キョンの非日常   作:囲村すき

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十一話 隣人の強襲/戦争の勃発

 

 

 

 

 

 

 文化祭も無事(あれを無事というのなら)終了し、北高にも静けさが戻ってきた。

 

 それにしても今日の部室は実にのどかだ。何故だと思う?

 

 「ハルヒがいないからだ」

 

 キョン子がだるそうに言った。お前はいつもだるそうだな。

 

 「あんたもな」

 

 そう見えるかい。

 

 ハルヒ以外の団員は全員集合していた。長門はいつも通り隅っこで読書にふけっているし(読書の秋というが、こいつの場合読書の四季である)、朝比奈さんは何故か熱心に俺たちの為にお茶を沸かしていた。

 

 そして古泉と俺は、チェスに興じていた。古泉はもちろん弱い。俺は黒のクイーンを縦横無尽に走らせ、古泉軍を蹴散らしていた。

 

 クイーンに与えられた理不尽なまでの破壊力に少なからず感嘆しつつも、俺が白のルークを取ったその時だった。

 

 こんこん。

 

 この部室にノックするとは、ハルヒ以外の人間であることは確かだ。ついに生徒会が俺たちの数々の蛮行に黙っちゃおけんと乗り込んできたか。もしくは教師か。それともケンカを売る相手を間違えたヤンキーか。

 

 「はーい?」

 

 朝比奈さんが愛くるしい仕草でドアを開ける。

 

 「あ・・」

 

どうやら予想とは違うようだ。

 

 春の候、ハルヒにパソコンを強奪された、コンピ研部長氏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 キョン子の眠そうな目が少しだけ開かれる。お前も知ってるのか、コンピ研。

 

 「ああ、やっぱりコンピ研か。部長氏は男になってるんだな。よく見ると目とか変わってない気がする」

 

 「いつだって僕は男だが・・・」

 

 部長氏が出鼻をくじかれた様子である。すいませんね、どういったご用件で?

 

 部長氏はきょろきょろと不安げに部室内を見わたし、つぶやく。

 

 「だ、団長殿は不在か・・・良かっ「今来たわっ!」・・ぎゃふぉっ!?」

 

 いきなり出現したハルヒがハレーすい星のごとく部長氏にドロップキックをかました。部長氏に背後霊のようにくっついていた他コンピ研部員が慌てて部長氏に駆け寄る。

 

 「ついに生徒会がわたしたちの数々の栄光を横取りしようと乗り込んできたのっ!もしくは教師っ!それともケンカを売る相手を間違えたヤンキーかしらっ!」

 

 俺の脳内台詞と妙に合致しているところがままあるが、気のせいに違いない。

 

 俺はとりあえずハルヒをなだめ、部長氏の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 「ぜひ、これで僕たちと勝負してほしい」

 

 と言って部長氏が差し出したのは一枚のCDだった。ゲームソフトが入っているらしい。

 

 簡単に言えば、彼らはハルヒに強奪されたパソコンを返してほしいらしい。それで彼らは自分たちで作ったパソコンゲームでSOS団と勝負し、勝利した暁にはパソコンを要求するようだ。

 

 「それならあんたたちだって何かかけなさいよ、当たり前のことだわ」

 

「僕たちが負ければ潔く引き下がり、もう二度と言い出さないよ」

 

 ハルヒは表情こそ不機嫌だが、内心ではうきうきしていることと間違いないだろう。

 

 「へーえ、でもそれじゃあたしたちにとっては利益ないんじゃないの?」

 

 「な、なら君たちが勝ったら団員全員分のノートパソコンを進呈しよう!それならどうだい?」

 

 大した自信だ。恐らく製作者側なだけものすごくやりこんでいるに違いない。

 

 「ふーん、大した自信じゃない。まあものすごくやりこんでるに違いないわね・・・いいわ、受けて立ちましょう!」

 

 ハルヒはやはり最後には不機嫌な面の皮を脱ぎ捨て、満面の笑みを浮かべて宣言した。

 

 それにしてもさっきから台詞がかぶりすぎじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 さて、ゲームの内容をかいつまんで説明しようか。

 

 タイトルは『The Day of Libra 4』。頑張りすぎて空回りしている感が否めないタイトルである。別に4だからと言って1、2、3があるわけではないらしい。

 

 まあ、平たく言っちゃ戦争ゲームだ。対立する二つの人種・・・まあSOS人とコンピ人がついに戦争を起こし、膠着状態がどうたら・・・という流れらしい。和平とか条約とかそんな平和的解決法は全て無視だとよ。そんなもん最初から存在しないようである。

 

 どことなく異世界を思わせる世界観であるが、マップはただ単に世界地図を逆さまにしたものだと俺は気付いた。

 

 軍隊は陸軍、海軍、空軍に分かれ、それぞれ二人ずつが指揮をとるらしい。つまり敵味方六人ずつの計十二人で行うゲームってわけだな。

 

