キョンの非日常   作:囲村すき

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二十三話 白い雪

 

 

 その後、俺は疲れて眠ってしまい、朝比奈さんや長門、ハルヒに会うことができなかった。まったく不可解かつ不気味な悪夢を見たんだが、ここでは関係のない話だし割愛しておこう。

 

 ・・・いや、その夜、俺が目を覚ました時に一人だけ会えた奴がいる。

 

 演出家の、長門だ。

 

 なにかに導かれるように、なんて言い方は俺は好きじゃないんだが、まあとにかく悪夢から目覚めた俺はどういうつもりか「ちょっと屋上に上ってみようじゃないか」なんて考えたんだ。

 

 我らがSOS団誇るハイスペックなプロデューサーは、そこにいた。

 

 「こんなところでどうしたんだ?見舞いに来てくれたらしいが・・・」

 

 「行った」

 

 「まさか俺の目が覚めるまでここにいたなんてことはないよな」

 

 「・・・今回のことは、すべてわたしの責任」

 

 長門は相も変わらず淡々と述べた。

 

 「わたしの処分が検討されている」

 

 「処分だと?」

 

 長門は漆黒の瞳を俺に向ける。

 

 「わたしのバグが原因で、今回の事件は引き起こされた。だから―――」

 

 「待てよ」

 

 俺は珍しく怒っていた。

 

 だからなぁ・・・そいつはバグじゃねーんだって。言ったろ?あ、おまえには言ってないか・・・いや、そんなことはいい。だれだ処分なんざほざいた奴はよ。ふざけんじゃねー。

 

 「情報統合思念体が」

 

 「・・・・・・いいか、俺は珍しく怒っている。そいつを二、三発は殴りたい気分だ。ぜひ殴らせろ」

 

 何様なんだそいつは。いくら長門を作った親玉だからってな、やっていいことと悪いことがある。流石に限度があるぜ。それならこっちにだって考えがあるからな。

 

 「・・・・・・・」

 

 長門はただ黙って白い息を吐き続ける。吐く息は白くても、長門の頬が寒さでほんのり朱に染まっていたとしても、それでも長門は俺たちとは違う。・・・・いや、違わないのかも・・・な。違わない(・・・・)必要がない(・・・・・)

 

 「くそったれ。他にも罵る言葉はたくさんあるんだが、ここで言ってもしかたがない」

 

 長門はやっと手に入れたかもしれないんだ―――情報統合思念体が言う『バグ』ってやつだ。

 

 「・・・なのに、こんなことで取り上げられるわけにはいかねー。俺は全力で阻止するぜ。ハルヒにも正直に話してやる。そしたらまた情報統合思念体(くそったれ)がいない世界が誕生しちまうかもな。え?どうだ」

 

 思いつくままに言葉を並べ続けていると、不意に目の前を白い小さな物体がひらりひらりと舞い降りていった。

 

 

 

 「雪か・・・・」

 

 

 

 俺は頭上を見上げると、屋上のライトに照らされた雪たちが真っ暗な夜空に輝いているのが見えた。

 

 長門は黙って両手を広げ、雪が掌に落ちる感触を確かめている。

 

 「・・・・・・ありがとう」

 

 やがて小さな声で、長門が言った。

 

 俺は上を向いたまま、少し笑った。

 

 ・・・・・・きれいな雪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・さて、世界が元通りになった十二月二十四日。世間はクリスマスイブである。恋人たちは二人きりの時間を楽しみ、そうじゃない人もそいつらの雰囲気に当てられてなんとなく楽しくなってくる時期だ。・・・か、もしくは遠目に羨望のまなざしで見つめるだけ、か?

 

 

 ハルヒや朝比奈さん、長門に古泉は全員元の性格、元のキャラに戻った。そんだけですごく来るものがあるな。目から汗が出てきそうで大変苦労いたしました。

 

 なにもかも、元に戻った。谷口の風邪もすっかり治ったようだ。まあ谷口の彼女出現事件は戻らなくても良かったんだが、まあほんのご愛想だ。そのうち別れるに決まってら。あいつならすぐへまをやるさ。信じてるぜ、谷口。

 

 元に戻ったってことは、つまりハルヒのSOS団クリスマスパーティーも始まるってわけだ。ハルヒの料理はなかなかだからな、楽しみではある。

 

 

 

 

 終業式が終わって、学生がほとんど終わったころに始めると、ハルヒは「驚かせたいから」と言い一人で鍋の食材を買いに行った。驚くような食材は遠慮したいところだが・・・残された俺達も俺達で、部室をもっと華やかに飾り付けなければならなかった。

 

 

 まあ、クリスマスだもんな。俺だって楽しむさ。

 

 「おや?」

 

