キョンの非日常   作:囲村すき

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Ⅳ スタンダードオペレーション?スターテッドオピニオン?

 

 

 

「・・・お前今何処に」

 

『ギャラリーですよ。あまりに何もなかったのでね』

 

 そう言われて俺は広場に集まっているギャラリーの中に、古泉、朝比奈さん、長門の顔を見つけた。朝比奈さんがにっこり笑って手を振ってくれる。…これで俺は、戦える!ガ●ダムでもエヴァ●ゲリオ●でも寄越せ!俺は逃げないぞ!まんじゅうからは分からんが!

 

 

『話を戻しますが、世界の破滅を危惧しておられるようですね。その心配はありません。今回は何故か涼宮さんは・・・いえ、涼宮さんたちは絶対に勝ちたい(・・・・・・・)と思っておられないようなのですよ』

 

「なんでだ?急にフェアプレー精神に目覚めた?」

 

 古泉が苦笑するのが目に浮かんだ。

 

『我々には分かりかねますが・・・恐らく涼宮さんたちは、あなた方と純粋に勝負を楽しみたいと考えておられるのではないかと』

 

「・・・・・・・」

 

 絶句。ツッコミどころが満載だ。勝負ってこれ大食い競争だが。

 

 あいつにもそんな感情があったとは驚きだ。勝負は勝って然るべきだなんていう勝利主義だったハルヒが。

 

『人は変わるものなのですよ』

 

 黙っとけ。

 

 そして俺もそろそろ限界なのだが。そう、俺はその間にもずっとまんじゅうを食い続けていた。こんなにも俺の胃袋は大きかったとはな。我ながら褒めてやりたいぐらいだ。

 

…いや、ひょっとしたら俺の胃袋には穴が開いていて、それに気づかずまんじゅうを送り込み続けているのでその穴からまんじゅうが体内に広がり、やがては骨格を埋め尽くしってやめてえええええ。

 

 見るとハルヒコももう相当苦しそうな表情を浮かべていた。ハルヒが隣で必死に鼓舞している。

 

 

 

 

 ひょっとしたら―――と俺は考える。ひょっとしたら、この勝負で俺は、俺達は初めてハルヒに勝てるかもしれない、と。運動、学力、容姿全てにおいて俺たちはあいつらに劣っている。だが、この勝負は単なる大食い競争。俺に分がないわけでもない。そうだろ?ハルヒは大食いじゃないから、ハルヒコも大食いではないはずだ。

 

 やつの胃に穴が開いてさえなけりゃな。

 

「キョン!頑張れ!あんただって勝てるぞ!」

 

 キョン子が目を輝かせて言う。

 

 ハルヒコがもうすでにいっぱいの口に、さらにまんじゅうを突っ込む。ハルヒに水をもらって、一気にがぶがぶと飲み干そうとしている。

 

 勝てる?あいつらに?俺が?ってか俺は、勝ちたいのか?あいつらに・・・。

 

 

 そもそもあいつらと俺らを同じ秤に乗せて量ることができるのだろうか?

 

 

 そうやって俺は首をかしげ、しかしキョン子には不敵な笑みを浮かべた後―――

 

 

 

 

 俺の視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっっっっっっっ!????!」

 

「おおっ!目覚めた!」

 

 頭が痛い。俺は―――そうか、俺は気絶したのか。

 

 ステージ上で横になったままの俺は、ギャラリーがスタンディングオベーションをしているのに気付いた。

 

・・・??

 

 司会のピエロの声が聞こえる。

 

『いやーーーーーー!ものすごい戦いでした!まさに戦士!フードファイター!彼らの奮闘ぶりに、もう一度盛大な拍手をー!!!』

 

 群衆がうねる。割れんばかりの拍手だ。

 

「キョン~・・・死んだかと思ったよ~・・・」

 

 横たわる俺の顔を覗き込むようにして、キョン子が顔をくしゃくしゃにして言う。

 

 ・・・???俺が頭をのっけているこの妙にやわらかくて妙に温かいものは一体なんだ・・・?

 

 ヒントは俺があおむけになっていることと、キョン子の顔が近いことだ。

 

 ・・・・・・・・・!?

 

「キョン子・・・」

 

 思ったよりかすれ声しか出ない。

 

「うん!?なんだ!?」

 

「膝枕は・・・ちょっと・・・恥ずかしいんだが」

 

 そのキョン子の顔の変化は特筆に値するほど面白かった。

 

 まずキョン子は「は?なに膝枕って?」と言う顔をして、

 

それから「あ!?わたしなんで膝枕してんの!?無我夢中で気づかなかった!」と言う顔をして、 

 

 それから「てゆうかなんであんたが当たり前のように膝枕されてんだ!馬鹿か?馬鹿なのか!?!?」と言う顔をして、

 

 唐突にがばっと立ち上がったもんだから俺はたまったもんじゃない。

 

 ステージから転がり落ちそうになった。

 

「っとお!あっぶねえなせめて一言掛けてから立ち上がれよ!」

 

「ううううるさい!・・・もーハーゲンダッツ奢れ!馬鹿!」

 

 真っ赤な顔をして逆ギレするキョン子を、ピエロがまあまあ、といさめる。

 

「彼女さん、彼氏さんは立派に戦いましたよ。犬も食わないような話はそこまでにしておいて・・・・結果発表です!・・・・・えー・・・一位は・・・チームハルヒ&ハルヒコの41個!!!」

 

 ギャラリーが湧く。いつのまにこんなに集まってきたんだ。

 

 ハルヒとハルヒコは嬉しそうな、しかしその顔の二分の一でしかめっ面をしているような、これまた難しい表情をして、表彰状をもらっていた。まあそんな大層なもんじゃなさそうだが。パソコンで簡単に印刷できそうな。

 

『ではチームハルヒ&ハルヒコさん!欲しいものをどうぞ!』

 

 しまった。

 

このことをすっかり忘れていた。ハルヒ、なにを言うつもりだ!?まずい、まずすぎる!「この町の不思議を全部ちょうだい!」か!?「宇宙人が出没するスポットを教えなさい!」か!?この状況で他人の振りを完璧にできるか・・・?いや、できるかじゃなくやるんだ・・・!

 

 俺とキョン子が固唾をのんで見つめるなか、司会者が差し出すマイクを握りしめ、ハルヒは―――――

 

 

『・・・・・欲しいものは・・・・・ここにあるわ!』

 

 

『ハイ!なんでしょう!』

 

 

 静まり返る商店街。俺は祈るような気持ちで、ハルヒの次の言葉を待った。

 

 

 ハルヒが口を開く。

 

 

『・・・欲しいものは・・・でも、自分で摑まえるわっ!!!』

 

 

 相変わらず複雑な表情を浮かべたまま、我らが団長はそう言い切った。

 

『おおおっ!こんな答えは誰も予想していなかったぁっ!!!流石優勝者だけあって器が大きくていらっしゃる!』

 

 ピエロは予期せぬ答えに一瞬固まったものの、すぐにペースを取り戻して大げさにのけぞって見せた。

 

 

 観客がざわついている。その喧騒の中で、俺は驚きのあまりハルヒから視線を外すことができなかった。

 

 多分、隣にいたキョン子もそうだったに違いない。

 

 

「予想以上に熱い戦いになりました第一回商店街大食い競争!これにて終了とさせていただきます!!!』

 

 ギャラリーが拍手をし、俺とキョン子は思わず顔を見合わせた。

 

 

 

 


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