キョンの非日常   作:囲村すき

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七話 エンドレス・ユー・アー・クレイジー

 

「それにしても、なんだか妙にデジャヴ感のある一日だったな」

 

 キョンがそんな言葉を吐いたのは、プールから帰ったその夜、くたびれてぼーっとしている時だった。

 

 わたしはなにかがずれているような気がしていたのを思い出した。

 

 「あー、うん・・・」

 

 「なんだよ、お前もか?」

 

 「いや・・・よくわかんない」

 

 「あー、古泉方式で言うと・・・えー、なんだっけか、違う世界の俺達ももう夏休みに市民プールに行ってたってことか」

 

 それとは少し違うような気がするんだけど・・・うーん、わからん。

 

 ぴりりりりりりりり。

 

キョンの携帯が鳴った。

 

 「・・・古泉か?なんだよ?・・・ああ?・・・ああ・・分かった、今行く」

 

 「どうした?」

 

 「いや、なんか要領を得ない説明だったんだが・・・駅前に来いとさ。朝比奈さんも長門もいるらしい」

 

 「?なんかまた困ったことになったのか?」

 

 キョンは財布を部屋着の尻ポケットに突っ込みながら、皮肉っぽく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 端的に結論。わたしたちは一万五千四百九十八回も高校一年生のこの夏休みを繰り返していた。

 

まずそのことについて愕然。ひどい、同じ宿題に約一万五千回も苦しんだと?答えを覚えていてもよさそうなものなのにな。

 

 古泉は両腕を使って大げさに説明する。

 

 「涼宮さんの力によって、八月十七日から八月三十一日までの二週間の世界が切り取られているのですよ。三十一日が過ぎようとすると、また全てがリセットされ、世界は十七日に戻ってしまうのです」

 

 朝比奈先輩はさっきから半べそをかいている。未来に帰ることができなくなったそう。

 

このことについてまた愕然。ただのタイムマシンの故障じゃないんですよね?

 

 「この世界には三十一日以降の未来がありません。朝比奈さんが未来に帰ることができなくなったのも、これで納得できます」

 

 長門はさっきから微動だにしない。長門は、長門だけはハルヒの力の影響を受けなかったから、一万五千四百九十もの二週間の記憶を保持しているらしい。

 

最後にこのことについて愕然。流石の長門でもそりゃこたえるって。

 

「実は僕も感じていたんですよ、強烈な既視感をね。バスケットボール大会の時とはまた別の種類のような」

 

 「・・・なんでハルヒはこんなことを?」

 

 「・・・憶測ですが、涼宮さんは夏休みを終わらせたくないのでしょう。まだなにかやり残したことがあるような気がする・・・そんな無意識のうちに、夏休みをループさせてしまっているんでしょうね」

 

 「またあいつは・・・どうやってループをストップできるんだよ」

 

 キョンが振り向いて長門に尋ねる。確かにそれが最重要優先課題だ。

 

 「わからない」

 

 SOS団の知識の宝庫、偉大なる図書館にして人類最後の希望の長門が分からないんじゃもうお手上げである。

 

 「「ああ、もう、なんてこった」」

 

 わたしとキョンの嘆息が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

八月十八日

今日は昆虫採集というかセミ採りをしに北高周辺をうろついた。すれ違う人々の奇異のまなざしが痛かった。わたしはセミを一匹も取れなかったことについて一つも悲しんでいない・・・。

 

八月十九日

今日はスーパーでバイトをした。ハルヒ以外全員間抜けなカエルの着ぐるみを着て、来店した子供たちに風船を配った。非常にだるかった。そしてあろうことかバイト代は全て着ぐるみ代と化したというから、よっぽどキョンとクーデターを起こしてやろうかと思った次第であった。

 

八月二十日

今日は天体観測の日だった。長門のマンションの屋上で。ハルヒがUFOを見つけるまで帰らないと言い張り、しかし真っ先に睡魔に襲われたのはあいつ自身であった。夏の大三角形を見つけることができただけで満足だった。

 

八月二十一日

いまだループ回避の方法見つからず。今日はバッティングセンターに行った。ハルヒは遊びちぎっていた。日記も面倒くさくなってきた。わたしは元来面倒くさがりなのだ。むしろ四日も続いたことが驚異と言っていい。もうやめた。

 

 

 そんな感じでだらだらとハルヒに付き合っていると、いつの間にか八月三十日が過ぎ去ってしまった。つまり明日が終わればまた世界はリセットされてしまう。

 

「・・・ああ・・・ああ、分かった。おう」

 

 俺は電話を切った。キョン子に事の次第を告げる。

 

 「古泉が明日祭りがあるところを見つけたらしい。電車で駅三つ分って具合なとこにあるみたいだ。毎年八月三十一日に恒例の祭りなんだってよ」

 

 ハルヒの計画書に残っているのはあと「祭り」に「花火」の二つだった。古泉が祭りが開催されるところを見つけ次第、決行ということになっていた。

 

 「まずいなぁ・・・このままだと本当にまたループする」

 

 キョン子はベッドに寝転がりながらぼーっとつぶやいた。

 

 「ああ・・・エンドレスワルツだぜ、どうする?」

 

 「なんか考えろよ・・・あんたの・・・世界の・・・話だ・・・ろ・・・」

 

 そのまますーすーと寝息を立て、キョン子は眠りについてしまった。まあこいつも疲れたんだろう。俺も寝よう。

 

 ぱち、と部屋の電気を消した。明日には何かいい考えが浮かぶのを期待しながら。

 

 




古泉「明日やると言うやつはいつまでたってもできない。やるなら・・・今日だ!」

キョン「だまれ」

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