怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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陸の王者

 

 

「―――それで、どうだった?」

 

 広い砂漠。

 

 その中心に存在する()を見据えながら、グリファスは己の魔導具(マジックアイテム)で【ゼウス・ファミリア】の団員と連絡を取る。

 

 グリファスの率いる部隊と別れたヘラとゼウス、両【ファミリア】混合の部隊は既に海の覇者(リヴァイアサン)と接敵、二日前に交戦したはずだった。

 

『どうにか犠牲者無しで討ち取りました。重傷を負った者もいませんしね。海に潜られて逃げられそうになった時はどうなるかと思いましたが……』

 

「あぁ、アレか……よく()れたな」

 

『【大狼(オルトロス)】が最大出力の電流で抑えましたから』

 

「成程な。とにかく無事に終わった様で何よりだ」

 

『そちらは?』

 

「今から接敵する。じきに向こうも気付くだろう」

 

『……本当に、大丈夫なんですか?』

 

 

『―――たった一人で、陸の王者(ベヒーモス)に挑むなんて』

 

 

 そう。

 

 砂漠の中で、彼はたった一人だった。

 

 食糧や莫大な『ドロップアイテム』等の物資を運ぶ第二級冒険者を中心とした部隊もつい先程までいたが、戦闘に巻き込まない様にグリファスが離れた場所に置いて来た。現在彼の傍には誰もいない。

 

「問題無い」

 

 にも関わらず、彼は断言した。

 

「何度も戦ったのは黒竜だけでは無い。数度の戦闘でアレの戦闘パターンも大方把握している。大丈夫さ」

 

『だったら、良いんですけど……』

 

「クラネル、だったな?気にする必要は無い。老いぼれだからと言って【妖精王(オベイロン)】を甘く見るなよ?」

 

『は、ははは……』

 

 そう告げ、苦笑する青年との通話を切る。

 

(……さて。この距離であればそろそろ気付かれそうな物だが……)

 

 左手に持つ『得物(ソレ)』を引きずる彼は、過去の経験から対象の持つ索敵能力を予測し―――大きく、一歩を踏み込む。

 

 直後。

 

『―――』

 

 ズッッ……!!と。

 

 山が、震えた。

 

 どこまでも重たい存在感が周囲に垂れ流され、明確な敵意をぶつけて来る侵入者(グリファス)に対する殺意が充満する。

 

 そして―――それは、立ち上がった。

 

 視線の先にあった山。

 

 それが揺れ、次にはその()に積み上げられていた莫大な砂が歪み、形を崩し、雪崩(なだ)れ落ちる。ソレを覆っていた砂の膜が崩れると、露出したのは暗褐色の体皮だった。砂があらかた崩れ落ちると同時、オラリオの摩天楼(バベル)より一回りも二回りも太い足が大地を揺らし、その巨体を押し上げた。

 

『―――』

 

 遠方からはっきりと目視できる大顎が、開かれる。

 

『―――オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 砂嵐をも吹き散らす咆哮が轟いた。

 

 陸の王者(ベヒーモス)

 

 黒竜を上回る八〇(ミドル)もの体を持った巨竜。頭部から大きく突き出た漆黒の角はゆるやかに曲がっている。昆虫の様な漆黒の眼球は怒りに燃えていた。

 

「……さて」

 

 目を細める。

 

 既に陸の王者(ベヒーモス)強敵(グリファス)の存在を知覚して臨戦態勢を取っていた。飛行能力をあまり持たない翼は防御力を証明するかの様に大きく開かれている。その大口から放たれる咆哮(ハウル)は威嚇の領域を超えてあらゆるものを薙ぎ払う衝撃波を放ち、巨体を使った押しつぶしは一瞬で地図を塗り替える。

 

 本来Lv.7であろうと一人で挑む様な戦力では無い怪物だ。

 

 でも。

 

 だからどうした(・・・・・・・)

 

 神々が降臨して一〇〇〇年。陸の王者(ベヒーモス)を相手に勝算を持つ程度には、グリファスも己を鍛え上げている。

 

 負けるつもりは、欠片も無かった。

 

「っ!!」

 

 (ゴウ)っっ!!と、ここまで引きずって来た得物を振るう。

 

 グリファスが力の手袋(ヤールングローヴィ)をつけてようやっと使いこなせるソレは、5(ミドル)を超える大剣だった。

 

 光を反射して輝くのは一〇〇年も前、十人近くの上級鍛冶師(ハイ・スミス)が全力で最上質の精製金属(ミスリル)超硬金属(アダマンタイト)の山を打ち続けて完成させた一品。

 

 巨竜殺し(アスカロン)

 

「―――」

 

 そして想起したのは、王族(ハイエルフ)の大魔導士。

 

 彼女からかつて受け継いだ魔力を思い浮かべ。

 

 笑みをその顔立ちに刻んだ。

 

「さて……」

 

 猛々しい笑みを浮かべ、彼は告げる。

 

「始めるか」

 

 




いよいよ、三大冒険者依頼(クエスト)。ようやっと出せた……。

次話をお楽しみに!

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