キョンの非日常   作:囲村すき

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三話 湯呑でドリンク

 

いよいよ土曜日になり、俺たち(誰と誰を示すのか分かるよな)は市民体育館へと急いでいた。しかし、よくもまあこの五日間を耐えきることができたぜ。俺も捨てたもんじゃないな。

 

ああ、もちろん涼宮キャプテンが考えた練習内容はそりゃもうすさまじかった。体力が必要だとか言って走らされまくった。こちとら運動部じゃねえぞ。

 

俺たちのバスケセンスもすさまじいことが判明したけどな。ある意味。

 

「おっそい!キョンたち罰金!二人で何かおごりなさい!」

 

涼宮ハルヒはいつでもどこでも元気100%だ。なんで朝なのにこんなにはつらつとしてやがるのか、甚だ疑問だ。

 

体育館に入り、受付を済ませると、トーナメント表を配っている人がいたのでもらう。俺たちは、いきなり一回戦だった。相手は社会人チーム。どっかの会社で結成したらしい。ざ・おっさんズだってさ。ほんとにおっさんで構成されたチームだ。

 

「さあっ!いよいよゼッケンを渡すわ!バスケはなぜだか四番からはじまるらしいから、とりあえずあたしが四番!古泉君が五番ね!有希が六番で、キョン子は七番でキョンが八番ね!」

 

まあ、別に特に異論はないさ。俺たちはジャージの上からゼッケンを身につける。

 

「あの~涼宮さん、わたしのは・・・」

 

「ああ、みくるちゃんはマネージャーよ!バスケにマネージャーがいなくてどうするの!」

 

そういってハルヒが紙袋から取り出したのは・・・やはりメイド服だった。

 

「あ、ひぇっ、えっと・・・」

 

「みくるちゃんには休憩のときにあったかいお茶を「なにを考えてるんだスポーツドリンクだろスポーツドリンク!」

 

「あんた、みくるちゃんがついでくれるお茶が「いえ、そういうわけじゃないんですよ朝比奈さん!俺は朝比奈さんのついでくれるものなら例え「いや、お茶は勘弁していただきたいです朝比奈先輩」

 

一応言うが、ハルヒ、俺、キョン子の順番でしゃべっている。

 

朝比奈さんは真っ赤な顔で、メイド服を着こなし、スポーツドリンクを湯呑についでくれることになった。敵チームのおっさんたちが唖然としている。

 

「でも良かったあ、草野球の時みたいに試合に出なくて」

 

朝比奈さんがつぶやいているのを目撃したキョン子は、首をかしげた。

 

「朝比奈先輩、草野球もSOS団でやったことあるんですか?」

 

「えっ?・・・草野球?・・・あれ、あれ?」

 

朝比奈さんは愛らしく首をかしげる。その様子を、長門が眺めていた。

 

そして、なんだかんだで一回戦が始まった。

 

「まあ、適当にやって負けよう。それがいい。あの時みたいに」

 

俺は古泉に耳打ちする。言ってる途中で気が付いた。あの時?

 

「・・・・なあ古泉、俺たちは・・・なんだ、例えば草野球なんかしたことあったっけか?」

 

「草野球?さあ、あったかもしれませんしなかったかもしれませんね」

 

また記憶が混乱してきた。ここ最近なにかがおかしいぞ。古泉は首をかしげた。

 

「あれ、本当にしたかどうか僕もあやふやです・・したような気がしますね、六月に」

 

 

 

 

嘘だ、六月は始まったばかり(・・・・・・・・・・・)だろ。

 

 

 

 

「そうなんですよねえ・・・・」

 

古泉が遠い目つきをする。

 

審判らしきおっさんがコートに現れた。なんかわりと本格的だ。俺たちが恥ずかしくなるからやめてくれ。

 

「ではこれよりざ・おっさんズ対チームSOSの試合を始めます」

 

「ちょっとあんたたち!始まるわよ!ジャンプボールは古泉君に任せるわ!絶対取って!」

 

バスケはジャンプボールと言って、ジャンプでバスケットボールを取り合うことから始めるらしい。古泉は頑張って腕を伸ばしたが、完全にタイミングをミスったようだった。あえなくボールはざ・おっさんズだ。

 

おっさんズは絶対青年時代はバスケ部だったに違いないというおっさんばかりだった。すごく簡単にシュートを決められてしまった。

 

点数係が点数板の点数を2-0にした。あ、バスケって二点なんだと俺はその時初めて気が付いた。いや、まあ体育の授業でもやってたけど。

 

バスケは体格のスポーツだ、と聞いたことがある。はい、無理だ。女子三人に男子二人でしかも経験者0ってもうチームとして崩壊している。俺と古泉の代わりに朝比奈さんと鶴屋さんを入れて女子の部に参加すればよかったんだ。

 

と、思っていると、ハルヒがあっけなくスリーポイントシュートをきれいに決めた。スリーポイントラインからシュートすれば三点になるんだと。

 

点数が2-3になった。

 

「さあっ!キョン!ディフェンスよ!」

 

なんでお前はそんなに元気なんだ。俺はもうエネルギー切れが近いぜ。

 

そのあともハルヒが孤軍奮闘したが、ざ・おっさんズも伊達におっさんじゃないようで、ハルヒだけを徹底マークすればいいということに気が付き、第一クォーターが終わった時点でスコアは14-8だった。俺たちはすごすごと朝比奈さんが迎えてくれるベンチへと退却した。

 

「みくるちゃん!水!」

 

ハルヒが朝比奈さんからスポーツドリンクのペットボトルを強奪し、がぶがぶ飲んだ。おい、お前一人で飲んだら今度こそ俺たちは絶命する。

 

バスケの試合は本来なら四クォーターで一クォーターは十分間らしい。だけどこの大会では一試合につき二クォーターのハーフゲームになっているみたいだ。ハルヒは試合が思うように進まないのが気に食わないのか、えらく不機嫌だった。

 

「第二クォーターに全てを賭けるわ!キョン!あんたも活躍しなさい!」

 

ちなみに八点は全てハルヒがとった。スリーポイントシュートが二回、普通のジャンプシュートが一回だ。古泉が一度だけランニングシュートを仕掛けたが、笑顔で外した。長門に至ってはボールに触れてすらもいない。ただ淡々と走っていただけだ。まあ俺とキョン子も似たようなもんだけどな。

 

古泉の携帯が鳴る。古泉はそれに出てなにやら応対をしてすぐ切った。顔は古泉にしては深刻に見えなくもない顔だ。

 

「まずいですね・・・閉鎖空間が出現しました」

 

ああ、毎度おなじみの・・・な。ハルヒが不機嫌なばっかりに例の巨人も暴れてるってわけか。

 

「そういうことになりますね・・・」

 

「なら、ひょっとしたらこの試合、絶対勝たなきゃいけん・・・というわけだったりするか?」

 

「負けたらおそらく世界は崩壊するでしょうね」

 

そんなアホな。俺なんて人生、負けたことの方が多い。

 

「おいおい、ちょっと待てよ。あいつは何でも勝たなきゃ気が済まねーのか。子供か!?でも実際どうすりゃ勝てるっつーんだよ」

 

古泉はタオルで汗を拭きながら答えた。

 

「勝つ――というよりは、涼宮さんはあなたに活躍してもらいたいのだと思いますよ」

 

俺が?活躍?俺は溜息をついた。古泉がぽん、と手をたたく。

 

「そうだ、妙案を思いつきました。彼女の協力が必要です」

 

そう言って古泉は長門に近づいていった。

 

妙案、妙案ね・・・・・はあ。

 




古泉「んっふ」

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