キョンの非日常   作:囲村すき

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四話 涼宮ハルヒの退屈

その妙案とやらはすぐに判明した。

 

第二クォーターにして最終クォーターが始まった。長門が俺の方によってくる。何やらぶつぶつと早口でつぶやいている。

 

「なんだ」

 

「この試合に勝利する」

 

そう宣言されてもな。

 

「つまり、あなたはただシュートを打って」

 

どこからつまりなんだ。まあいい。

 

嫌な予感はしたけどな。

 

ハルヒがドリブルして敵陣地に到達した。その途端二人のおっさんに囲まれる。この文章だけではおっさんたちはただの変態にしか見えないが、今はバスケをしているということを忘れるな。

 

俺はハルヒからパスをもらって、ゴールに向かってハルヒやおっさんたちのシュートの打ち方を思い出しつつ、見るからに下手くそなシュートフォームでボールを放った。

 

ボールはうまいことにボードを直撃し、そのままリングには触れずに落ちるかと思われた。

 

しかしボールはコート内の人間の予想をはるかに上回った。ボードを直撃した後、跳ね返りリングに縁にガツンと当たり、一瞬宙に浮く。そしてボールはそのまますぽっとネットに吸い込まれた。

 

皆、一様に唖然とする。朝比奈さんの歓声が聞こえる。点数係が自分の仕事を思い出したかのように、チームSOSに三点を加えた。それを機に、おっさんズは攻撃を始めた。俺たちは慌ててディフェンスに戻る。

 

「・・・・長門か」

 

キョン子がつぶやく。俺は顔を引きつらせることで答えた。しかし、朝比奈さんがすごくうれしそうに手を振るのが見えたので、俺は一気にやる気が倍増した。

 

「ナイスシュートです」

 

古泉が微笑む。うれしかねーよ。ハルヒを見ると、ちょっと驚いたような怒ったような複雑な表情を浮かべていたが、俺が見ているのに気が付くと途端にそっぽを向いた。

 

そのあとは、ほぼ俺の独壇場だった。ざ・おっさんズはそれでもシュートを決めるが、俺がスリーポイントラインからかなり離れた所でシュートをばすばす決めるもんだから、おっさんズはやはり動揺していた。

 

いつのまにか、点数が14-8から16-17で逆転していた。残り時間、14秒。ボールは今はキョン子が持っている。キョン子は誰にパスを出そうか迷った挙句に俺にふわふわしたパスを出した。めちゃめちゃしつこくディフェンスしていたおっさんがこれ幸いとボールをカットしようと手を伸ばした。

 

が、いつのまにか俺の手のひらにボールはあった。左腕を限界まで伸ばしていたおっさんは完全に不意を突かれた。

 

すいませんね、と思いつつシュートをしようと構える。が、べつのおっさんが俺の真ん前で腕を精一杯伸ばしていた。

 

あ、これは流石にブロックされるなと思ったが、俺が放ったボールは瞬時に軌道修正を行い、ゴール下にたまたまいた古泉の元へと向かった。

 

古泉は苦笑しながら、それでもちゃんとシュートは決めた。その直後、ブザーが鳴り響いた。

 

・・・・もう、これは無茶苦茶だ・・・・。

 

16-19。試合終了だ。俺たちは整列し、礼をした後、ベンチに下がった。

 

「いやあ、すごいですね、よもやあなたにそんな才能があったなんて」

 

古泉がしらじらしく言う。朝比奈さんは感激していた。

 

「すごいですね~、キョン君。すごいなぁ~、なんであんな遠いところからシュートが入るんですかぁ?」

 

キョン子はハルヒの様子をちらりと見やり、長門の動きを注視し、俺ににやっと笑いかけた。『さすがわたし』『うるせー』

 

ハルヒからはもう複雑な表情は消えており、その代わりに満面の笑みを浮かべていた。湯呑をぐいっと傾けて、叫ぶ。

 

「よーしっ!一回戦は突破!この勢いで優勝するわよっ!」

 

ハルヒは朝比奈さんとフレンチカンカンを踊っていた。古泉が俺のそばに寄ってくる。

 

「さて、どうしますか?このまま優勝しますか?」

 

「いや、棄権だ。このまま試合を続けて長門の物理法則をあっけなく捻じ曲げるスーパーなマジックを続けるわけにもいかんだろ」

 

「それがいいでしょう。実は僕ももう神人退治に行かなくてはならないのですよ。一度できた閉鎖空間は広がりこそすれ、なくなることはないのです」

 

「ああ。ハルヒを説得する」

 

「はい、お願いしますよ。今日のこれで、涼宮さんの退屈はとても恐ろしいものだと知りえましたよ。また機関で検討します」

 

古泉が体育館から出ていくのを見送ると、俺はハルヒを朝比奈さんから引きはがすと、話があるとざ・おっさんズの方を指さした。

 

「気の毒だ、とは思わないか?」

 

「なんで?」

 

「きっとあのおっさんたちは仕事も家庭もかかえて、大変なんだろう。たぶんバスケがストレス発散、唯一の楽しみに違いない」

 

ざ・おっさんズは困ったように笑いながら、仲間と談笑していた。いやあ、勝ちたかったな、みたいな。

 

「まあそうかもね」

 

「ひょっとしたらもうこの大会で引退するおっさんもいたかもしれない、だろ?」

 

「さあ」

 

「というわけで、二回戦は棄権しよう。俺たちは充分楽しんだ。それに俺たちにはまだ楽しめることがたくさんあるだろ?それに実はもうくたくたなんだ。もう動けそうにない。まあ、このあと皆で飯でも行こうぜ」

 

ハルヒは俺を黙って上目で見つめた。考えているようである。

 

「あんたはそれでいいの?」

 

もちろんだ。

 

「ふうん。ま、いいわ。お腹すいたし。昼ごはんに行きましょ。あたし思ったんだけど、バスケってすごく簡単なスポーツだったのね」

 

俺はハルヒが案外おとなしく引き下がったのにも若干驚いたが、それよりも、ハルヒのセリフの方が気になった。

 

バスケって、すごく簡(・・・・・・・・・・)単なスポーツだったのね(・・・・・・・・・)・・・?

 

何か引っかかりを覚える。俺は歩きながら首をかしげていると、朝比奈さんが愛らしい様子で駆けてきた。目が思ったよりも真剣だ。

 

「キョン君・・・わたしたち、やっぱり草野球しました・・・ね?」

 

 

 




キョン(朝比奈さんかわええ)

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