キョンの非日常   作:囲村すき

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二話目です。


Ⅱ 涼宮ハルヒの相乗

 

 

 

「・・・・お前、ハルヒの逆転ってわけか」

 

 俺はハルヒコ―――涼宮ハルヒコに尋ねる。

 

「・・・そういうことになるみたいだなっ!やっべ、めっちゃテンションあがってきたっ!これこそが俺の求めてたことなんだよっ!未知との遭遇!異世界への訪問!」

 

 ハルヒコは子供みたいに目を輝かせ、ぐっと拳を握る。念願の異世界、不思議現象。居ても立っても居られないようで、その場でぴょんぴょん飛び跳ねだした。

 

「ハルヒコ落ち着け。そして少し黙れ」

 

 キョン子が冷静さを取り戻しつつ、言う。そして長門に

 

「・・・で、長門、どうせハルヒの仕業なんだろ?」

 

 尋ねた。長門はこっくりと首を縦に振る。

 

「あなたと同じ。彼は涼宮ハルヒの力によって呼び出された」

 

 ・・・もう俺は理由を尋ねたりしないぜ。理由が分かってももう起きちまったことは仕方ねー。さっきも言ったが、これからをどうするかなんだ。

 

 ハルヒコがキョン子に猛烈に話しかける。

 

「いやさ、今日珍しく朝寝坊しちまってよ。起きたのがもう昼だったんだよな。ぶっ叩かれて起きたんだけどよ、まあ母親の起こし方としちゃ一般的だ。俺は気にも留めなかったんだが―――」

 

 お前を叩き起こしたのは母親じゃなく、ハルヒだったってわけか。

 

「そうなんだよ!もー意味が分からんくてよ!俺の部屋の壁紙とか置きものとか全然俺のじゃなかったし。部屋の間取りは俺の部屋そのままなんだけどな!最初は夢かと思ったぜ・・・事情を理解したときはもっと夢じゃない(・・・・・・・・)かしらん(・・・・)と思ったけどな!」

 

 あー、既視感。デ、ジャ、ヴーだ。でもキョン子は壁紙とかについては特に何も言ってなかったな。まあ奴の事だ、あんまりそんなのはどうでもよかったんだろう。

 

「俺のことを朝っぱらから女子高生の部屋に侵入し女子高生の寝顔を激写する変態かなにかだと思ってとにかく猛攻撃してくるあいつを――ハルヒ?だよな?を必死に止めてよ、段々と気づいたんだよ。俺は今超常現象の中にいるってな!!!」

 

 何故かガッツポーズをとるハルヒコ。キョン子はぐるりと目を回して俺を見た。俺は古泉のように肩をすくめ、言った。

 

「なるほどな、大体分かった。だが安心しろ。俺たちはお前が元の世界に帰る方法を偶然知っているんだ。なんのことはない、お前はもう一人のお前のベッドで二人で寝ちまえばいいんだ。そうすりゃ一件落着。お前はあっという間に元通りの世界だ」

 

 はたから見ればとんでもないことを口走っているようにも見えるが、そりゃ誤解ってもんだ。

 

 しかし当のハルヒコはきょとんとした顔をして言った。

 

「は?なんで?なんでそんなすぐに帰らなきゃいけないんだよ?せっかく異世界に来れたんだぞ!?心行くまで遊びつくすぜ!」

 

 おっと・・・こいつの思考回路パターンがハルヒと同一のものだということをすっかり忘れていたぜ。そりゃそうだ、ハルヒならそう言うに違いない。

 

「幸い、春休みだ。全く問題なしっ!よしっ!そうと来たら男のキョン子、お前のSOS団と一緒に遊びまくるぞっ!」

 

 ハルヒコは拳を天に突き上げながら、長門の家から出て行こうとする。それをキョン子と二人で慌てて引き留め、俺はもう一つ言う。

 

「ハルヒコ、言っておくことがある。ハルヒの前では、キョン子と赤の他人の振りをしてくれ」

 

「え?なんでだ?」

 

 その質問に答えたのはキョン子だった。

 

「ハルヒが知ったら面倒くさいことになるんだって。とにかくそれだけは守ってよ。いいな、わたしとハルヒコは今日初めて会ったんだ」

 

「んー?よくわかんねーけど分かった!んじゃ、早く行こうぜ!」

 

 ハルヒコは少し釈然としない顔で言い、外に飛び出した。俺とキョン子はふうと溜息をつき、長門を振り返って見つめた。

 

「・・・これで、いいんだよな?」

 

「・・・そう。涼宮ハルヒに知られたらあなたの言う「面倒くさいこと」になる。それだけは避けなければなかった」

 

