである。ただ勿論、予め洞穴がある地点に人が集まらない様にと攻撃範囲は決めていたが。

 

「あの感情的な輩の事だ。下手にあの場に有力者を置かせておけば、首を斬ってでも兵を纏めようとする。そうならん為の軽い措置じゃ。元より崖から逃げる予定じゃったし、屠自古さえ手元に居れば味方は必要ないからの」

 

が、崖から脱出? つまり布都はあの崖から飛び降りて、そのまま屠自古を抱えてここまで走って来たのか? いやはや、素直に褒めてあげるべきか、少しは呆れるべきか。どちらにせよ布都が実力者であることは大変心強いことには変わりないが。

屠自古に話すべき事はこれくらいだろう。布都に抱きしめられている為動かすことができない左の掌を右手のそれで叩き、パンと音を立てると改めて屠自古の方を向いた。

 

「まあ一通り話し終えたでしょうか。さて屠自古、あなたは叔父上に顔を見せてやりなさい。ずっとあなたの心配をしていたのですよ」

 

すると屠自古はポンと手を叩いてそうだったと呟いた。やれやれ、せめて屠自古には叔父上を大事にして欲しいのだが、親の心子知らずとはこのことか。何にせよ私が言えた義理では無いな。

 

「いけね。じゃあ神子様、また後でね! 布都、私がいないからって神子様に手を出すなよ」

 

「シッシ、さっさと行け馬鹿もん」

 

「…絶対なにもするんじゃねぇぞ! 絶対だからな!」

 

念には念をと、布都を指差しながらしつこく繰り返す屠自古に対し、布都はまるで蚊を追い払うような手付きで返した。屠自古はいまいち納得しない表情だったがこれ以上叔父上を放ってはおけないと、渋々と去って行った。

やれやれと一息吐こうと思ったのも束の間、屠自古の姿が見えなくなった次の瞬間に布都が正面から私に抱き付いてきた。本当ならキスをしたかったのだろうか、その足はつま先立ちになっているが、身長差のせいで布都の唇は私に届いていない。

それはあまりに一瞬の出来事で初めは少し驚いたが、何が起こったのか理解した私はクスッと笑みを浮かべた。

 

「どうしたの、布都?」

 

「神子様のいじわる…」

 

私はあえて姿勢を伸ばした状態でわざとらしく首を傾げると、布都はぷくっと頬を膨らませて小さく不満の声を漏らした。

こうして布都と触れ合うのも数日振りか。それ以前は月に一度か二度しか会えずそれに慣れていたが、ここ数日布都の事も心配で心配でしょうがなかったからか、たった数日振りなのに布都の事が愛おしい。

 

「ちゃんと口にしないと伝わりませんよ?」

 

「んっ…。抱きしめて、キスして下さい…」

 

私の思考が正常であれば、屠自古の事を考えたら今ここで布都を抱きしめたいと、キスしたいとは思えないだろう。今屠自古は叔父上との話で、叔母上の死を知らされているはずだ。私の元に戻って来た屠自古はきっと涙を流し、酷く傷ついているだろう。

だが私は正常では無い。私は酷く歪んでいる。だから私は布都を優しく抱きしめ、そして彼女の唇に自分のそれを落とした。

 

 

 

それから間もなく屠自古が泣きながら私の元へやって来た。その後ろには叔父上の姿もいる。布都は叔父上に深々と頭を下げたが、叔父上は小さく手を振って返した。叔父上の視線には布都も私もほとんど映って居らず、私の腕の中で泣いている屠自古の背中を寂し気に見ていた。

泣いている屠自古に私は何一つとして声を掛けることができず、ただ私はそっと屠自古を抱きしめた。

そして屠自古が泣き止むと共に、一度下げた兵をまた生駒山へと出撃させた。物部の兵達は山にはおらず、平たい原っぱに陣を構えていた。

 

 

 

 

「我が名は物部布都! 本家頭領である物部尾興の娘である!」

 

馬上にいる布都の小さい背中を眺めながら、私はつい先程までの事を思い出していた。

おっと、いけない。いくら互いに睨み合っている状態とは言え、今は戦場のど真ん中。総大将である私が上の空では示しがつかん。

 

「何故我がこちらにいるか、不審に思う者もいるだろう! それは――」

 

「笑止! あなたは我等物部よりも色恋を選んだ! そのような者の言葉など聞きとうないわ!」

 

布都の声をかき消すほどの大声が戦場に響いた。私もこの目で見るのは初めてだが、あの熊の様な強面の男こそ物部守屋なのだろう。守屋の視線が布都の方からこちらへと向く。私と視線が合った瞬間に少しだが表情に反応があったことから、私を意識して見たのだろう。

 

「なるほど。確かに噂通りの、女子なら一目で恋に落ちてもおかしくは無い美男子! 余はあなたもその一人ということだ!」

 

「そうだ! この裏切り者!」

 

守屋に続くように一部の兵下達も布都を罵るが、声を上げている兵士は守屋の周りの者達だけだ。それでも全体の三割はいるが、ある場所を境に兵士の反応が一変している故に分かりやすい。

 

「そうだろう! おぬしが我の話を聞きたくないのは当然じゃろう! なにしろ、我の両親を殺した者こそ他ならぬ守屋! 貴様なのだから!」

 