 古泉が声を上げる。

 

 「どうした?」

 

 「なぜか・・・パイプ椅子が一つ多いんですよ。誰か持って来たんですか?この部屋には我らがSOS団、五人きっかりの椅子しかなかったはずなんですがね」

 

 心底不思議そうな顔をする古泉。

 

 「・・・・・・・・さあな、どうせハルヒだろ」

 

 俺が言うと、古泉はあいまいに笑った。

 

 「まあ、とりたてて騒ぐほどの事でもありませんが」

 

 なにもかも、元通り―――・・・・・・・・。

 

 ブーッと、俺の携帯が震えだした。マナーモードにしていたんだった。メールのようだ。何気なく開く―――スパムメールか――?しまった、不用心にあけるんじゃなかった。

 

 だが、そのメールには妙な画像が貼られていただけだった。

 

 サンタに扮した朝比奈さん(めちゃめちゃ可愛い!)がそれを覗き込む。

 

 「うわあ、可愛い人ですね。ポニーテールがよくお似合いです・・・・テレビゲームですか、横に写ってるのは?キョンくんの知り合いですか?この子」

 

 「・・・・・・・・さあ、誰でしょうね」

 

 

 俺はちょっと外の空気が吸いたくなって、部室を出た。

 

 

 

 

 外には雪が、ちらほら舞っていた。

 

 

 さくさくと踏みしめ、俺はいかんともしがたい感情に支配されていた。

 

 

 思い出されるフレーズが、ある。

 

 

 

《静かに降る雪の為に、あなたは聖夜に願うだろう》

 

《聖夜の願いはいつだって、そっと空に届くだろう》

 

《空に届くその願いは、やがて雪を降らせるだろう》

 

 

 

 お前は、確かにここにいたよな。俺達と一緒に、いたよな。

 

 ・・・・・・・みんな忘れてるみたいだがな。

 

 このフレーズは、お前がこの世界からお前の世界に戻るためのものじゃなかったんだな。その逆だ。

 

 長門はすべてお見通しだったってわけだ。お前がしたことを、まさに示してるじゃないか。

 

 

 

 お前の願いが、空に届いたんだ。

 

 

 

 今この優しい雪が降る世界があるのは、お前のお蔭なんだろうな。

 

 

 

 気持ちわりーんだよ、なんてお前はにやにやして言うだろうがな。

 

 

 ・・・なあ。

 

 

 お前のお蔭で、俺は俺の気持ちを再確認できた。

 

 

 ・・・・・買い物袋を二つも重たそうに持った女子生徒が、北高の坂を上ってくるのが見える。

 

 

 

 

 

 

 さて、と。そろそろ終いにするか。

 

 なあ、あいつになんていえばいいと思う?「重たそうじゃねーか。持ってやるよ」か?「何鍋にするつもりなんだ、お前は」・・・微妙。いまいちだな。

 

 へ、俺はお前がいなくなってもお前に・・・・いや、違うか。お前はいつだってここにいるんだ・・ろ?

 

 段々とあいつが近づいてくるぜ。やばい。恥ずかしいことを言いたくなってきた。あいつ、俺が飛び出して行ったらどんな顔すると思う?

 

 ・・・・・いいこと思いついたぜ。「ボードゲーム大会に出てみるなんてのはどうだ?」・・・いいんじゃないか?

 

 俺はせっかくこの世界を選んだわけだしな。

 

 お前の世界でもなく、ごくごく普通の日常系の世界でもなく。

 

 俺は。

 

 選んだ。

 

 

 そうやって、俺の非日常は続いていく。

 

 

 

 

 メリークリスマス、ハルヒ。メリークリスマス、非日常。

 

 

 

 

 

 

     完

 




…はい、というわけで「キョンの非日常」いかがでしたでしょうか。気に入ってもらえたのなら幸いです。これを書き始めるきっかけはもちろん、「キョン子」なる存在を知った時です。「普通に可愛いじゃないか…なんだこれ」と。現代人の妄想力をなめていた僕は雷に打たれたかのごとく、驚愕に打ち震えたのでした。
書いているうちにどんどん楽しくなって、完結まであっというまでした。お気に入り登録数が増えていくのを見るたびに一人でにやにやと全く気持ちの悪い僕でした。まったく、これだから二次小説は面白い。

僕はこれからも二次小説を書いていこうと思います。「キョンの非日常」続編、需要が有るのなら出すかもしれませんし、出さないかもしれません。それはまあ、インスピレーションという名のアイディアの神のみぞ知るといったところでしょうか。ああ、皆さんからお題を頂ければ…笑

でわ、今まで僕の茶番におつきあいありがとうございました。これにて一応の完結とさせていただきます。作者の囲村でした。

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