 んー。お前が言うと本当にやばかったことが淡々と伺える。まさに危機一髪だったんだ、部室では。だから煙幕を張ってハルヒコを連れ出した長門の機転に感謝感謝だ。

 

 

 

 

 

 

 部室ではちょっとした恐慌状態だったらしい。古泉はガスかと思い、朝比奈さんは火事かと思い、ハルヒは何者かの襲撃だと信じて疑わなかったそうだ。

 

 俺達が長門の部屋から部室に戻ると、ハルヒが驚いたように目を見開いた。

 

「なあんだ、あんたたち、SOS団の秘密を探りに来た秘密結社に捕らわれたんじゃなかったのね。つまんない。せっかく助けに行こうと思ってたのに」

 

 助けに行くのは良いが、お前、その手に持ってるモデルガンどうするつもりだったんだ?玉、当たったら結構痛いんだぞ、それ。経験者は語る。

 

「んまあいいや、改めて紹介するわ、涼宮ハルヒコよっ!あたしのいとこらしいわっ!」

 

 あ、そ、そういう設定になったのな。春休みだけこっちに遊びに来た同い年のいとこってか。

 

「とゆーわけで、彼をSOS団臨時部員にします!異議のある人?・・・いないわね」

 

 ハルヒは団長席から立ち上がってホワイトボードの周りをうろうろしだした。

 

「では、今回の議題に移りたいと思います!春休み何をするか?それはもちろん不思議探しですっ!」

 

 俺とキョン子からうめき声が漏れた。

 

「今年は何か見つかるかもしれないわっ!春だし、もう一度隈なく探すのよ!物事の捉え方の角度を変えてみたりしてねっ!明日っから行くわよっ!」

 

 そこで発言したのはハルヒコだった。

 

「いや、明日は土曜日だ。やるなら平日の方がいいな。この間は春休みじゃなかったから、土日にやった・・・じゃなくてやったんだろ?なら今度は平日の方がいいんじゃないか?」

 

 ハルヒは目を輝かせる。

 

「そうね、その通りだわっ!流石私のいとこだけあるわね!通勤途中のサラリーマンに扮した宇宙人を見つけ出すのねっ!」

 

「よっしゃっ!テンションあがってきた!絶対見つけるぞ、不思議を!」

 

 ・・・・二人で盛り上がってら。仲のよろしいこって。

 

 

 

 ってなわけで、二日後、俺達は駅前に集合しましたとさ、おしまい。

 

 

 

 むしろこれからが始まりだったんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おなじみ、駅前の喫茶店に行った。

 

「さあっ、これで我がSOS団は七名になったわっ!よって三人、二人、二人のグループに分けられるわね。これで前回よりも捜索の幅が広がるというものだわ!」

 

 ハルヒはテーブル上にあった爪楊枝七本を全員に差し出す。

 

「赤と黒と無印で分けるわ!さあ、引いてちょうだい!」

 

 別に異論はない。俺たちはそれぞれ爪楊枝を引く――できれば朝比奈さんとが―――

 

――――がしかし、結果、古泉と朝比奈さんと長門、俺とキョン子、そしてハルヒとハルヒコグループという組み合わせになった。

 

 ・・・うーむ、嫌な予感しかしないぞ。特に一番最後のグループだ。

 

「よっし!今度こそは絶対に見つけるわよ!不思議なもの!なんでもいいわ!必ず見つけるのよ!分かったわね?」

 

「っしゃーっ!行くぞハルヒっ!俺たちが一番多く見つけてやろうぜっ!」

 

 十分に(・・・)不思議なもの(・・・・・・)である二人が真っ先に飛び出して行った。と、急ブレーキをかけて会計を済ませる。良かった、一応その自覚はあったんだな。

 

「・・・・なあ、あいつらで組んで良かったのか?」

 

「どうでしょう?そんなにおかしなことにはならないようにも思えますが・・・どうですか、長門さん」

 

「・・・彼らの思考回路はトレース不能。わたしにも分からない」

 

「だ、大丈夫ですよぉ~・・・たぶん。ね、ね?キョン子ちゃん?」

 

「朝比奈先輩、あいつらを見くびっちゃいけません。ハルヒの二倍じゃなくて、二乗と考えた方が」

 

 ・・・・沈黙。

 

 

 

 よく考えたら、今回あいつらにストップをかける奴がいないじゃないか。むしろ加速する気がする。相乗効果よろしく、な。そんでもって、俺とキョン子はあいつらの後をこっそり尾行することにした。

 

 段々と太陽が真上に近づき、気温も上がってきた。そういえば今日の天気予報では今日はこの春一番の高気温だったっけ。やつらの動きもヒートアップしだしたような気がする。

 