ざわっ……

刹那、敵味方関係なく戦場全体がガヤガヤと騒がしくなった。上手いぞ布都。相手が割り込みにくい言葉を使いながら、重大な事実を最後に持って行った。

布都の放った言葉は敵前でありながらもめ事を起こすには十分で、すぐさま馬上にいる物部の有力者たちは反応した。

 

「どういうことだ守屋!? やはり貴様が襲撃したという噂は本当だったのか!?」

 

「断じて否! もはや布都様は我等物部の敵でありますぞ!」

 

「どの口が言うか! 我が最愛の娘、屠自古を人質に取っておき、何よりその手で我が父を、母を、殺しておいてどの口が言う!」

 

激しい怒りが込められた布都の言葉は、物部の有力者たちの心を動かすのに十分だった。それ程布都の声は怒りが籠もっていた。肉親をその眼前で殺された時の悲しみ、そして怒りが伝わってくる。我が最愛の娘のところはかなり棒読みに聞こえたが、言葉の力強さは確かなものであり、それを気にしている者は私ぐらいしかいないだろう。

更に布都は後押しをするように告げる。

 

「我が父と母の骸を調べればすぐに分かる! 父と母は我が物部の神剣、布都御魂剣によって殺された! これが何を意味するかおぬしたちなら分かるだろう!」

 

「布都御魂剣…!? 貴様、まさかその懐にあるものは!」

 

布都や守屋の声に比べてその声は小さかったが、私の耳ではその一部始終がハッキリ聞こえた。馬上にいる男の一人が守屋の服の内にある何かを見つけたようで、他の馬上に乗った男達もその何かを発見したようだ。

 

「守屋!」

 

「なんとか言え!」

 

「真ならならただではすまんぞ!」

 

「その懐にあるものを出せ!」

 

守屋は四方八方から怒鳴り声を浴びせられ、守屋の部下らしき男達がそれを止めようとするが、怒鳴り声を浴びせている男達の部下がそれを止めている。今ここで攻めたらそれでこちらの勝ちだが、それでは意味が無く、我等は黙ってその光景を見ていた。既に士気が大幅に下がった事で、端にいる兵士たちが数人逃げていたりもした。

 

「黙れ…」

 

「今なんと言った!?」

 

ッ! いけない!

守屋から発せられる並々ならぬ気迫、おそらくこれを殺気と呼ぶのだろう。それを感じた私は反射的に布都の名を呼んだが、布都は私より早く気づいていた。

 

「今すぐそやつから離れろ!」

 

だが布都もまた、気づくのが遅かった。不注意だったと言うべきかもしれない。

 

「黙れと言っているッッ!」

 

布都(ふつ)、と騒々しかった戦場に一瞬だけ小さな、しかしどんな音にも呑まれない美しい音が辺りに響いた。

かつてここまで美しくも残忍な音があっただろうか? いや、そんなものは存在しない。後にも先にも、ここまで血の気の引く音はこの布都御魂剣だけだ。

ボトンと複数の何かが地面に落ちる音と共に、守屋の周りにいた男達が馬上から崩れ落ちた。その胴体の上には頭部が見当たらない。

 

…………

 

一瞬の静寂。そして次の瞬間には敵軍は混乱に包まれた。兵士たちの動きは主に三つに別れた。

一つは状況が掴めずに逃げ出していく者。一つは守屋を反逆者と判断し、殺そうとするもの。そして守屋を狙う者を殺そうとする者。

三つ目の兵士たちには一切の迷いが無かった。こうなることも予期して予め命令を下していたのだろう。自分に逆らう者は誰であろうと殺せと。

私を含めた多くの者が布都御魂剣の音を聞き、茫然としていたが布都は違った。混乱の中でも聞こえる大きな声で叫ぶ。

 

「反逆者守屋と戦う意志のある者は一度離脱するのだ! 離脱しない者は敵と見なす! 神子様!」

 

私の名を呼ぶ布都の声で我に返る事ができた。そうだ、私は蘇我を率いる総大将である。総大将の私がたった一つの音に恐怖し、逃げ腰になってはいけない。私が戦うのではないが、上に立つ者として敵に怯みを見せてはいけない。

私は腰に携えた七星剣を抜くと天へと掲げ――

 

「ああ。皆の者! 味方を裏切り、我等が仏を侮辱し、そして世の平和を乱す逆賊を滅ぼすのだ! 全軍突撃せよ!」

 

敵軍へその剣先を向けた。

 




あの時の→アノトキノ!(満足街風)
崖から脱出を!? →自力で脱出を!?

どうしても脳内変換が自重しません。


神子様の一人称のなにがいいってその頭の良さと洞察力から他人の心境まで説明できるところなんですよね。それでもいささか書きにくい点はありますが。
まあ神子様の一人称もあくまで神子様から見たものですが。


ラストの方の学芸会っぽいノリをせめてもう少しくらいシリアスな感じにしたかった。う~んこの文章力。


変Tさんってお胸の大きさはどのくらいなんでしょうかね。純孤さん並の大きさであの変Tシャツならそうとう強調されるろ思うので私は神子様と同じ手の平に収まるくらいと思います。にしても純孤さん色っぽい…。どこぞの蛙とは違うな。
今度のコミケはクラピの仕返し本が多そう(小並感)



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