怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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なんやかんやでとうとう50話になりました!
ここまでやってこられたのも皆様のおかげです、本当にありがとうございます!

今後もよろしくお願いします!


闇夜の別れ

 日が沈み、暗闇が世界を包む。

 

 深夜のオラリオで、四つの影が歩みを進めていた。

 

「やれやれ、まさかこんな八百長に付き合わされるとはのう」

 

「文句を言わないでくれ、ガレス。黒竜と戦って生きて帰ってきた『最強』を僕達で撃破し、ヘラとゼウスを追放する事でロキ、フレイヤ二派閥が都市最強派閥として君臨、オラリオの治安を守る―――文句の付けようが無い筋書きだよ。【妖精王(オベイロン)】は完璧だ」

 

「それにグリファスも色々と調整をするらしいからな。我々が全力でぶつかってギリギリで倒せるラインで戦うつもりらしい」

 

「……であれば、本気でぶつかるしかないと言う訳か」

 

 それは、並の冒険者が見れば卒倒しかねない光景だった。

 

 迷宮都市最上級(トップランク)であるLv.6に到達し世界に名を轟かせた【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者。【重傑(エルガレム)】ガレス・ランドロック、【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 彼等が完全武装である場所に向かっている姿だけでも十分に衝撃的だが、それだけでは無かった。

 

 問題は、彼等と共に移動する大柄の猪人(ボアズ)

 

 迷宮都市のLv.7、【猛者(おうじゃ)】オッタル。

 

【フレイヤ・ファミリア】団長である彼と【ロキ・ファミリア】の最高戦力が共に行動すると言う、信じられない様な光景が広がっていた。

 

 目的地はオラリオ東端、理想郷(アルカディア)

 

 そこに向かう彼等が束の間想起するのは各々の主神だ。

 

『踊らせられてる感はあるけどなぁ……まぁ【妖精王(オベイロン)】がそっちに釘付けになるんなら都合がえぇ。こっちはこっちであの糞爺強制送還しに行って来るから三人は頑張ってなあ』

 

『ふふっ、「あの」グリファスが保護したヘラとゼウスを天界に送還するのは難しいと思うけど……適当にちょっかいを出すとしましょうか。そうしないと折角の筋書きが台無しでしょうし……それにしても、周囲を巻き込まない様徹底してるわねぇ。ウラノスが恩恵を与えていれば十中八九ギルドに居たでしょうに』

 

 一様に思う。

 

 全く、とんでもない厄介事を押し付けられたものだ、と。

 

「……さて。いよいよな訳だけど」

 

 とうとう辿り着く四人。

 

 彼等の目の前には、固く閉ざされた門があった。

 

「……リヴェリア?」

 

「……思う存分破壊して欲しいらしい。演出だそうだ」

 

「……本当、徹底してるね」

 

 ゴっっ!!

 

 ガレスが腕を振るった直後、轟音と共に門が吹き飛ばされた。

 

 足を踏み入れる。

 

 そして―――、

 

「済まないな、ここまで来て貰って。本当に助かるよ」

 

「何、あの【妖精王(オベイロン)】とぶつかれるんだ。良い経験になるよ。だけど……」

 

「うん?」

 

「手加減する気はあるのかい?」

 

 豪邸の上方、バルコニーから飛び降りて現れた王族(ハイエルフ)の老人は、紅い魔力を纏っていた。

 

「ある意味では全力だがね。確かに弱体化しているよ」

 

「それは良かった」

 

 その直後だった。

 

 四人の第一級冒険者と、最強の冒険者が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 その、少し前。

 

 白亜の豪邸、そのバルコニーには女神が一人佇んでいた。

 

 美しい月を見上げ、グラスに注いだ紅いワインを口に含む。美の女神にも劣らない美貌を持つ彼女が夜空の下で佇む其の光景は、芸術的な美しさを醸し出していた。

 

「―――」

 

 最後にワインを飲み干し、彼女は口を開く。

 

「―――そろそろ?」

 

「あぁ、時間だ」

 

 彼女の背後からバルコニーに現れた老人がその問い掛けに応じた。

 

「ゼウスも準備が整ったらしい。死んだ団員の息子を連れて行く様だが」

 

「あぁ、ベル君か……何才だったっけ?」

 

「もうすぐ四才だったはずだ」

 

「そっか……」

 

 ふとグリファスに視線をやり、笑みと共に尋ねる。

 

「……それにしても、本当に大丈夫なの?Lv.6が三人にLv.7の【猛者(おうじゃ)】だよ?幾らLv(・・・・)8でも(・・・)ステイタス(・・・・・)を封印していたら厳しいんじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ギリギリの所で勝てないよ。寧ろ勝ってしまったら意味が無いだろう」

 

 答えなど聞く前から分かっていたのだろう、ニヤニヤしながら問い掛けてくる彼女に嘆息する。

 

 そんな風にヘラと会話するグリファスからは、第一級冒険者特有の存在感は感じられない。

 

 数分後に戦う事になる相手へのハンデ(・・・)として、彼に与えられた恩恵(ファルナ)を解除しているからだ。

 

「確認するぞ。市壁北西部にあるゼウスの隠れ家で奴と合流、フレイヤとロキから逃れてオラリオの外に出て行くんだ。Lv.6になったアロナがいればフレイヤからも逃げる事ができるだろうが、万が一美の女神に『魅了』された場合に備えて十分警戒する事。分かったな?」