ハルヒとハルヒコはあちこちをきょろきょろしながら、連れ立って歩く。

 

 見た目は充分によろしい二人が街中を歩いていると、それはまるで

 

「仲睦まじくデートしてるみたいに見えるよな。まさか宇宙人探しをしてるとは誰も思わないだろうよ」

 

 俺が苦笑しつつ言うと、

 

「むう」

 

 つまらなさそうに、というか面白くなさそうに俺を見上げる相棒(キョン子)

 

「なんだよ」

 

「うるさい」

 

 どうしたって言うんだよ。

 

「うるさくはないだろ決して・・あ、クレープ屋に寄ったぞ・・・なに普通のデートみたいなことしてんだよあいつら」

 

 ハルヒとハルヒコは上機嫌でクレープの屋台に近づくと、注文をして、なにやら屋台のおっさんと談笑しながらクレープを受け取った。そして歩きながら食べ始める。そんな二人を、通りすがりの人々がいちいち振り返って羨望のまなざしで二人を見つめる。

 

「あの娘可愛いなー。でも男連れか」「男もイケメンだし」「美男美女カップルじゃん」「ホントだ。いるんだよなー。たまに」

 

 そんな声が聞こえる。

 

おーい。周りの人たちー。騙されてんぞーあいつらに。あいつら猫かぶってるだけなんだぜー。美男美女カップルじゃねえ、ホントは奇妙奇天烈カップルなんだぜー。

 

 

 しかしまあ、俺達の視線の先でクレープを食べる私服のハルヒは、まったくもって一般的で健全でまっとうそうな女子高生に見えて。

 

 ハルヒとよく似た(・・・・・・・・)別の誰か(・・・・)。例えば成績優秀な委員長。例えば部活の後輩から慕われる先輩。例えば名前で呼ぶより苗字で呼ぶ方がしっくりくるような、そんな別の誰かと姿が重なり、なんだか俺の深い所がナイフの先っちょ(・・・・・・・・)で刺されて様な、そんな感じに少しだけ痛んだようだった。

 

 

 

 ―――――だから、なんか嫌な気分だ。だが不機嫌とは少し違うね。

 

 

 

「・・・・なにガン見してんだよ」

 

 何を勘違いしたのか、キョン子が俺を気味悪そうに見上げた。お前、俺が珍しくシリアスな風に振る舞っていたところをその言い草はないんじゃないのか?

 

 キョン子は古泉を真似たのか、ちょっと肩をすくめて見せ、そして視線をクレープ屋台に向け、

 

「わたしもクレープ食べたい」

 

「買いに行けばいいだろ」

 

「いや、買ってきてよ」

 

「いや、なんでだよ」

 

「・・・・・ふーん、じゃあ一昨日のキョンの恥ずかしい寝言、ハルヒにバラしちゃおうかなー」

 

 ・・・・・・・寝言、だと?全く覚えていない。

 

 普段寝言なんて言わない性質(たち)なんだが。しかし万一と言うことも有り得る。あいつの言葉が本当である証拠はないが、それは逆の事でも同じことだ・・・・つまり、俺はあいつに奢らざるを得ないということ・・・・だ。

 

 

 溜息をついて屋台に歩いて行く俺に、満足げに笑いながらキョン子がついてくる。

 

 まーついでだ。俺も食べよう。クレープなんて久しぶりだ。

 

「そう言えばあいつらは何食べたんだろな?」

 

 屋台の看板に書いてあるメニューを眺めるキョン子に問いかける。意外にも、すぐに返事が返ってきた。

 

「・・・・たぶん、これだ」

 

 心無しか、奴の顔色が悪い。俺はキョン子が指し示すメニューを見た。

 

 その名も、「ウツドヌキ星の怪鳥ソンバイナーの卵で作ったクリームクレープ」・・・・・・・。

 

 

 ちなみにそのクレープは、毒々しいほどの真緑だった。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 

 俺とキョン子が絶句していると、店主のおっさんが陽気そうに笑いながら言った。

 

「お、あんたらもそれに目をつけるかい?なかなか見どころあるねぇ。なかなか美味いよ、ソンバイナーの卵」

 

「そ、そんばいなぁ・・・ですか」

 

「おう!俺の母星じゃこいつは一般的なデザートで・・・っておっといっけね、誰にも言うなよ?・・・・俺実は、宇宙人なのよね」

 

 おっさんはヘタクソなウィンクをしてみせた。

 

 

 

 ・・・・・俺が恥ずかしい寝言を言っていないとしたら、この人はきっと宇宙人じゃないだろう、な。な。

 

 


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