 「人数がぴったりじゃない!」

 

 ハルヒがうれしそうに叫ぶ。へいへい。

 

 三つの軍それぞれに特色があって、陸軍なら戦車と歩兵を扱う。陸軍は陸上でしか動くことができない。歩兵は三軍でもっとも弱いユニットだが、対戦車用に地雷の設置ができるそうだ。戦車は大砲、とかな。

 

 「なかなか渋いな」

 

 キョン子が面白そうに言う。俺も思ったぜ。

 

 海軍は戦艦で、もちろん海でしか活動できない。一番体力が多い。

 

 空軍の戦闘機は数こそ少なめに設定されているが、唯一すべてのエリアで活動可能。三軍で最強ゆえ、全滅すると非常に手痛い。

 

 六人の中で誰かひとり将軍を決め、そいつが操る軍が全滅すると負け。全滅させたら勝ちだ。どれだけ他のやつを全滅させても、将軍が生き延びていれば負けにはならない。

 

将軍の軍隊には、例えば戦車だったら巨大戦車、海軍だったら巨大母艦、というように大きくて体力もあるユニットが存在するそうだから、一目でどれが将軍か分かるとのことだ。

 

 「あたしが将軍!」

 

 コンピ研の連中が手際よく五人分のノートパソコンを(ハルヒのはすでにあるからな)部室に設置し、無線LAN設定とかなんとかゲームのインストールとかなんとか全部やってくれたあと、ハルヒは高らかに叫んだ。

 

 「その前に軍隊の割り当てだろ」

 

 「うーん、あみだでいいじゃない。なんか面倒くさいし」

 

 あみだくじの結果、俺とハルヒが陸軍、海軍が長門と朝比奈さん、空軍がキョン子と古泉に決定した。特に感想は無し。

 

 「さあ、早速練習しましょう!絶対勝つのよ!」

 

 

 そうやって意気込み、CPUと対戦を始めたものの・・・

 

 「・・・案外難しいな、これ」

 

 キョン子がしかめっ面で言う。ゲーム構造は単純だが、単純だからこそ難しい。CPUの動きを見ると六ユニット全てが連携していて、俺なんかは逃げているうちにいつのまにか陸の端っこに来てしまい、陸から戦車、海から戦艦の挟撃を受けあっさり散った。

 

 「ううう~どうすればいいんですかぁ~???」

 

 朝比奈さんは自分がどこにいるのかもわからず、戦闘機の爆撃を受け続けていた。

 

 ちなみに自分の画面には全体のマップは表示されない。自分のユニットの周りと、仲間がどこにいるかということだけだ。だから敵の接近は本当に自分の近くに来てからでないと分からないという仕組みになっている。だからこそ仲間との連携が必要なのだが。

 

 自分のユニットは一応ひとかたまりになっているが、分散させて行動もできる。俺は一度試してみたが、一つのユニットに集中しているといつの間にかもう片方がやられており、そうなれば俺のユニットの戦力は一気に半分になってしまうことになるので、砲撃なども半分の威力しか出なかった。

 

 「マニアックですね」

 

 古泉の感想だ。

 

 

 

 

 

 

 何回かCPU対戦をしたものの、結局一勝もできずに下校時間になった。六人でぞろぞろと帰路につく。

 

 「まあまだ本番まで一週間もあるし、全然余裕だわ!ねっ!みくるちゃん!」

 

 何を根拠に余裕なのか原稿用紙三枚以内で説明してもらいたいものだ。

 

 俺は古泉に並んで歩いた。

 

 「まあ、今回は無理だろうな」

 

 今回も、というべきか。バスケは長門のインチキが入ったからな。

 

 「するとどうします?また長門さんに頼りますか」

 

 「いや、今回はなしだ」

 

 古泉は少し驚いたリアクションを取り、尋ねた。

 

 「負けるとまた閉鎖空間が発生する恐れがありますよ?それでもですか?」

 

 「あいつももう少しは分かってもいいんだ」

 

 ま、今回の件は奴が持ち込んだものでもないし、失うものはもともと持っていなかったものだ。なくてもかまやしねーな。

 

 古泉がいやに含み笑いをする。なんだそれは今すぐ止めろ。

 

 「いえ、羨ましくなったものですから。あなたと涼宮さんは、形に出さないこそすれ、素晴らしい信頼関係で結ばれているのですね」

 

 「どういう意味だよ」

 

 「あなたはゲームに負けたとしても涼宮さんが閉鎖空間を生み出さないと信じている。また、涼宮さんはあなたが必ず勝利をもたらすと信じているのです。これを信頼関係と言わずしてなにを?」

 

 ・・・・・とりあえず、古泉の隣でキョン子がにやにやしているのに腹を立てておこう。

 

 

 

 




古泉「・・・」ニヤニヤ

キョン子「・・・」ニヤニヤ

キョン「・・・」イラッ

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