 

「あぁ、うん。ただ、私としてはあの馬鹿が浮気に使っていた隠れ家がこんな時に役に立つと思わなかったから、結構複雑なんだけどね……」

 

「……」

 

 返す言葉も無かった。

 

「……まぁ、なんだ。前向きに考えたらどうだ?しばらくは二人きりで暮らせるだろうし……」

 

「!」

 

『二人きり』と言う単語に反応した女神に苦笑しつつ、通信用の魔導具(マジックアイテム)を投げ渡す。

 

「何かあったら連絡してくれ。体には気を付けてな」

 

「うん。貴方もね」

 

 屈託無く笑うヘラに、彼は笑みを浮かべようとして―――失敗する。

 

「っ……」

 

「グリファス?」

 

 表情を歪め、重く口を開いた。

 

「……最後に……済まなかった。お前達がオラリオを去る事になったのは、皆が死んだのは―――私の責任だ。本当に……済まなかった」

 

「……」

 

 勝てないのは分かっていた。

 

 三大冒険者依頼(クエスト)の話が出てからそう悟っていた自分なら強引にでもそれを中止できた。にも関わらず―――自分は、仲間を見殺しにする様に話を進めた。

 

 そう語るグリファスの懺悔は、本物だった。

 

 神の一柱として真偽を見極めるまでも無い老人の謝罪に、ヘラは目を細め―――ゆっくりと、首を振る。

 

 思いを込め、告げた。

 

「―――謝る必要なんて無いよ」

 

 ―――きっと、アレが最適解だった。

 

 三大冒険者依頼(クエスト)の挑戦は、彼にとって、世界にとってきっと必要な事だった。

 

 彼女は知っている。

 

 目の前の老人は、絶対に倒せないと分かっていた黒竜と戦う為に寝る間も惜しんで方法を模索し、挫折してもなお生き残る為に必要な事を探し続けていた事を。

 

 そして、それは確かに結果を叩き出した。

 

 二、三人生き残るのがやっとだった歴代の黒竜との戦いで、初めて六人も生き残る事ができたのだから。

 

 でも。

 

「―――ずっと、一人で背負い続けてきたんだよね」

 

 グリファスの苦しみを理解するグリファスは、そっと語り掛ける。

 

 数百年も前に叩き出された『正解』。

 

 それはどこまでも完璧で。

 

 それはどこまでも残酷だった。

 

 ソレ以外の方法は存在しないと断じて置きながら何度も計算を繰り返し、勝てないと分かっていながら実際の戦闘でも必死に唯一解に抗い、必要な事だと切り捨てながらも『正解』への過程を消化する度に仲間の死に涙を流した。

 

 それはきっと、どこまでも矛盾しているのだろう。

 

 だけどそれはとても美しい物の様に、ヘラには思えた。

 

 そして、そんな彼だからこそ皆は着いて来たのだろうと思う。

 

 だから―――、

 

「大丈夫」

 

 そっと背中を押すかの様に、女神は告げる。

 

「貴方なら、きっとできる」

 

 皆の死は決して無駄では無かったから。

 

 貴方の答えは、決して間違いでは無かったから。

 

 一〇〇〇年以上の時を経て、仲間の死と共にあらゆる物を積み重ねたグリファスなら―――きっと、黒竜にも届く。

 

「だから―――繋いで欲しい」

 

 彼等の死を、手に入れた全てを、勝利への鍵を。

 

 次の世代に、繋げて欲しい。

 

 そう言って笑う女神に、グリファスは頭を下げる。

 

「―――ありがとう」

 

 それが、最後だった。

 

 どこからともなく取り出した黒い布。

 

 特定の場所へ対象を転移させる『神秘』の結晶、それを微笑む女神に被せる。ダイダロス通りの一角で待つ狼人(ウェアウルフ)の少女の元へ送り届ける。

 

 それと同時、門が吹き飛ばされて轟音が轟いた。

 

「……さて」

 

 銀杖を持つ。紅い魔力を纏う。

 

 バルコニーから躊躇無く飛び降り、遥か下の地面に着地する。

 

 それと同時、侵入して来た―――侵入させた第一級冒険者達と、目が合った。

 

「済まないな、ここまで来て貰って。本当に助かるよ」

 

「何、あの【妖精王(オベイロン)】とぶつかれるんだ。良い経験になるよ。だけど……」

 

「うん?」

 

「手加減する気はあるのかい?」

 

「ある意味では全力だがね。確かに弱体化しているよ」

 

「それは良かった」

 

 苦笑する小人族(パルゥム)、杖を構える王族(ハイエルフ)、凄まじい力で大型の武器を掴む老兵(ドワーフ)猪人(ボアズ)

 

 そんな彼等に古代(かつて)の英雄達の面影が映り、思わず笑みを浮かべた。

 

「―――始めるか」

 

 

 その次の日には、【ヘラ・ファミリア】、【ゼウス・ファミリア】は消滅した。

 

 Lv.8【妖精王(オベイロン)】は四人の第一級冒険者に敗れ、二人の神はオラリオから追放される。

 

 そして彼等に代わって都市最強派閥となったのは、【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】だった。

 

 




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